ランドクルーザー70 試乗 タフでハードボイルド。頼もしい陸の王者。

トヨタの現行のSUVラインナップ
車高が高く、角張ったフォルムに大きな窓が個性的でかっこいい。
車高が高く、角張ったフォルムに大きな窓が個性的でかっこいい。
リアの窓も広くて大きいので、後方の視界も良好。そして、かわいくて、かっこいい。
リアの窓も広くて大きいので、後方の視界も良好。そして、かわいくて、かっこいい。

次に購入するクルマはSUVにしようと思っている。理由はとくにない。あえていえば、学生時代のVWビートル(1970年式)から現在乗っているプリウスPHVに至るまで、ずっとセダンやスポーツカーを乗り継いできたので、少し趣向を変えてSUVもいいかな?と思っている。

そんな筆者の気分を知ってか知らずか(たぶんまったく関知されてないと思うが…)、「さあ、SUVに買い替えましょう」とばかりに、ここのところトヨタから次々とSUVのフルモデルチェンジや特別仕様車の発売が相次いでいる。

例えば、昨年の11月にはハリアーが10年ぶりにフルモデルチェンジ。今年に入ってはFJクルーザーの日本仕様が7月に一部改良されて発売になり、8月にはランクル70が30周年記念モデルとして国内で復活販売、同時に、ランクル200とプラドでも特別仕様車が発売された。また、レクサスブランドからは7月に新しくNXがデビュー。RAV4もすでに昨年から北米および欧州市場では新型が発売されている。

さらに、それらのサイズや性能、パッケージデザイン、価格帯なども多種多様。百花繚乱の様相を呈している。とくに、最近発売になった新型ハリアーやレクサスNXは限りなくオンロード性能を高めている。ハリアーはゆったりとしたラグジュアリーな走りを、NXはスポーツセダン並みのキビキビとした走りを実現し、同時に、SUVが苦手としていた燃費性能においてもハイブリッドや新型ターボエンジン、アイドリングストップ機構などの採用により、飛躍的にその性能を向上させている。

こうしたオンロード性能の向上、乗り心地重視といった国内におけるSUVの大きな潮流の中、30周年記念モデルとして10年ぶりに国内販売が復活したランクル70。海外ではキングオブ4WDとも称されるものの、どちらかといえばオンロードよりもオフロードが得意なこのクルマ(国内の潮流とは真逆の特徴をもつ)は8月25日に満を持して発表となった。しかし、マスコミ等で取り上げられるとたちまち凄まじい勢いで反響が広がり、発売2週間あまりで想定外の注文が殺到して、関係者が嬉しい悲鳴をあげているという。そんな話題のランクル70の静岡・朝霧高原で開催されたメディア向け試乗会に参加した。

トヨタの現行のSUVラインナップ
車高が高く、角張ったフォルムに大きな窓が個性的でかっこいい。
車高が高く、角張ったフォルムに大きな窓が個性的でかっこいい。
リアの窓も広くて大きいので、後方の視界も良好。そして、かわいくて、かっこいい。
リアの窓も広くて大きいので、後方の視界も良好。そして、かわいくて、かっこいい。

古いからこそ新鮮に感じる機能美。乗り味。

無駄に力みがない自然体のフロントマスクが好印象。全幅は1,870mm(ピックアップは1,770mm)と意外にコンパクト。
無駄に力みがない自然体のフロントマスクが好印象。全幅は1,870mm(ピックアップは1,770mm)と意外にコンパクト。
大きなサイドミラーのおかげで後方やサイドもよく見える。
大きなサイドミラーのおかげで後方やサイドもよく見える。
運転席や助手席からボンネットの先端が確認でき、左前方には2面鏡式の補助確認装置がついている。
運転席や助手席からボンネットの先端が確認でき、左前方には2面鏡式の補助確認装置がついている。

空前のランクル70フィーバー。8月25日以降の熱狂ぶりはそういっても過言ではない。コアなランクルファンや往年のRVブームを懐かしむミドル層はともかく、一般の若い世代の男女からも熱烈な支持を得ているランクル70。その人気を支える大きな要因の一つはその意匠デザインにあると筆者は考えている。

1984年のデビュー以来、90年と99年のマイナーチェンジ、そして2007年にはフロントまわりを中心に大きな意匠チェンジがおこなわれたものの、その基本的なパッケージ・デザインはほとんど変わっていない。水平基調の角張ったデザインはまさしく昭和を感じさせ、しばしば「無骨」と評されることも多い。しかし、若い世代にとってはそれが逆に新鮮であり、「かっこいい」とか「かわいい」という評価につながっている。それはちょうど70年代や80年代の音楽が時代が一回りして、いまの若者にとっては新鮮で、新しいサウンドとして支持されているのと同じである。

しかし、そのデザインはそもそもはデザイン的な美しさやかっこよさを狙って作られたものではない。あくまで、運転のし易さを優先し、最適なポジションを追求した結果。つまり機能美である。

全長4,810mm、全幅1,870mm、全高1,920mm(いずれもバンの場合)とかなり大きなボディながら、運転席に座ってみると、その大きさをあまり感じない。これは運転しやすいことを最優先にこのボディがデザインされている故である。

フロントのピラーが最近のクルマに比べるとかなり手前に立っていて、前方の視界が極めて良好。左右の窓やリアの窓も大きく、加えて、大きなサイドミラーのおかげで左右や後方の確認も容易である。さらにシートポジションが高く、運転席からボンネットの端がしっかり見えるのも最近のクルマには少ない大きな特徴である。おまけに、ご丁寧にフロントの左前方には2面鏡式の補助確認装置がついていて、車両直前部と助手席側側面部の確認ができる。つまり、ランクル70の個性的な角張ったデザインは運転のし易さを追求した結果なのである。

車内のインテリアもすべて水平基調。インパネや、ドア、車内の調度類などもすべて直線的で四角いデザインとなっている。これは急勾配の坂や凹凸の激しいオフロードを走行するときに水平感覚を失わないようにと配慮されたものだが、そんな機能重視のインテリアデザインが逆に新鮮でかっこよく感じられるから不思議だ。

無駄に力みがない自然体のフロントマスクが好印象。全幅は1,870mm(ピックアップは1,770mm)と意外にコンパクト。
無駄に力みがない自然体のフロントマスクが好印象。全幅は1,870mm(ピックアップは1,770mm)と意外にコンパクト。
大きなサイドミラーのおかげで後方やサイドもよく見える。
大きなサイドミラーのおかげで後方やサイドもよく見える。
運転席や助手席からボンネットの先端が確認でき、左前方には2面鏡式の補助確認装置がついている。
運転席や助手席からボンネットの先端が確認でき、左前方には2面鏡式の補助確認装置がついている。

「ゆっくり走ろうよ」と語りかけてくる。

前方の視界は広くて、良好。シンプルで水平基調なインパネの中央部には灰皿が設置されている。
前方の視界は広くて、良好。シンプルで水平基調なインパネの中央部には灰皿が設置されている。
5速マニュアルのシフトレバーの横にあるトランスレバー。ランクル70はパートタイム4WDシステムを採用。
5速マニュアルのシフトレバーの横にあるトランスレバー。ランクル70はパートタイム4WDシステムを採用。トランスレバーの操作により、路面にあった適切な駆動方式を選択する。
H2:2輪駆動モード。市街地や高速道路など乾燥した舗装道路に適している。
H4:4輪駆動ハイモード。悪路・氷雪路・砂地などの滑りやすい路面に適している。
L4:4輪駆動ローモード。急な坂道や泥ねい地などの、特に大きな駆動力を必要とする場合に適している。
電動デフロック(メーカーオプション)。車輪がスタックしたとき、デフ(デフレンシャル機能)をロックさせて駆動力をスタックしていない車輪に伝え、脱出をサポートする。
電動デフロック(メーカーオプション)。車輪がスタックしたとき、デフ(デフレンシャル機能)をロックさせて駆動力をスタックしていない車輪に伝え、脱出をサポートする。スタックしたときはH4→L4→リヤデフ→リアデフ&フロントデフの順に切り替えて脱出を図る。そして最後は電動ウインチ(メーカーオプション)の出番となる。
バンの場合、5人乗り時でも荷台長895mm×荷台幅1,440mm×荷台高1,120mmの広くたくさんの道具や荷物が積める荷室空間。
バンの場合、5人乗り時でも荷台長895mm×荷台幅1,440mm×荷台高1,120mmの広くたくさんの道具や荷物が積める荷室空間。

クルマに乗り込むときはフロントピラーの上部に設置された取手を掴み、ステップに足を乗せて、よっこらしょとシートに腰掛ける。すると普段、プリウスPHVの運転席から見るのとは大きく異なる広々とした景色が拡がる。視線が高く、視野が広くて、気持ちいい。

運転席の周りはじつにシンプル。平たくいえば、スッカラカン。何にもない! 一瞬、「あれ?」と思ってしまう。しかし、スピードメーターもタコメーターも燃料計や油温計も必要な計器類は全部ついてるし、インパネには最新のT-Connect対応のナビもついている。

このやや殺風景にも感じる運転席まわりの空間はじつはユーザーがカスタマイズできるよう余裕を持たせているからである。例えば無線装置などが取り付けられたりすることを想定している。ペットボトルのホルダーが一つだけ用意されているが、きっとこれだけでは不便だろう。この辺のことはすべてユーザーに委ねられているようだ。最近はなにかと収納などでも至れり尽くせりのクルマが多い中、このあっけらかんとした空間には、ただ笑うしかなかったが、逆にとても潔しと評価したい。

そんなインテリアで、何よりも注目したのはインパネの中央に、昔懐かしい灰皿が設置されていたことだ。このインパネは2009年に従来の金属製から新しく樹脂製に変更された部分。灰皿を廃止しようと思えば簡単にできたはずである。それでもあえて、設置してあるのは?…、ちょっと前に流行った言い方をすれば「ワイルドだろー」とつぶやきたくなる。よく見るとリア席には左右のドアに各1個ずつ、前後合わせて3つの灰皿が設置されていた。説明によれば、海外では要望が強く、このクルマには必須のアイテムなんだとか…。そういわれると、ちょっとハードボイルドなアイテムのような気がする。そして愛煙家の筆者には大変ありがたいアイテムである。

さて、エンジンをかけてみる。最近のほとんどのクルマではスタートボタンによる始動となっているが、当然ながらこのクルマは違う。ハンドルの右下にあるACCスイッチにキーを差し込んで回すと、きゅるきゅるっとセルが回って、エンジンがドドドッと始動する。これもまたなかなかハードボイルドでよろしい。

エンジンがかかったら、ギアを2速に入れて発進。通常のオンロードでは2速発進はお約束だ。車両重量が重いので、オフロードバイクのように前輪が上がってウイリーをするなんてことはさすがにないが、1速だとパワーをもてあましてしまう。エンジンのトルクが高いので2速で十分。燃費も良くなる。もちろんエンストの心配はまずない。

ちなみに、市街地や高速道路などを走行するときにはシフトレバーの右横にあるトランスファーレバーで「H2」を選択する。これにより、低振動、低騒音、低燃費に貢献する後輪駆動の2WDとなる。乾燥した舗装道路や高速道路などを4WDモードの「H4」や「L4」で走行すると、駆動系部品に悪影響を与え、駆動系のオイル漏れや焼き付きなどにより事故につながることもあるのでご用心いただきたい。

さて、走り出しは十分にトルクを感じる滑らかで余裕の走り出し。エンジンの音や振動も予想していたものより遥かに少なくてびっくりした。なかなか上質である。しかし、走り出して、すぐにものすごく違和感を感じることになる。まず、第一に、ハンドルの遊びがすごく大きい。ハンドリングが全然、クイックじゃないのある。

次に感じた違和感は、クルマがすごくふわふわした感じであること。とくに筆者は固めの足回りのクルマが好きで、セダンのそれに慣れているので、最初はかなり戸惑った。ものの30分も走っていると、なんとなく慣れたものの、乗り始めは相当に違和感を覚えた。

この2つの違和感は以前に乗ったことがあるFJクルーザーや今回の試乗に合わせて乗ってみたプラドではまったく感じられなかった乗り味である。オフロード性能をとことん追求しているランクル70ならではの乗り味のようだ。

だから、最初は戸惑って、なかなかスピードをあげられないでいた。しかし、よく考えてみたら、このクルマでせかせかと早く走っても仕方ない。「ゆっくり走ろうよ!」とランクル70に促され、運転席と助手席の窓を開け、高原のきれいな空気を吸いながらゆっくり走ってみる。じつに爽快であった。そもそも、真の強者と呼ばれる人は普段は心優しく物静かなものである。そういう観点で考えてみると、強さを秘めた静かな走りに、ちょっとハードボイルドなドライブが楽しめたような気がした。

前方の視界は広くて、良好。シンプルで水平基調なインパネの中央部には灰皿が設置されている。
前方の視界は広くて、良好。シンプルで水平基調なインパネの中央部には灰皿が設置されている。
5速マニュアルのシフトレバーの横にあるトランスレバー。ランクル70はパートタイム4WDシステムを採用。
5速マニュアルのシフトレバーの横にあるトランスレバー。ランクル70はパートタイム4WDシステムを採用。トランスレバーの操作により、路面にあった適切な駆動方式を選択する。
H2:2輪駆動モード。市街地や高速道路など乾燥した舗装道路に適している。
H4:4輪駆動ハイモード。悪路・氷雪路・砂地などの滑りやすい路面に適している。
L4:4輪駆動ローモード。急な坂道や泥ねい地などの、特に大きな駆動力を必要とする場合に適している。
電動デフロック(メーカーオプション)。車輪がスタックしたとき、デフ(デフレンシャル機能)をロックさせて駆動力をスタックしていない車輪に伝え、脱出をサポートする。
電動デフロック(メーカーオプション)。車輪がスタックしたとき、デフ(デフレンシャル機能)をロックさせて駆動力をスタックしていない車輪に伝え、脱出をサポートする。スタックしたときはH4→L4→リヤデフ→リアデフ&フロントデフの順に切り替えて脱出を図る。そして最後は電動ウインチ(メーカーオプション)の出番となる。
バンの場合、5人乗り時でも荷台長895mm×荷台幅1,440mm×荷台高1,120mmの広くたくさんの道具や荷物が積める荷室空間。
バンの場合、5人乗り時でも荷台長895mm×荷台幅1,440mm×荷台高1,120mmの広くたくさんの道具や荷物が積める荷室空間。

[ガズー編集部]