【トヨタ スープラ 新型試乗】“スープラの記号性”にとらわれないなら「SZ」がベスト…井元康一郎
トヨタ自動車のレース、スポーティカー開発部門であるGRブランドの専用モデル第1号となった新型『スープラ』のメディア向け試乗会が行われ、そこで実車を短時間テストドライブする機会があった。試乗時間は合計で3時間足らずと非常に短い時間で、これでクルマの本当のところを知るなど土台無理な話だが、感じ取れた範囲でのファーストインプレッションをお届けする。
BMW『Z4』のプラットフォームをベースに開発された新スープラ。グレード展開は上から直列6気筒3リットルターボを搭載する「RZ」、直列4気筒2リットルターボ高出力版の「SZ-R」、同低出力版の「SZ」と、松竹梅のようになっており、その全グレードをテストドライブしてみた。試乗ルートは修善寺を起点とした西伊豆界隈。
◆トヨタがこんな味付けをするなんて
まず全グレード共通の印象について簡単に。スポーツカーと一口に言っても味付けはクルマによってさまざまだが、スープラは良い意味で鷹揚なドライブフィール。レース部門のGRが作ったということで、もっと神経質で尖った仕立てかと思いきや、持ち合わせた高性能を過剰に意識させないのんびり型のGTカー的な性格だった。
ボディは最新の工法で作られ、パワートレインやシャシーのコントロールにも多くのハイテクが用いられているが、運転感覚はどこかノスタルジック。BMW『Z4』と味付けが全然違うらしい(筆者はZ4は未試乗)が、ロールをきっちり出してサスペンションのジオメトリー変化でコントロールする楽しさをドライバーに味わわせるセッティングは好感度高い。きついカーブからの脱出で深いロールから正位置に戻るときの揺り戻しが若干大きいような気もしたが、目くじらを立てるほどではなかった。トヨタがこんな味付けをするなんてと、感慨を覚えた次第だった。
変速機も素晴らしかった。ZF社の8速ATが搭載されているが、とくにドライブモードをスポーツ・マニュアルモードにした時の変速の切れ感は素晴らしく、それを常用して走りたいような気分だった。低速側のギア比が加速重視で、一番パワーの低いSZでも爽快な加速を味わうことができた。
◆“スープラらしい”RZと、記号性に欠けるSZ-R
最初に乗ったのは3リットルターボのRZ。ヘリテージ的な意味での“スープラらしさ”という観点ではこれが一番だった。筆者はスープラには大して強い思い入れを抱いていなかったが、それでもスープラといえば6発エンジンという刷り込みはある。最高出力340psのパワー以上に、6発特有の共鳴音はダウンサイジング全盛の今日においてはそれだけでプレミアム感があるし、これが新スープラですと言われてハイそうですかと違和感なく受け入れられるのではないかと思った。
2番目に乗ったのはSZ-R。結論から言えば、これが3グレードの中では一番中途半端であった。エンジンは258psの2リットル直4ターボになるが、シャシーはRZと同様、高度なコントロールを行うオーリンズの電子制御サスや電子制御LSDが組まれている本気仕様だ。
電制LSDのほうは登りの直角コーナーやS字でちょっと滑らせてみただけなので効果のほどは判然としなかったが、ショックアブゾーバーの減衰力はノーマル、スポーツの2段階ではなくそれぞれリアルタイムで調節されているようで、敏捷性は非常に高かった。前述の8速ATが非常にいい仕事をするので、パワー面も十分。だが、スープラという記号性を求めるカスタマーを満足させるような走りの空気感については、3リットルのRZに比べるとかなり希薄。最初にこれに乗っていれば印象も違ったであろうが、ちょっと貧相に思えた。
◆ゆるキャラ志向と思いきや、断然好印象だったSZ
同じ2リットルでもまったく印象が違ったのは、3番目に乗ったSZである。
こちらは電制LSDやアダプティブサスは未装備で、197psエンジンもSZ-Rに対して最高出力で61ps、最大トルクで8.1kgmも落ちる。タイヤはRZが前255mm、後275mm幅の19インチ、SZ-Rが同18インチのミシュラン「Pilot Super Sport」であったのに対してこちらは前225mm、後255mmのコンチネンタル「SportContact5(スポーツコンタクト5)」。仕様的には明らかにゆるキャラ志向で、ファッションで乗るためのグレードに思える。
ところが実際のドライブで抱いた筆者の印象は真逆であった。シャシーから車両安定装置以外のアクティブデバイスを排したことがかえって味を純粋にしたのか、速さ云々ではなくナチュラルでアスレティックなフィールという点ではRZ、SZ-Rより断然好印象であった。ドライブ時間自体SZが最も長く、修善寺温泉から一気に標高800mあまりの西伊豆スカイラインまで駆け上がってみたのだが、路面の凹凸の吸収はスウィートだし、走行ラインのトレース感も気持ち良いしと、気分が上がることこのうえなかった。
乗り心地も非常に良かった。驚いたのは、装着されていたスポーツコンタクト5がランフラットであったこと。しっとりと粘るサイドウォールのフィールからは想像もしておらず、原稿を書く段になって写真を拡大してみるまでは普通のタイヤだと思い込んでいたほど。コンチネンタル侮りがたしである。
このSZ、「ええーもう帰らなきゃいけないのか。2シーターだけどこれで遠くまで旅に出かけてみたら楽しいかもなー」などと想像させられるクルマだった。前の2車が「すごいですね、速いですね」という印象であったのとはちょっと別のキャラクターである。旧来のスープラという記号性にとらわれないなら、これがマイベストであった。
◆ドライビング好きの高所得層なら「買い」
残念なのはこのSZ、ボディカラーを赤黒白の3色しか選べないこと。今回乗ったのは量産試作車で特別色のイエローに塗られていたが、実際にはこれはセレクトできない。かりにもスターティングプライス490万円の高級モデルである。最速モデルに特別な色を用意するというのならわかるが、同じ塗装ラインを通すのに最安グレードの色の選択肢をここまで絞ることはなかろう。こんなところに大衆車ビジネスのセンスが出てしまうのは残念なところだ。
総じて新スープラは、スポーツカーとして十分にユーザーを満足させるクルマに仕上がっているように思えた。17年という年月はヘリテージモデルを作るには中途半端なブランクで、何をやっても旧来のファンから文句が出そうな難しい仕事だったと思うが、それをやり通そうというGRの開発陣の熱意は十分に伝わってきた。
現代の軽合金エンジンには昔のスープラの鋳鉄ブロックエンジンのようなチューニング耐性はないだろうが、スポーツカーとしての資質が昔のスープラともはや別モノであることはちょい乗りでも十分以上に感じられた。そのぶんお値段もがっつりと上がってしまったが、ドライビング好きの高所得層なら大いに買いなのではないかと思った。
■5つ星評価(2シータースポーツとして)
「RZ」
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
「SZ-R」
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
「SZ」
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
(レスポンス 井元康一郎)
BMW『Z4』のプラットフォームをベースに開発された新スープラ。グレード展開は上から直列6気筒3リットルターボを搭載する「RZ」、直列4気筒2リットルターボ高出力版の「SZ-R」、同低出力版の「SZ」と、松竹梅のようになっており、その全グレードをテストドライブしてみた。試乗ルートは修善寺を起点とした西伊豆界隈。
◆トヨタがこんな味付けをするなんて
まず全グレード共通の印象について簡単に。スポーツカーと一口に言っても味付けはクルマによってさまざまだが、スープラは良い意味で鷹揚なドライブフィール。レース部門のGRが作ったということで、もっと神経質で尖った仕立てかと思いきや、持ち合わせた高性能を過剰に意識させないのんびり型のGTカー的な性格だった。
ボディは最新の工法で作られ、パワートレインやシャシーのコントロールにも多くのハイテクが用いられているが、運転感覚はどこかノスタルジック。BMW『Z4』と味付けが全然違うらしい(筆者はZ4は未試乗)が、ロールをきっちり出してサスペンションのジオメトリー変化でコントロールする楽しさをドライバーに味わわせるセッティングは好感度高い。きついカーブからの脱出で深いロールから正位置に戻るときの揺り戻しが若干大きいような気もしたが、目くじらを立てるほどではなかった。トヨタがこんな味付けをするなんてと、感慨を覚えた次第だった。
変速機も素晴らしかった。ZF社の8速ATが搭載されているが、とくにドライブモードをスポーツ・マニュアルモードにした時の変速の切れ感は素晴らしく、それを常用して走りたいような気分だった。低速側のギア比が加速重視で、一番パワーの低いSZでも爽快な加速を味わうことができた。
◆“スープラらしい”RZと、記号性に欠けるSZ-R
最初に乗ったのは3リットルターボのRZ。ヘリテージ的な意味での“スープラらしさ”という観点ではこれが一番だった。筆者はスープラには大して強い思い入れを抱いていなかったが、それでもスープラといえば6発エンジンという刷り込みはある。最高出力340psのパワー以上に、6発特有の共鳴音はダウンサイジング全盛の今日においてはそれだけでプレミアム感があるし、これが新スープラですと言われてハイそうですかと違和感なく受け入れられるのではないかと思った。
2番目に乗ったのはSZ-R。結論から言えば、これが3グレードの中では一番中途半端であった。エンジンは258psの2リットル直4ターボになるが、シャシーはRZと同様、高度なコントロールを行うオーリンズの電子制御サスや電子制御LSDが組まれている本気仕様だ。
電制LSDのほうは登りの直角コーナーやS字でちょっと滑らせてみただけなので効果のほどは判然としなかったが、ショックアブゾーバーの減衰力はノーマル、スポーツの2段階ではなくそれぞれリアルタイムで調節されているようで、敏捷性は非常に高かった。前述の8速ATが非常にいい仕事をするので、パワー面も十分。だが、スープラという記号性を求めるカスタマーを満足させるような走りの空気感については、3リットルのRZに比べるとかなり希薄。最初にこれに乗っていれば印象も違ったであろうが、ちょっと貧相に思えた。
◆ゆるキャラ志向と思いきや、断然好印象だったSZ
同じ2リットルでもまったく印象が違ったのは、3番目に乗ったSZである。
こちらは電制LSDやアダプティブサスは未装備で、197psエンジンもSZ-Rに対して最高出力で61ps、最大トルクで8.1kgmも落ちる。タイヤはRZが前255mm、後275mm幅の19インチ、SZ-Rが同18インチのミシュラン「Pilot Super Sport」であったのに対してこちらは前225mm、後255mmのコンチネンタル「SportContact5(スポーツコンタクト5)」。仕様的には明らかにゆるキャラ志向で、ファッションで乗るためのグレードに思える。
ところが実際のドライブで抱いた筆者の印象は真逆であった。シャシーから車両安定装置以外のアクティブデバイスを排したことがかえって味を純粋にしたのか、速さ云々ではなくナチュラルでアスレティックなフィールという点ではRZ、SZ-Rより断然好印象であった。ドライブ時間自体SZが最も長く、修善寺温泉から一気に標高800mあまりの西伊豆スカイラインまで駆け上がってみたのだが、路面の凹凸の吸収はスウィートだし、走行ラインのトレース感も気持ち良いしと、気分が上がることこのうえなかった。
乗り心地も非常に良かった。驚いたのは、装着されていたスポーツコンタクト5がランフラットであったこと。しっとりと粘るサイドウォールのフィールからは想像もしておらず、原稿を書く段になって写真を拡大してみるまでは普通のタイヤだと思い込んでいたほど。コンチネンタル侮りがたしである。
このSZ、「ええーもう帰らなきゃいけないのか。2シーターだけどこれで遠くまで旅に出かけてみたら楽しいかもなー」などと想像させられるクルマだった。前の2車が「すごいですね、速いですね」という印象であったのとはちょっと別のキャラクターである。旧来のスープラという記号性にとらわれないなら、これがマイベストであった。
◆ドライビング好きの高所得層なら「買い」
残念なのはこのSZ、ボディカラーを赤黒白の3色しか選べないこと。今回乗ったのは量産試作車で特別色のイエローに塗られていたが、実際にはこれはセレクトできない。かりにもスターティングプライス490万円の高級モデルである。最速モデルに特別な色を用意するというのならわかるが、同じ塗装ラインを通すのに最安グレードの色の選択肢をここまで絞ることはなかろう。こんなところに大衆車ビジネスのセンスが出てしまうのは残念なところだ。
総じて新スープラは、スポーツカーとして十分にユーザーを満足させるクルマに仕上がっているように思えた。17年という年月はヘリテージモデルを作るには中途半端なブランクで、何をやっても旧来のファンから文句が出そうな難しい仕事だったと思うが、それをやり通そうというGRの開発陣の熱意は十分に伝わってきた。
現代の軽合金エンジンには昔のスープラの鋳鉄ブロックエンジンのようなチューニング耐性はないだろうが、スポーツカーとしての資質が昔のスープラともはや別モノであることはちょい乗りでも十分以上に感じられた。そのぶんお値段もがっつりと上がってしまったが、ドライビング好きの高所得層なら大いに買いなのではないかと思った。
■5つ星評価(2シータースポーツとして)
「RZ」
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
「SZ-R」
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
「SZ」
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
(レスポンス 井元康一郎)
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