【ベントレー ベンテイガスピード 海外試乗】世界最速のSUVはとびきりゴージャスで快適だった…大谷達也

ベントレー ベンテイガスピード
◆「工房」で作り上げられるベントレー

イギリス北西部の街、クルーに建つベントレーの本社工場では『ベンテイガ』の生産がフルピッチで行われていた。

ベンテイガはベントレーが2015年に発売した同ブランド初のSUV。本格的なオフロード性能を備えるいっぽうで、内外装は他のベントレー同様の豪華な仕上がりとなっていることもあって世界的な好評を博し、いまやベントレーの全生産台数の52%を占めるまでに成長。工場内でも『コンチネンタルGT』と『フライングスパー』の生産ラインが共用とされるいっぽうで、ベンテイガは独立した1本のラインを与えられるなど、伝統ある工場のなかでとりわけ強い存在感を放っていた。

それにしてもベントレーの工場を訪れていつも感心させられるのが、レザーやウッドを多用したインテリアをいかに丁寧に作り込んでいるか、という点。ほとんどの行程を職人がひとつひとつ丁寧に手作りしている様は、工場というよりも工房と呼んだほうが相応しい。これだけ手間ひまがかかっているなら、あの高価な値段も、自分にはとうてい手が届かないけれど納得できるというか、むしろ安いとさえ思えるはずだ。


◆あくまでもロードカー、がコンセプト

人気のベンテイガに新たに追加された「スピード」は、ベントレーのハイパフォーマンスモデルに与えられる伝統的なグレード名で、フラッグシップサルーンの『ミュルザンヌ』やフライングスパーにもスピードは用意されている。コンチネンタルGTのみはモデルチェンジして間もないためにまだラインナップされていないものの、おそらくはほどなく登場するだろう。

ベントレーにおけるスピードのレシピは、エンジンを軽くチューンしてハイパワー化するとともに足回りをいくぶん強化するのが基本で、ドライバーがより心地よく、そして俊敏な走りが楽しめるようにするのが目的。走ろうと思えばサーキット走行もこなせるほどのタフな一面も持つが、あくまでもロードカーとの位置づけで公道走行に主眼が置かれているのがスピードのコンセプトだ。

この点は『ベンテイガスピード』もまったく同様で、W12 6.0リットル・ツインターボエンジンは過給圧を高めるとともに燃料噴射マップを最適化して標準仕様プラス27psの635psを発揮。足回りはドライビングモード切り替えでスポーツ・モードを選択したときのみ、48Vシステムを使ったアクティブ・ロール・コントロールのダイナミック・ロール・システムがこれまで以上に高いロール剛性を生み出すとともに、電子制御式サスペンションのダンピングレートが引き上げられるという。


◆世界最速SUVのタイトルを奪還した「スピード」

試乗会場は北ウェールズのアングルシィ・サーキット。ただし、ベンテイガスピードの位置づけが公道走行前提のロードカーであるのは前述のとおりで、今回サーキットを用いたのは高いコーナリングパフォーマンスを安全に試してもらうのが主な目的とのこと。ちなみに、ドライビングモードのスポーツ・モードは前述のとおり見直されたが、コンフォート・モードとBモードはブッシュ類やタイヤを含めてまったく変わっておらず、このため公道試乗を改めて行うまでもあるまいというのがベントレー側の判断だった。

まずは、スタンダードなベンテイガから何も変更されていないとされるBモードでコースイン。ロードノイズが小さく、またサスペンションから細かな振動が伝わってこない点などは、なるほどこれまでのベンテイガと変わりない。サーキットを走るのであればもう少しロールが小さく、また路面の状態を掴めるほうが好ましいが、前述のとおり安全上の理由からサーキットで試乗会を催しただけでそれ自体が目的ではないと考えれば何の不都合もない。むしろ、この洗練されたドライビングフィールこそベンテイガの真骨頂というべきだろう。

続いてベンテイガスピード専用に開発されたというスポーツ・モードに切り替えて走り始めると、洗練された全体的な感触は大きく変わらないものの、ステアリングからはフロントの接地感が伝わってくるようになり、コーナリング中のロール量も小さくなって安心感がぐっと高まる。しかも、多少攻めた走りをしてもベンテイガはジェントルな姿勢を崩さず、安定したコーナリングフォームのままコーナーをクリアしていく。

さらには一般的なロードカーでサーキットを走るときに感じるパワー不足感も一切なし。600psを越すパワーは伊達ではない。ちなみにベンテイガスピードの最高速度は実に306km/hで、あのランボルギーニ『ウルス』から世界最速SUVのタイトルを取り返したという。これには「スピード」だけに与えられる前後のエアロパーツも大きく貢献しているはずだ。

世界最速なのにゴージャスで快適なベンテイガスピード。日本にはわずか20台だけがやってくる見通しという。


大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。

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