【マツダ ロードスター 歴代モデル 試乗】高性能化がもたらした“原点回帰”…中村孝仁
今更と思うかもしれないが、マツダ『ロードスター』の「Sグレード」6MT車に試乗した。デビュー時に試乗したのは「RSグレード」のみで、では一体この両車にどのような違いがあるのかを検証してみたかった。
それだけではない。5月初旬から3週間かけて、初代ユーノス・ロードスター「NA型」から、「NB型」、「NC型」と乗り継いで、その足跡とロードスターの歩んだ道を検証する意味もあったのである。
ご存知かと思うが、マツダでは初代のNAロードスターの再生プロジェクトを始める準備に取り掛かっており、もう誕生から30年近くが経とうとするNAロードスターのレストアを志すユーザーに向けて、パーツ供給などを行うという。そして、これを機にというわけではないだろうが、NA、NB、NCの各モデルをジャーナリスト向け広報車という形で用意しているのである。
現行NDロードスターは、原点回帰したモデルだとはよく言われる。即ちそれは、初代が1.6リットルエンジン(後に1.8リットルを追加)、NBも1.6リットルと1.8リットル。これに対してNCは2リットルエンジンのみの設定で、基本プラットフォームも異なるなど、端的に行ってしまえばその歴史は高性能化への道のりだったともいえる。だから、1.5リットル搭載で軽量化したNDは初代を彷彿させる原点回帰というわけだ。
高性能化は、強固なプラットフォームや硬い足回りを必要とした。これに対してNDは排気量を1.5リットルに縮小し、パフォーマンスを敢えて落とし、軽量化をしてパワー不足を補い、何よりも初代が持っていた軽快感やコーナーをひらりひらりといなしていく、爽快かつ軽快な乗り味を取り戻したモデルに仕上げたという。つまり力技から合気の心を持ったクルマへの変貌と言っても良いと思う。
その原点回帰を最も端的に表しているのが、実はベースモデルのSだったのである。NDロードスターはタイヤサイズも16インチと小型化し、このグレードではリアのスタビライザーも取り去っている。それは同時にロール剛性を落とし、車体ロールを増長するが、踏ん張らない分、ひらり感が強くなって力技ではない感性に訴えかける走りを楽しめるクルマに仕上がっているのだ。
一方で、後付の安全デバイスはすべて取り去られてしまっているから、安全面では不満も残る。
1.5リットル車はパフォーマンスの点でいくら軽量化されているとはいえ、少し物足りなさを覚えると思った。そこで比べたのは2リットルを搭載する「RF」である。結論から言ってしまうと、確かにトルクが細くなるから、RFと比較した時は、さすがにズボラな運転を拒否されるが、ちゃんと回してやれば十分にスポーツドライビングを愉しめるレベルである。何より、ターンインしてそこからアクセルを開けていくと、少しグラっと来て心地よいロール感が感じられるのは、Sならではの感触ともいえる。
改めて歴代ロードスターの走りと進化の後を辿ってみると、初代はまずエアバッグすら付かないステアリングが印象的。全体的にシンプルでソフトトップのリアウィンドーにビニールを使っているから、先ずはそれをジッパーで外してやることから始めないとトップを開けないなど、少し手間がかかる。トランスミッションは5速だが、こいつの出来はすごく良い。エンジンはさすがに古いせいもあって、あまり回す気にはなれなかったが、オープンエアモータリングにはちょうど良いバランスを示してくれた。
NBは1.8リットル搭載車。このためトランスミッションは6速になり、ソフトトップのリアウィンドーがガラス製になっているので、2カ所にラッチを外すだけで簡単にオープンに出来る。しかし、エンジン性能はいいとして6速化されたトランスミッションは各ゲートが微妙にずれていて、素早いシフトを拒む。特にダウンシフトはミスシフトが多くなる傾向で、ここだけがネガ要素だった。走りのバランスとしては個人的にはNBがベストと感じた。
2リットルを積むNCはシャシーも大きく変わり、サイドのウェストラインが高く、ポジションをとると囲まれ感が強い。ソフトトップもたたんでかちりと固定できるタイプに変わっているが、おかげでシート背後に物を置くスペースがなくなった。これはNDにも共通する。性能的には文句なく高いが、オープンエアモータリングを愉しむというよりも、リアルスポーツの領域に足を踏み入れた感が強く、これならクーペでもよいのではと感じることしばしば。ロードスター本来の良さが少し削がれた印象だった。
こうした歴史を辿って、NDが生まれた。NDはまさに瞬速でオープンに出来る。信号待ちなどで簡単に。同様に閉められる。一方で荷物を置くスペースはNC以上に無くなり、ファーストカーとしての存在感はほぼゼロ。これでもう少し荷物を置けるスペースがあれば文句ないというのが、歴代に乗って得られた印象だった。
とはいえ今も初代と比較してもコンパクトな姿を維持しているロードスター。これからも歴史を刻むクルマに成長していくこと間違いなしである。
マツダ ロードスターS
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来39年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。
(レスポンス 中村 孝仁)
それだけではない。5月初旬から3週間かけて、初代ユーノス・ロードスター「NA型」から、「NB型」、「NC型」と乗り継いで、その足跡とロードスターの歩んだ道を検証する意味もあったのである。
ご存知かと思うが、マツダでは初代のNAロードスターの再生プロジェクトを始める準備に取り掛かっており、もう誕生から30年近くが経とうとするNAロードスターのレストアを志すユーザーに向けて、パーツ供給などを行うという。そして、これを機にというわけではないだろうが、NA、NB、NCの各モデルをジャーナリスト向け広報車という形で用意しているのである。
現行NDロードスターは、原点回帰したモデルだとはよく言われる。即ちそれは、初代が1.6リットルエンジン(後に1.8リットルを追加)、NBも1.6リットルと1.8リットル。これに対してNCは2リットルエンジンのみの設定で、基本プラットフォームも異なるなど、端的に行ってしまえばその歴史は高性能化への道のりだったともいえる。だから、1.5リットル搭載で軽量化したNDは初代を彷彿させる原点回帰というわけだ。
高性能化は、強固なプラットフォームや硬い足回りを必要とした。これに対してNDは排気量を1.5リットルに縮小し、パフォーマンスを敢えて落とし、軽量化をしてパワー不足を補い、何よりも初代が持っていた軽快感やコーナーをひらりひらりといなしていく、爽快かつ軽快な乗り味を取り戻したモデルに仕上げたという。つまり力技から合気の心を持ったクルマへの変貌と言っても良いと思う。
その原点回帰を最も端的に表しているのが、実はベースモデルのSだったのである。NDロードスターはタイヤサイズも16インチと小型化し、このグレードではリアのスタビライザーも取り去っている。それは同時にロール剛性を落とし、車体ロールを増長するが、踏ん張らない分、ひらり感が強くなって力技ではない感性に訴えかける走りを楽しめるクルマに仕上がっているのだ。
一方で、後付の安全デバイスはすべて取り去られてしまっているから、安全面では不満も残る。
1.5リットル車はパフォーマンスの点でいくら軽量化されているとはいえ、少し物足りなさを覚えると思った。そこで比べたのは2リットルを搭載する「RF」である。結論から言ってしまうと、確かにトルクが細くなるから、RFと比較した時は、さすがにズボラな運転を拒否されるが、ちゃんと回してやれば十分にスポーツドライビングを愉しめるレベルである。何より、ターンインしてそこからアクセルを開けていくと、少しグラっと来て心地よいロール感が感じられるのは、Sならではの感触ともいえる。
改めて歴代ロードスターの走りと進化の後を辿ってみると、初代はまずエアバッグすら付かないステアリングが印象的。全体的にシンプルでソフトトップのリアウィンドーにビニールを使っているから、先ずはそれをジッパーで外してやることから始めないとトップを開けないなど、少し手間がかかる。トランスミッションは5速だが、こいつの出来はすごく良い。エンジンはさすがに古いせいもあって、あまり回す気にはなれなかったが、オープンエアモータリングにはちょうど良いバランスを示してくれた。
NBは1.8リットル搭載車。このためトランスミッションは6速になり、ソフトトップのリアウィンドーがガラス製になっているので、2カ所にラッチを外すだけで簡単にオープンに出来る。しかし、エンジン性能はいいとして6速化されたトランスミッションは各ゲートが微妙にずれていて、素早いシフトを拒む。特にダウンシフトはミスシフトが多くなる傾向で、ここだけがネガ要素だった。走りのバランスとしては個人的にはNBがベストと感じた。
2リットルを積むNCはシャシーも大きく変わり、サイドのウェストラインが高く、ポジションをとると囲まれ感が強い。ソフトトップもたたんでかちりと固定できるタイプに変わっているが、おかげでシート背後に物を置くスペースがなくなった。これはNDにも共通する。性能的には文句なく高いが、オープンエアモータリングを愉しむというよりも、リアルスポーツの領域に足を踏み入れた感が強く、これならクーペでもよいのではと感じることしばしば。ロードスター本来の良さが少し削がれた印象だった。
こうした歴史を辿って、NDが生まれた。NDはまさに瞬速でオープンに出来る。信号待ちなどで簡単に。同様に閉められる。一方で荷物を置くスペースはNC以上に無くなり、ファーストカーとしての存在感はほぼゼロ。これでもう少し荷物を置けるスペースがあれば文句ないというのが、歴代に乗って得られた印象だった。
とはいえ今も初代と比較してもコンパクトな姿を維持しているロードスター。これからも歴史を刻むクルマに成長していくこと間違いなしである。
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