【三菱 アウトランダーPHEV 650km試乗】三菱SUVのDNA色濃く、長く乗るには良いモデル
三菱自動車のプラグインハイブリッドSUV『アウトランダーPHEV』を650kmほど走らせる機会があったので、インプレッションをお届けする。
アウトランダーPHEVは電動化に社運をかけた三菱自動車が2013年1月に販売開始されたモデルで、現在はデビュー後8年目。当初は排気量2リットルエンジンを使ったシリーズハイブリッドベースだったが、2018年に一度大がかりなシステム改良を受けており、現在は排気量2.4リットルのミラーサイクルエンジン(94kW/199Nm)が主原動機。
前後輪に1基ずつ、2機の電気モーターを装備した電動AWD(4輪駆動)システムも、構成自体はデビュー当初と同じだが、エンジン換装時に後輪用モーターの出力が増強されている。バッテリー総容量は13.8kWhと、こちらも15%ほど引き上げられた。
試乗ルートは首都圏近郊の都市走行、および日光の先の湯西川・奥鬼怒方面で、総走行距離は645.9km。道路比率は市街地4、郊外路3、高速1、山岳路2。道路コンディションはドライ5:ウェット5。1~2名乗車。エアコンAUTO。
まず、アウトランダーPHEVの長所と短所を5項目ずつ挙げてみよう。
■長所
1.初期型に比べて乗り心地、静粛性が大きく向上した。
2.力感豊かでスムーズな電動パワートレイン。
3.道幅の狭い山岳路も一向に苦にならない高い敏捷性。
4.クルマの四隅が手に取るようにわかる車両感覚のつかみやすさと小回り性能の高さ。
5.ガソリン走行でも良好な燃費。
■短所
1.500万円級のモデルらしさを出すには質感をもっと高めたい。
2.急速充電の最大電流が60アンペアしか出ず、充電量が伸びない。
3.車格を考えるとステアリング介入型の安全装置が欲しい。
4.エクステリアデザインがやや没個性的。
5.1と関連するが価格。
◆あらためて実感したクルマとしての素性のよさ
では、インプレッションに入っていこう。まず、テストドライブを兼ねたツーリングのトータルの印象だが、デビュー当初に比べてずいぶん良くなったものだというのが率直な感想。初期、中期モデルに対して乗り心地、静粛性、燃費&電費等々、多くのファクターについて長足の進歩を見ていた。ドライブフィールは電動車ならではのハイテク感が増し、他のクルマとは違うというオーナーの満足感向上に一役買いそうだった。
今回のツーリングであらためて実感されたプラス部分もあった。それは車両感覚が驚異的につかみやすいことと、小回り性能の高さ。とくに車両感覚はボンネットが見えているフロントだけでなく、車幅、ボディのリアエンドなどの距離感も手に取るようにわかるほど。ボディサイズは全長4.7m、全幅1.81mと結構大柄なのだが、オンロードでは5ナンバー車を走らせているような気軽さがあった。
ネガティブ面は性能とは関係ない質感部分、および運転支援システムに集中する。内装のトリムレベルやデコレーションは全般的に500万円近くという価格に見合っておらずチープだ。運転支援システムは一応現代的な機能を備えているが、今や軽自動車にもステアリング介入型の走行アシスト機能が備えられはじめていることを考えると、商品力強化のためにももう一息レベルアップさせてほしいところだった。
◆改良モデルで洗練されたパワートレイン
では、要素別に詳しくみていこう。まずは操縦性、快適性、ドライブフィールから。もともとアウトランダーPHEVの電動AWDは走りの面では非常に良いものを持っていた。これにサスペンションセッティングの変更によるものとおぼしきフラット感の高い乗り心地と静粛性の向上が加わったことで、乗り味が一気に高級になったという感があった。
最も気持ちが良いのは高速道路やバイパスのクルーズ。大小のアンジュレーション、ワダチなどを踏んでもサスペンションがゆるゆると動き、クルマの進路が乱されずばく進するという、重量級SUVのお手本のようなフィールだった。アウトランダーはミニバン『デリカD:5』と同じプラットフォームを使いながら、こういうクルーズフィールの鷹揚さではD:5に後れを取っていたが、改良型で追いついたと言える。
普通、こういう直進性重視のセッティングをするとワインディングでの機敏さが落ちるものだが、アウトランダーPHEVはそれを電動AWDでうまくカバーしていた。奥日光湯西川から霧降高原にかけては雨のワインディングロードであったが、走行状態に応じた駆動力配分の制御は電動パワートレインらしく非常に機敏で、プッシングアンダーが出ることも後輪が張り出しすぎることもなく、ニュートラルに近い操縦性が保たれた。
前後にモーターを持つその電動パワートレインだが、基本構成はデビュー当初と変わっていないものの、フィーリング的にはかなり洗練されたものとなった。クルマの性能とは関係ないのだが、まずもってサウンドがかっこいい。発進加速時に減速ギア比の異なる前後のモーターのインバーター音が共鳴して聞こえるのは、最新の電車に乗っているかのようでちょっと気分が上がるポイントだった。
電気モーターの出力は前後合計で130kW(177ps)。自重は1.9トンと非常に重いが、エレクトリックでこれだけのパワーがあれば十分な加速を得られる。初期型ではバッテリー出力のみで加速できるのはバッテリー残量が十分にある状態でも出力70kWくらいまでであったが、改良型ではバッテリー増載がプラスに出たか、もっと深いスロットルの踏み込みでもエンジンをかけずに加速することが可能であった。
エンジンは2.4リットルに排気量拡大されたが、その恩恵はエンジンが発電を行うときの回転数の低下による静粛性向上、および燃費向上に効いているように感じられた。奥日光の山岳路ドライブはプラグイン充電の助けを借りない純ハイブリッド状態で行ったが、満タン法による実測燃費値は16.0km/リットル。標高1440mの霧降高原への駆け上がりも含め、厳しいルートであったことを思えば、御の字以上の経済性と言える。
計測はしていないが、郊外路のロングランでは20km/リットル近い燃費でドライブできる感触はあった。通常走行時にエンジンがかかったときの静粛性も2リットル時代に比べて飛躍的にアップしており、エンジン起動でがっかりするような感覚は大幅に薄まった。
◆急速充電時のパフォーマンス
日光ツーリング以外の区間では急速充電を利用してEVとしてのパフォーマンスも見てみた。まずは電池の利用範囲だが、EV走行からハイブリッド走行に切り替わった後、充電器につないだときのバッテリー残量は毎回、30%前後であった。ホンダ『クラリティPHEV』、トヨタ『プリウスPHV』が10%前後であったことを考えると相当に保守的な設定と言える。
急速充電器を使っての充電だが、電流の値が最も高い充電開始時で60アンペアがリミットであるようだった。そのときの充電電圧はおおむね310ボルトだったので、受電電力は18.6kWという計算になる。現在配備されているCHAdeMO急速充電器は最大出力90kWから10kWまでいろいろなタイプがあるが、電流60アンペアを得られる25kW充電器以上であれば、最大出力によらず同じ充電パフォーマンスになるはずである。
実際に充電してみたところ、50kW機(高速道路のサービスエリアやホンダディーラーに多い)、44kW機(日産ディーラーに多い)、30kW(三菱自ディーラーや道の駅などに多い)機では充電電力量はほとんど同じで、30分で7.4~7.6kWhであった。今回はクルマの性能を見るため各回とも30分きっちり充電したが、急速充電を使う場合、30分粘る意味は薄いものと思われた。時間の経過とともに電流値が低下し、充電速度が落ちていくからだ。
充電開始から15分くらいまでは60アンペアが維持され、その後は次第に電流が落ちていく。が、落ち始めてもバッテリーの充電率が高くなるにつれて電圧が上昇するので、しばらくは充電ペースは保たれる。体感的には20分くらいが急速充電の価値が保たれる境界線で、おおむね6kWh充電される。その先は急激に電流が落ち、30分の終了間際は18アンペアくらいしか流れなくなる。残りの10分間で充電可能なのはそれまでの半分の1.5kWh前後だった。最大電流が50アンペアしか得られない出力20kW機(コンビニに設置例が多い)だが、前述の高速機に対して思ったより健闘し、充電電力量は10分で2.9kWh、20分で5.6kWh、30分で7kWhだった。
◆ハイブリッドに対する優位性は
このパフォーマンスはPHEVとしては不満が残る。最大電流82アンペアを得られ、コンディションの影響は少々大きいものの30分で最大12kWh近くを充電できたクラリティPHEV、最大電流は50アンペアと小さいものの充電電圧が360ボルト前後と結構高く、18分で5kWh以上を充電できたプリウスPHVに対して見劣りする。
三菱自のEVユーザー向けサービス「電動車両サポート」を使った場合、三菱自ディーラーでチャージすれば1分5円、20分で税込み110円、高速道路や道の駅などでは1分8円、20分で税込み176円で6kWhほど充電できることになるので、ドライブ途中での充電の意味はなくはない。今回のドライブでのアウトランダーPHEVの実電費は都市走行が4.5km/kWh、郊外路が5.9~6.4km/kWhだったので、ロングランで一息入れるあいだに充電という使い方はハイブリッド走行とのコスト比較でも優位に立てる計算になる。
それでも、PHEVが普通のハイブリッドカーに対して環境性能面で優位に立てるのは外部電源からの充電による走行時だけであることを考えると、急速充電受け入れ性は向上させてほしいところだ。自宅での100%充電スタートであればEVとし50kmくらい走行できるので、バッテリー搭載量は現状でとりあえず満足できる。
問題はやはり急速充電時の遅さ。同社のEV『i-MiEV』の中で今はディスコンになった短距離用「M」グレードで、容量は小さいが急速充電受け入れ性が高い東芝のチタン酸リチウムイオン電池を実装した実績を持つ。この電池はアウトランダーPHEVの倍の120Aを流しても大丈夫なうえ、充電率が高まっても電流をそれほど絞る必要がないため、はるかに短い時間で同じ充電電力量を稼げる。次期型ではぜひ充電受け入れ性と高耐久性を両立させられるバッテリーセルを使ってほしい。そうすればPHEVの魅力は飛躍的に上がるであろう。
◆課題は価格に見合った質感
インテリア、居住性、装備に話を移す。アウトランダーPHEVは大型のバッテリーパックを積むため、ガソリンモデルのような3列シート配列はなく、2列のみ。だが、5人乗りとしてみると居住感は非常に良く、大型乗用車的な使い方をしても十二分に満足の行くパッケージングだった。
リアシートは座面がしっかり高く取られており、眺望は非常に良い。フロントシートはタッチが良く、長時間走行でもシートと体の接触部分がうっ血気味にならずにすんだ。SUVの気持ちよいパッケージングとはどのようなものかということをよく知る三菱自らしい仕立てである。荷室はバッテリーパックに食われて深さはないが奥行きは十分。もともと3列配置が可能なキャビン長を持つので、かなりの大荷物を積むカスタマーでも容量に不満を覚えるケースは少ないであろう。
内装の不満点は質感に集中する。質実剛健に作られてはいるのだが、中心価格帯が400万円台後半という車格に見合ったデコレーションは正直できていない。バッテリーをはじめ、高価な部品を満載しているPHEVはどうしてもコスト的にきつくなるのだが、ブランド力向上のためには頑張ってほしいところだ。
たとえばダッシュボードをはじめとする樹脂の内張りのグレーの色調がベーシックカーのように無味乾燥。シートやドアトリムはダイヤモンドステッチをあしらうなどしているが、背面の縫い目は形が雑になりやすい袋縫い(生地をシングルステッチで縫い合わせてから裏返す)と、これまた低価格車と変わらない。前後席のサイドシルにはイルミネーション付きのスカッフプレートくらいついていてもバチは当たらないだろう。
高価なSUVだけあって、PHEV部分以外も上等なものだなと顧客にちょっとでも感じさせるような仕立てであれば、乗り味は上質なだけに、もっと人気を獲得できた可能性は大いにある。あるいは下位モデルの『RVR』のように力強いフロントフェイスデザインやフェンダーアーチモールでSUVらしさを強調し、そっけなさを質実剛健と見てもらえるようにするか。
運転支援システムは前車追従クルーズコントロール、誤発進抑制、車線逸脱警報、歩行者検知型衝突被害軽減ブレーキ、ハイ/ロービーム自動切換えなど、最低限のものは揃っている。が、価格帯を考えると十分とは言い難いように感じられた。昼夜間自転車、二輪車検出ブレーキ、可変配光型のアクティブハイビーム、ステアリング介入型の車線逸脱防止等々、より先進的な機能が求められる。
◆まとめ
ストロークの長いサスペンションを生かした実にSUVらしいドライブフィール、電動パワートレインの気持ちよい加速感、乗り心地の良さなど、三菱SUVのDNAを色濃く感じさせるハードウェアの熟成ぶりを見せた改良型アウトランダーPHEV。運転支援システムが現代の高価格車の標準に達していないこと、内装が質感不足であることといったネガはあるが、クルマの中身さえ良ければいい、あるいはSUVなのだから質実剛健が当たり前と考えるカスタマーにとってはなかなか魅力的なモデルになったように思う。
電動SUVという得意なキャラクターであるだけにライバルは少ない。PHEVというくくりではトヨタ『プリウスPHV』、ホンダ『クラリティPHEV』がライバルだが、どちらもほとんど競合しないであろう。競合しそうなのはむしろ非プラグイン型のCDセグメントハイブリッド。トヨタ『RAV4』、ホンダ『CR-V』がこれにあたる。対抗馬としてド本命なのは今夏の登場が予想されているRAV4 PHVであろう。
昨年の東京モーターショーで三菱自はコンセプトカー「MITSUBISHI ENGELBERG TOURER」を日本初公開している。詳細は不明なれど、次期アウトランダーのスタディは確実に進んでおり、そう遠くない将来、フルモデルチェンジされるであろう。次期型がどういう進化を遂げるかということについてはいやがうえにも関心がわくところであるが、なかなかどうして現行の改良型モデルも、長く乗るには良いモデルなのではないかと思った次第であった。
(レスポンス 井元康一郎)
アウトランダーPHEVは電動化に社運をかけた三菱自動車が2013年1月に販売開始されたモデルで、現在はデビュー後8年目。当初は排気量2リットルエンジンを使ったシリーズハイブリッドベースだったが、2018年に一度大がかりなシステム改良を受けており、現在は排気量2.4リットルのミラーサイクルエンジン(94kW/199Nm)が主原動機。
前後輪に1基ずつ、2機の電気モーターを装備した電動AWD(4輪駆動)システムも、構成自体はデビュー当初と同じだが、エンジン換装時に後輪用モーターの出力が増強されている。バッテリー総容量は13.8kWhと、こちらも15%ほど引き上げられた。
試乗ルートは首都圏近郊の都市走行、および日光の先の湯西川・奥鬼怒方面で、総走行距離は645.9km。道路比率は市街地4、郊外路3、高速1、山岳路2。道路コンディションはドライ5:ウェット5。1~2名乗車。エアコンAUTO。
まず、アウトランダーPHEVの長所と短所を5項目ずつ挙げてみよう。
■長所
1.初期型に比べて乗り心地、静粛性が大きく向上した。
2.力感豊かでスムーズな電動パワートレイン。
3.道幅の狭い山岳路も一向に苦にならない高い敏捷性。
4.クルマの四隅が手に取るようにわかる車両感覚のつかみやすさと小回り性能の高さ。
5.ガソリン走行でも良好な燃費。
■短所
1.500万円級のモデルらしさを出すには質感をもっと高めたい。
2.急速充電の最大電流が60アンペアしか出ず、充電量が伸びない。
3.車格を考えるとステアリング介入型の安全装置が欲しい。
4.エクステリアデザインがやや没個性的。
5.1と関連するが価格。
◆あらためて実感したクルマとしての素性のよさ
では、インプレッションに入っていこう。まず、テストドライブを兼ねたツーリングのトータルの印象だが、デビュー当初に比べてずいぶん良くなったものだというのが率直な感想。初期、中期モデルに対して乗り心地、静粛性、燃費&電費等々、多くのファクターについて長足の進歩を見ていた。ドライブフィールは電動車ならではのハイテク感が増し、他のクルマとは違うというオーナーの満足感向上に一役買いそうだった。
今回のツーリングであらためて実感されたプラス部分もあった。それは車両感覚が驚異的につかみやすいことと、小回り性能の高さ。とくに車両感覚はボンネットが見えているフロントだけでなく、車幅、ボディのリアエンドなどの距離感も手に取るようにわかるほど。ボディサイズは全長4.7m、全幅1.81mと結構大柄なのだが、オンロードでは5ナンバー車を走らせているような気軽さがあった。
ネガティブ面は性能とは関係ない質感部分、および運転支援システムに集中する。内装のトリムレベルやデコレーションは全般的に500万円近くという価格に見合っておらずチープだ。運転支援システムは一応現代的な機能を備えているが、今や軽自動車にもステアリング介入型の走行アシスト機能が備えられはじめていることを考えると、商品力強化のためにももう一息レベルアップさせてほしいところだった。
◆改良モデルで洗練されたパワートレイン
では、要素別に詳しくみていこう。まずは操縦性、快適性、ドライブフィールから。もともとアウトランダーPHEVの電動AWDは走りの面では非常に良いものを持っていた。これにサスペンションセッティングの変更によるものとおぼしきフラット感の高い乗り心地と静粛性の向上が加わったことで、乗り味が一気に高級になったという感があった。
最も気持ちが良いのは高速道路やバイパスのクルーズ。大小のアンジュレーション、ワダチなどを踏んでもサスペンションがゆるゆると動き、クルマの進路が乱されずばく進するという、重量級SUVのお手本のようなフィールだった。アウトランダーはミニバン『デリカD:5』と同じプラットフォームを使いながら、こういうクルーズフィールの鷹揚さではD:5に後れを取っていたが、改良型で追いついたと言える。
普通、こういう直進性重視のセッティングをするとワインディングでの機敏さが落ちるものだが、アウトランダーPHEVはそれを電動AWDでうまくカバーしていた。奥日光湯西川から霧降高原にかけては雨のワインディングロードであったが、走行状態に応じた駆動力配分の制御は電動パワートレインらしく非常に機敏で、プッシングアンダーが出ることも後輪が張り出しすぎることもなく、ニュートラルに近い操縦性が保たれた。
前後にモーターを持つその電動パワートレインだが、基本構成はデビュー当初と変わっていないものの、フィーリング的にはかなり洗練されたものとなった。クルマの性能とは関係ないのだが、まずもってサウンドがかっこいい。発進加速時に減速ギア比の異なる前後のモーターのインバーター音が共鳴して聞こえるのは、最新の電車に乗っているかのようでちょっと気分が上がるポイントだった。
電気モーターの出力は前後合計で130kW(177ps)。自重は1.9トンと非常に重いが、エレクトリックでこれだけのパワーがあれば十分な加速を得られる。初期型ではバッテリー出力のみで加速できるのはバッテリー残量が十分にある状態でも出力70kWくらいまでであったが、改良型ではバッテリー増載がプラスに出たか、もっと深いスロットルの踏み込みでもエンジンをかけずに加速することが可能であった。
エンジンは2.4リットルに排気量拡大されたが、その恩恵はエンジンが発電を行うときの回転数の低下による静粛性向上、および燃費向上に効いているように感じられた。奥日光の山岳路ドライブはプラグイン充電の助けを借りない純ハイブリッド状態で行ったが、満タン法による実測燃費値は16.0km/リットル。標高1440mの霧降高原への駆け上がりも含め、厳しいルートであったことを思えば、御の字以上の経済性と言える。
計測はしていないが、郊外路のロングランでは20km/リットル近い燃費でドライブできる感触はあった。通常走行時にエンジンがかかったときの静粛性も2リットル時代に比べて飛躍的にアップしており、エンジン起動でがっかりするような感覚は大幅に薄まった。
◆急速充電時のパフォーマンス
日光ツーリング以外の区間では急速充電を利用してEVとしてのパフォーマンスも見てみた。まずは電池の利用範囲だが、EV走行からハイブリッド走行に切り替わった後、充電器につないだときのバッテリー残量は毎回、30%前後であった。ホンダ『クラリティPHEV』、トヨタ『プリウスPHV』が10%前後であったことを考えると相当に保守的な設定と言える。
急速充電器を使っての充電だが、電流の値が最も高い充電開始時で60アンペアがリミットであるようだった。そのときの充電電圧はおおむね310ボルトだったので、受電電力は18.6kWという計算になる。現在配備されているCHAdeMO急速充電器は最大出力90kWから10kWまでいろいろなタイプがあるが、電流60アンペアを得られる25kW充電器以上であれば、最大出力によらず同じ充電パフォーマンスになるはずである。
実際に充電してみたところ、50kW機(高速道路のサービスエリアやホンダディーラーに多い)、44kW機(日産ディーラーに多い)、30kW(三菱自ディーラーや道の駅などに多い)機では充電電力量はほとんど同じで、30分で7.4~7.6kWhであった。今回はクルマの性能を見るため各回とも30分きっちり充電したが、急速充電を使う場合、30分粘る意味は薄いものと思われた。時間の経過とともに電流値が低下し、充電速度が落ちていくからだ。
充電開始から15分くらいまでは60アンペアが維持され、その後は次第に電流が落ちていく。が、落ち始めてもバッテリーの充電率が高くなるにつれて電圧が上昇するので、しばらくは充電ペースは保たれる。体感的には20分くらいが急速充電の価値が保たれる境界線で、おおむね6kWh充電される。その先は急激に電流が落ち、30分の終了間際は18アンペアくらいしか流れなくなる。残りの10分間で充電可能なのはそれまでの半分の1.5kWh前後だった。最大電流が50アンペアしか得られない出力20kW機(コンビニに設置例が多い)だが、前述の高速機に対して思ったより健闘し、充電電力量は10分で2.9kWh、20分で5.6kWh、30分で7kWhだった。
◆ハイブリッドに対する優位性は
このパフォーマンスはPHEVとしては不満が残る。最大電流82アンペアを得られ、コンディションの影響は少々大きいものの30分で最大12kWh近くを充電できたクラリティPHEV、最大電流は50アンペアと小さいものの充電電圧が360ボルト前後と結構高く、18分で5kWh以上を充電できたプリウスPHVに対して見劣りする。
三菱自のEVユーザー向けサービス「電動車両サポート」を使った場合、三菱自ディーラーでチャージすれば1分5円、20分で税込み110円、高速道路や道の駅などでは1分8円、20分で税込み176円で6kWhほど充電できることになるので、ドライブ途中での充電の意味はなくはない。今回のドライブでのアウトランダーPHEVの実電費は都市走行が4.5km/kWh、郊外路が5.9~6.4km/kWhだったので、ロングランで一息入れるあいだに充電という使い方はハイブリッド走行とのコスト比較でも優位に立てる計算になる。
それでも、PHEVが普通のハイブリッドカーに対して環境性能面で優位に立てるのは外部電源からの充電による走行時だけであることを考えると、急速充電受け入れ性は向上させてほしいところだ。自宅での100%充電スタートであればEVとし50kmくらい走行できるので、バッテリー搭載量は現状でとりあえず満足できる。
問題はやはり急速充電時の遅さ。同社のEV『i-MiEV』の中で今はディスコンになった短距離用「M」グレードで、容量は小さいが急速充電受け入れ性が高い東芝のチタン酸リチウムイオン電池を実装した実績を持つ。この電池はアウトランダーPHEVの倍の120Aを流しても大丈夫なうえ、充電率が高まっても電流をそれほど絞る必要がないため、はるかに短い時間で同じ充電電力量を稼げる。次期型ではぜひ充電受け入れ性と高耐久性を両立させられるバッテリーセルを使ってほしい。そうすればPHEVの魅力は飛躍的に上がるであろう。
◆課題は価格に見合った質感
インテリア、居住性、装備に話を移す。アウトランダーPHEVは大型のバッテリーパックを積むため、ガソリンモデルのような3列シート配列はなく、2列のみ。だが、5人乗りとしてみると居住感は非常に良く、大型乗用車的な使い方をしても十二分に満足の行くパッケージングだった。
リアシートは座面がしっかり高く取られており、眺望は非常に良い。フロントシートはタッチが良く、長時間走行でもシートと体の接触部分がうっ血気味にならずにすんだ。SUVの気持ちよいパッケージングとはどのようなものかということをよく知る三菱自らしい仕立てである。荷室はバッテリーパックに食われて深さはないが奥行きは十分。もともと3列配置が可能なキャビン長を持つので、かなりの大荷物を積むカスタマーでも容量に不満を覚えるケースは少ないであろう。
内装の不満点は質感に集中する。質実剛健に作られてはいるのだが、中心価格帯が400万円台後半という車格に見合ったデコレーションは正直できていない。バッテリーをはじめ、高価な部品を満載しているPHEVはどうしてもコスト的にきつくなるのだが、ブランド力向上のためには頑張ってほしいところだ。
たとえばダッシュボードをはじめとする樹脂の内張りのグレーの色調がベーシックカーのように無味乾燥。シートやドアトリムはダイヤモンドステッチをあしらうなどしているが、背面の縫い目は形が雑になりやすい袋縫い(生地をシングルステッチで縫い合わせてから裏返す)と、これまた低価格車と変わらない。前後席のサイドシルにはイルミネーション付きのスカッフプレートくらいついていてもバチは当たらないだろう。
高価なSUVだけあって、PHEV部分以外も上等なものだなと顧客にちょっとでも感じさせるような仕立てであれば、乗り味は上質なだけに、もっと人気を獲得できた可能性は大いにある。あるいは下位モデルの『RVR』のように力強いフロントフェイスデザインやフェンダーアーチモールでSUVらしさを強調し、そっけなさを質実剛健と見てもらえるようにするか。
運転支援システムは前車追従クルーズコントロール、誤発進抑制、車線逸脱警報、歩行者検知型衝突被害軽減ブレーキ、ハイ/ロービーム自動切換えなど、最低限のものは揃っている。が、価格帯を考えると十分とは言い難いように感じられた。昼夜間自転車、二輪車検出ブレーキ、可変配光型のアクティブハイビーム、ステアリング介入型の車線逸脱防止等々、より先進的な機能が求められる。
◆まとめ
ストロークの長いサスペンションを生かした実にSUVらしいドライブフィール、電動パワートレインの気持ちよい加速感、乗り心地の良さなど、三菱SUVのDNAを色濃く感じさせるハードウェアの熟成ぶりを見せた改良型アウトランダーPHEV。運転支援システムが現代の高価格車の標準に達していないこと、内装が質感不足であることといったネガはあるが、クルマの中身さえ良ければいい、あるいはSUVなのだから質実剛健が当たり前と考えるカスタマーにとってはなかなか魅力的なモデルになったように思う。
電動SUVという得意なキャラクターであるだけにライバルは少ない。PHEVというくくりではトヨタ『プリウスPHV』、ホンダ『クラリティPHEV』がライバルだが、どちらもほとんど競合しないであろう。競合しそうなのはむしろ非プラグイン型のCDセグメントハイブリッド。トヨタ『RAV4』、ホンダ『CR-V』がこれにあたる。対抗馬としてド本命なのは今夏の登場が予想されているRAV4 PHVであろう。
昨年の東京モーターショーで三菱自はコンセプトカー「MITSUBISHI ENGELBERG TOURER」を日本初公開している。詳細は不明なれど、次期アウトランダーのスタディは確実に進んでおり、そう遠くない将来、フルモデルチェンジされるであろう。次期型がどういう進化を遂げるかということについてはいやがうえにも関心がわくところであるが、なかなかどうして現行の改良型モデルも、長く乗るには良いモデルなのではないかと思った次第であった。
(レスポンス 井元康一郎)
最新ニュース
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
-
-
佐藤琢磨が往年のホンダF1で走行、エンジン始動イベントも…東京オートサロン2025
2024.12.19
-
-
-
レクサス『LC500』が一部改良、床下ブレース採用でボディ剛性を向上…1488万円から
2024.12.19
-
-
-
「ネーミング通りの雰囲気」トヨタの新型電動SUV『アーバンクルーザー』発表に、日本のファンも注目
2024.12.19
-
-
-
スバル『フォレスター』新型、米IIHSの最高安全評価「TOP SAFETY PICK+」獲得
2024.12.19
-
-
-
ジープ『V6ラングラー』に8速AT復活…米国での人気に応える
2024.12.19
-
-
-
時代は変わった! 24時間営業や純水洗車も、進化するコイン洗車場の全貌~Weeklyメンテナンス~
2024.12.19
-
最新ニュース
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
-
-
佐藤琢磨が往年のホンダF1で走行、エンジン始動イベントも…東京オートサロン2025
2024.12.19
-
-
-
レクサス『LC500』が一部改良、床下ブレース採用でボディ剛性を向上…1488万円から
2024.12.19
-
-
-
「ネーミング通りの雰囲気」トヨタの新型電動SUV『アーバンクルーザー』発表に、日本のファンも注目
2024.12.19
-
-
-
スバル『フォレスター』新型、米IIHSの最高安全評価「TOP SAFETY PICK+」獲得
2024.12.19
-
-
-
ジープ『V6ラングラー』に8速AT復活…米国での人気に応える
2024.12.19
-
MORIZO on the Road