ホンダ クラリティPHEV が目指したのは「電動プレミアム」…プロトタイプに試乗
ホンダは初の普及モデルとなるプラグインハイブリッド車(PHEV)『クラリティPHEV(CLARITY PHEV)』を7月20日より発売する。これに前後し、プロトタイプに試乗・取材する機会を得た。クラリティPHEVとは一体どのようなクルマなのか、そしてその走りにホンダスピリットはあるのか。モータージャーナリスト片岡英明氏が解説する。
◆「3イン1コンセプト」から生まれたクラリティ
ホンダは2015年秋にFCV(燃料電池車)の『クラリティ・フューエルセル』を発表し、翌2016年3月にリースを開催した。コンパクトで高効率のFCパワートレーン(燃料電池)をボンネットの中に収め、リアアクスルの上に水素ボンベを配置することによって5名乗車を可能にしている。
クラリティ・フューエルセルは、優れた環境性能に加え、ガソリンエンジン搭載車並みに航続距離が長く、水素充填にかかる時間も短いなど、魅力的な燃料電池車だ。だが、リース販売だけで一般のユーザーに向けての販売は行っていない。
が、「3イン1コンセプト」から生まれたクラリティは、フューエルセルのほかにも電動パワートレーンを持つ兄弟車が用意されていたのである。
2017年4月、ホンダはニューヨークモーターショーで『クラリティEV』と『クラリティPHEV』を世界初公開した。そして10月に開催された東京モーターショーにクラリティPHEVを参考出品し、2018年に市販すると公表している。ホンダは2030年までに新車販売の3分の2を電動化する目標を打ち出した。その最初のステップにおいて、主役として送り出されるのがクラリティだ。
◆次世代ホンダを担うパワートレイン
ホンダは、持続可能な社会の実現に向けて、早い時期からハイブリッドや電動化技術の研究と開発に取り組んできた。これから先の10年ほどはプラグインハイブリッドシステムをコア技術ととらえ、積極的にPHEVを市場に送り込む。その試金石となるのが8月に発売するクラリティPHEVだ。高効率のエンジンに電気モーターを組み合わせ、充電することによってEV走行の領域と航続距離を延ばしてCO2排出量を大幅に抑える。
ハイブリッドシステムのベースとなっているのは、ホンダとしては第2世代となる2モーターハイブリッドシステムの「スポーツハイブリッドi-MMD」だ。このバッテリーを高出力化するとともに高容積化を図った。『アコード』と『オデッセイ』のハイブリッドシステムは2.0リットルの直列4気筒エンジンを積んでいる。これに対しクラリティPHEVが搭載するのは、『フィット』が使っている1.5リットルの直列4気筒DOHCを進化させたアトキンソンサイクルエンジンだ。最大熱効率は40.5%と優秀である。
ダウンサイジングを可能にしたのは、電池の電圧を昇圧するDC-DCコンバーターの出力密度を高めたことが大きい。昇圧回路を2相にするインターリーブ方式を採用し、コンバーターに流す電流を増やしている。また、磁束の漏れを抑えるアイデアも盛り込んだ。リチウムイオン電池の容量アップに加え、出力も650Vまで高めた。これらの改良と進化によってモーター走行できる領域を増やし、エンジンにかかる負担を減らしている。
今までにない「電動プレミアム」を目指したクラリティPHEVは、シームレスで痛快な加速フィールがセールスポイントのひとつだ。EV走行距離はJC08モードで114.6km、WLTCモードでもフル充電で101kmの距離を達成している。JC08モード燃費は28.0km/リットルと、素晴らしい数値だ。駆動モーターの最高出力は184ps(135kW)、最大トルクは32.0kg-m(315Nm)と発表されている。トータルのシステム出力は158kW(215ps)だからアコードよりはるかにパワフルだ。
エンジンの上部にパワーコントロールユニットを、床下に大型のインテリジェントパワーユニットを収め、リチウムイオン電池セルは168セル、14モジュールとした。前席と後席の下、2か所に分けて搭載している。トータルのバッテリー容量は17kwhだ。アコードPHEVと比べ、EV走行で使用する容量は4倍、出力は1.4倍まで高めている。性能を大幅に高め、薄型としたため、IPUの冷却方式を水冷に変更した。これも特徴だ。
また、パワーコントロールユニットは高出力化に対応して制御回路を変更し、アコードPHEVより出力を3.3倍に増やしている。最高速度の160km/hまで、モーターによるEV走行が可能になったのは、大きな進化だ。走行用と発電用、2つのモーターは、8NM/11kWの高出力化を図るともに23%もの小型軽量化を実現した。
◆新感覚のプレミアムカー
クラリティPHEVは、マルチモードドライブオペレーションを採用し、EVドライブモード、ハイブリッドドライブモード、エンジンドライブモードという3つのモードを運転状況に応じてシームレスに、自動的に切り替える。正式発表に先駆けて、クローズドサーキットでクラリティPHEVのプロトタイプに乗ることができた。
走り出した直後から、EV走行路のパワー感とトルク感が大きく向上していることが分かる。アクセルを踏み込むと間髪を入れず力強い加速を見せつけた。モーターによるEVの稼働領域は驚くほど広くなっている。アクセルをドーンと踏みつけてもモーターだけで走り続けた。これは驚きだ。無理なく100km/hでEV走行できる。とくにECONモードではエンジンの始動を抑え、快適だった。
遮音対策も徹底しているから、走行中でもキャビンは群を抜いて静かだ。EV走行からエンジン走行に移るときも自然で、ボリュームの上昇もわずかだから違和感がない。
フューエルセルに最適な専用設計のプラットフォームは、剛性が驚くほど高い。ストラットとマルチリンクのサスペンションも路面の凹凸に合わせてしなやかに動く。だから乗り心地も上質だ。パワーステアリングは軽く操舵でき、狙ったラインに乗せやすいし、コントロール性も優れている。重心が低く、重量バランスも優れているから一体感のある走りを楽しむことができた。揺れの収まりも速やかだ。
モーター走行ならではのシームレスで圧倒的な加速感は、他のクルマにはない大きな魅力である。クラリティPHEVは、低重心を生かした気持ちいい走りを披露した。スムース、そしてフラットな乗り味など、未体験の走る喜びを味わえる、新感覚のプレミアムカーと言えるだろう。
片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
(レスポンス 片岡英明)
◆「3イン1コンセプト」から生まれたクラリティ
ホンダは2015年秋にFCV(燃料電池車)の『クラリティ・フューエルセル』を発表し、翌2016年3月にリースを開催した。コンパクトで高効率のFCパワートレーン(燃料電池)をボンネットの中に収め、リアアクスルの上に水素ボンベを配置することによって5名乗車を可能にしている。
クラリティ・フューエルセルは、優れた環境性能に加え、ガソリンエンジン搭載車並みに航続距離が長く、水素充填にかかる時間も短いなど、魅力的な燃料電池車だ。だが、リース販売だけで一般のユーザーに向けての販売は行っていない。
が、「3イン1コンセプト」から生まれたクラリティは、フューエルセルのほかにも電動パワートレーンを持つ兄弟車が用意されていたのである。
2017年4月、ホンダはニューヨークモーターショーで『クラリティEV』と『クラリティPHEV』を世界初公開した。そして10月に開催された東京モーターショーにクラリティPHEVを参考出品し、2018年に市販すると公表している。ホンダは2030年までに新車販売の3分の2を電動化する目標を打ち出した。その最初のステップにおいて、主役として送り出されるのがクラリティだ。
◆次世代ホンダを担うパワートレイン
ホンダは、持続可能な社会の実現に向けて、早い時期からハイブリッドや電動化技術の研究と開発に取り組んできた。これから先の10年ほどはプラグインハイブリッドシステムをコア技術ととらえ、積極的にPHEVを市場に送り込む。その試金石となるのが8月に発売するクラリティPHEVだ。高効率のエンジンに電気モーターを組み合わせ、充電することによってEV走行の領域と航続距離を延ばしてCO2排出量を大幅に抑える。
ハイブリッドシステムのベースとなっているのは、ホンダとしては第2世代となる2モーターハイブリッドシステムの「スポーツハイブリッドi-MMD」だ。このバッテリーを高出力化するとともに高容積化を図った。『アコード』と『オデッセイ』のハイブリッドシステムは2.0リットルの直列4気筒エンジンを積んでいる。これに対しクラリティPHEVが搭載するのは、『フィット』が使っている1.5リットルの直列4気筒DOHCを進化させたアトキンソンサイクルエンジンだ。最大熱効率は40.5%と優秀である。
ダウンサイジングを可能にしたのは、電池の電圧を昇圧するDC-DCコンバーターの出力密度を高めたことが大きい。昇圧回路を2相にするインターリーブ方式を採用し、コンバーターに流す電流を増やしている。また、磁束の漏れを抑えるアイデアも盛り込んだ。リチウムイオン電池の容量アップに加え、出力も650Vまで高めた。これらの改良と進化によってモーター走行できる領域を増やし、エンジンにかかる負担を減らしている。
今までにない「電動プレミアム」を目指したクラリティPHEVは、シームレスで痛快な加速フィールがセールスポイントのひとつだ。EV走行距離はJC08モードで114.6km、WLTCモードでもフル充電で101kmの距離を達成している。JC08モード燃費は28.0km/リットルと、素晴らしい数値だ。駆動モーターの最高出力は184ps(135kW)、最大トルクは32.0kg-m(315Nm)と発表されている。トータルのシステム出力は158kW(215ps)だからアコードよりはるかにパワフルだ。
エンジンの上部にパワーコントロールユニットを、床下に大型のインテリジェントパワーユニットを収め、リチウムイオン電池セルは168セル、14モジュールとした。前席と後席の下、2か所に分けて搭載している。トータルのバッテリー容量は17kwhだ。アコードPHEVと比べ、EV走行で使用する容量は4倍、出力は1.4倍まで高めている。性能を大幅に高め、薄型としたため、IPUの冷却方式を水冷に変更した。これも特徴だ。
また、パワーコントロールユニットは高出力化に対応して制御回路を変更し、アコードPHEVより出力を3.3倍に増やしている。最高速度の160km/hまで、モーターによるEV走行が可能になったのは、大きな進化だ。走行用と発電用、2つのモーターは、8NM/11kWの高出力化を図るともに23%もの小型軽量化を実現した。
◆新感覚のプレミアムカー
クラリティPHEVは、マルチモードドライブオペレーションを採用し、EVドライブモード、ハイブリッドドライブモード、エンジンドライブモードという3つのモードを運転状況に応じてシームレスに、自動的に切り替える。正式発表に先駆けて、クローズドサーキットでクラリティPHEVのプロトタイプに乗ることができた。
走り出した直後から、EV走行路のパワー感とトルク感が大きく向上していることが分かる。アクセルを踏み込むと間髪を入れず力強い加速を見せつけた。モーターによるEVの稼働領域は驚くほど広くなっている。アクセルをドーンと踏みつけてもモーターだけで走り続けた。これは驚きだ。無理なく100km/hでEV走行できる。とくにECONモードではエンジンの始動を抑え、快適だった。
遮音対策も徹底しているから、走行中でもキャビンは群を抜いて静かだ。EV走行からエンジン走行に移るときも自然で、ボリュームの上昇もわずかだから違和感がない。
フューエルセルに最適な専用設計のプラットフォームは、剛性が驚くほど高い。ストラットとマルチリンクのサスペンションも路面の凹凸に合わせてしなやかに動く。だから乗り心地も上質だ。パワーステアリングは軽く操舵でき、狙ったラインに乗せやすいし、コントロール性も優れている。重心が低く、重量バランスも優れているから一体感のある走りを楽しむことができた。揺れの収まりも速やかだ。
モーター走行ならではのシームレスで圧倒的な加速感は、他のクルマにはない大きな魅力である。クラリティPHEVは、低重心を生かした気持ちいい走りを披露した。スムース、そしてフラットな乗り味など、未体験の走る喜びを味わえる、新感覚のプレミアムカーと言えるだろう。
片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
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