【レクサス ES 海外試乗】「脱・地味路線」の声高な叫びを感じる…木下隆之
これまでのレクサス『ES』は、日本を除く世界各地で販売されてきており、今年デビューする新型で7代目となる。これまでの総販売台数は218万台に達するというから、レクサスの主力モデルに違いない。
そもそもデビューが1989年だというから、レクサスブランドのアメリカで立ち上げに携わった由緒ある車名なのだ。そのESが、日本市場に投入されずにここまできたことが不思議である。
◆ひと目見て個性が際立つモデルになった
はれて日本に投入されることになった新型ESは、ひと目見て個性が際立つモデルになった。もともとが、個性を抑えた安定感がESの特徴だった。乗ってみればそのしっとりと滲み出るようなる味わいあるのだが、あからさまには目立たない。そんな地味のスタイルだった。だが新型では個性がキラキラと光るのである。
ボディは、ドイツ御三家のライバルより全長で長く、全高は低く、全幅は同等というディメンションである。ライバルとはもちろんメルセデス『Eクラス』であり、BMW『5シリーズ』であり、アウディでいえば『A6』がターゲット。そのライバルよりも伸びやかなスタイリングが与えられている。
スタイリングは、レクサス『LS』との相似形かと想像していたのに、嬉しいように裏切られた。LSというよりも『RC』のエッセンスが感じられる。RCクーペのDNAを持つ4ドアスタイリッシュクーペに見えるのだ。これすなわち、没個性からの脱却の声高な叫びなのだろう。
与えられているエンジンは2.5リットルハイブリッドのみである。アメリカに展開されるV型6気筒3.5リットルモデルの日本導入はない。
ハイブリッドシステムはもはやレクサスの伝家の宝刀であり、熟成され尽くされている。だというのにさらに進化の形跡は残る。圧倒的なパワーを感じることはないが、ハイブリッドの悪癖の一つであるラバーフィールは抑えられている。
擬似的なステップ感も切れ味がいい。マニュアルシフト風の加速感は心地よくもある。
◆FFのネガティブのないESの走り味
特に感心するのはその走り味だ、乗り心地は感動するほど優しい。路面の凹凸を物の見事に吸収する。特に、世界初のスイングバルブを採用したダンバー装着車は、しっとりと湿度感のある乗り心地とハンドリングが与えられているのだ。
ダンパーのピストンスピードが0.002m/secという超低速域でから減衰力が発揮されるという。これはもう、走行車線内で進路を保つようなちょっとした動きでも安定していることでもある。それが効果を発揮しているのは明白だった。
残念なのは、高級感を強調した「ウルトラ・ラグジュアリー」にしかその設定がないことだ。走りを優先した「Fスポーツ」には、減衰力可変が可能なAVSのみの設定である。
というのもそのはずで、Fスポーツは可変ダンパーと組み合わせるのが守りごとだという。乗り心地とスポーツ性能をはっきりと使い分けるには、電子制御の減衰力特性が必要であり、そのためにはスイングバルブシステムは機構的に馴染まない。それぞれのキャラクターに相応しいサスペンションが与えられているのだ。
ともあれ、ESはFFである。だというのに、FFが陥りがちなダルな操縦フィールは皆無であり、その気になってコーナーを攻め立てても、アンダーステアが顔を出すそぶりはなかった。
足回りをいたずらに硬めているわけではない。だが、車体が安定しているのは新開発の「GA-K」プラットフォームが効いているからだと断言できる。
低重心であり、前後重量配分に優れている。フロントエンジンの搭載位置を後退させているばかりか、ニッケル水素バッテリーをリアシート下に積むことで、前後重量バランスをより整えているのだ。FFのネガが顔を出さないのは、潜在的な性能が高いからである。
基本的には僕の好みはアンチFF派である。けれどFFのネガティブのないESの走り味は大いに認めたいと思う。
新型ESは、レクサスの宣言どおり、上質な乗り心地と爽快なスポーツフィールを見事に合体させることに成功している。これからしばらく、レクサスESから目が離せない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
木下隆之| モータージャーナリスト
プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。
(レスポンス 木下隆之)
そもそもデビューが1989年だというから、レクサスブランドのアメリカで立ち上げに携わった由緒ある車名なのだ。そのESが、日本市場に投入されずにここまできたことが不思議である。
◆ひと目見て個性が際立つモデルになった
はれて日本に投入されることになった新型ESは、ひと目見て個性が際立つモデルになった。もともとが、個性を抑えた安定感がESの特徴だった。乗ってみればそのしっとりと滲み出るようなる味わいあるのだが、あからさまには目立たない。そんな地味のスタイルだった。だが新型では個性がキラキラと光るのである。
ボディは、ドイツ御三家のライバルより全長で長く、全高は低く、全幅は同等というディメンションである。ライバルとはもちろんメルセデス『Eクラス』であり、BMW『5シリーズ』であり、アウディでいえば『A6』がターゲット。そのライバルよりも伸びやかなスタイリングが与えられている。
スタイリングは、レクサス『LS』との相似形かと想像していたのに、嬉しいように裏切られた。LSというよりも『RC』のエッセンスが感じられる。RCクーペのDNAを持つ4ドアスタイリッシュクーペに見えるのだ。これすなわち、没個性からの脱却の声高な叫びなのだろう。
与えられているエンジンは2.5リットルハイブリッドのみである。アメリカに展開されるV型6気筒3.5リットルモデルの日本導入はない。
ハイブリッドシステムはもはやレクサスの伝家の宝刀であり、熟成され尽くされている。だというのにさらに進化の形跡は残る。圧倒的なパワーを感じることはないが、ハイブリッドの悪癖の一つであるラバーフィールは抑えられている。
擬似的なステップ感も切れ味がいい。マニュアルシフト風の加速感は心地よくもある。
◆FFのネガティブのないESの走り味
特に感心するのはその走り味だ、乗り心地は感動するほど優しい。路面の凹凸を物の見事に吸収する。特に、世界初のスイングバルブを採用したダンバー装着車は、しっとりと湿度感のある乗り心地とハンドリングが与えられているのだ。
ダンパーのピストンスピードが0.002m/secという超低速域でから減衰力が発揮されるという。これはもう、走行車線内で進路を保つようなちょっとした動きでも安定していることでもある。それが効果を発揮しているのは明白だった。
残念なのは、高級感を強調した「ウルトラ・ラグジュアリー」にしかその設定がないことだ。走りを優先した「Fスポーツ」には、減衰力可変が可能なAVSのみの設定である。
というのもそのはずで、Fスポーツは可変ダンパーと組み合わせるのが守りごとだという。乗り心地とスポーツ性能をはっきりと使い分けるには、電子制御の減衰力特性が必要であり、そのためにはスイングバルブシステムは機構的に馴染まない。それぞれのキャラクターに相応しいサスペンションが与えられているのだ。
ともあれ、ESはFFである。だというのに、FFが陥りがちなダルな操縦フィールは皆無であり、その気になってコーナーを攻め立てても、アンダーステアが顔を出すそぶりはなかった。
足回りをいたずらに硬めているわけではない。だが、車体が安定しているのは新開発の「GA-K」プラットフォームが効いているからだと断言できる。
低重心であり、前後重量配分に優れている。フロントエンジンの搭載位置を後退させているばかりか、ニッケル水素バッテリーをリアシート下に積むことで、前後重量バランスをより整えているのだ。FFのネガが顔を出さないのは、潜在的な性能が高いからである。
基本的には僕の好みはアンチFF派である。けれどFFのネガティブのないESの走り味は大いに認めたいと思う。
新型ESは、レクサスの宣言どおり、上質な乗り心地と爽快なスポーツフィールを見事に合体させることに成功している。これからしばらく、レクサスESから目が離せない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
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パワーソース:★★★
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プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。
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