【プジョー 508ディーゼル 新型試乗】ハスキーボイスのセクシークィーン…中村孝仁
◆「500系」の系譜
ウィキペディアでセダン系プジョーの足跡を調べてみたら、面白い事実が浮かび上がった。このクルマの直接の祖先は同名の『508』というモデル。ところがその前は『507』も『506』もなく、いきなり『407』もしくは『607』と出てくる。
まあ簡単に言えば500系の祖先は『505』にまで遡り、それは70年代から90年代初頭を駆け抜けたモデル。その後、このクルマのヒストリーはザックリ400系のモデルと600系のモデルに引き継がれ、その両方が無くなった2010年に、先代508に統合されてデビューしたということである。
この間、プジョーのフラッグシップとして君臨したセダンはすべて実用的でフォーマルな4ドアモデル。ライバルの(といえるかどうか)シトロエンやルノーはそのフラッグシップでも全てテールゲート付きのモデルが占め、市場的にフランスのハイエンドモデルはプジョーを除けばほとんどの場合、テールゲート付きの5ドアが主流だったのである。
◆ファストバックセダンではズバリ、最も美しい
で、第2世代の508はついにテールゲート付きのセダンになった。セダンというよりも流行りのクーペ風セダンで、ドイツ系のモデルにはこのスタイルが蔓延している。しかしである。まあ、人の見方によっても異なる話で、デザインは見る人の捉え方で如何様にも変わるが、個人的には同じようなファストバックセダンではズバリ、最も美しいモデルだと思う。
とにかく全長4750×全幅1860×全高1420mmという決して小さくないサイズのモデルにも関わらず、極めて小さく見える。小さくという言葉に語弊があるとすれば、コンパクトに見える。実際高速のパーキングに停めて30分ほど眺めていたが、その両サイドに日本製の5ナンバーサイズミニバンが止まると、その方がはるかに大きく見えるから不思議だ。いずれにせよ30分も眺めていられるほど、綺麗なクルマだ。
プジョーがかつてはそのデザインをピニンファリーナに任せていた時代は魅了されるデザインが多かったのだが、ピニンファリーナと決別して以降、はっきり言って魅力的に見えるデザインのモデルはクーペの『RCZ』を除いて無かった。この508は久々に美しいと思えるクルマ。それもセダンだから価値がある。自分にとってはまさにセクシークィーンである。
◆ハスキーなエンジンと、「アクティブサスペンション」の新鮮な走り
今回試乗したのは2リットルのディーゼルターボ。エンジン自体は基本『308』に搭載されているものと何ら変わりはない。本来は最新の1.5リットルの拡大版を期待したのだが、それは叶わず、古い2リットルユニットの再登場だ。従って正直言ってエンジンには何の魅力もないし、パワー、トルクはそこそこだが決して静かではない。心臓部でこれはと思う部分はない。だから、タイトルに示すようにハスキーボイスのセクシークィーンなのだ。ハスキーも捉え方によっては良い側面もあるのだが、この場合のハスキーはどちらかと言えば、ガラガラ声と表現できるものである。
一方で、走りはこれまでにない新鮮さを持っている。そのひとつが今回初採用(しかも全車標準)されたアクティブサスペンション。ドライブモードもエコ、ノーマル、コンフォート、スポーツなどに切り替え可能で、スポーツとコンフォートの間には明確な乗り心地の変化も見て取れる。
日常的にはスポーツに入れた時のダイナミックな加速感も楽しみたいのだが、アイシン製の8速ATがどうしても頑張ってしまい、高回転を維持しようとするので、耳心地の良くないハスキーボイスが室内に充満するから、快適で乗り心地の良いコンフォートを使うことが大半であった。
おおよそ600km走った実用燃費は13.9km/リットル。このクルマはヨーロッパ風に表示されて7.2リットル/100kmという値だった。高くなっては来たものの、依然としてハイオクガソリンとの価格差は我が家の近くでは39円もあるから、走行距離の出てしまうユーザーには、やはりディーゼルがお勧めである。
◆久々に欲しいセダンの1台
その昔、プジョーの乗り心地は「猫足」と評された。今その乗り心地は一時の硬いドイツ車風から、だいぶフランス風を取り戻しているが、コンフォートにしてもかつてのようにサスペンションの伸び側のゆったりとした感覚はなく、ソフトではあるが波状路などに行くと少し上下動の収まりが悪くあまり心地よくはないのだが、この傾向は今、ドイツ勢を含むすべての自動車メーカーに共通だから致し方ないのかもしれない。
扱いづらいのは一つしかないUSBのソケット。元々左ハンドル用で左側についているのだが、その位置がセンターコンソールの下で、ドライバーズシートに座ってUSBを挿そうとするとかなり難儀である。皆さんが悪戦苦闘した跡がすでに明確に付いていた。
クーペ風にした関係で、やはり後席の空間は大柄な大人にとって決して十分なスペースとは言えないが、スタイルからも、またポジショニングからもフォーマルなセダンとは言えず、むしろファミリーカーの延長線上にある印象が強いので、これで十分。久々に欲しいセダンの1台が出来た。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
(レスポンス 中村 孝仁)
ウィキペディアでセダン系プジョーの足跡を調べてみたら、面白い事実が浮かび上がった。このクルマの直接の祖先は同名の『508』というモデル。ところがその前は『507』も『506』もなく、いきなり『407』もしくは『607』と出てくる。
まあ簡単に言えば500系の祖先は『505』にまで遡り、それは70年代から90年代初頭を駆け抜けたモデル。その後、このクルマのヒストリーはザックリ400系のモデルと600系のモデルに引き継がれ、その両方が無くなった2010年に、先代508に統合されてデビューしたということである。
この間、プジョーのフラッグシップとして君臨したセダンはすべて実用的でフォーマルな4ドアモデル。ライバルの(といえるかどうか)シトロエンやルノーはそのフラッグシップでも全てテールゲート付きのモデルが占め、市場的にフランスのハイエンドモデルはプジョーを除けばほとんどの場合、テールゲート付きの5ドアが主流だったのである。
◆ファストバックセダンではズバリ、最も美しい
で、第2世代の508はついにテールゲート付きのセダンになった。セダンというよりも流行りのクーペ風セダンで、ドイツ系のモデルにはこのスタイルが蔓延している。しかしである。まあ、人の見方によっても異なる話で、デザインは見る人の捉え方で如何様にも変わるが、個人的には同じようなファストバックセダンではズバリ、最も美しいモデルだと思う。
とにかく全長4750×全幅1860×全高1420mmという決して小さくないサイズのモデルにも関わらず、極めて小さく見える。小さくという言葉に語弊があるとすれば、コンパクトに見える。実際高速のパーキングに停めて30分ほど眺めていたが、その両サイドに日本製の5ナンバーサイズミニバンが止まると、その方がはるかに大きく見えるから不思議だ。いずれにせよ30分も眺めていられるほど、綺麗なクルマだ。
プジョーがかつてはそのデザインをピニンファリーナに任せていた時代は魅了されるデザインが多かったのだが、ピニンファリーナと決別して以降、はっきり言って魅力的に見えるデザインのモデルはクーペの『RCZ』を除いて無かった。この508は久々に美しいと思えるクルマ。それもセダンだから価値がある。自分にとってはまさにセクシークィーンである。
◆ハスキーなエンジンと、「アクティブサスペンション」の新鮮な走り
今回試乗したのは2リットルのディーゼルターボ。エンジン自体は基本『308』に搭載されているものと何ら変わりはない。本来は最新の1.5リットルの拡大版を期待したのだが、それは叶わず、古い2リットルユニットの再登場だ。従って正直言ってエンジンには何の魅力もないし、パワー、トルクはそこそこだが決して静かではない。心臓部でこれはと思う部分はない。だから、タイトルに示すようにハスキーボイスのセクシークィーンなのだ。ハスキーも捉え方によっては良い側面もあるのだが、この場合のハスキーはどちらかと言えば、ガラガラ声と表現できるものである。
一方で、走りはこれまでにない新鮮さを持っている。そのひとつが今回初採用(しかも全車標準)されたアクティブサスペンション。ドライブモードもエコ、ノーマル、コンフォート、スポーツなどに切り替え可能で、スポーツとコンフォートの間には明確な乗り心地の変化も見て取れる。
日常的にはスポーツに入れた時のダイナミックな加速感も楽しみたいのだが、アイシン製の8速ATがどうしても頑張ってしまい、高回転を維持しようとするので、耳心地の良くないハスキーボイスが室内に充満するから、快適で乗り心地の良いコンフォートを使うことが大半であった。
おおよそ600km走った実用燃費は13.9km/リットル。このクルマはヨーロッパ風に表示されて7.2リットル/100kmという値だった。高くなっては来たものの、依然としてハイオクガソリンとの価格差は我が家の近くでは39円もあるから、走行距離の出てしまうユーザーには、やはりディーゼルがお勧めである。
◆久々に欲しいセダンの1台
その昔、プジョーの乗り心地は「猫足」と評された。今その乗り心地は一時の硬いドイツ車風から、だいぶフランス風を取り戻しているが、コンフォートにしてもかつてのようにサスペンションの伸び側のゆったりとした感覚はなく、ソフトではあるが波状路などに行くと少し上下動の収まりが悪くあまり心地よくはないのだが、この傾向は今、ドイツ勢を含むすべての自動車メーカーに共通だから致し方ないのかもしれない。
扱いづらいのは一つしかないUSBのソケット。元々左ハンドル用で左側についているのだが、その位置がセンターコンソールの下で、ドライバーズシートに座ってUSBを挿そうとするとかなり難儀である。皆さんが悪戦苦闘した跡がすでに明確に付いていた。
クーペ風にした関係で、やはり後席の空間は大柄な大人にとって決して十分なスペースとは言えないが、スタイルからも、またポジショニングからもフォーマルなセダンとは言えず、むしろファミリーカーの延長線上にある印象が強いので、これで十分。久々に欲しいセダンの1台が出来た。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
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