【ジャガー I-PACE 新型試乗】「臓物」を見せないハイエンドピュアEVの気遣い…中村孝仁
◆臓物の類はどこにも見当たらない
これまで何台かのピュアEVに乗った。フロントを駆動する日産『リーフ』やVW『e-ゴルフ』などは、ボンネットを開けるとパワープラントよろしく高電圧を示すオレンジ色の配線が走るメカ部分が顔を出す。
ジャガー『I-PACE』の場合、前後のタイヤにそれぞれモーターを装備する電動四駆だから、当然フロント側にもパワープラントは存在するはずで、事実、透視図を見れば当然そのメカニズムの存在を示していた。ところがどうだ。ボンネットを開けるとそこには小さなラゲッジスペースしか存在せず、いわゆる臓物の類はどこにも見当たらない。BMWの『i3』はメカニズムをリアに搭載しているからそれは見えなくてまあ当然だが、前にもあるはずのI-PACEは見事にそれを隠していた。
乗り出し価格はすべて1000万円を超える高額車だから、俗に言うハイエンドのモデル。テスラを除けばハイエンドのピュアEVはこれが初めて(日本市場)。流石にきれいに仕上げてあって、高級車ならではの作り込みを感じさせてくれる。そうした気遣いは一方でメンテナンス性の悪さが懸念されるものだが、それはすべてプロにお任せください…と言ったメーカーのアナウンスメントが聞こえてくるようで、やはりCセグメントあたりのピュアEVとはその作りの違いを感じさせる。
VWのディーゼルゲートに端を発して、今や欧州はこぞって「電動化」に躍起になっている。特にドイツのメーカーはEV専用ブランドを立ち上げるほどで、その方向性としては既定路線。そんな中にあってジャガーは専用ブランドではないものの、初のピュアEVモデルを、日本で最も信用の高いドイツ勢のハイエンドに先んじて持ち込んできたというわけである。
◆SUVらしさは正直言ってどこにもない
一応SUVとは言っているものの、そのスタイルを見ても車高を見ても、SUVらしさは正直言ってどこにもない。横から見るとそのホイールベースの長さが際立ち、バッテリー搭載のために床面積を広く取りたかったことが良く分かる。そのホイールベースの長さ2990mm。全長4682mmに対してだから如何に長いかはお解りだろう。
最近の輸入車ブランドの多くは、ローンチ時にオプションをてんこ盛りにしたデビュー時のスペシャルモデルが存在する例が多い。I-PACEも例外ではなく22インチの巨大なタイヤを履いた「ファーストエディション」なるモデルが存在したが、試乗は敢えてノーマルの20インチ(それでも20インチだ)を履いたモデルをチョイスした。サスペンションは因みにエアサスが付いていて、ノーマルの車高から乗降用に40mm下がり、逆にオフロード用には50mm引き上げられるという。
横浜のランドマークタワー近郊のホテルが試乗の拠点。ということでオフロードの走行はなしだが、電気自動車でありながら水深500mmの渡河性能を持っているという。電気と水はちょっと怖い取り合わせだが、こうした性能がこのクルマをSUVたらしめる大きな理由だろう。
◆スポーツカー作りを得意としてきたジャガーらしい走り
早速首都高速に乗ってみたが、400ps、696Nmのパフォーマンスは伊達ではなく欧州仕様車で2.2トンを超える車重を軽々と、しかも恐ろしく速いペースで加速してくれる。バッテリーは90kwh。WLTPの数値でも航続距離は480kmだそうだから、間違いなく400km程度は普通に走れるはずだ。
それに長いホイールベースの間にバッテリーは敷き詰められているから重心高が低く、高い安定性を持っているのも大きな強みだ。とても良い印象を持ったのはハンドリング。さすがにスポーツカー作りを得意としてきたジャガーらしく、ガソリン車から乗り換えても全く違和感のないステアリングフィールを味わえた。
ブレーキの回生は強弱2パターンが選べ。強い方を選べば日産が得意としているワンペダルドライブの走行も楽しめるが、停車直前にモードが解除されてしまうので、完全停車の際はブレーキを踏んでやる必要があった。
クルマとしてあるいはピュアEVとしての出来はすこぶる良いと思う。しかし、充電は当然ながらCセグメントのピュアEV同様に時間がかかる。高速上のCHAdeMO急速充電は使えるが、街中のジャガーディーラーは数が限られる。勿論日産ディーラーをはじめとした他銘柄のディーラーに駆け込んで中で充電することも可能だが、大きな顔をして果たして日産ディーラーにジャガーで乗り付けられるかを考えた時は、少し気が引けるのではないか。とにかくもっとインフラが多くなれば、ピュアEVも選択肢になるのだが…。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
(レスポンス 中村 孝仁)
これまで何台かのピュアEVに乗った。フロントを駆動する日産『リーフ』やVW『e-ゴルフ』などは、ボンネットを開けるとパワープラントよろしく高電圧を示すオレンジ色の配線が走るメカ部分が顔を出す。
ジャガー『I-PACE』の場合、前後のタイヤにそれぞれモーターを装備する電動四駆だから、当然フロント側にもパワープラントは存在するはずで、事実、透視図を見れば当然そのメカニズムの存在を示していた。ところがどうだ。ボンネットを開けるとそこには小さなラゲッジスペースしか存在せず、いわゆる臓物の類はどこにも見当たらない。BMWの『i3』はメカニズムをリアに搭載しているからそれは見えなくてまあ当然だが、前にもあるはずのI-PACEは見事にそれを隠していた。
乗り出し価格はすべて1000万円を超える高額車だから、俗に言うハイエンドのモデル。テスラを除けばハイエンドのピュアEVはこれが初めて(日本市場)。流石にきれいに仕上げてあって、高級車ならではの作り込みを感じさせてくれる。そうした気遣いは一方でメンテナンス性の悪さが懸念されるものだが、それはすべてプロにお任せください…と言ったメーカーのアナウンスメントが聞こえてくるようで、やはりCセグメントあたりのピュアEVとはその作りの違いを感じさせる。
VWのディーゼルゲートに端を発して、今や欧州はこぞって「電動化」に躍起になっている。特にドイツのメーカーはEV専用ブランドを立ち上げるほどで、その方向性としては既定路線。そんな中にあってジャガーは専用ブランドではないものの、初のピュアEVモデルを、日本で最も信用の高いドイツ勢のハイエンドに先んじて持ち込んできたというわけである。
◆SUVらしさは正直言ってどこにもない
一応SUVとは言っているものの、そのスタイルを見ても車高を見ても、SUVらしさは正直言ってどこにもない。横から見るとそのホイールベースの長さが際立ち、バッテリー搭載のために床面積を広く取りたかったことが良く分かる。そのホイールベースの長さ2990mm。全長4682mmに対してだから如何に長いかはお解りだろう。
最近の輸入車ブランドの多くは、ローンチ時にオプションをてんこ盛りにしたデビュー時のスペシャルモデルが存在する例が多い。I-PACEも例外ではなく22インチの巨大なタイヤを履いた「ファーストエディション」なるモデルが存在したが、試乗は敢えてノーマルの20インチ(それでも20インチだ)を履いたモデルをチョイスした。サスペンションは因みにエアサスが付いていて、ノーマルの車高から乗降用に40mm下がり、逆にオフロード用には50mm引き上げられるという。
横浜のランドマークタワー近郊のホテルが試乗の拠点。ということでオフロードの走行はなしだが、電気自動車でありながら水深500mmの渡河性能を持っているという。電気と水はちょっと怖い取り合わせだが、こうした性能がこのクルマをSUVたらしめる大きな理由だろう。
◆スポーツカー作りを得意としてきたジャガーらしい走り
早速首都高速に乗ってみたが、400ps、696Nmのパフォーマンスは伊達ではなく欧州仕様車で2.2トンを超える車重を軽々と、しかも恐ろしく速いペースで加速してくれる。バッテリーは90kwh。WLTPの数値でも航続距離は480kmだそうだから、間違いなく400km程度は普通に走れるはずだ。
それに長いホイールベースの間にバッテリーは敷き詰められているから重心高が低く、高い安定性を持っているのも大きな強みだ。とても良い印象を持ったのはハンドリング。さすがにスポーツカー作りを得意としてきたジャガーらしく、ガソリン車から乗り換えても全く違和感のないステアリングフィールを味わえた。
ブレーキの回生は強弱2パターンが選べ。強い方を選べば日産が得意としているワンペダルドライブの走行も楽しめるが、停車直前にモードが解除されてしまうので、完全停車の際はブレーキを踏んでやる必要があった。
クルマとしてあるいはピュアEVとしての出来はすこぶる良いと思う。しかし、充電は当然ながらCセグメントのピュアEV同様に時間がかかる。高速上のCHAdeMO急速充電は使えるが、街中のジャガーディーラーは数が限られる。勿論日産ディーラーをはじめとした他銘柄のディーラーに駆け込んで中で充電することも可能だが、大きな顔をして果たして日産ディーラーにジャガーで乗り付けられるかを考えた時は、少し気が引けるのではないか。とにかくもっとインフラが多くなれば、ピュアEVも選択肢になるのだが…。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
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