【DS 4 クロスバック 試乗】このクルマはディーゼルチョイスが正解!…中村孝仁

DS 4 クロスバック
◆「DS」での新たな挑戦

シトロエンといえば、昔はそのゆったりとした大海を行く大型船のような乗り心地を最上の個性としていた。それは大型のモデルでも小型のモデルでも同じだったことが、シトロエンの大きな特徴だったと思う。

最後の砦だった『C5』からハイドロサスペンションが消え、その大きな個性だったはずの大型船のような乗り心地は影を潜めたと思いきや、コンベンショナルなダンパーとコイルスプリングによるサスペンションでありながらも、ゆったりとボディが動く大型船的乗り味は、最近シトロエンに戻りつつある。元々、シトロエンは非力なエンジンと大きなボディの取り合わせのクルマを得意としていたが、世の中がグローバル化して、同クラスのライバルと勝負する際に、そうした非力さやのんびりした動きは、市場からネガ要素として受け止められ、好むと好まざるにかかわらずカチッとした乗り味と高い動力性能が求められるようになった。結果としてシトロエンの個性は新たな方向性を求めざるを得なくなったのかと思っていたが、それを救ったのが実はディーゼルエンジンのような気がする。

少なくとも乗り心地に関して、かつてのシトロエンらしさをだいぶ取り戻した昨今、あとは大胆なデザインや、奇抜なメカニズムなどが戻れば昔のシトロエンに戻る。しかし、いつまでもシトロエンにそれを求めると、結果として新しいものに挑戦する開発の機会が失われる。その危惧を常々シトロエンは持っていたのだと思う。だから奔放で自由度が広い創造が可能なDSを新たなブランドとして立ち上げ、シトロエンで出来なかった新たな挑戦をしようとしているのだろう。


◆歴代シトロエンとは方向性の違うDS 4

と、前置きが非常に長くなってしまったが、DSというブランドに対する僕の私的見解である。だから、DSでは今までシトロエンで味わったような大型船的乗り心地も必要なければ、エンジンが非力で大型のボディを持つ必要もない。とはいえ、DSと名を変えたものの、現行DSラインナップはすべてシトロエンの名を持っていたモデル。だから、折衷案的な要素も強く、シトロエン的イメージを色濃く持ったクルマが多い。

『DS 4』の場合、クーペライクなデザインを最大の特徴としているが、それは歴代のシトロエンが求めた方向性とはまるで別なもの。しかもその車高を30mm引き上げてルーフレールをつけ、黒く縁取られたホイールオープニングや、同じく黒で境界を定めたグリル回りなど、いわゆるSUV的処理を施したモデルに仕上げたのだが、これも従来のシトロエンにはなかった方向性だ。しかし、今も並行販売が続くガソリン版DS 4の乗り味は、どこか敏捷性を求め、キビキビ感を演出した走りの味付けを持ち、それはシトロエンとは方向性の違う、DSならではのものだったような気がする。

ところが、2リットルBlueHDiディーゼルを搭載した「DS 4クロスバックBlueHDi」は、ディーゼルエンジン搭載によるノーズの重さや、ガソリンエンジンとは異なる初期加速の緩慢さと、その後に味わえる怒涛のトルク感など、ガソリンエンジン搭載車とは全く異なる世界観を持つクルマで、まだシトロエン臭の抜けきらない現行DS 4では、こちらのエンジンチョイスの方が車両のイメージに合っているのではないかと思えた次第である。

車高が高くなったことによる走りへの影響は、正直ほとんどない。通常30mmも目線が高くなれば、相当に見える景色には変化のあるものだが、実はそれも感じなかったし、より快適性を高められるサスペンションセッティングが施されているかと思いきやどうもそれもない。つまり、正直なところほとんどノーマルDS 4と変わらないというのが、試乗した実感だった。

確かにガソリンエンジンと比較すれば、耳に届くエンジンノイズは大きいし、バイブレーションもそれなり。しかし、それは低速域に限ったことで、巡行中やワインディングでドライビングを楽しんでいる時などはそれを感じさせない。しかも圧倒的トルクは今までガソリン車では味わえなかった力強さを体感できる。スタンドで給油の際も周囲から見てもニンマリとした顔をしているに違いない。同じ距離を走ってもガソリンと比較して給油量は圧倒的に少ないし、それだけではなく給油量が多くなれば累進的に安くなる支払い金額も抗えない魅力である。

クロスバックという新たなSUV風モデルの魅力に加え、そこに搭載された2リットルBlueHDiが、さらに魅力を倍加させたことは間違いない。やはりこのクルマはディーゼルチョイスが正解である。

■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。

(レスポンス 中村 孝仁)

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