【日産 ノートe-POWER ニスモS 試乗】これ、はっきり言って相当面白いです…中村孝仁

日産 ノートe-POWER ニスモS
◆ニスモとは全く違う「ニスモS」

ホットハッチなる言葉が最近トンと聞かれなくなった。80年代はもう今から30年以上昔の話だが、その当時はホットハッチが大流行りで、スポーツカーには手が出ないけど、性能の良いクルマに乗りたい。そんな若者がこぞってこれを買った。

最近ホットハッチが存在しないわけではない。代表選手は今でもVW『ゴルフGTI』だと思う。しかし、その価格はおよそ400万円。乗り出しを考えるとほぼ500万円だ。プジョー『308GTi by Peugeot sport』だとほぼ450万円。ルノー『メガーヌR.S.』も似たようなもので、この種のホットハッチを買おうとすると非常にお高い。

『ノート』はBセグメントだから、そこでライバルを探してみると、例えばスズキ『スイフトスポーツ』だったリ、マツダ『デミオMB』、ホンダ『フィットRS』、トヨタ『ヴィッツGR』等々、探せばいっぱいあるのだが、正直なところどうも皆ピンと来ない。ひとつは、どれをとっても乗ってあまり痛快、というイメージがなくて、パンチが効いていないというか、どうもそれほど大きな印象が残らないのである。

ノートにはすでにニスモ仕様が存在しているが、それとて同じ。ノートの場合、基本的に性能アップは果たしておらず、骨格のチューニングとエアロなどの付加に留めているから、なおさらホットハッチという印象がなかった。そこへ行くと今度のニスモSは違う。

これ、従来のノートe-POWERと違って、その動力源そのものを、さらに強力な『セレナe-POWER』から移植して使っている。それに制御系も変えて、新たにBレンジを設定し、発電量を強化しているそうで、アクセルに対する反応もだいぶ異なるフィールを持つ。そもそもパワー、トルク共に向上し、特に最大トルクは320Nmに引き上げられている。これ、日産のガソリンエンジン車だと、3.5リットルV6を搭載する『エルグランド』に迫る数値だから、これが如何に強力な性能を秘めているか、わかってもらえると思う。

◆コストパフォーマンスが高い、本格ホットハッチ


横浜の日産本社から借り出して、事前に受けたレクチャー通り、通常のDレンジでSモードを使用した時のフィーリングと、BレンジのSモードとを乗り比べてみた。Dレンジでも十分に速いのだが、これがBレンジに入るとさらに一段加速力が高まる。元々モーターの特性は発進直後にすでに最大トルクに到達しているから、出足の強烈さはそりゃあもう見事なもの。思わず、一人ドライブなのに声を出して「すげぇじゃん!これ」と叫んでしまったほどだ。

シートはレカロである。このシート、確かにサイドサポートは抜群で、飛ばすには向いているが、リラックスして走る時は少々硬いし、居心地は良くない。それに、元々乗り心地もかなり引き締まっているから、長距離では少々尻が痛くなる。ただ、車両の乗り心地に関してのみ言えば、締めあげている割には突き上げ感もなく、高速ではフラット感が強くなって非常に好ましい。

実はEcoモードでもBレンジを使ってみたのだが、こちらは何故かもっさりした加速力となって、同じEcoモードでもDレンジのEcoモードよりも顕著に遅い。充電には向いているのかもしれないが、あまり使いたくないモードであった。

ガソリンエンジンを発電機に限定して使うシリーズハイブリッド、これが出た時にはあれやこれや批判が多かったが、発売して2年。今や常勝モデルだったトヨタ『プリウス』やトヨタ『アクア』を押しのけて、堂々ベストセラーカーの座を射止めるまでに登りつめている。結局のところ、日本の技術者はどうもエンジニアリング・オリエンテッドな商品を作りがちだが、ユーザーが求めるものは、実はそこにはないかもしれない、というのが、この決して新しい技術ではないシリーズハイブリッドを搭載したノートが一番売れている現状を見れば明らか。

ニスモSのパフォーマンスを持ってすれば、財布の軽いユーザーにお安く提供できる本格的ホットハッチとしてその資格十分である。因みに本体価格は267万1920円。レカロシートが付くと294万1920円。正直なところ、レカロは背もたれ調整がダイヤル式で面倒だし、高さ調整もつかないし、リラックスできないから個人的には不要で、素のモデルで十分だと感じた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来40年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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