ランドクルーザー70 試乗 タフでハードボイルド。頼もしい陸の王者。 ―後編―
実際に道無き道を走ってみた。
1時間ほどオンロード走行を楽しんだあと、次はオフロード走行を体験すべく、特設会場となっている富士ヶ嶺オフロードコースに向かった。そして、コースに到着して、愕然とした。なぜなら、そこはどうみても崖としかいいようのないところだったからである。「こんなところをクルマが走るのか?」というような急勾配の坂、最大斜度は30度以上あるらしい斜面をランクル70が登ったり降りたりしている。あちこちに大小さまざまな岩や石が露呈しているし、わざわざ、すり鉢状にした窪地や大きなコブが連続するモーグルと呼ばれる場所もある。
これはどう見てもスキー場のゲレンデ。しかも、とびっきりの上級者コースとは言わないまでも、なかなかの急斜面である。そんな荒れた急斜面をランクル70が上へ下へと縦横無尽に走っている。正直、「これはえらいところに来てしまった!」と少し後悔した(笑)
最初は説明員の方に運転していただき、助手席に座って、コースを1周してもらった。コースに実際出てみると、下で見て想像していた以上に路面はごつごつした岩がむき出しになっていたり、砂場だったりした。道と呼べそうなところは何カ所かあったが、コースのほとんどは崖とか斜面としか呼べないようなところばかり。雨が降ったら水が流れて沢になるような岩だらけの場所もあった。
そんな道無き道をランクル70はぐいぐいと力強く登り、下っていく。「すごい!」。最初こそ、多少不安だったが、途中からはめっちゃ楽しく感じられるようになった。
そして1周して、今度は筆者が運転することになった。トランスレバーはもちろんL4を選択。ギアを1速に入れて、いざ、発進である。このときも下手に半クラッチは使わない。急斜面で万一、ニュートラルに入ってしまうと、滑り落ちるどころか、あっという間に急降下して、制御不能になってしまう。だから一気にクラッチを離してギアを入れることが大切。トルクがあるのでエンストはしないと信じて…。
するとどうだろう、筆者が運転するランクル70はゆっくりと急斜面を登り始めた。「そのまま、ゆっくりと前進してください。止まると面倒なことになりますから、とにかく、前へ前へと」。助手席の説明員の方からのアドバイスにうなずきながら、ゆっくりゆっくり斜面を登っていく。
つぎは岩がゴロゴロしている沢を登る。タイヤから岩の感覚がハンドルにすごく伝わってくる。そして、その度にハンドルを取られそうになる。なるほど、オンロードでは違和感だったけど、こんなところを走るんだったら、これくらいハンドルに遊びがないと振動が激しくてとてもハンドルを握っていられない。
ちなみに、こうしたオフロードを走行するとき、ハンドルを握る手の親指は中に入れて握るのではなく、ハンドルのふちにそえるようにして握るのが鉄則である。なぜなら、岩などで前輪がはじかれた場合、ハンドルがものすごい勢いで振られて、ハンドルのスポーク部分が親指に当たって骨折する危険があるからである。
まさに陸のクルーザー。
また、オンロード走行ではふわふわに感じた足回りだが、こんな凸凹な場所を走行するのであれば、当然ながら、足回りが固いと弾けてしまう。この粘り強い走行ができているのも、ランクル70の足回りだからこそであることを身を以て理解した。
さて、こんな風に書いていると、まるで筆者がランクル70を乗りこなし、悪路を自在に走破しているように読者のみなさんは伝わっているかもしれないが、当然ながらそれは大きな間違い。筆者はただハンドルをしっかり持って、アクセルをゆっくりゆっくり踏んでいるだけである。
あとはすべて、ランクル70にお任せ。ランクル70を信じて、えぃ、やーとばかりにコブや岩や急斜面に突っ込んでいくだけである。とにかく、ビビらないこと。このクルマとの信頼関係がとても大事であると感じた。それはスキーで急なコブ斜面を滑るときに似ている(ビビると後傾姿勢になってしまいスキーの制御ができず転倒する)。また、6月に長崎県の佐世保から五島列島の小値賀島まで、波の高い東シナ海の外洋を、トヨタのクルーザー「ポーナム35」に乗せてもらって渡ったときの感覚にすごく似ていた。
まさしく陸のクルーザー、ランドクルーザーである。クルーザーとは内海を航行するボートとは異なり、外洋を航海できる設備を整えた大型のモーター・ボートまたはヨットのことを指すが、この陸のクルーザーはその名のとおり、どこまでも力強く岩を乗り越え、急斜面を下り、どんな悪路をも走破する。それは襲いくる外洋の高波をもろともせずに、走破するポーナム35の勇姿を彷彿させた。じつに頼もしい相棒である。なるほど、アフリカやオーストラリア、ロシアなど信頼され、高く評価されているのもうなずける。彼の地を数百キロも走行して無事帰ってくるのは、外洋を航海するようなものである。道なき荒野を走り抜けるのは大海原を航行するのと同じだし、つねに、危険と隣り合わせ、ちょっとした天候の変化などでも生死を分けるような危険にさらされるからである。(余談であるがポーナム35はランクルのエンジンをマリン用に改良したものを2基搭載している。)
と、筆者はいたく感動したのであるが、説明員の方の話によれば、今回用意されたコースはランクル70のポテンシャルを持ってすれば、序の口な平易なコースだそうで、5段階で評価すれば難易度は一番低い1レベルなのだそうだ。いや、はや恐るべしはランクル70のポテンシャルの高さである。
また、参考までに今回の体験やその後、ランクル70の開発責任者の小鑓(こやり)チーフエンジニアをはじめ開発チームのみなさんとの談話の中で教えていただいたオフロード走行の心得をここで紹介しておく。
まず、先の「親指を中に入れてハンドルを握ってはダメ!」とともに、乗車する上で心得ておく鉄則を2つ。一つは「シートポジションをいつもより前にすること」そして、「座席の背もたれもいつもより立てて座ること」である。これは奇しくも、筆者の失敗談でもあるのだが、急斜面を完全に登りきらないタイミングで一時停止してしまい、いざ、再発進しようとしたら、クラッチに足が届かなくて、困ってしまった。急斜面では身体全体が後方にぐっと落ちているので、普通のシートポジションや姿勢では足が届かなくなるのである。みなさんもご用心あれ。
そして、オフロード走行のこつとしては、
1. (タイヤで)一度掴んだ岩は絶対に放すな。
2. タイヤがスタックしたときは、あわてずに、ハンドルの角度を微妙に動かすなどして足がかりとなる岩を探れ。
3. 下り坂のスピード調節はアクセルで!(それくらいエンジンブレーキが強い)
4. 坂の頂点ではアクセルを緩め、前が見えた段階でいったん止まる。そして坂の下の様子を確認してから進む。
以上である。
ライフスタイルをシフトチェンジする。
さて、オンロードの試乗の件でも少し触れたが、ランクル70はオンロード走行はあまり得意ではないようだ。しかし、このクルマは交差点の信号待ちで隣のクルマと加速性能を競ったり、峠道をキビキビと走り抜けていくのが似合うクルマではない。窓を開け、外のおいしい空気を吸いながら、ゆっくりドライブを楽しむ、そんな心の余裕をもたらしてくれるクルマである。それはすなわち、筆者のような人間にとってはライフスタイルのシフトチェンジを促してくれるクルマだといえる。
また、JC08モードで6.6km/Lという燃費もしびれる数値である。しかも、ハイオク推奨なのだからこれまたハードボイルドである。ただ、ものは考え方次第。ガソリンの大切さを痛感する好機と考えることもできる。開発者チームのみなさんのお話では走り方次第で、6.6km/Lの燃費をそれ以上に伸ばすことも可能だとか。まず、急発進、急加速は避けるのは当たり前だが、走行時はトルクを活かして極力高いギアに早めに入れるように心掛け、つねに2000~2500回転をキープすると燃費はかなり良くなるそうである。たとえば、高速道路なら5速で時速90キロくらいで走れば、ちょうどこのレンジをキープできるそうだ。
さらに、ランクル70のガソリンタンクの容量は130Lの超大容量。だから、満タンにすればプリウス並みの走行距離が期待できる。これは災害時などにも心強い走行距離だし、それなりのガソリンの備蓄ができるということだ。そして、ランクル70の走破性能は災害時にはとても役立つはずである。
最後に、「ランクル70のオフロード性能は自分にはtoo much」と考えているみなさん。ぜひ、一度、ランクル70でオフロードコースを走ってみていただきたい。その楽しさに、きっとやみつきになり、夢中になってしまうことだろう。それこそ、まさにライフスタイルをチェンジする大きなきっかけとなるはずだ。
ランクル70は、筆者としてはかなりおすすめのクルマである。
取材・撮影:宮崎秀敏(株式会社ネクスト・ワン)
[ガズー編集部]
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