三菱 デリカD:5 新型は、歴代で最も濃厚なオフロードDNAの持ち主だった
◆新型がめざした上質感、都会的…オフロード性能は捨ててしまったのか?
新型『デリカD:5』を雪上で試乗した。2007年のデビューだから、すでに12年が経過しているD:5。フルモデルチェンジのうわさもあったが、昨年(2018年)暮れにビッグチェンジが行われ、大幅な性能の見直しが行われた。その性能アップのほどはオンロードでも十分に感じられたが、今回はステージを変え、恒例となった北海道での三菱雪上試乗会の特設ステージで、その性能を改めて体験することができた。
気になったのは三菱からアナウンスされる上質感とか都会的、フォーマルといったキーワード。それって、もしかしたら歴代デリカが培ってきたオフロード性能を捨ててしまったのか?とも受け取れるからだ。最低地上高が210mmから185mmになったり、アプローチアングルが24度から21度に小さくなったりという数字を見ると余計に心配になってくる。が、基本形というかベースにアウトドアとか4×4の走破性があり、そのうえでということのよう。
逆に改めて性能を確認してみたいと感じたのは、ボディフロントセクションの大幅な手直しによる剛性アップの恩恵やリヤサスペンションのダンパーのピストン径アップ。それからエンジンの大幅な改良と8速ATの導入。4WD制御の改良などなど。
変更点が多すぎて、全部チェックできるのか不安になるほどだったが、いざ走らせてみれば結論は単純。「走りの性能を磨き込んだ」という一点に集約されていた。
◆改良エンジンと8速ATの応答性が雪上走行に効いている
具体的には、まず感心したのがエンジンだった。エンジンのフリクションを減らし応答性をよくしたということだが、これが雪上で想像以上に具合がいい。雪道は滑りやすく、凹凸路、上り坂下り坂は出来るだけ繊細なアクセル操作をしたい。それが見事にできるのだ。
アクセルの操作量は、マイナーチェンジ(MC)前のD:5の半分以下で済む。例えばきつい上り坂(圧雪路)で発進するとき、ほんの少しのアクセル操作に素早く適切に(正確に)エンジンが応答してくれるため、アクセルの踏み過ぎがない。当然駆動トルクは必要最初減だけ発揮されるのでホイールスピンすることなくスルスルと坂を上ってくれる。
もちろんこれはエンジンだけの性能ではなく、大幅に改良されたフロントフレーム周りの剛性がサスペンションを機能的に機能させて優れたトラクション性能を発揮してくれるからだし、8速ATになって実質的な低速ギヤのギヤ比が低くなったことも大きく関係している。
しかもより過酷な深雪やモーグル路面(対角のタイヤが浮いて駆動トルクがかからなくなってしまう路面)などオフロードコースさながらの路面も用意されていたが、D:5はそんな場面も苦も無く走破して見せた。
しかも4WDモードはオートのままでOK。トラクションコントロールは制御量や制御範囲を見直し、例えば深雪でタイヤがばらばらに空転してしまうような場面ではブレーキ制御量を増やしてより少ないアクセル量で走破できるようにしている。ドライバーは過酷な路面を走っていると感じないまま、結構な荒れ地を走り切れてしまう。
これはきつい上り坂も同様で、タイヤの空転の少なさはトラクションコントロールの制御の巧みさも理由の一つになっている。
◆歴代で最もオフロードDNAを色濃く受け継いだ
さらに言えば、右左と曲がる旋回時の制御もヨーレートフィードバック制御を取り入れ4WDカップリングのトルク伝達量を変えることで、アンダーステア、オーバーステアを上手に抑え込んでいる。
デリカD:5の4WDシステムは、リヤデフ直前にカップリングユニットと呼ばれる多板クラッチを配置した比較的単純なシステムだが、前後駆動配分のうち後輪への駆動配分を最大60%(=前後40対60)にし、かつ電子制御を駆使することで、ちょっとびっくりするくらい自由自在な4WD制御をしてみせるのだ。
結果的に、ドライバーは過酷な路面状況でもさほど苦労して走っている感覚を持たずにすいすい走れてしまう。ドカ雪が降って除雪が間に合わず、走るのに難渋するような積雪路でも、ピカピカに磨かれてしまった圧雪の上り坂でも、ここは4×4じゃないと無理と思えるようなきつい上り坂でも、デリカは走り切ってしまう能力を備えているのだ。
今回の試乗コースには、MC前のD:5も用意されており、そのクルマで走るとちょっとしたアドベンチャー気分を味わえた場面が、新型D:5だとあっさり走り切れてしまう。そのくらい新型D:5のオフロード性能は高く、MC前と比べて数段のレベルアップを果たしているのだ。
デザイン的にはタフな印象が薄れいろんな意味でどうなんだろう?と思えた新型だが、その中身は歴代デリカシリーズの中で最もオフロードDNAを色濃く受け継いだクルマに仕上がっている。やっぱりD:5は他のミニバンとは異質なクルマであった。
斎藤聡|モータージャーナリスト
特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。
(レスポンス 斎藤聡)
新型『デリカD:5』を雪上で試乗した。2007年のデビューだから、すでに12年が経過しているD:5。フルモデルチェンジのうわさもあったが、昨年(2018年)暮れにビッグチェンジが行われ、大幅な性能の見直しが行われた。その性能アップのほどはオンロードでも十分に感じられたが、今回はステージを変え、恒例となった北海道での三菱雪上試乗会の特設ステージで、その性能を改めて体験することができた。
気になったのは三菱からアナウンスされる上質感とか都会的、フォーマルといったキーワード。それって、もしかしたら歴代デリカが培ってきたオフロード性能を捨ててしまったのか?とも受け取れるからだ。最低地上高が210mmから185mmになったり、アプローチアングルが24度から21度に小さくなったりという数字を見ると余計に心配になってくる。が、基本形というかベースにアウトドアとか4×4の走破性があり、そのうえでということのよう。
逆に改めて性能を確認してみたいと感じたのは、ボディフロントセクションの大幅な手直しによる剛性アップの恩恵やリヤサスペンションのダンパーのピストン径アップ。それからエンジンの大幅な改良と8速ATの導入。4WD制御の改良などなど。
変更点が多すぎて、全部チェックできるのか不安になるほどだったが、いざ走らせてみれば結論は単純。「走りの性能を磨き込んだ」という一点に集約されていた。
◆改良エンジンと8速ATの応答性が雪上走行に効いている
具体的には、まず感心したのがエンジンだった。エンジンのフリクションを減らし応答性をよくしたということだが、これが雪上で想像以上に具合がいい。雪道は滑りやすく、凹凸路、上り坂下り坂は出来るだけ繊細なアクセル操作をしたい。それが見事にできるのだ。
アクセルの操作量は、マイナーチェンジ(MC)前のD:5の半分以下で済む。例えばきつい上り坂(圧雪路)で発進するとき、ほんの少しのアクセル操作に素早く適切に(正確に)エンジンが応答してくれるため、アクセルの踏み過ぎがない。当然駆動トルクは必要最初減だけ発揮されるのでホイールスピンすることなくスルスルと坂を上ってくれる。
もちろんこれはエンジンだけの性能ではなく、大幅に改良されたフロントフレーム周りの剛性がサスペンションを機能的に機能させて優れたトラクション性能を発揮してくれるからだし、8速ATになって実質的な低速ギヤのギヤ比が低くなったことも大きく関係している。
しかもより過酷な深雪やモーグル路面(対角のタイヤが浮いて駆動トルクがかからなくなってしまう路面)などオフロードコースさながらの路面も用意されていたが、D:5はそんな場面も苦も無く走破して見せた。
しかも4WDモードはオートのままでOK。トラクションコントロールは制御量や制御範囲を見直し、例えば深雪でタイヤがばらばらに空転してしまうような場面ではブレーキ制御量を増やしてより少ないアクセル量で走破できるようにしている。ドライバーは過酷な路面を走っていると感じないまま、結構な荒れ地を走り切れてしまう。
これはきつい上り坂も同様で、タイヤの空転の少なさはトラクションコントロールの制御の巧みさも理由の一つになっている。
◆歴代で最もオフロードDNAを色濃く受け継いだ
さらに言えば、右左と曲がる旋回時の制御もヨーレートフィードバック制御を取り入れ4WDカップリングのトルク伝達量を変えることで、アンダーステア、オーバーステアを上手に抑え込んでいる。
デリカD:5の4WDシステムは、リヤデフ直前にカップリングユニットと呼ばれる多板クラッチを配置した比較的単純なシステムだが、前後駆動配分のうち後輪への駆動配分を最大60%(=前後40対60)にし、かつ電子制御を駆使することで、ちょっとびっくりするくらい自由自在な4WD制御をしてみせるのだ。
結果的に、ドライバーは過酷な路面状況でもさほど苦労して走っている感覚を持たずにすいすい走れてしまう。ドカ雪が降って除雪が間に合わず、走るのに難渋するような積雪路でも、ピカピカに磨かれてしまった圧雪の上り坂でも、ここは4×4じゃないと無理と思えるようなきつい上り坂でも、デリカは走り切ってしまう能力を備えているのだ。
今回の試乗コースには、MC前のD:5も用意されており、そのクルマで走るとちょっとしたアドベンチャー気分を味わえた場面が、新型D:5だとあっさり走り切れてしまう。そのくらい新型D:5のオフロード性能は高く、MC前と比べて数段のレベルアップを果たしているのだ。
デザイン的にはタフな印象が薄れいろんな意味でどうなんだろう?と思えた新型だが、その中身は歴代デリカシリーズの中で最もオフロードDNAを色濃く受け継いだクルマに仕上がっている。やっぱりD:5は他のミニバンとは異質なクルマであった。
斎藤聡|モータージャーナリスト
特に自動車の運転に関する技術、操縦性に関する分析を得意とする。平たくいうと、クルマを運転することの面白さ、楽しさを多くの人に伝え、共有したいと考えている。そうした視点に立った試乗インプレッション等を雑誌及びWEB媒体に寄稿。クルマと路面との接点であるタイヤにも興味をもっており、タイヤに関する試乗レポートも得意。また、安全運転の啓蒙や普及の重要性を痛感し、各種セーフティドライビングスクールのインストラクターも行っている。
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