レクサスNXのライバル車 アウディQ5比較レポート
確かな進化が感じられる
プレミアムコンパクトSのジャンルに、レクサスとして初参入するモデルとなったNX。競合車のアウディQ5と乗り比べると、個性の違いが浮き彫りになった。
今までとは思想が違う!?
1989年にまずは北米市場をターゲットに設立。さらに、2005年にはついに母国へと“逆上陸”し、今では日本を代表するプレミアムブランドとして、誰もが知るまでに成長したレクサス。
一方で、そんなグローバル展開が進められた後も、その軸足は北米大陸に置かれたままだった。中でも、今では“ジャーマン3”といわれるメルセデス・ベンツ、BMW、アウディが居を構えるドイツを中心に、ヨーロッパの市場では「挑戦はすれども苦戦を強いられる」状況が長く続いていたことは否定のしようがない。
だからこそ、ブランニューモデルであるNXの開発担当チーフエンジニア氏の口から「このモデルは“アメリカではそこそこ売れてくれればいい”と思っているんです」という言葉を聞いた時、心底驚くとともに、「このモデルには今までのレクサス車とは異なる思いが込められているんだな」と直感したのだった。
トヨタ・メイクスとしては実に久々となるガソリンターボエンジンの開発&搭載や、「アメリカでは毛嫌いする人が多いから」と、ハイブリッドモデル以外には設定例のなかったアイドリングストップ機構を採用するといったメカニズム上の特徴も、このモデルに新たな考え方が導入されていることの裏付けのひとつであるはずだ。
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- レクサス初のターボモデルとなるNX200t。
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- NX開発のベンチマークとされたアウディQ5。デビューしたのは2006年。
新しさを感じるスタイリング
NXを開発する時点で、参考とされたモデルのひとつはアウディQ5であったという。ただし、それは必ずしもライバル車という位置づけではなく、むしろNXを「兄貴分を小型化しただけのようなQ7に対するQ5」のような位置づけにはしたくなかったという、“反面教師”的な考え方も含まれていたようだ。
万人に好まれるか否かという点では多少の疑問も残るものの、大胆でちょっと奇抜にも見えるNXのスタイリングは、レクサスファミリー内のポジションでは兄貴分となるRXの姿とは、なるほど似ても似つかない。歴代のRXが各マーケットで好調なセールスを記録し続けていることから「イメージをちょっと拝借」となっても不思議ではなさそうなところだが、NXでは、あえてまったく異なるアピアランスを“新規開拓”してきたのだ。
NXもQ5もその全長は4630mmと、くしくもまったくの同一値。一方で、Q5が1900mmという全幅を備えるのに対し、「日本固有のパレット式駐車場への適合性も考慮」して、NXのそれが1845mmにとどめられたのはうれしいポイントだ。
こうして、寸法上ではQ5のほうがよりワイドであるにもかかわらず、両者を並べて見てもNXの存在感はまったくヒケをとらない……どころか、むしろQ5のルックスがちょっと退屈に思えてしまうくらい。
もちろん、デザインについては人それぞれの好みの違いは大きいものだが、まずは“スピンドルグリルから始まるひし形ボディ”を構築し、そこに4つのタイヤを覆うフェンダー部分の張り出しを組み合わせるという新しい発想によるエクステリアデザインは、NXに込められた「これまでのレクサス車にない取り組みへの意欲」を感じさせる。
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- 日本の住宅事情にも配慮してボディサイズが決められたNX。
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- Q5はアウディのSUVラインナップのうち、Q7とQ3の中間に位置する。
機能的車内のQ5
いかにも斬新なトライが行われたエクステリアデザインに歩調を合わせるように、NXはインテリアデザインも新鮮さにあふれている。中でも、立体感の強い削り出しの金属を骨格としたかのようなセンターパネル部のデザインは、最大の“見せ所”だろう。そのほか、精緻なステッチが入るダッシュボード/トリムやシートのクオリティなども、高い質感では定評のあるアウディの作品と比べても、まったく見劣りしない。
そんな意欲作であるNXと比べてしまうと、いかにもオーソドックスで少々華やかさに欠けているとも感じられてしまうのがQ5のインテリア。しかし、逆にこちらが確実に勝っていると思えるのは、より機能性に優れた操作系だ。
センターコンソール上に置かれたダイヤルと、選択した機能によって随時役割を変えるダイヤルを取り囲む4つのスイッチ。さらに、その周辺に置かれたプログラム切り替え用の物理スイッチから構成される、アウディ独自のマルチメディアコントローラー「MMI」は、同様の機能を模索したNXの「リモートタッチ」よりもはるかに使いやすい。NXに採用された、タッチパッドを用いる新世代型のリモートタッチは、ジョイスティックで操作する従来型よりもむしろ使い勝手の上では退歩したと感じてしまうのである。
そもそも、振動する車内でタッチ式の操作系を扱うのが困難であることは、“走りながらの開発”を行えばすぐに気がつくはず。その点では、Q5に遅れること8年というデビューなのに、一体何をやっていたのかと言いたくもなる。
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- NXはインフォテインメントの操作デバイスとして、タッチパッド式のインターフェイスを採用。
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- Q5のMMIはダイヤル操作式。
NXは後席の視界に注目
ドライバーズシートへと腰を下ろした段階でまず気になるのは、Q5のドアミラー背後に生まれる死角の大きさだ。特に、右折時には進行方向の視野が目の前で遮られることになって、非常にうっとうしい。本来は視界を確保するためのアイテムであるミラーが逆により重要な視界を奪い取ってしまうとは、何とも皮肉な現象だ。
実はNXでも、右Aピラー背後に生まれる死角がやや気になるものの、Q5よりは「かなりマシ」という印象。視界のハナシを続ければ、NXはリヤシートのヒップポイントがフロントシートのそれよりもかなり高い設定で、結果、フロントシートの肩越しに得られる前方視界が非常に優れている。
実はこれは、リヤシートの下に駆動用バッテリーを収めるという、ハイブリッドモデル対応のパッケージングに起因するもの。が、幸いにもそれは思わぬ副産物となっており、「NXならではの特長」と好意的に受け取れるのだ。
一長一短のパワートレーン
全グレードがAWD仕様のQ5に対し、NXはFFとAWDの双方を設定。条件をそろえるべく、「2リットルターボエンジンを搭載するAWD仕様同士」で比較をしてもNXの動力性能により強い活気が得られるのは、80kg以上の重量の差に加え、回転数が上昇してもパワーの伸び感がまるで衰えを知らない新作エンジンのキャラクターによるところも大きいはずだ。
一方、“後出し”でありながらQ5に先行を許したのはAT。この期におよんで6段タイプでは、カタログ上の商品力でも劣勢は明らか。実際に変速時のステップ比は大きく、エンジン回転数の変動が大きめとなる点が少々惜しい。
ところで、NXにようやく採用されたアイドリングストップ機構が「納得のいく仕上がり」と思えたのに対して、Q5のそれは「問題アリ」と言わざるを得ないものだった。再始動時に小さくないショックを伴うし、作動中のワイパーが一瞬止まってしまうというのも、プレミアムモデルとしてはふさわしくない。すべてが最新のNXと比較するのは酷かもしれないが、このあたりに古さを感じさせる部分があったのは事実だ。
作り込みが伝わる走り
2種のパワーユニットに、FFとAWDの駆動方式、さらにはパフォーマンスダンパーを組み込んだボディに電子制御式の可変減衰力ダンパーを用いた足を採用する“F SPORT”グレードも設定するなど、細かく見ると実はかなりの大所帯なのがNX。一方で、日本に導入されるQ5の構成は、2.0リットルのターボエンジンを積む2.0 TFSIと、同じく2.0リットルターボエンジンを用いたハイブリッドの2モデルとシンプルだ。
NXの仕様違いすべてに細かく言及するのはここでは困難だが、そのフットワークのテイストは、基本的にはどれも印象がいい。あえて言えば、最も軽快な走りの感覚が得られるのは、FFの200t“F SPORT”。ボディのしっかり感は強く感じられるし、ステアリングの正確性も高得点。その上で、ストローク感に富んだ乗り味と静粛性の高さにも好印象が抱ける。
Q5の乗り味は、首都高の継ぎ目などを通過すると意外にもヒョコヒョコとした動きが目立ち、フラットさという点でNXに差を付けられる結果となった。また、ハイブリッドモデルではアクセル操作に対する加速のリニアリティや、ブレーキ踏力に対する、減速Gの立ち上がり方などに、今ひとつ不自然さが残る。NXのハイブリッド仕様が、このあたりにほとんど違和感を伴わないのは、やはり長年にわたるハイブリッド車作り経験のたまものでもあるはずだ。
Q5のデビューは2006年。まだ世に出たばかりというNXとは大きな差がある。片やそろそろモデル末期というタイミングであるのに対し、こなた最新のニューモデル。それを横比較してしまうのは、Q5にとってはちょっと酷だったかもしれない。
一方で、レクサス車のハードウェアが、こうして“ジャーマン3”の一角に追いついているということを、最も端的に示す存在がNXであるのもまた確か。“歴史と伝統”というしがらみにとらわれず、それゆえにさまざまな方向性に活路を見いだせることが、逆にこれからのレクサスの武器になっていくのかもしれない。
(text:河村康彦/photo:田村 弥、峰 昌宏)
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