【マツダ3 SKYACTIV-X 新型試乗】執念の新エンジンに“70万円分”のユーザーベネフィットはあるか…中村孝仁

マツダ3 SKYACTIV-X(Lパッケージ)
◆マツダ執念の新エンジン「SKYACTIV-X」

思うにマツダのエンジニアは相当に執念深いというかしつこい。ロータリーの時もそうだった。他のどのメーカーもモノに出来なかったものをモノにした。

今回のSPCCIも同じ。夢のエンジンなどといわれ、恐らく多くのメーカーも実験段階まではやっているのではないかと思うのだが、それをモノにしてしまう執念は、きっとマツダのエンジニアには敵わないのだろう。詳しく説明するときりもないし、正直言えばこっちだってあまり良く分かっていないのだと思う。

しかし、ディーゼルの自然着火をガソリンエンジンでやってしまおうというのが大前提の話だ。すると、ディーゼルのような高トルクを持ちガソリンのような高回転まで軽くスムーズな回転フィールを持つエンジンが出来上がる…と言うのがSPCCIの目指したところなのだと思う。

◆妖艶なスタイルと、美しさを兼ね備えたインテリア


それ以前に新しい『マツダ3 ファストバック』のスタイルは妖艶で、街中でも遭遇すると未だに振り返ってしまう。さらにインテリアの作りは最早ハイエンドと言っても差し支えない上質さと美しさを兼ね備える。Cセグメントのハイエンドと言えばメルセデス『Aクラス』やBMW『1シリーズ』、それにアウディ『A3』が該当すると思うが、ことインテリアの出来栄えと装備はマツダが一番のように感じる。

とにかくビジネスライクなところがどこにもない。この種の出来栄えはきっとヨーロッパの人にはわかってもらえそうな気がする。ただ、アメリカ人にはどうやらわかってもらえていない。2019年もここまでほとんどの月で対前年比マイナスである。


勿論「SKYACTIV-X」が導入されていないという事情もあるだろう。このエンジン、冒頭に書いたようにいわゆる夢のエンジンである。ただし、その夢はエンジニアにとっての夢のエンジンだ。個人的な思いを書かせていただくと、2リットルのキャパシティーがあれば、パワーは280ps、トルクは400Nm欲しかった。しかし現実はと言うと180ps、224Nmである。

普通の2リットルガソリンエンジンが156ps、199Nm。1.8リットルのターボディーゼルが116ps、270Nm。今時のヨーロッパ製ダウンサイジングターボエンジンには性能的にとてもかなわないし、マツダの普通のガソリンエンジンと比べても素晴らしく顕著にパワフル、トルクフルというわけでもない。かといってディーゼルと遜色ないトルクかと言うと劣る。マツダの2.2リットルターボディーゼルは190ps、450Nmだ。

というわけでこのあたりの性能を期待していたのだが、残念ながら期待外れである。

◆70万円分のユーザーベネフィットがあるか


ではその走りはどうだったか。エンジン音は顕著に小さい。ボンネットを覗くと見事にエンジンを覆い隠すプラスチック製のカバーが掛けられている。聞けばやはりノック音が出るのでその対策だということだが、おかげでそうした音もほとんど耳に届くこともなく、高回転に回していくと遠雷のようにかなたで聞こえるサウンドになる。このあたりの音質感も上質に仕上げられているからこのクルマのキーワードはまさに「上質」が相応しい。

賛否が分かれるトーションビームを用いたリアアクスルであるが、実際に走ってみると少し突き上げ感を感じる足回りで全体としては結構締め上げられたアスリート感たっぷりの乗り味を持っている。凹凸をいなすという感触ではなく、まさに強行突破の方向性だ。ただ、それが他のライバルと比べて乗り心地で劣っているかと言えばそんなことはない。


このクルマ、実はベルトドライブのスタータージェネレーターを備えたマイルドハイブリッドシステムを持つ。ヨーロッパと違い何と24Vのシステム。この方が適切だとマツダは言うが、ワンアンドオンリーのものは絶対に高価なはずで、何故48Vを採用しなかったのかわからない。それでも24Vの方が安いというなら、それはそれで構わないのだが敢えて他と違わせたのならば勿体ない。それでもエンジンの始動はほとんどわからず、発進の滑らかさは極上である。

とまあ、良さは十分に理解できる。 しかし、ノーマルガソリンエンジンのSKYACTIV-GとSKYACTIV-Xエンジンとの価格差はおおよそ70万円だという。性能面で果たして70万円分のユーザーベネフィットがあるかと聞かれたら、答えはノーだ。だから一般ユーザーはきっと興味本位でSPCCIに乗ってみたいというユーザー以外は多分取り込めない。

大いに期待してSPCCIのクルマを欲しいと思っていた僕だったが、やはりやめておくことにする。実は同時に試乗した1.5リットルを搭載するファストバックが実によくできていて、流石に「Lパッケージ」が存在しないので、Lパッケージほどの上質感はないものの、マツダ3の良さはこのクルマで堪能できる。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める

(レスポンス 中村 孝仁)

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