【VW ポロ TSI R-LIne 新型試乗】VWファミリーの弟分、ポロはどこへ向かうのか…河西啓介
◆グレードの谷間を埋める新開発1.5リットルエンジン
フォルクスワーゲンのポロに新開発の1.5リットル4気筒エンジンを積んだ新グレード「TSI R-Line」が追加された。これまでメインのパワーユニットだった1リットル3気筒エンジンと、「GTI」に積まれる2リットル4気筒エンジンの間にスポッとはまる排気量だ。
ポロといえば、個人的に思い出すことがある。10年ほど前、父親からクルマ選びの相談を受けたときのことだ。
当時70代だった父にとって、おそらく人生最後の愛車となるだろうクルマだった。その相談を受けたとき、僕のアタマに浮かんだのがポロだったのだ。
父は若い頃、車検の度に新車に買い換えるぐらいのクルマ好きだった。だが、ずっと国産車を乗り継いできたため、いちども“ガイシャ”には乗ったことがなかった。だから、一度は輸入車に乗ってみてもいいんじゃないか。僕はそう思い、ポロを勧めようと考えた。
カチッとした堅牢なボディ、必要なパワーを過不足なく紡ぎ出す実直なエンジン、たっぷりとした、かけ心地のいいシート。ドイツ車らしさが凝縮されたポロは、国産車とはひと味違った「いいクルマ」に乗っているという実感を与えてくれるだろう。もちろん安全性の高さという点でも文句がない。
何よりいいと思ったのはそのボディサイズだ。ゴルフよりひと回り小さく、4mに収まる全長は、高齢な父でも取り回しがラクなはずだ。室内は夫婦二人で乗るには十分な広さだし、いざ誰かを後席に乗せるときにも、それほど窮屈な思いをさせずに済むだろう。
だが、僕が仕事の忙しさなどを理由にモタモタしているうち、父は結局、馴染みのディーラーの営業に勧められた国産のコンパクトカーを買った。それはそれで悪くない選択だったけれど、僕の中にはちょっとした後悔が残った。
結局、そのクルマは父の最後の愛車となり、数年後、父は自分の決断で運転免許を返納した。
◆「ドライビングプロファイル」で変化するキャラクター
昨年、日本に導入された新型ポロは、先代モデルから大きな進化を遂げて登場した。プラットフォームはVWが肝入りで開発した、ゴルフやパサートと共通の「MQB」を採用。ボディサイズはひと回り大きくなり、デザインはエッジの効いたシャープなものになった。
VWファミリーの“弟分”的なキャラクターだったポロは、走りや装備も含め、まさにゴルフに迫るようなプレミアム・コンパクトに生まれ変わったのだ。
その新型ポロに今回追加された「R-Line」は、前述した新開発の1.5リットル直4ターボユニット「1.5TSI Evo」を積み、GTIと同等の充実した装備とスポーティな外装が与えられた、ラインナップ中最も“デラックス”なモデルだ。
エンジンは最高出力150ps、最大トルク250Nmを発揮する。状況に応じて2気筒を停止させて燃費を稼ぐ「気筒休止機能」を備え、走りと燃費の向上を目指した。トランスミッションはデュアルクラッチ式の7段DSGを組み合わせる。
走らせると、エンジンの回転はとても滑らかで、低回転域から力強く速度を上げていく。乗り心地はちょっと固いかな、と思ったが、「ドライビングプロファイル」機能で走行モードを切り替えれば、かなり変わることがわかった。
シフトレバー横のスイッチで「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」の各モードを選ぶと、それぞれのモードによってステアリングの重さ、エンジン特性、ギアボックスの制御プログラム、サスペンションの固さなどが統合的に変更される。
◆目指すのは現代の“小さな高級車”
今回は街中6割、ワインディング2割、高速2割という感じの試乗だったが、街中とワインディングでは「スポーツ」、高速では「エコ」と「コンフォート」を選んで走った。「スポーツ」では乗り心地がかなり固めになるので、街中では「コンフォート」を選ぶ場面もあったが、このモードでは常に高めのギアを選択して走るため、スタートや加速時にちょっともどかしさを感じることがあった。
いっぽうワインディングでは想像以上に俊敏な走りを見せた。コーナリング性能を高める電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」やスポーツサスペンション、扁平率の高い17インチタイヤなど、足まわりはほぼポロGTIと同等だ。パドルシフトを駆使しながらのドライビングはとても痛快だった。
前述したように、新型ポロは先代よりサイズアップし、品質感や装備もぐんと向上した。その最上級グレードとなるこの「R-Line」(GTIは別モデルと考えて)は、もはやボディサイズ以外は、兄貴分のゴルフに追いついたと言っても過言ではないだろう。
だが、それはVWのラインナップにおける矛盾にも感じられた。ゴルフもかくやというスペックを持つこのR-Lineを運転しながら、「ポロはいったいどこを目指すのか?」と考えていたのも事実だった。
そして試乗を終えたとき、僕はふと父の車選びのことを思い出していた。なるほど、ゴルフより「ちょっと、小さい」ということが、依然ポロの価値なのだな、と。父のような高齢者に、免許を取って間もない若者に、運転にあまり自信のない女性に。そんな人にとってポロのサイズはまさに“ちょうどいい”のではないか。
かつてヴァンデンプラ『プリンセス』やルノー『サンク・バカラ』といった、“小さな高級車”と言われるクルマがあったように、コンパクトなサイズの中に安全性、快適さ、スポーティな走りを詰め込んだポロは、現代における小さなプレミアムカー像を体現しようとしている。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
河西啓介 編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティー、テレビコメンテーターなどとしても活動する。
(レスポンス 河西啓介)
フォルクスワーゲンのポロに新開発の1.5リットル4気筒エンジンを積んだ新グレード「TSI R-Line」が追加された。これまでメインのパワーユニットだった1リットル3気筒エンジンと、「GTI」に積まれる2リットル4気筒エンジンの間にスポッとはまる排気量だ。
ポロといえば、個人的に思い出すことがある。10年ほど前、父親からクルマ選びの相談を受けたときのことだ。
当時70代だった父にとって、おそらく人生最後の愛車となるだろうクルマだった。その相談を受けたとき、僕のアタマに浮かんだのがポロだったのだ。
父は若い頃、車検の度に新車に買い換えるぐらいのクルマ好きだった。だが、ずっと国産車を乗り継いできたため、いちども“ガイシャ”には乗ったことがなかった。だから、一度は輸入車に乗ってみてもいいんじゃないか。僕はそう思い、ポロを勧めようと考えた。
カチッとした堅牢なボディ、必要なパワーを過不足なく紡ぎ出す実直なエンジン、たっぷりとした、かけ心地のいいシート。ドイツ車らしさが凝縮されたポロは、国産車とはひと味違った「いいクルマ」に乗っているという実感を与えてくれるだろう。もちろん安全性の高さという点でも文句がない。
何よりいいと思ったのはそのボディサイズだ。ゴルフよりひと回り小さく、4mに収まる全長は、高齢な父でも取り回しがラクなはずだ。室内は夫婦二人で乗るには十分な広さだし、いざ誰かを後席に乗せるときにも、それほど窮屈な思いをさせずに済むだろう。
だが、僕が仕事の忙しさなどを理由にモタモタしているうち、父は結局、馴染みのディーラーの営業に勧められた国産のコンパクトカーを買った。それはそれで悪くない選択だったけれど、僕の中にはちょっとした後悔が残った。
結局、そのクルマは父の最後の愛車となり、数年後、父は自分の決断で運転免許を返納した。
◆「ドライビングプロファイル」で変化するキャラクター
昨年、日本に導入された新型ポロは、先代モデルから大きな進化を遂げて登場した。プラットフォームはVWが肝入りで開発した、ゴルフやパサートと共通の「MQB」を採用。ボディサイズはひと回り大きくなり、デザインはエッジの効いたシャープなものになった。
VWファミリーの“弟分”的なキャラクターだったポロは、走りや装備も含め、まさにゴルフに迫るようなプレミアム・コンパクトに生まれ変わったのだ。
その新型ポロに今回追加された「R-Line」は、前述した新開発の1.5リットル直4ターボユニット「1.5TSI Evo」を積み、GTIと同等の充実した装備とスポーティな外装が与えられた、ラインナップ中最も“デラックス”なモデルだ。
エンジンは最高出力150ps、最大トルク250Nmを発揮する。状況に応じて2気筒を停止させて燃費を稼ぐ「気筒休止機能」を備え、走りと燃費の向上を目指した。トランスミッションはデュアルクラッチ式の7段DSGを組み合わせる。
走らせると、エンジンの回転はとても滑らかで、低回転域から力強く速度を上げていく。乗り心地はちょっと固いかな、と思ったが、「ドライビングプロファイル」機能で走行モードを切り替えれば、かなり変わることがわかった。
シフトレバー横のスイッチで「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」の各モードを選ぶと、それぞれのモードによってステアリングの重さ、エンジン特性、ギアボックスの制御プログラム、サスペンションの固さなどが統合的に変更される。
◆目指すのは現代の“小さな高級車”
今回は街中6割、ワインディング2割、高速2割という感じの試乗だったが、街中とワインディングでは「スポーツ」、高速では「エコ」と「コンフォート」を選んで走った。「スポーツ」では乗り心地がかなり固めになるので、街中では「コンフォート」を選ぶ場面もあったが、このモードでは常に高めのギアを選択して走るため、スタートや加速時にちょっともどかしさを感じることがあった。
いっぽうワインディングでは想像以上に俊敏な走りを見せた。コーナリング性能を高める電子制御式ディファレンシャルロック「XDS」やスポーツサスペンション、扁平率の高い17インチタイヤなど、足まわりはほぼポロGTIと同等だ。パドルシフトを駆使しながらのドライビングはとても痛快だった。
前述したように、新型ポロは先代よりサイズアップし、品質感や装備もぐんと向上した。その最上級グレードとなるこの「R-Line」(GTIは別モデルと考えて)は、もはやボディサイズ以外は、兄貴分のゴルフに追いついたと言っても過言ではないだろう。
だが、それはVWのラインナップにおける矛盾にも感じられた。ゴルフもかくやというスペックを持つこのR-Lineを運転しながら、「ポロはいったいどこを目指すのか?」と考えていたのも事実だった。
そして試乗を終えたとき、僕はふと父の車選びのことを思い出していた。なるほど、ゴルフより「ちょっと、小さい」ということが、依然ポロの価値なのだな、と。父のような高齢者に、免許を取って間もない若者に、運転にあまり自信のない女性に。そんな人にとってポロのサイズはまさに“ちょうどいい”のではないか。
かつてヴァンデンプラ『プリンセス』やルノー『サンク・バカラ』といった、“小さな高級車”と言われるクルマがあったように、コンパクトなサイズの中に安全性、快適さ、スポーティな走りを詰め込んだポロは、現代における小さなプレミアムカー像を体現しようとしている。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
河西啓介 編集者/モータージャーナリスト
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(レスポンス 河西啓介)
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