【マツダ3 新型試乗】ファストバックは、ハッチバックの形をしたスポーツカーだ…工藤貴宏

マツダ3新型、ファストバック
◆美しい“デザイン”とクラスを超えた“質感”

美しいデザインだな。

『マツダ3』に触れるたびにそう思う。5ドアハッチバック(マツダは「ファストバック」と呼ぶ)の特徴的なCピラーはもちろんのこと、FFとは思えない伸びやかなボンネット、その先端にある低くてシャープなフロントマスクも実に端正である。

「あまりに整いすぎて親しみを持ちにくいよね。美しすぎる美人のような……」なんていう声も聞こえてくるけれど、マツダ3のような美しいクルマはやっぱり魅力的だ。

運転席に座ってみると、着座位置の低さに驚く。まるでスポーツカーのようである。マツダがこだわる最適なペダル配置はもちろん自然で、肌触りのいい革を張った真円のステアリングからも運転環境に対する愚直な姿勢が理解できる。

緻密に作り上げられたインパネの質感は驚くほど高く、とても300万円クラスのクルマには思えない。メーターパネルも機械式時計のような精度の高さをイメージさせ、オーナーは「いいものを買った感」に浸れるだろう。

◆マツダ3の真骨頂といえる素直な挙動

試乗車は2.0リットルのガソリンエンジンを積んだ5ドアハッチバック。地下駐車場で車両を受けとり、クルマをスタートさせた。

……あれ、車体が妙に揺れる。駐車場のコンクリート路面がほんのわずかにうねっているのだが、それにあわせて車体が上下動するのだ。「マツダ3は乗員が不快になりにくい挙動をする」とマツダからたくさん説明を受けたが、その理由のひとつが反応遅れなく伝わる挙動にあるという。もしかしたらこれも、そういった車体つくりによる影響なのかもしれない。そして、すぐに慣れた。

駐車場から出てクルマを走らせて気が付いたのは、ドライバーの運転操作に対してクルマの動きが素直なこと。具体的に言えば、わかりやすいのは車線変更時だ。ドライバーがハンドルを切るとクルマはスッと向きを変え、グラッとするような不安定な挙動もない。車線を移って直進状態に戻るときは、ステアリングの戻しがスパッと一発で決まり、修正がまったく必要ないのだから素晴らしい。タイヤがしっかりと接地して任された仕事をしているから、ハンドルの切りすぎなどがなく、その結果として修正や微調整が最小限で済むのだ。

どこまでがマツダ3の車体やサスペンションによる効果でどこまでが電子的に車体の動きをスムーズにするGVCプラス(Gベクタリングコントロールプラス)の効果なのかは確かめようがない(結論的には相乗効果なのだろう)が、とにもかくにもステアリング操作に対してピタッと決まる素直な動きは素晴らしく、これがマツダ3の真骨頂だ。

これは車線変更だけでなくコーナリングも同様で、ドライバーが狙ってハンドルを操作した通りにクルマが動き、旋回中や直進に戻る際のハンドルの修正が驚くほど少ない。マツダ3のハンドリングの爽快さの理由は、そういった基本的なことなのだ。

◆クルマ好きも、ファミリーも満足できる極めて魅力的なクルマ

マツダ3は、ハッチバックの形をしたスポーツカーだと思う。美しいスタイリング、高品質に凝ったインテリア、低い着座位置とこだわりのドライビングポジション、そして爽快で楽しい走り。それらはクルマ好きを満足させるものだ。そのうえファミリーでも不自由なく使える居住スペースを備えていると考えれば、きわめて魅力的なクルマである。

確かに、一部で指摘されているように、太いCピラーと小さなリヤドアウインドウは斜め後方視界を悪くしている。しかし、通常の車線変更や斜め後方確認時は気にならず、見通しが悪くなるのは駐車場などからバックで出るときの後方左右確認程度。その際は、全車に標準装備するリヤビューモニター(バック出庫時に横から近づいてくる物体があれば検知して警報する機能も備える)が視界を補ってくれるから「リヤビューモニターなんて使わないし認めない」という頑固なドライバーでなければ問題ない。

ところで、2.0リットルのガソリンエンジンはトルクもしっかりとあってスムーズ。高回転が極めて気持ちいいなどの強い個性はないが、動力性能も十分で「いいクルマ」の黒子役に徹している印象だ。マツダ3の車体の新しい世界観に見合う個性をパワートレインに求めるのなら、それは遅れて登場する「スカイアクティブX(SKYACTIV-X)」待ちということだろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

工藤貴宏|モータージャーナリスト
小学校高学年から自動車雑誌を読みはじめ、1日でも早く運転したくて18歳誕生日の翌日には仮免許を取得したクルマ好き。大学在学中から自動車雑誌でアルバイトを始め、自動車専門誌編集部在籍後、編集プロダクションを経てフリーランスライターに。愛車はディーゼルエンジンを積んだSUVとフランス製ホットハッチ。

(レスポンス 工藤貴宏)

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