トヨタ ヤリスクロス 新型試乗 ヤリスとの違いは見た目だけじゃない!SUVとしての完成度に驚く…岡本幸一郎

トヨタ ヤリスクロス(プロトタイプ)
◆小さなサイズにSUVらしさ詰め込んだ『ヤリスクロス』

初めて実車と対面した『ヤリスクロス』は、『ヤリス』よりもひとまわり大きいぐらいのコンパクトなサイズながら、しっかりと地に足のついた存在感のあるデザインだなというのが第一印象だ。ボディパネルに極力ラインを入れなかったそうだが、とはいえとても表情豊かな構成で、写真からイメージしていたよりもリアフェンダーが大きく張り出していたことにも驚いた。

さらには大径タイヤやアンダーボディに大胆に配された材着パーツの面積がかなり広いことも効いて、都会的でありながらSUVらしいロバスト(頑強さ)も感じらせる。小さなサイズの中にいろいろな要素が詰め込まれている。

車高はそれほど高くなく、クーペのようなプロポーションでありながら意外と室内空間や荷室が広そうに見えたのだが、まさしくそのとおり。ヤリスほどキャビンを絞り込んでいないため前後席とも頭まわりに余裕があり、後席はヒップポイントが20mm高められながらも頭上のクリアランスが増していて、荷室容量もクラストップレベルの390リットルを確保したというから大したものだ。

インテリアの雰囲気はヤリスとの共通性が高いが、縦方向を強調したセンター部のつくりや凝ったシートの柄もあって、心なしか格上に感じられる。


◆Bセグで快挙!なパワーシートに、こだわりの荷室

装備面でもヤリスになかったものがいろいろ与えられることも特筆できる。そのひとつが、Bセグで快挙といえる運転席パワーシートの設定だ。通常はスライド、リクライニング、上下それぞれに対して3つのモーターを設定するところを、軽くすることを念頭に、ひとつのモーターでギアボックスを介して3分割の出力をするため、回転タイプの珍しい操作スイッチを採用したという。さらに、ハンズフリーパワーバックドアの設定もクラス初となる。しかも従来トヨタ車に用いられていたものの2倍の速さで開閉するという新開発品だ。

また、4名乗車時に長尺物を積めるようにするため、よくあるリアシートの中央部分のみをトランクスルーとする方式ではなく、40:20:40分割可倒式とした。むろんコストは上がるわけだが、それを承知の上で使いやすさにこだわって採用に踏み切ったという。

加えてデッキボードも、より利便性を高めるため60:40分割で高さを調節できるようにした。これにより、たとえば片方は背の高い荷物を下げて積み、もう片方は上げて前倒ししたシートバックとフラットにするような使い方ができる。片面をウォッシャブルにする考えもあったそうだが、60:40分割だと裏返せず、それなら50:50分割にして裏をという案もあったが、せっかくシートが60:40分割なのに50:50分割にすると使いづらいので、60:40に合わせたほうが便利と判断したそうだ。

荷室についても広いだけでなく形状にもこだわったことがよくわかる。ゴルフバッグを積める寸法を確保するため左側面が大きくえぐられているのだが、この部分はボディのねじり剛性の維持とサスペンションを収める上でも重要なスペースなのだが、せめぎあいの結果、工夫することですべてを両立することができたという。大型スーツケースも2つ積載可能で、自在に使えるフレックスベルトも用意されている。見れば見るほどいろいろよく考えられているなと感心させられる。


◆ハイブリッドのFFとE-Four、ガソリンのFFに試乗…その違いは大きい

走りについても、ヤリスよりも大きく、重心が高く、バネ下が重く、開口部が広いなど、走りにおいては不利な要素だらけなのだが、それを感じさせないようチューニングしたという。今回、袖ヶ浦フォレストレースウェイでドライブしたプロトタイプは、ハイブリッドのFFとE-Four、ガソリンのFFの3タイプだ。

あらかじめお伝えすると、ヤリスに対しても、派生モデルというより、もはや感覚としては別車種と呼べるほど違ったように思うが、試乗したヤリスクロスの3タイプも、それぞれの走りのキャラクターの違いが予想よりも大きかったことも興味深い。

走りに影響する重量について現段階ではスペックを明かしていないが、口頭で訊いた限りでは、ガソリンFFを基準にすると、ハイブリッドFFはプラス60kgで、ハイブリッドE-Fourはさらにプラス90kgとなる。この差は小さくなく、むろんハイブリッドのほうが低速域から力強くレスポンスもよいのだが、ハイブリッド同士でもFFのほうがだいぶ加速が俊敏に感じらえる。

フットワークの印象もそれぞれ。やはり試乗した中ではガソリンFFが圧倒的に身軽で、意のままに操れる感覚があり、こうしたコースをガンガン攻めてもより楽しめた一方で、もっとも重いハイブリッドE-Fourのしっとりと落ち着いた走りも、それはそれでよい味が出ていた。ロングドライブにも適するであろうドライブフィールだ。キビキビとした走りを前面に押し出していたヤリスに対し、ヤリスクロスはこの路線も大いにアリだと思った次第である。

そしてハイブリッドFFは、ガソリンFFほどではないにせよ走りが軽やかで、ハイブリッドの強みで動力性能も高いというニュアンスだ。ハイブリッド同士で比べると、FFのほうがずっと軽快でステアリング操作に対する応答遅れも小さく、走りに心地よい一体感がある。リアが軽いFFは荷重が抜けて接地性が損なわれやすいが、ヨー慣性が小さいのでリアが振り出される感覚も小さい。

E-Fourは逆にリアが重いためヨー慣性も大きく、その重さに見合うようロール剛性の配分もリア寄りとされたことも効いてか、ターンインでの回頭性が高い。また、FFはリアサスがビーム式のところ、E-Fourはウィッシュボーン系の独立式であり、もともと接地性が高く安定性の面でも有利。それを活かしたセッティングといえる。


◆価格は『ライズ』よりやや高いくらい?

とにかく、いずれの駆動方式でも限界まで安定していて安心して走れることはよくわかった。さらには、ハイブリッドE-Fourと今回試乗していないガソリン4WDには、滑りやすい路面での走破性を高める新しいデバイスが搭載されるというのも気になる。機会があればぜひ試してみたい。

これで価格が安かったら申し分ないわけだが、弟分となる『ライズ』よりもやや高いぐらいのイメージとか。そう聞くとなおのこと発売が待ち遠しい。完成度は高く、機能性も抜群。ヤリスクロスに興味を持っている人は、大いに期待してよいと思う。



岡本幸一郎|モータージャーナリスト
1968年、富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報映像の制作や自動車専門誌の編集に携わったのち、フリーランスのモータージャーナリストとして活動。幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもスポーツカーと高級セダンを中心に25台の愛車を乗り継いできた経験を活かし、ユーザー目線に立った視点をモットーに多方面に鋭意執筆中。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

(レスポンス 岡本幸一郎)

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