【三菱 エクリプスクロス 雪上試乗】いまトレンドのコンパクトSUVだが、性能はホンモノ…齋藤聡

三菱エクリプスクロス
三菱久々の新型車、『エクリプスクロス』。昨年末、プロトタイプの試乗インプレッションを報告したが、今度は雪上試乗をすることができた。

エクリプスクロスは、サイズ的には『RVR』と『アウトランダー』の中間あたりに位置付けされる5人乗りのスタイリッシュなクーペタイプのSUVだ。FFと4WDが用意されるが、今回試乗したのは4WD。

4WD方式は、アウトランダーやRVRと同じく、電子制御カップリング(電子制御多板クラッチ)で後輪へ駆動トルクを伝えるタイプ。これに走る(4WD)、曲がる(AYC)、止まる(ABS&ASC)を統合制御するS-AWCを搭載。

プロトタイプの試乗では、オンロードでの軽快でシャープな操縦性が印象的で、最近流行のコンパクトSUVに共通する乗り易さがあった。その半面、こんなに軽快で本当に4WDとしての走破性や操縦性を備えているのか? という疑問が膨らんできたのも確かなこと。まあ、プロトタイプの試乗会でも45度の急スロープをスルスル登っていく様を見せられ、また同乗体験したことで、ホンモノの4WDの実力を見せつけられ、一応は納得した。また、オンロードでのボディの堅牢さとか、操縦性の良さも実感できたので、相当にポテンシャルは高いぞというのは感じていた。しかし元来疑り深い性格なので、ダートか雪道で走らせて本当にちゃんと走るのか? 性能は良いのか? 試してみたいと思っていた。で、走らせてみた。

すごく良かった!!

…では報告にならないのでもう少し詳しく説明しよう。

オンロードで感じた軽快さというか、クルマの身のこなしの良さが、雪道でもちゃんと発揮されていた、ハンドルを切るとスイッと軽々向きを変え、クルマの重さで軌跡がはらんでいくような鈍さがない。もちろんオーバースピードでコーナーに進入すれば外に膨らむのは当然なんだけど、エクリプスクロスは、だいたい進入スピードが合っていると当たり前のようにすんなり曲がってくれるのだ。

これは実はすごいことなのだ。雪道には、わりとグリップする所もあるが、超滑りやすくなっている所もある。それが混在しているので、慎重に走ってもズズッとクルマは滑る。だから雪道は走りにくと感じるのだ。ところがエクリプスクロスは、微妙な滑りはあるけれど、グリップ感が抜ける不安感が少なく、だいたいこのくらいのスピードなら曲がれるだろうという大雑把な目測で不安を感じさせずスイスイ走れてしまうのだ。

これがS-AWCの威力。冒頭にも書いた「走る・曲がる・止まる」性能を個別にコントロールするのではなくシームレスに統合制御するため、アクセル、ブレーキ、ハンドルを複合操作した時にギクシャクしない。感覚に合った、あたかも自然な動きであるかのような、緻密に制御された動きとなるのだ。

例えばタイトな圧雪路のカーブを曲がるとき、ちょっと無造作にグイッとハンドルを切り出すと、前輪が少し外側に滑ろうとするのだがその瞬間、単純にスピードを落とそうとするのではなく、内輪側にブレーキをかけ、軽くアクセルを踏んでいれば電子制御カップリングで前後の駆動トルク配分を微妙にコントロールしながら、安定性を確保してくれる。

この時のコツは、あまり大きくハンドルを切ったり戻したりせずスムーズにハンドルを切ってやること。S-AWCも機械なので、ハンドル操作でドライバーがどちらに行きたいかを示してやると、クルマがその意を汲んで制御してくれる。ハンドルはその意味でプログレッシブなスイッチでもある。そんな意識を少しだけ持っていると、エクリプスクロスはよりスムーズに動いてくれる。

いろんな走り方を試してみたが、実用的な走り方では、もがかずオーバースピードにだけ注意してやると、雪道ってこんなに走りやすかったの? といいたくなるくらいスイスイ走れるはず。

気になっていた4WDらしさ、スノーロードでのパフォーマンスはどうか。ASC(横滑り防止装置)をオフにしてちょっとアグレッシブに走らせてみた。

興味深かったのは、クルマの動きが思いのほか安定していたこと。ドライ路面で動きのいいクルマの多くは、雪道では安定性が足りないと感じることが多い。じつはボクが懸念していたのはこの部分。オンロードでの身軽さが雪道での不安定さにつながらないだろうか。

S-AWCは凄い、ということなのだろう。アクセルを踏んで車を前に進めたいとき、ちゃんと後輪にしっかり駆動トルクを与え、それまでの軽快な動きが姿を消して、ドシッと安定したトラクション感と加速感が得られるのだ。

フェイントモーションからリヤを派手に振り出し、ドリフト状態でコーナーを立ち上がっても、アクセルを踏み込んでいくと、クルマが横に逃げず、斜め前にグイグイ加速していってくれる。

エクリプスクロスには走行モードが3つ用意されている。オート、グラベル、スノーが選べる。オートはオールマイティ。雪道でもごく普通の走り方をするなら、このモードで十分。ちょっと磨かれた滑りやすい圧雪路や、スキー場への往復などはスノーモードがいい。じつはこのモードが一番雪道(低速)でハンドルが効く。それでいて、クルマが曲がり出すとグッと安定感が出る。やはり雪道で頻繁に遭遇する場面で怖いのは曲がらないこと。そのあたりを考慮した走行モードだ。

グラベルは、全体に4WDの安定感が強く、トラクション重視のモード。ややオーバースピードめにフェイントをかけ、コーナーでドリフト状態に(今回はクローズドコースでの試乗。よい子はまねしないでください)…といった激しい走り方は、このモードが面白い。現実の場面では、ピカピカに磨かれた圧雪路面のスロープとか、深い雪のラッセルなど、4WDの走破性を発揮させたい場面に向く。

ついでながら付け加えておくと、1.5リットルターボエンジンは、こんな雪の走行ステージでも力強く、十分な動力性能を発揮してくれた。特にエンジンの性能で感心したのは、エンジン自体のピックアップの良さと、過給レスポンスの素早さ。そしてターボが低回転域からフワッとトルクを膨らめせてクルマをグイグイ前に進めてくれるところ。高圧縮比の直噴エンジンの良さを生かしたエンジンチューンが施されている。

というわけで、ひと通り試乗を終え改めて感じたのは、「三菱久々の新型車は、渾身の力作だぞ!」ということ。オンロードではいま流行のライトな乗り味を持たせながら、ラフロードや雪道に持ち込むと、三菱のDNAを色濃く感じさせる4WDらしい圧倒的な走破性、トラクション性能、そして優れた操縦性とコントロール性をちゃんと備えている。いまトレンドのコンパクトSUVだが、性能はホンモノというところが良い。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★☆
インテリア/居住性:★★★★☆
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

斎藤聡|モータージャーナリスト
特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。

(レスポンス 斎藤聡)

[提供元:レスポンス]レスポンス