【BMW 8シリーズコンバーチブル 新型試乗】「911カブリオレ」に匹敵するファンがそこにある…西川淳
◆911マーケットを強く意識した「8」
クルマも見た目だけで判断してはいけない、という話である。フラッグシップクーペとして新たに誕生した『8シリーズ』。見るからに優雅な大型グランドツーリングカー、なのだがその実、開発コンセプトはもっと硬派なものだった。
それは、4シーターGTスタイルでありながらスポーツできることを明確に目指す。「本格スポーツカーを目指す」ということだった。
そう聞いてクルマ好きなら必ず思い出す世界的名車が存在する。ポルシェ『911』である。ラグジュアリィとスポーツの両立。そう、8シリーズは最新の911マーケットを強く意識したモデルなのだ。
60年代半ばに911シリーズが誕生して以来、エンジンの搭載位置に関わらず、911マーケットを狙って多くの魅力的な、そして挑戦的なモデルが誕生した。911という明確な目標=絶対的な存在があったからこそ、“それとは違う”というチャレンジャーが続々誕生し、結果的にスポーツカーの世界に多様性をもたらすことになった。それらの多くは決して商業的に成功したとは言えなかった(つまりは911に完敗した)けれども、振り返ってみれば歴史的な財産であったりする。
911そのものはRRという言わば“奇態の進化”なのであり、その欠点是正を諦めなかったからこそ唯一無二の存在へと自らを昇華させることができたわけだが、その一方でそこに弱点アリと考えた実に多くのエンジニアが“真っ当なアイデア”で911に果敢な挑戦を繰り返してきた(そして負けた)というあたりもまた、このクラスのスポーツカー史だと言ってよさそうだ。なるほどポルシェ911はかくも偉大だった、というわけで……本題に戻ろう。
◆コンバーチブルのスタイリングは、クーペ以上に魅力あり
とにかく8シリーズはスポーツカーであることを強く意識した“ナカミ”になっている。見映えとはウラハラ、と言うことだってできる。どう見たって8シリーズは“優男”で、汗っかきのスポーツマンにはとても見えない。けれども既にいろんなレビューにて説明されている通り、実際には優れたアスリート資質に溢れる“細マッチョ”、なのだった。
そんな現行8シリーズのオープンモデルだから、やっぱり期待はパフォーマンスになるのだけれど、個人的にはまずスタイリングがクーペ以上に魅力ありだと思った。
新型8シリーズの最大の特徴は、強烈に寝かされたAピラーから始まる低いルーフラインと小さなキャビン、それによって強調されるロングノーズスタイル、だと思うが、確かに格好はいいのだけれど細く長く見えてしまうきらいがある。キャビンの小ささがクーペとしての美しい比率を少し崩してしまっているように思われるのだ。
ところが、ソフトトップを採用したコンバーチブルであれば、トップレスの状態でまずその欠点は是正され、低いAピラーと力強いリアセクションがかえって強調されて、路面に対しバランスの取れたスタイルになる。トップを閉めた場合でもクロスという異素材の質感と色合いによって視覚的なボリューム感をキャビンまわりに追加してくれるのである程度カバーできる。というわけで、コンバーチブルのほうが格好いい、となる。
さらに、ソフトトップを収納するカバーまわりの処理が美しい。リアシートのうしろには二つの美しいドームがあり、ステッチ処理も施されている。キャビンを縁取っている太めのクロームリングと相まって、このクラスでは圧倒的にゴージャスな見映え質感だ。ちなみに横転時の安全対策として、アルミニウム製ロールオーバーバーも格納されている。
◆「911カブリオレ」に匹敵するファンがそこにある
走りはといえばクーペと遜色のない、よくできたGTでありスポーツカーだった。ポルトガルはアルガルベ地方のリゾート都市ファロで開催された国際試乗会で、「M850i xDriveコンバーチブル」に試乗した。
エレガントなソフトトップをワンタッチ15秒で収納し、左右のウィンドウとウィンドディフレクターを立てて走り出す。50km/h以下なら走行中の開閉操作も可能。この手軽さはソフトトップ方式の魅力である。
クーペと変わらず力強い、というか過激なまでの加速をみせた。最高出力530hp、最大トルク750Nmを誇るV8ツインターボエンジンにかかれば、クーペ比で100kgの重量増など誤差の範囲というわけだろう。ZF製8ATによって2000回転以下から湧き出る最大トルクはとてもスムースかつすみやかに四肢へと伝えられ、発進加速はもちろんのこと、追い越し加速も十二分に速い。
ストラットブレースなどオープンモデル専用の強化策も功を奏しているのだろう。クーペと同等のファン・トゥ・ドライブをワインディングロードでもいかんなく発揮する。ステアリングホイールを通じて前輪を確実に自分の手で動かせているという実感のあることこそ最新BMWの魅力(ただしFR系)だが、4WDであっても動きは軽快で、オープンスポーツカーとしても存分に楽しめた。キャラは違えどもポルシェ911カブリオレに匹敵するファンがそこにある。
そのうえ街中や高速での乗り心地という面で、クーペに比べるといくぶん“肩の力がぬけている”感覚があって、むしろ乗り心地は上等だ。普段乗りにもコンバーチブルのほうが適しているのではないだろうか。
見た目も、そして普段使いもスポーティな走りも、クーペと同等もしくは上。予算が許せば、コンバーチブルのほうが買いだ。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
(レスポンス 西川淳)
クルマも見た目だけで判断してはいけない、という話である。フラッグシップクーペとして新たに誕生した『8シリーズ』。見るからに優雅な大型グランドツーリングカー、なのだがその実、開発コンセプトはもっと硬派なものだった。
それは、4シーターGTスタイルでありながらスポーツできることを明確に目指す。「本格スポーツカーを目指す」ということだった。
そう聞いてクルマ好きなら必ず思い出す世界的名車が存在する。ポルシェ『911』である。ラグジュアリィとスポーツの両立。そう、8シリーズは最新の911マーケットを強く意識したモデルなのだ。
60年代半ばに911シリーズが誕生して以来、エンジンの搭載位置に関わらず、911マーケットを狙って多くの魅力的な、そして挑戦的なモデルが誕生した。911という明確な目標=絶対的な存在があったからこそ、“それとは違う”というチャレンジャーが続々誕生し、結果的にスポーツカーの世界に多様性をもたらすことになった。それらの多くは決して商業的に成功したとは言えなかった(つまりは911に完敗した)けれども、振り返ってみれば歴史的な財産であったりする。
911そのものはRRという言わば“奇態の進化”なのであり、その欠点是正を諦めなかったからこそ唯一無二の存在へと自らを昇華させることができたわけだが、その一方でそこに弱点アリと考えた実に多くのエンジニアが“真っ当なアイデア”で911に果敢な挑戦を繰り返してきた(そして負けた)というあたりもまた、このクラスのスポーツカー史だと言ってよさそうだ。なるほどポルシェ911はかくも偉大だった、というわけで……本題に戻ろう。
◆コンバーチブルのスタイリングは、クーペ以上に魅力あり
とにかく8シリーズはスポーツカーであることを強く意識した“ナカミ”になっている。見映えとはウラハラ、と言うことだってできる。どう見たって8シリーズは“優男”で、汗っかきのスポーツマンにはとても見えない。けれども既にいろんなレビューにて説明されている通り、実際には優れたアスリート資質に溢れる“細マッチョ”、なのだった。
そんな現行8シリーズのオープンモデルだから、やっぱり期待はパフォーマンスになるのだけれど、個人的にはまずスタイリングがクーペ以上に魅力ありだと思った。
新型8シリーズの最大の特徴は、強烈に寝かされたAピラーから始まる低いルーフラインと小さなキャビン、それによって強調されるロングノーズスタイル、だと思うが、確かに格好はいいのだけれど細く長く見えてしまうきらいがある。キャビンの小ささがクーペとしての美しい比率を少し崩してしまっているように思われるのだ。
ところが、ソフトトップを採用したコンバーチブルであれば、トップレスの状態でまずその欠点は是正され、低いAピラーと力強いリアセクションがかえって強調されて、路面に対しバランスの取れたスタイルになる。トップを閉めた場合でもクロスという異素材の質感と色合いによって視覚的なボリューム感をキャビンまわりに追加してくれるのである程度カバーできる。というわけで、コンバーチブルのほうが格好いい、となる。
さらに、ソフトトップを収納するカバーまわりの処理が美しい。リアシートのうしろには二つの美しいドームがあり、ステッチ処理も施されている。キャビンを縁取っている太めのクロームリングと相まって、このクラスでは圧倒的にゴージャスな見映え質感だ。ちなみに横転時の安全対策として、アルミニウム製ロールオーバーバーも格納されている。
◆「911カブリオレ」に匹敵するファンがそこにある
走りはといえばクーペと遜色のない、よくできたGTでありスポーツカーだった。ポルトガルはアルガルベ地方のリゾート都市ファロで開催された国際試乗会で、「M850i xDriveコンバーチブル」に試乗した。
エレガントなソフトトップをワンタッチ15秒で収納し、左右のウィンドウとウィンドディフレクターを立てて走り出す。50km/h以下なら走行中の開閉操作も可能。この手軽さはソフトトップ方式の魅力である。
クーペと変わらず力強い、というか過激なまでの加速をみせた。最高出力530hp、最大トルク750Nmを誇るV8ツインターボエンジンにかかれば、クーペ比で100kgの重量増など誤差の範囲というわけだろう。ZF製8ATによって2000回転以下から湧き出る最大トルクはとてもスムースかつすみやかに四肢へと伝えられ、発進加速はもちろんのこと、追い越し加速も十二分に速い。
ストラットブレースなどオープンモデル専用の強化策も功を奏しているのだろう。クーペと同等のファン・トゥ・ドライブをワインディングロードでもいかんなく発揮する。ステアリングホイールを通じて前輪を確実に自分の手で動かせているという実感のあることこそ最新BMWの魅力(ただしFR系)だが、4WDであっても動きは軽快で、オープンスポーツカーとしても存分に楽しめた。キャラは違えどもポルシェ911カブリオレに匹敵するファンがそこにある。
そのうえ街中や高速での乗り心地という面で、クーペに比べるといくぶん“肩の力がぬけている”感覚があって、むしろ乗り心地は上等だ。普段乗りにもコンバーチブルのほうが適しているのではないだろうか。
見た目も、そして普段使いもスポーティな走りも、クーペと同等もしくは上。予算が許せば、コンバーチブルのほうが買いだ。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。
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