レクサスNX300h 試乗レポート 上品なパワーデリバリー

プレミアムコンパクトSUVのレクサスNXには、21.0km/Lの低燃費を誇るハイブリッドモデルがラインナップされる。高級感のある走りと高い静粛性を持つ300hに試乗した。

バッテリー搭載のデメリットはゼロ

レクサスNXの200tと300hは甲乙つけがたい人気だそうで、初期受注ではほぼ半々のシェアなのだという。価格が比較的手ごろなのは2.0リットル直噴ターボの200tのほうだが、体感的な動力性能はその200tのほうが活発である。対するハイブリッドの300hは、価格こそ200tより少し高めだが経済性では上回り、トータルコストにはほとんど差がない……という点と、やはり「レクサスといえばハイブリッド」という確固たるイメージから人気を得ているようだ。

たしかに、予想以上に活発でスポーティな軽快さが売りの200tに対して、この300hはいかにもレクサスらしく静かでスムーズである。過給が立ち上がってからのトルク感は200tに分がある代わりに、踏み込んだ瞬間のピックアップは電気的な動力をもつ300hが優勢……といったところである。

ハイブリッドの核となる動力用のニッケル水素バッテリーは、リヤシートに積まれている。車両重量は200tより50kgほど重いのだが、フロント軸重はともにほぼ同等で、300hの重量増分は主にリヤの軸重に集中する。それゆえ、全体には重くても、前後重量配分は300hのほうがバランスは良く、300hは当然のごとく全体に200tより身のこなしが重厚になるが、ステアリングレスポンスや回頭性が200tに劣るわけではない。

前記のようにハイブリッド用の動力バッテリーがリヤシートの下にあり、トランク容量やシートアレンジになんらデメリットがないのもNXの美点。シートの可倒機構も200tとまったく共通で、オプションの電動可倒システムを300hで選ぶことが可能だ。

AVS装着で確実に走りのレベルが上がる

今回連れ出したNX300hは最も豪華な“version L”で、オプションの電子制御可変ダンパーのNAVI・AI-AVSを装着していた。つまり「NXでは最も高度で高級志向の走行システムを持つフル装備の一台」といっていい仕様だった。

AVSを装着した“version L”は、とにかく上屋の動きが少ないフラットライドが印象的。連続するギャップではさすがに少し震動が多めになるクセは残るが、ゆったりと上品に走りつつ、その裏側にそこはかとなく薫る俊敏さがNXならではの味わいだ。大径18インチタイヤの履きこなしもほぼ文句なし。この300hではそこに静かでリニアなハイブリッドパワーが加わるために、なおのこと“レクサスならではの高級車感”が色濃い。

“version L”のAVSは山道で意図的にアゴを出させようとしてもしなやかさを失わず、しかしロールなどの挙動はしっかりと抑制されている。これだけ見事な調律を見せつけられると、AVSの10万円というオプション価格は素直に「安い!」と言いたくなる。

“F SPORT”はさらに引き締まって路面からのアタリが少し強まるのだが、上屋の動きはさらに落ち着いたフラット感も同時に醸成される。トータルの乗り心地や快適性では“version L”に勝るとも劣らないデキなのは、200tと同様だ。

NXに限らず、AVSはないよりもあったほうが確実に走りのレベルが上がり、“F SPORT”にするとさらに完成度が上がる印象だ。レクサスは基本的に代金を余分に支払うほど、幸せ度もリニアに増していく。まあ、そのぶん「隠れた名グレードを見つける楽しみ」という喜びを得にくいのはマニアにはちょっと寂しいが、こうした「正しい商品性」を実現しているブランドというのは意外に少ないのだ。

高級車らしい重厚な身のこなし

こうしたAVSの設定や“F SPORT”の装備内容、そして全グレードにFFとAWDの両方が用意されるのも、200tと300hで同じである。ここまで選択肢が多いとグレード選びも悩みどころだが、前記のように「お金をかけた分だけのありがたみが確実にある」のがNXの美点でもある。

300hはAVSなしの標準モデルや“I package”でも、200tよりは確実に静かで重厚、そして落ち着いた身のこなしである。また、トータルでよりイージードライブを実現しているのはAWDだが、滑らかなパワーデリバリーのハイブリッドであれば、FFでもヤンチャなそぶりなどみじんも見せない。こう言ってはなんだが、NX300hは兄貴分のRXのお株を奪うほどのラグジュアリーな乗り味である。

NXが2つのパワートレーンに、「どっちが高性能」とか「どっちが高級」という明確なヒエラルキーを持たせていないのは意図的である。開発陣も「お好みでどうぞ」というスタンスなのだ。

だから、NXは200tと300hで、じっくり乗るほどに迷いが深くなる悩ましいクルマである。新開発エンジンというマニアックな楽しみに、活発な動力性能、ターボを思わせないリニアな特性……と、NX200tはトヨタでは久々のターボエンジンの魅力が濃厚である。しかし、その後に300hに乗ると、これがまた高級車らしい重厚な身のこなしと上品なパワーデリバリーに「レクサスってこうでなくちゃ」と思いを強くしてしまったりもするから、なんともはや……である。

いずれにしても、200tと300hはぜひとも両方に試乗してから選んでいただきたい。われわれのようなにわかオーナー体験では「どっちも魅力的」などと最後まで決断できないのだが、実際の味わいは別物である。両方に試乗すれば、必ずや、どちらかのNXがあなたの琴線にピンと触れるはずである。

MORIZO on the Road