【プジョー 208 800km試乗】欧州Bセグ平均をはるかに越える走りと居住性…井元康一郎

プジョー 208 アリュール
フランスの自動車メーカー、プジョーのサブコンパクト『208』を800kmあまり走らせる機会があったので、インプレッションをリポートする。

2012年に『207』からバトンタッチされる形でデビューした208もそれからすでに5年目、モデルライフ後半に差しかかっている。モデルライフ途中の2015年に1.2リットル直噴3気筒ターボが追加投入され、110ps/205Nm(20.9kgm)という1.6リットル自然吸気並みのパフォーマンスを得た。今回試乗した「アリュール」は、その1.2リットルターボを搭載する中間グレードである。

今回の試乗ルートは東京を起点に北関東の渡良瀬~奥日光を巡る山岳ルートと千葉の房総半島を周遊する平地ルートの2つ。総走行距離は801.4km。路面コンディションはドライ7、ウェット3。通った道のおおまかな比率は市街地3、郊外4、高速1、山岳路2。1~2名乗車、エアコンAUTO。

◆ハイレベルなミニツアラーとしての魅力

プジョー208は決して最新のモデルではないが、運動性、快適性、乗り心地、静粛性のバランスが良く、ミニツアラーとしての魅力は依然としてハイレベルであった。とくに欧州Bセグメントの平均を大きく超えていたのは、中速コーナーが連続するようなワインディングロードで、強い雨の降るヘビーウェットコンディションでも安定感は良好。また、ハンドリングもドライバーを楽しい気持ちにさせるものだった。高速道路での巡航フィール、静粛性も優れていた。

欧州Bセグメントのライバルと性格を大きく異にしていたのはパッケージング。欧州のBセグメントユーザーは前席優先で室内スペースをあまり重視しないこともあって、今日のこのクラスのモデルは室内の広さはそこそこにとどめ、クルマのリソースを走りに振り向けるような仕立てになっているものが多い。それに対して208は全長3975mmと主要なライバルに比べて短いにもかかわらず、前後席、荷室とも広々としている。Bセグメントをファミリーカーとして使う顧客が多い日本市場への適合性は高いものと思われた。

目立った弱点として印象に残ったのは市街地燃費とマルチメディア。6速ATのシフトスケジュールが日本の速度規制にマッチしておらず、都市走行では燃費はBセグメントとしてはかなり悪い数字であった。またマルチメディアシステムはオプションのカーナビとの連係が良いとは言えず、画面はテレビ、音声はラジオ(前者はカーナビ、後者はマルチメディアシステム)になることがあったのをはじめ、不思議な現象が時々発生した。

ロングツーリング…と言っても今回は480km、320kmの2回の短いツーリングの合算だが、208の長距離ドライブ耐性は十分に高そうに思われた。前述のようにマルチメディアの機能性や操作性は悪いが、乗り心地の良さや操縦安定性の高さはオーナーにちょっと遠くまで行ってみたいと思わせるであろう水準にある。運転好きな人が1000kmくらいの旅を楽しむのにはうってつけだろう。燃費も郊外では少々元気よく走っても市街地のような落ち込みはみられなかった。

◆シャシー性能は208を選ぶ最大の動機になる

では、要素ごとにもう少し細かく見ていこう。まずは走りや快適性を支えるボディ、シャシー性能だが、これは208を選ぶ最大の動機付けとなり得る良さであった。

欧州Bセグメントの世界ではここ10年ほど、大きいクルマから乗り換えるダウンサイザーと呼ばれる顧客の厳しい要求に応えてシェアを他社から奪おうと、メーカー間でし烈な競争が繰り広げられたため、クルマの乗り味が飛躍的に向上した。

強敵ひしめくなか、208の特徴だと感じられたのは、車輪の上下動のスムーズさが生む独特のロードホールディング感だった。たとえばコーナリング中にうねりに足を取られたときのような厳しいシーンでもホイールがスルスルと上下動するインフォメーションが非常にクリアに伝わってくるし、高速道路で路面がうねったり補修で盛り上がったりしているようなところを通ってもゴロゴロッとしなやかにいなす。

以前、自動車メーカーの車体設計のエキスパートにきいたところ、しなやかな走り味づくりは車体をどうやって強固かつしなやかに作るかというノウハウがモノを言う世界で、サスペンション、ショックアブゾーバー、ラバーなどを柔らかく作るといった小手先の対策では実現できないということだった。

1回目のツーリングでは奥日光と群馬の沼田を結ぶ金精峠ルート、赤城山、また1車線道路の山深い県道などいろいろな山岳路を走ってみた。ドライブ当日は栃木では本降りの雨でウェット、山の反対側の群馬はドライと、1日で両極端なコンディション下でドライブすることになったが、208はドライだけでなくスリッピーな路面でも高い安定性を示した。

クルマの動き自体はルノー『ルーテシア』のようなシャープな感じではなく、コーナー手前でわりと早めにステアリングを操作してインに寄り、コーナー外側の車輪に重さをかけてやると安定するというタイプ。ハンドル径はかなり小さく、それでその動きをコントロールするのは独特の楽しさがあった。

乗り心地には弱点もある。それは低速域で揺すられ感が強めに出ることだ。とくにアンジュレーション(路面のうねり)が連続するようなところを40km/h以下の低速で通過するとゴツゴツしたフィールが出てしまう。ただ、石畳やコンクリート舗装の多い国の生まれだけあって、ザラザラ感のカットは上手く、滑らかさはある。東京では他人を乗せた区間もあったが、助手席からは乗り心地についてかなりポジティブな感想が出た。

◆日本では厳しい6ATのセッティング

この優れたシャシー性能に対し、ネガティブに感じられたのはパワートレインのパフォーマンスだった。と言っても、動力性能についてはまったく不満はない。110psもあればこのクラスの非スポーツ系モデルには十分すぎるほどで、赤城山の急勾配でも痛痒感はまったく感じられなかったし、2200rpmでの100km/h巡航も静かで余裕たっぷりである。高回転まで回すといかにも3気筒というサウンドを立てるが、ノイズ、振動はよく抑えられていた。

弱点なのは6速ATのセッティング。シフトスケジュールが欧州向けそのままで、日本の道路に合っていないのだ。法定速度の60km/hで5速に入らないのはさすがにいただけない。また、4速に入るのも50km/h手前で、混雑気味の市街地では延々、2、3速で2500rpmくらい回して走ることになる。これは滑らかさを損なうだけでなく燃費にも悪い影響があり、AT任せにして走っているとそれほど混雑の激しくない東京都内を大人しく走っても燃費は10km/リットル台前半の、それもあまり良いほうではないレベルで推移した。

エンジンの熱効率も、ライバルが長足の進化を遂げるなか、そろそろ次の段階に進んだほうがいいのではないかという感じだった。瞬間燃費計の推移を見た感じでは、直噴化によってピーク値はそこそこ出ているようなのだが、過給圧が高まってトルクが出たときの値がライバルに比べて悪いように見えた。AT任せの場合、5速に入るのが70km/h手前、6速には84km/h前後と、完全に制限速度がおおむね90~110km/hの欧州郊外路向け。低いギア段にとどまって回転数が上がった状態ではスロットルを踏み込んだときにブーストがかかりやすく、その繰り返しによって燃費を落とす印象。郊外でも16km/リットル前後と、ライバルに対して燃費はあまり良くなかった。

房総を巡った2回目のツーリングでは試しにシフトノブでギアを自分で選択するマニュアルモードで運転してみたが、その時は1回目のツーリング時の燃費を大幅に上回り、20km/リットルに近いところで推移した。市街地で燃費が大きく低下することに変わりはなかったが、それでもAT任せのときよりは良かった。

◆異様に広く快適な室内空間

次に室内の快適性とユーティリティについて。先にも述べたが、208の室内は欧州Bセグメントとしては異例に広い。クルマを真横から見ると、ボンネットが短くキャビンが長いというモノフォルムに近いシルエットで、ボンネットを長く取って運転席のヒップポイントを後輪になるべく近づける欧州のライバルモデルとは一線を画している。

その効果はリアシートの足元空間の広さに表れていた。静止状態ではあるが後席に座ってみたところ、膝下空間は大きく、また前席下の空間も広大なためつま先方向の余裕もたっぷりであった。また後席はシートバックが肩を軽くホールドする形状となっていた。4人が快適に移動できることにかなりこだわったものと推察された。

乗り心地以外の快適性も高い。遮音性は大変に良好で、ロードノイズや風切り音は非常に小さかった。また、房総ドライブは貴重な晴れ間に恵まれたが、初秋の強烈な直射日光が当たっても輻射熱の室内への伝わりは非常に小さかった。天井のトリムを触ってみたところ、太陽熱はわずかしか感じられず、天井にかなり良いスペックの断熱材を使っていることがうかがい知れた。この断熱処理によって、エアコンのコンプレッサーが停止するアイドリングストップ時も不快感はほとんど覚えなかった。左右独立で温度を調節できるオートエアコンの効きも、気温35度の環境下で十分以上に効いた。

マルチメディアシステムは、それ単体では作動に問題があるわけではなかったが、アドオンのカーナビと操作が別になっており、両者の連携は良くなく、操作もしにくかった。概要で述べたように、音声はラジオ、画面はテレビということもあった。もっともそれはマルチメディアシステム側のスイッチを入れなおしたら解消した。癖を把握すれば、欧州車にありがちなシャレですませる気になるやもしれない。ちなみに最近のクルマのトレンドでもあるが、CDプレーヤーは実装されていない。自分で音楽ソースを持ち込みたい場合はスマートフォンやBluetooth接続可能なミュージックプレーヤーを持ち込む必要がある。

◆ツーリングを楽しくするクルマ

総じてプジョー208は、欠点をいろいろ内包しながらも、走行性能は依然としてハイレベルで、ツーリングを楽しいものにするクルマだった。数あるライバルのなかでこのモデルがフィットするカスタマー像はまず、週末に快適で楽しいツーリングをしたいという人、また住宅事情などの制約でサブコンパクトカー1台に保有が制約されるが輸入車に乗ってみたいという人、お洒落な装いのクルマに乗ってみたい人などだろう。

また、サスペンションの動きが非常に良いあたり、動的質感フェチなカスタマーにとってもうってつけの選択肢といえる。半面、経済性も重視する人、クルマのアメニティ装備にこだわる人などには不向きであろう。

(レスポンス 井元康一郎)

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