【日産 セレナe-POWER 試乗】ステップワゴンHV に対する優位性は…丸山誠

日産セレナe-POWER
最初に『セレナe-POWER』に試乗したのは、発表前の2月中旬だった。場所は埼玉県・本庄サーキット。ミニバンなのにサーキット試乗とは、と疑問を抱きながら向かった。

サーキットを選んだという疑問は、走り始めてすぐに氷解。e-POWERは、従来のガソリン駆動のセレナと比べると動力性能が格段に向上している。日産はミニバンでもダイナミックに走れることを体感してもらうため、このステージを選んだとすぐに理解した。

走行モードはノーマルとS(スマート)、エコアクセルの3つが用意され、まずSを選んでアクセルを踏み込むといいレスポンスで加速態勢に入る。ガツンと加速する感じではなく、加速度がグィーンと高まるフィールのため乗員に不快感を与えない範囲で鋭い加速を示す。サーキットのストレートからアクセルを戻すと回生ブレーキがかかり、ブレーキを踏まなくてもしっかりした減速感が得られる。この一連の操作感は『ノートe-POWER』によく似ていて、ワンペダルでミニバンのセレナをスポーティに走らせることが可能だ。

サーキットを攻めるような走りになるとさすがにワンペダルの操作では減速が追いつかなくなるが、それでもヘアピンカーブの手前でブレーキを踏むだけでいい。緩いカーブではアクセルを戻すだけで車両姿勢を作ることができるため、ミニバンとは思えないスポーティな走りができる。ヘアピンからの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、簡単にイン側のタイヤが空転するほどトルクが強力だ。

◆重量増を一切感じさせない

モーターはノートや『リーフ』に使われているものと同じだが、ノート用より強化され最大トルクは320Nmと大きい。ノートは254Nmだから66Nmも強力になっている。セレナのガソリン仕様は200Nmだから120Nmもトルクが大きくなったため、スポーティな加速が可能になったわけだ。バッテリーを前席下に搭載するため車両重量は重くなっているが、重量増を一切感じさせない。

クルマの性格も同じセレナでもガソリン車とe-POWERでは大きく異なる。ガソリン仕様車は、アクセル操作に対して明確にパワーの立ち上がりを緩やかにしている。これはアクセルをスイッチ的に操作する人が多いため、意図的にアクセルレスポンスを鈍くしているわけだが、e-POWERはこれとは違いレスポンス重視。ガソリン仕様車はちょっと加速が鈍いと感じることもあったが、e-POWERはペダル操作にリンクした力強い加速感を実現している。

セレナにe-POWERが搭載されるというウワサは以前からあったが、当初ノート用がそのまま転用されるとは思っていなかった。1.2リットルエンジンで発電機を回してモーターでミニバンを駆動すると排気量が足りないと思っていたが、エンジン出力を高めることで発電量を増やして対処している。エンジニアによると、長い上り坂が続くような場面でも電力不足にならないように設計しているという。

◆ノートにも欲しい「マナーモード」と「チャージモード」

セレナe-POWERの特徴は、ノートやリーフと同じワンペダルでほとんどの走行が可能という点。この操作感は今も新鮮で、ボディの基本設計の古いノートが売れているのはワンペダルによる「新しい体験」があるからだ。セレナも同様でe-POWERに一度乗ったらほかのグレードに乗ることはできない。Sとエコモードでの減速度は同じだが、Sは加速が通常でエコは緩加速になっているが、エコを選んでもガソリン車より軽々と走る。ノーマルモードは減速度がガソリン車と同等なためブレーキを踏む必要があるためメリットがないし、ペダルの踏み変えが必要なため渋滞路では疲れやすくなってしまう。

ノートにはないセレナe-POWER独自の制御が、マナーモードとチャージモード。マナーモードはいわゆるEV走行するためのモードだが、e-POWERは常時モーターのみを使って走るためあえてマナーという表現にしている。深夜の帰宅や早朝の出発、キャンプサイトでの車両の移動などエンジン音が気になる場面で、エンジンの発電を停止してバッテリーの電力で走る。

もちろんバッテリー残量が不足すればマナーモードは自動的に解除されてしまうため、バッテリー残量をできるだけ多くキープするチャージモードも設定しているわけだ。例えばキャンプサイトに到着する前にチャージモードでしっかり充電しておけば、場内での移動はマナーモードが使えるためエンジン音がない静かな移動が可能。このマナーモードとチャージモードは、ノートにも採用してもらいたい制御だ。

◆「ステップワゴン」に対する優位性は

ファミリーミニバンということでセカンドシートにも注目したい。従来のセレナはセカンドシートがベンチシートとセパレートシートの2通りに使え、乗車定員は8人だった。スマートマルチセンターシートを後方にセットすることで、セカンドシートを3人がけとして使うことができたが、e-POWERはバッテリーが前席下にあるためスマートマルチセンターシートがなくなってしまった。そのため乗車定員は7人になったが、セカンドシートは横スライドをするためベンチシートや独立したキャプテンシートとしても使うことができる。アームレストを両側に備えるのもe-POWERだけだ。

一般道も走ってみたがe-POWERの静粛性はミドルクラスミニバンのトップクラスだといえる。フロントガラスには遮音中間膜、ダッシュボードには追加の吸音材、ルーフ前側には制振材などを追加してノイズ対策を行っている。そのため市街地をマナーモードで走っていると外部からの音も小さくなっていて、快適性が高くなっていることを実感した。チャージモードで充電してからマナーモードにすると意外に長い距離を走ることができ、平地なら3km程度は走れそうだ。

e-POWERの車両価格はXグレードが約297万円でもっとも安いが、このグレードには例のプロパイロットを付けることができない。装備可能なXVは約313万円だが、プロパイロットを含むセットオプションのセーフティパックBの価格は24万3000円と高く、合計価格は約345万円と意外に高額になる。ホンダ『ステップワゴン』のスパーダハイブリッドBは、ホンダセンシングを装備しながら約330万円と15万円安い。高速燃費はステップワゴンがリードするはずだが、セレナe-POWERは軽快な操縦性がいい。どちらを選ぶか悩むところだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

丸山 誠|モータージャーナリスト/AJAJ会員
自動車専門誌やウェブで新車試乗記事、新車解説記事などを執筆。キャンピングカーやキャンピングトレーラーなどにも詳しい。プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。

(レスポンス 丸山 誠)

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