【マツダ3 新型試乗】ファストバックという命名に“意思”を感じる…島崎七生人

マツダ3ファストバック
◆写真と随分印象が違う実車の「マツダ3」

“Car as Art”が理念の『マツダ3』だが、写真で見るのと実車を目の当たりにするのとでは随分と印象が違う。もちろん実車の、あたりの空気を変えてしまう凛とした存在感は、実車でこそ伝わってくるというものだ。

思い出すのは『ファミリア・アスティナ』や『ランティス』。いずれもマツダ3の前身にあたるハッチバック車だが、“4ドアクーペ”と言われ、ただの2ボックスないしは5ドアに飽き足らないユーザーの琴線に触れる、個性的なスタイリングが売りだった。

一方で直前の先代『アクセラ』では、3世代にわたってハッチバックには「スポーツ」の名が与えられた。さらにその前、『ファミリア』名義の最終モデルでは、ルーフレール付きのショートワゴン風のスタイリングの「Sワゴン」の名も。

歴史的にはFR最後の「X508」で2BOX化、その次のFF化初にして大ヒット作となった“赤いファミリア”は、2BOXの王道を行くクッキリとしたスタイルのクルマだった。ランダムにだが、こうして振り返ってみると、定番のセダンに対しハッチバック系は、より実生活に寄り添うクルマとして、時代に応じて自在に姿カタチを変えてきた……、そんな方針だったことがわかる。

◆圧巻のリアと巧みなデザイン処理

『マツダ3』に国内呼称も統一された今回の新型では、セダンに対し5ドアは“ファストバック”と呼ぶ。サブネームにしろ、車名でこう名乗った例はメジャーな車種ではあまり記憶がないけれど“意思”を感じる命名だ。

圧巻はやはりリヤまわりのデザインで、走行中、後続車から見たときの後ろ姿の路面を掴むようなスタンス、マッシブさは、アルファロメオの『ブレラ』を連想した次第。ルーフサイドに浅い窪みを作り、実際のルーフ高と横からの厚みをスリムに見せるなど巧みなデザイン処理も見逃せない。

◆安心感の高いポジションが取れるインテリア

インテリアはまずポジションがいいと感じた。ステアリングは太過ぎず“面”を設けた断面形状で握りやすい。またテレスコピックの調整量が増え適切なリーチが取りやすくなっている。それとシート。レポーターは試乗時は骨盤/股関節骨折後36週目の身だったが、座面の前端が持ち上げやすくなり、骨盤が後ろからしっかり支えられている安心感の高いポジションが取れた。

しかも(クルマのシートだから当然のことだが)運転中に身体がズレることなく、コーナリング時もさり気なくしっかりと支えてくれる点は評価したい。メーターは、いたずらにグラフィックに凝らず、クリーンで精緻な盤面のアナログメーターで見やすく好感が持てた。全体の上質感はまずまず。

デビューしたてだが、今後の希望として重箱の隅をつついておくと、グローブボックスの開閉フィーリング(より明らかな“ダンパー感”が欲しい)と内部が樹脂の打ちっ放しである点、運転席右手のレジスター(空調吹き出し口)の内部構造がスリットの間からすけて見えやすいこと(光を受けると見える平らな面がスリットの直後にある)、ドアアームレストのクッションの厚みが途中の段差の前後で違う(『CX-5』などもそう。後方は柔らか過ぎる)、ステアリングスイッチの上部の3段構造部分の“押し分け”が慣れないと難しい形状であること……、など。これらは次回の商品改良の項目に入っていると嬉しい。

◆「BOSE」オプションは納得の仕上がり

それと試乗車のオーディオにはおなじみのBOSEが装着されていたが、(BOSEに限らず)今回からドアスピーカーを止め前後ともボディ側(前=カウルサイド、後=Cピラートリム)にマウントした点が注目。さらにフロントには中音域を賄うスコーカーも備わる。

短時間ながら聴いた音は、目の前に音を定位させながら音場がとにかく広く、非ドアマウントの効果でしっかりと芯のある相当に力強い低音と、音源の細かな音まで表現してくれる解像度の高さを両立しているなど、オプション設定だが選べば納得のいく音質に仕上げられている、と思えた。

文字数が多くなってしまったので、このクルマの走りに関しての詳しくは別の方のレポートにお譲りしよう。短時間だが乗った僕の印象では、2リットルのガソリンエンジンを搭載する試乗車は、ステアリング操作に対し挙動が素直かつ軽やかで、街中でもスムースな身のこなしが楽しめるクルマだった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。


(レスポンス 島崎七生人)

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