ホンダ アコード 新型試乗 ”賢い”インサイトとの違いを打ち出せるか…丸山誠

ホンダ インサイト(上)とアコード(下)のフロントマスク
新型『アコード』は、10代目という区切りのモデル。かつては日本でも上級セダンとして人気が高かったが、主戦場が北米になってから長い。

アメリカではトヨタの『カムリ』がライバルで、これらのクルマはミッドサイズセダントップを争う常連だ。ホンダにとってアコードは北米での大黒柱のため、日本市場より北米重視で開発を進めているのは従来と変わりはない。それは日本市場への投入時期を見てもわかる。

この新型アコードは、すでに約2年前に北米に投入されていたモデル。先代も同様で、まず北米に投入してから各地に展開し、そのなかに日本が含まれるという流れは、今回も変わらなかった。日本での販売台数を考えると仕方がないが、日本ブランドでもこうしたモデルが増えると寂しいものだ。


日本では新型だが、一見すると先行して発売された『インサイト』と見間違えそうになる。アコードのほうがボディサイズはひとまわり大きいが、フロントマスクなどのデザインは、最近のホンダ車に共通するデザインだ。

フロントフードとグリルをやや前に出したデザインはどことなく゛鮫(サメ)゛に似ているように見え、筆者は勝手に゛シャークフェイス゛と呼んでいるが、このデザインは好みが大きく分かれそうだ。465万円という結構な高級車のプライスタグを付けるクルマとしては、もう少しプレミアム感と重厚感を演出したほうがよかったのではないだろうか。

◆ハイブリッドの基本はそのまま、名前を「e:HEV」に


パワーユニットは先代同様でハイブリッドのみの設定で、グレードも「EX」の1グレードだけというシンプルな展開。豪華装備を標準化したトップグレードのみの設定ということは、あまり日本市場を重視していないということかもしれないし、廉価グレードを設定すると前述のインサイトが育ってきているので価格帯が近づいてしまうという問題もあったのだろう。

また、新型のハイブリッドはネーミングが変更された。従来はスポーツハイブリッドi-MMDという呼称を使っていて、ようやくこの名前が浸透したと思ったら、今度はe:HEVに改めるという。朝令暮改とまではいわないが、ネーミングの決定と変更はもう少し慎重になったほうがいいだろう。多分、日産の“e-POWER”が直観的で好評のため、よりEVらしいネーミングにしたかったのかもしれないが。


e:HEVに変わっても2リットルエンジンと2モーターハイブリッドという基本システムは変わらない。市街地走行をすると電池残量が十分にあれば、モーターのみを使ってEVのように力強く加速するのも先代と同じだ。この辺のスタートから加速までのフィールは、自図化で極めてスムーズで高級車らしい。

さすがにアクセルを大きく踏み込むとエンジンが始動するが、それはメーターパネルのモニターを見ていないと気づかないほど静かで当然ショックもない。高速域の巡行以外は、エンジンが発電機を駆動してモーターのみで駆動するというシリーズタイプのハイブリッドとして機能するため、あらゆる場面でスムーズな加速感を楽しめる。

◆レジェンドに迫る静粛性


高速域でも静粛性は保たれたままだ。エンジンは負荷に応じて停止と始動をするが、エンジン音や振動では作動状況がわからないほど静かだ。アクセルを深く踏み込むと回転は少し高まるが、排気音を含めて室内にはほとんどノイズは侵入しない。さらにロードノイズを含めた静粛性は『レジェンド』に迫る出来のよさだ。

特に運転席ではほとんどノイズが届かないのは、アクティブノイズコントロールを使っているからだ。先代も同機構を採用していたが、新型は室内マイクを2本から3本に増設し、追加したマイクは運転席と助手席の間の耳の近くにレイアウト。運転席のある前席のノイズレベルを小さくする努力がされている。このことからもわかるとおり、アコードはドライバーズカーであって後席はあまり重視されていないのだろう。

実際、後席に座るとロードノイズが前席より大きく聞こえてくる。もっとも後席でも静粛性は高いほうだが、前席が優先されていることから北米重視のセダンということを実感する。

ただ、後席の快適性が悪いということではない。新型は新規プラットフォームを採用し、ホイールベースは先代から55mmも伸ばされていて、そのほとんどを後席足元の拡大(50mm)に当てられている。後席のシートサイズはゆったりとしていて、ルーフライニングはヘッドスペースを稼ぐためにインバース形状になっている。足を組んでも前席に当たらないくらいスペースに余裕があり、ゆったりとくつろげるが、平均的な日本人体型だったらインサイトでも不満はないだろう。



◆18インチを履きこなしたフラットな乗り心地

新型の美点はフラットな乗り心地を実現していることだ。18インチの大径タイヤをしっかりと履きこなしている感じで、荒れた路面でも突き上げ感がない。これは新型が採用したドライブモードによってダンパーの減衰力を4輪独立制御するアダプティブダンパーシステムの効果だろう。意外にも4輪独立のアダプティブタイプはアコードとして初採用だという。

スポーツ/ノーマル/コンフォートの3つのドライブモードを備えるが、北米仕様はスポーツとノーマルの2モードのみだという。減衰力はモードごとに可変領域を変えると同時に、車輪速信号の変化、前後左右の加速度、ステアリングホイールの舵角などから、車両の状態やドライバーの操作をセンシング。500分の1秒単位で減衰力をリアルタイムに連続変化する。


実際にコンフォートモードで高速を走ると、ジョイントを通過しても突き上げ感はまったくなく上質な乗り心地を実現している。ノーマルを選んでも同様の乗り心地で、加速度の変化やステアリングが一定の場合は、ノーマルとコンフォートで乗り心地に明確差は確認できない。スポーツを選ぶと明らかにサスペンションが引き締められたフィールになりダイレクト感が増すが、乗り心地が粗くなるようなことがない。この辺は剛性が強化されたボディによる効果も大きい。

◆賢いインサイトとの違いを打ち出せるか

節目となる10代目は、高級車らしい快適性と乗り心地を実現しているが、北米より2年遅れての日本投入はやはり疑問が残る。ホンダセンシングはもちろん標準採用しているが、レーンキープが65km/h以上で作動する。現在の高級車の基準から見ても、車両価格が465万円することを考えても、全速域でアシストしてほしいし、改良するための時間的余裕もあったはずだ。

セダンというくくりで見ると身内に賢いインサイトも存在する。こちらは1.5リットルのe:HEVだが、最上級の「EXブラックスタイル」を選んでも約373万円。アコードとインサイトのキャラクターが近く、どちらを選ぶか大いに迷うことになりそうだ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★

丸山 誠|モータージャーナリスト
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車専門誌やウェブで新車試乗記事、新車解説記事などを執筆。先進安全装備や環境技術、キャンピングカー、キャンピングトレーラーなどにも詳しい。

(レスポンス 丸山 誠)

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