【トヨタ プリウスPHV 試乗】上級志向、HVとの差別化は成功するのか…木下隆之
これは「無限航続距離PHV」と呼べるかもしれないなぁ。新型『プリウスPHV』の技術説明を聞いてまず僕は、そんな無茶な発想に至ったのだ。というのも…。
もはやハイブリッド国民車とも言える旗艦モデルの座を欲しいままにしたプリウスでも、唯一の死角があった。素のプリウスの販売は好調でも、EV時代を見据えたPHV(プラグイン・ハイブリッド)は、思うような販売に結びつかなかったのだ。
充電機能を付け加えて、さらに経済性と環境性能を高めるというPHVは、航続距離の不安を抱えるEVよりも親しみやすい。それでいて、ハイブリッドよりもEV走行時間が長いから経済的である。近距離移動ではEVとして機能し、ロングドライブではハイブリッドとして生きる。現状では理想のシステムだと思われている。だが、なかなか世間に浸透しなかったのだ。
苦戦の理由は一つではなかっただろう。
PHVという特殊性を備えているのに、ハイブリッドプリウスと姿形がほとんど変わらないことの弊害。特別感の低さ。それでいて価格が高い。質量が増えることで、ハイブリッド燃費も悪化した。動力性能も、操縦性能も劣った。トヨタ流の緻密な市場調査と反省と、そして改善して完成させたのが新型プリウスPHVなのである。
フロントマスクとリアビューの意匠を大幅に変えることで、ハイブリッドプリウスとの差別化を図った。あきらかにPHVだとわかるデザインとしたのである。
その手法はインテリアにも及んでいる。最大のポイントは、11.6インチのナビケーションシステムを、インパネ中央に組み込んだ。いわば、iPadをそのまま設置したかのような画面構成、Tコネクトとして機能させている。
画面は縦長だ。カーナビ移動ではたいがい進行方向は上だ、上下に広いほうが使いがったがいい。頻繁に詳細と拡大を繰り返す必要も少なくなる。そもそもスマホに慣れた我々には心地いいのである。エアコンやオーディオなどの操作もそこに集約した。
驚いたのは、後席がセパレートになっていることだ。センターコンソールが固定されている。そう、つまり4名乗車なのである。大衆車でありファミリーセダンであるプリウスPHVなのに、5名乗車ではなく4人乗りに割り切ったのだ。これが販売にどう影響するか、ちょっと心配のような気もするが、ジャッジは市場がくだすだろう。
決断の理由を開発担当者に聞けば、「プリウスの上級モデルとしての位置付けです。ですから、後席をも落ち着ける空間にしたかったのです」と。そう、プリウスPHVはプリウスファミリーの一員でありながら、ハイブリッドプリウスの上級モデルという立ち位置なのである。ただ経済性だけを高めたモデルではない。先代の苦戦の一つだった、個性の欠如をここで補っている。
さらには、技術的にも進化の度合いが高い。2基のモーターを駆動用に割り当てた。リチウムイオンバッテリーも2倍に増やした。その結果、EV走行距離が飛躍的に高まった。26.4kmだった走行可能距離が2.5倍の68.2kmまで伸びたのである。隣町の往復が限界だったものが、隣の県までの往復に耐えられる。そんなアドバンテージである。
72psと32psのモーターを2基積むことで、動力性能も強化された。これまではちょっと強い加速を求めるとモーターパワーでは補えず、頻繁にエンジンに助けを求めた。だが、モーターパワーが強化されたことで、例えば高速の料金所から100km/hの流れに乗るようなシーンでも、余裕を持ってEV加速する。EVの最高速度は135km/hだというから、高速道路の追い越し車線ですら、涼しい顔してEV走行可能というわけである。
市街地での試乗中、エンジンを稼働させてみようと試みたものの、あきらかに交通の流れを乱すような加速感になり、恥ずかしくもなり何度か断念したほどである。バッテリーさえ残っていれば、ほぼEVで生活できそうだ。試乗時間中のオンボードコンビューターの燃費計は、ついに最後まで「99.9km/リットル」を指したまま終わってしまった。
資料によると電費は10.54km/kwhである。燃費は37.2km/リットル。ハイブリッドプリウスと同様だ。
乗り味も心地よかった。もちろんプラットフォームは新開発のTNGAであり、Wウイッシュボーンサスペンションを組み込んでいる。唯一のネガティブ材料は、けっして軽くないリチウムイオンバッテリーを大量に積み込んでいることだ。質量の点で不利なのだ。
だが、ハイブリッドプリウスがどちらかといえば俊敏な走り味を示すのとは対象的に、しっとりと大人の乗り味なのである。150kgの重量増を逆手にとっているのだ。
思わずニヤッとしたのは、180wの住宅用ソーラー発電機能をオプションで準備していることだ。駐車中に電力が低下することなく、むしろ充電されるのである。天候によるものの、1日に6.1km走れる分の電力を稼ぎ出すという。およそ20日放置しておけば、電源コードをつながずとも満充電になる計算である。
仮にバッテリーが空になり、ガス欠になったとしても、太陽の下に放置しておけばまた復活するのだ。
ガソリンを直接燃やすことのないEV走行とはいえ、充電のための電力供給先は悪名高い原発だったり、火力発電所で化石燃料をたいているわけだ。究極の再生エネルギーPHVでもある。環境悪化ゼロの太陽光発電で生活できるのは心地いいものに違いない。
プリウスPHVは、技術的に大きく進化している。そればかりか、上級グレードらしい味付けがなされている。それで財布に優しく環境性能に優れているのだ。こんどのプリウスPHVは成功すると思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
木下隆之| モータージャーナリスト
プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。
(レスポンス 木下隆之)
もはやハイブリッド国民車とも言える旗艦モデルの座を欲しいままにしたプリウスでも、唯一の死角があった。素のプリウスの販売は好調でも、EV時代を見据えたPHV(プラグイン・ハイブリッド)は、思うような販売に結びつかなかったのだ。
充電機能を付け加えて、さらに経済性と環境性能を高めるというPHVは、航続距離の不安を抱えるEVよりも親しみやすい。それでいて、ハイブリッドよりもEV走行時間が長いから経済的である。近距離移動ではEVとして機能し、ロングドライブではハイブリッドとして生きる。現状では理想のシステムだと思われている。だが、なかなか世間に浸透しなかったのだ。
苦戦の理由は一つではなかっただろう。
PHVという特殊性を備えているのに、ハイブリッドプリウスと姿形がほとんど変わらないことの弊害。特別感の低さ。それでいて価格が高い。質量が増えることで、ハイブリッド燃費も悪化した。動力性能も、操縦性能も劣った。トヨタ流の緻密な市場調査と反省と、そして改善して完成させたのが新型プリウスPHVなのである。
フロントマスクとリアビューの意匠を大幅に変えることで、ハイブリッドプリウスとの差別化を図った。あきらかにPHVだとわかるデザインとしたのである。
その手法はインテリアにも及んでいる。最大のポイントは、11.6インチのナビケーションシステムを、インパネ中央に組み込んだ。いわば、iPadをそのまま設置したかのような画面構成、Tコネクトとして機能させている。
画面は縦長だ。カーナビ移動ではたいがい進行方向は上だ、上下に広いほうが使いがったがいい。頻繁に詳細と拡大を繰り返す必要も少なくなる。そもそもスマホに慣れた我々には心地いいのである。エアコンやオーディオなどの操作もそこに集約した。
驚いたのは、後席がセパレートになっていることだ。センターコンソールが固定されている。そう、つまり4名乗車なのである。大衆車でありファミリーセダンであるプリウスPHVなのに、5名乗車ではなく4人乗りに割り切ったのだ。これが販売にどう影響するか、ちょっと心配のような気もするが、ジャッジは市場がくだすだろう。
決断の理由を開発担当者に聞けば、「プリウスの上級モデルとしての位置付けです。ですから、後席をも落ち着ける空間にしたかったのです」と。そう、プリウスPHVはプリウスファミリーの一員でありながら、ハイブリッドプリウスの上級モデルという立ち位置なのである。ただ経済性だけを高めたモデルではない。先代の苦戦の一つだった、個性の欠如をここで補っている。
さらには、技術的にも進化の度合いが高い。2基のモーターを駆動用に割り当てた。リチウムイオンバッテリーも2倍に増やした。その結果、EV走行距離が飛躍的に高まった。26.4kmだった走行可能距離が2.5倍の68.2kmまで伸びたのである。隣町の往復が限界だったものが、隣の県までの往復に耐えられる。そんなアドバンテージである。
72psと32psのモーターを2基積むことで、動力性能も強化された。これまではちょっと強い加速を求めるとモーターパワーでは補えず、頻繁にエンジンに助けを求めた。だが、モーターパワーが強化されたことで、例えば高速の料金所から100km/hの流れに乗るようなシーンでも、余裕を持ってEV加速する。EVの最高速度は135km/hだというから、高速道路の追い越し車線ですら、涼しい顔してEV走行可能というわけである。
市街地での試乗中、エンジンを稼働させてみようと試みたものの、あきらかに交通の流れを乱すような加速感になり、恥ずかしくもなり何度か断念したほどである。バッテリーさえ残っていれば、ほぼEVで生活できそうだ。試乗時間中のオンボードコンビューターの燃費計は、ついに最後まで「99.9km/リットル」を指したまま終わってしまった。
資料によると電費は10.54km/kwhである。燃費は37.2km/リットル。ハイブリッドプリウスと同様だ。
乗り味も心地よかった。もちろんプラットフォームは新開発のTNGAであり、Wウイッシュボーンサスペンションを組み込んでいる。唯一のネガティブ材料は、けっして軽くないリチウムイオンバッテリーを大量に積み込んでいることだ。質量の点で不利なのだ。
だが、ハイブリッドプリウスがどちらかといえば俊敏な走り味を示すのとは対象的に、しっとりと大人の乗り味なのである。150kgの重量増を逆手にとっているのだ。
思わずニヤッとしたのは、180wの住宅用ソーラー発電機能をオプションで準備していることだ。駐車中に電力が低下することなく、むしろ充電されるのである。天候によるものの、1日に6.1km走れる分の電力を稼ぎ出すという。およそ20日放置しておけば、電源コードをつながずとも満充電になる計算である。
仮にバッテリーが空になり、ガス欠になったとしても、太陽の下に放置しておけばまた復活するのだ。
ガソリンを直接燃やすことのないEV走行とはいえ、充電のための電力供給先は悪名高い原発だったり、火力発電所で化石燃料をたいているわけだ。究極の再生エネルギーPHVでもある。環境悪化ゼロの太陽光発電で生活できるのは心地いいものに違いない。
プリウスPHVは、技術的に大きく進化している。そればかりか、上級グレードらしい味付けがなされている。それで財布に優しく環境性能に優れているのだ。こんどのプリウスPHVは成功すると思う。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
木下隆之| モータージャーナリスト
プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。
(レスポンス 木下隆之)
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
-
-
楽しく学べる「防災ファミリーフェス」を茨城県の全トヨタディーラーが運営する「茨城ワクドキクラブ」が開催
2024.11.21
-
最新ニュース
-
-
日産のフルサイズSUV『アルマーダ』新型、ベース価格は5.6万ドルに据え置き…12月米国発売へ
2024.11.21
-
-
-
軍用ジープが最新モデルで蘇る…ドアなし&オリーブドラブが渋い「ラングラー ウィリス'41」発表
2024.11.21
-
-
-
EV好調のシトロエン『C3』新型、欧州カーオブザイヤー2025最終選考に
2024.11.21
-
-
-
「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
-
-
-
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
-
-
-
日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
-
MORIZO on the Road