【マツダ ロードスターRF 試乗】高速クルージング時のしっとり感は大人向けの味付けなAT…高山正寛
横浜と静岡県の今井浜を往復する形で開催されたマツダ『ロードスターRF』の試乗会。往路がトップグレードとなる「RS」(6MT)であったのに対し、復路は装備も充実した「VS」(6AT)に試乗、前日の出発地であるマツダR&Dセンターまで向かった。
コースは海沿いの国道135号線から伊豆スカイラインからマツダに敬意を表し? ネーミングライツを取得した「MAZDAターンパイク箱根」を経由して小田原厚木有料道路へ。最後は東名高速に乗り、一般道経由で目的地という往路とほぼ同じ200km強のルートを選んでみた。
ボディサイズはRSと共通、車両重量は30kg増、RSがメーカーオプションのブレンボ製ブレーキ&専用タイヤを装着していたことで極めてブレのないハンドリングに感心したものだが、標準仕様のVSでその“味”がどう変化するのかも興味の対象だ。
まず往路ではあまり触れなかったが、やはりRFの魅力はパワーリトラクタブルハードトップだろう。その作動時間は約13秒、旧型のRHTが約12秒だったことから「なんだ遅くなったのか」と思うことなかれ。RHTは作動時間こそ短いがルーフの開閉時には中央部のセンターロックを操作する必要がある。しかしRFの場合はすべて自動である。要はトータルでの時間は圧倒的にRFのほうが早いし、手間もかからない。また試乗日は天候が安定せず、突然の雨に見舞われることも少なくなかったが、このルーフならばそれらの状況にもとっさに対応できた。
そして何よりもその開閉動作が“美しい”。新しいルーフの構造などは別記するが「その動き、まさにアート」である。乗員はわかりづらいかもしれないが、三分割ルーフが生き物のように格納されていく動きは車外に対して強烈なアピールとなる。言い換えれば“魅せる”という所作を身につけている。また約10km/hまでは開閉動作ができるなど実用性を高めた点も進化したポイントのひとつだ。
オープン時の風の巻き込みに関してはこれまた絶妙である。空気の流れは頭上をスーッと流れるような感覚が大人にはちょうどいい感じだ。またソフトトップ車とは異なる大型のエアロボードは後ろからの風の巻き込みをうまくコントロールしてくれる。このボード自体はクリア樹脂なのでクローズ時は簡単に外せる物だが、装着したままでも後方視界は十分確保されている。
ハンドリングに関しては基本的な方向性は前日に乗ったRSと大きな違いはない。ただ、RSがより正確性を高めているのに対し、VSに乗り換えると少しステアリングセンターの部分やロール感におだやかな印象を受ける。ただこれはこれで十分納得できるものだ。
一方で試乗時に気になったのはやはりATだった。2.0リットルエンジンを搭載することで低中速のトルクは確保されており、扱いやすさは感じるのだが、ワインディングを走った際にパドルシフトも含めたマニュアル操作を心がけないとシフトアップしてしまう。せっかくコーナーを気持ち良く駆け抜けているのにシフトアップで「萎えてしまう」部分があった。
しかし、ここで役に立ったのがAT車に装備されている「ドライブセレクション」だった。『デミオ』などのガソリン車にも搭載されている機能だが、デバイス好きの筆者でもこういう機能はあまり使う気になれなかった。しかしこれを「SPORT」モードにすると変速タイミングや不要なシフトアップなどを抑え、エンジンの美味しい部分を積極的に活用することができる。今更…ではないが、これはワインディング走行時などでは効果的。一転して気分も高揚、アクセルレスポンスの良さも加わり、特に4000rpm前後に回転数をキープして走るとオープン時の爽快感との相乗効果もあり本当に楽しく感じる。「マツダさんごめんなさい。ちゃんと意味のあるデバイスだったんですね」と少し反省した。
ワインディングロードでの爽快な走りを楽しんだ後、最後のステージは高速道路である。実はこのステージが復路では一番のお気に入りである。50代後半の筆者ではあるが、高速道路を走るケースも仕事柄多い。もしこのクルマを購入するとしたら、高速走行時の快適性は重要な要素である。
6AT車はRS(6MT)に比べると6速でのギアは約3割程度回転数を落とせる計算になる。結果として高速巡航時の燃費性能はAT車のほうが有利になる。実際往路以上にワインディングで楽しんだ分落としてしまった平均燃費(12km/L台)はみるみる向上し最終的には18.3km/L(2名乗車エアコンフル稼働)という好結果だった。
もちろん回転数が落ちたことで静粛性は高まっているので車内で音楽を愉しむのにも適している。VSにはBOSE製のオーディオが標準装備されているが、同乗した編集者が助手席ヘッドレストから音が聞こえてこないという。
実はこの試乗車にはあえて、というかBOSEサウンドシステムをレスにした6スピーカー仕様だったのである。レス仕様にすることで7万5600円安くなるし、正直これでもまずまず快適ではあるが、やはりそこはBOSEである。
元々オープン/クローズ時それぞれに音響特性をセッティングした車種専用設計である点、ナビを含めたインフォテインメントシステムがマツダコネクトがコアである以上、同レベルの音をこの価格で組み上げることは容易ではない。その点でもこのシステムには意味があるし、もし“Sグレード”を購入するのであれば、積極的にメーカーオプションでこれを選ぶことをオススメする。
また運転の楽しさはもちろんだが「疲れが少ないこと」はぜひ伝えておきたい。カミングアウトすると筆者は自分のクルマで移動するときも100km未満ですぐ休憩モード(仮眠他)に入ってしまう。しかし今回は往復ともRFはほぼノンストップ(トイレ休憩除く)で移動が可能だった。
「疲れない」と言えば欧州車や国産高級車の代名詞的な部分はあるが、少なくともこのRFは“走る楽しさ”と“疲れない”を両立した他とは比較できないタイプのクルマなのかもしれない。
可処分所得があり、子育ても一段落。若い頃のクルマで走ることの楽しさをもう一度味わいたい。それでいて快適性や装備なども自分のポジションにふさわしいものが欲しいと思っている大人にはかなり魅力的な1台ではないだろうか。
「ロードスターはRFというハードウエアとブランド、そして新しいテイスト(味)を手に入れた」。これが往復約400kmに渡る試乗で筆者が現状感じ取った印象である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
高山正寛│ ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ会員
1959年生まれ。自動車専門誌で20年以上にわたり新車記事&カーAVを担当しフリーランスへ。途中5年間エンターテインメント業界でゲーム関連のビジネスにも関わる。カーナビゲーションを含めたITSや先進技術のあらゆる事象を網羅。ITS EVANGELIST(カーナビ伝道師)として自ら年に数台の最新モデルを購入し布教(普及)活動を続ける。またカーナビのほか、カーオーディオから携帯電話/PC/家電まで“デジタルガジェット”に精通、そして自動車評論家としての顔も持つ。
(レスポンス 高山 正寛)
コースは海沿いの国道135号線から伊豆スカイラインからマツダに敬意を表し? ネーミングライツを取得した「MAZDAターンパイク箱根」を経由して小田原厚木有料道路へ。最後は東名高速に乗り、一般道経由で目的地という往路とほぼ同じ200km強のルートを選んでみた。
ボディサイズはRSと共通、車両重量は30kg増、RSがメーカーオプションのブレンボ製ブレーキ&専用タイヤを装着していたことで極めてブレのないハンドリングに感心したものだが、標準仕様のVSでその“味”がどう変化するのかも興味の対象だ。
まず往路ではあまり触れなかったが、やはりRFの魅力はパワーリトラクタブルハードトップだろう。その作動時間は約13秒、旧型のRHTが約12秒だったことから「なんだ遅くなったのか」と思うことなかれ。RHTは作動時間こそ短いがルーフの開閉時には中央部のセンターロックを操作する必要がある。しかしRFの場合はすべて自動である。要はトータルでの時間は圧倒的にRFのほうが早いし、手間もかからない。また試乗日は天候が安定せず、突然の雨に見舞われることも少なくなかったが、このルーフならばそれらの状況にもとっさに対応できた。
そして何よりもその開閉動作が“美しい”。新しいルーフの構造などは別記するが「その動き、まさにアート」である。乗員はわかりづらいかもしれないが、三分割ルーフが生き物のように格納されていく動きは車外に対して強烈なアピールとなる。言い換えれば“魅せる”という所作を身につけている。また約10km/hまでは開閉動作ができるなど実用性を高めた点も進化したポイントのひとつだ。
オープン時の風の巻き込みに関してはこれまた絶妙である。空気の流れは頭上をスーッと流れるような感覚が大人にはちょうどいい感じだ。またソフトトップ車とは異なる大型のエアロボードは後ろからの風の巻き込みをうまくコントロールしてくれる。このボード自体はクリア樹脂なのでクローズ時は簡単に外せる物だが、装着したままでも後方視界は十分確保されている。
ハンドリングに関しては基本的な方向性は前日に乗ったRSと大きな違いはない。ただ、RSがより正確性を高めているのに対し、VSに乗り換えると少しステアリングセンターの部分やロール感におだやかな印象を受ける。ただこれはこれで十分納得できるものだ。
一方で試乗時に気になったのはやはりATだった。2.0リットルエンジンを搭載することで低中速のトルクは確保されており、扱いやすさは感じるのだが、ワインディングを走った際にパドルシフトも含めたマニュアル操作を心がけないとシフトアップしてしまう。せっかくコーナーを気持ち良く駆け抜けているのにシフトアップで「萎えてしまう」部分があった。
しかし、ここで役に立ったのがAT車に装備されている「ドライブセレクション」だった。『デミオ』などのガソリン車にも搭載されている機能だが、デバイス好きの筆者でもこういう機能はあまり使う気になれなかった。しかしこれを「SPORT」モードにすると変速タイミングや不要なシフトアップなどを抑え、エンジンの美味しい部分を積極的に活用することができる。今更…ではないが、これはワインディング走行時などでは効果的。一転して気分も高揚、アクセルレスポンスの良さも加わり、特に4000rpm前後に回転数をキープして走るとオープン時の爽快感との相乗効果もあり本当に楽しく感じる。「マツダさんごめんなさい。ちゃんと意味のあるデバイスだったんですね」と少し反省した。
ワインディングロードでの爽快な走りを楽しんだ後、最後のステージは高速道路である。実はこのステージが復路では一番のお気に入りである。50代後半の筆者ではあるが、高速道路を走るケースも仕事柄多い。もしこのクルマを購入するとしたら、高速走行時の快適性は重要な要素である。
6AT車はRS(6MT)に比べると6速でのギアは約3割程度回転数を落とせる計算になる。結果として高速巡航時の燃費性能はAT車のほうが有利になる。実際往路以上にワインディングで楽しんだ分落としてしまった平均燃費(12km/L台)はみるみる向上し最終的には18.3km/L(2名乗車エアコンフル稼働)という好結果だった。
もちろん回転数が落ちたことで静粛性は高まっているので車内で音楽を愉しむのにも適している。VSにはBOSE製のオーディオが標準装備されているが、同乗した編集者が助手席ヘッドレストから音が聞こえてこないという。
実はこの試乗車にはあえて、というかBOSEサウンドシステムをレスにした6スピーカー仕様だったのである。レス仕様にすることで7万5600円安くなるし、正直これでもまずまず快適ではあるが、やはりそこはBOSEである。
元々オープン/クローズ時それぞれに音響特性をセッティングした車種専用設計である点、ナビを含めたインフォテインメントシステムがマツダコネクトがコアである以上、同レベルの音をこの価格で組み上げることは容易ではない。その点でもこのシステムには意味があるし、もし“Sグレード”を購入するのであれば、積極的にメーカーオプションでこれを選ぶことをオススメする。
また運転の楽しさはもちろんだが「疲れが少ないこと」はぜひ伝えておきたい。カミングアウトすると筆者は自分のクルマで移動するときも100km未満ですぐ休憩モード(仮眠他)に入ってしまう。しかし今回は往復ともRFはほぼノンストップ(トイレ休憩除く)で移動が可能だった。
「疲れない」と言えば欧州車や国産高級車の代名詞的な部分はあるが、少なくともこのRFは“走る楽しさ”と“疲れない”を両立した他とは比較できないタイプのクルマなのかもしれない。
可処分所得があり、子育ても一段落。若い頃のクルマで走ることの楽しさをもう一度味わいたい。それでいて快適性や装備なども自分のポジションにふさわしいものが欲しいと思っている大人にはかなり魅力的な1台ではないだろうか。
「ロードスターはRFというハードウエアとブランド、そして新しいテイスト(味)を手に入れた」。これが往復約400kmに渡る試乗で筆者が現状感じ取った印象である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
高山正寛│ ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ会員
1959年生まれ。自動車専門誌で20年以上にわたり新車記事&カーAVを担当しフリーランスへ。途中5年間エンターテインメント業界でゲーム関連のビジネスにも関わる。カーナビゲーションを含めたITSや先進技術のあらゆる事象を網羅。ITS EVANGELIST(カーナビ伝道師)として自ら年に数台の最新モデルを購入し布教(普及)活動を続ける。またカーナビのほか、カーオーディオから携帯電話/PC/家電まで“デジタルガジェット”に精通、そして自動車評論家としての顔も持つ。
(レスポンス 高山 正寛)
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