トヨタ ハリアー 新型試乗 とにかく隙がない、穴がない優れモノ…中村孝仁

トヨタ ハリアー ハイブリッドZ
◆ハイブリッドもSUVも

トヨタ製ハイブリッド車独特の、ウィーン、キーンといった電気的なノイズを発しながら静々と発進し、必要となるとヴァオーンとガソリンエンジンが目覚める。

ハイブリッドってこうなんだ…というイメージを定着させた傑作である。思えば初めて『プリウス』が世に出て四半世紀弱。はじめは動力源が二つある必要があるのかと、懐疑的だったヨーロッパのメーカーでも、今やHVやPHEVは時代の流れとして当然のように受け入れているのだから、当時は1台売るたびに損をするといわれたトヨタの血の滲むような努力の結晶が、ここにある。

そしてそのハイブリッド車は今やセダンだろうがミニバンだろうが、あるいはSUVだろうが、クルマのカテゴリーを選ばない。今回試乗した『ハリアー ハイブリッド』は、これもトヨタが世界に先駆けて作り上げたモノコックベースのSUVであった。


少し時代を紐解くと、SUVというクルマのカテゴリーは元来トラックベースだった。即ちシャシーとボディは別体。ボディオンフレームという形式が当たり前だった。あのメルセデスですら最初のSUVはこのボディオンフレーム構造だった。それをトヨタは当時(奇しくもデビューはプリウスと同じ1997年だ)セダンの『カムリ』をベースにこのハリアーを作り上げた。

恐らく、トラックベースのSUVを作っていたアメリカのメーカーからは、何と軟弱なクルマを作ったのか!という蔑んだ目で見られていたのではないかと思う。ところがユーザーの反応は真逆。あれよあれよという間にハリアーは人気車種にのし上がり、以後SUVというかクロスオーバーというジャンルをこれもトヨタが確立した。

というわけで近年のヒット車の始祖は世界的に見てすべてトヨタ、なのである。



◆とにかく隙の無いクルマである

この新しいハリアーはその骨格を『RAV4』と共有している。その現行RAV4を作り上げたのは、現行ハリアーと同じ主査だ。そしてRAV4は同一ボディの単一モデルとしては世界最高の販売台数を誇るモデル。つまり数の上でもトヨタが世界をリードしているということで、RAV4に試乗した時に、世界で一番売れるクルマだからリソースもしっかりと注ぎ込めているという話を伺った。つまり、同じ骨格を使ってRAV4よりも上級に位置するハリアーが、RAVより上質な作りを持っていることは自明のこと、密かにどんなクルマに仕上がっているかを楽しみにしていた。

結論から申し上げよう。とにかく隙の無いクルマである。つまらない!そういう言葉が思わず過ってしまうほど隙が無い。

つまらないというのはジャーナリスト的に重箱の隅をつつけばそれなりにゴミも埃も出てこようというものだが、それが正直言うと全くない。リソースが豊富といっても予算には限度があるわけで、とことんかけられるものではないが、例えば上質感を出すために乗員の手が触れる部分はすべてソフトパッドで覆うといったような処理は、とてもうまい具合に手を抜く部分としっかり作りこむ部分を別けている。直前に600万円を超えるPHEVのボルボ『XC40』に試乗したのだが、この上質感の演出では完全にトヨタの勝ちであった。


資料を見て面白かったのは「電気式4輪駆動方式」と書かれていたこと。要するに後輪はモーターで駆動する4WDの「E-Four」と分かっているが、漢字にすると面白い。まあ余談であって、今回の試乗ではその「電気式4輪駆動方式」の威力を味わうことはできなかった。

エンジンは2.5リットル直4ユニットとハイブリッドシステムの組み合わせ。つまり、カムリ、RAV4と同じである。やはり感じられたのは明確にRAV4よりは静粛性の点で上回っているということ。当然ながら前述した上質感と相まって、室内の居心地はとても良い。

そしてフラット感の高さも特筆ものだった。路面が平坦でロードノイズの出にくい舗装路面の入ると、車内音、路面からの微振動がピタッと止まり、感動的に静かで揺れない走りを実現してくれる。このあたりは言い過ぎかもしれないが、メルセデス『Sクラス』並みと言っても過言ではない。勿論この部分だけであるが…。

突っ込みどころ満載のクルマもあれば、このように全く突っ込めないクルマもある。



◆突っ込みどころがあるとすれば…

そうそう一つだけ突っ込めるところがあった。それが今回採用されているデジタルインナーミラーである。簡単に言えば後方をカメラで映しその像をミラーに反映させるもの。今回の場合はこれにドラレコ機能が追加されている。その機能はまあいいとして、問題はこのデジタルミラーだ。

筆者は遠近両用メガネの使用者だが、今回のハリアーは眼球の位置からミラーの位置までおよそ30cm。これだとミラーを見た時に遠近両用メガネで普通に見ると全く像を結ばない。遠近両用は上から目線にしないと近いものが見えないということを、理解して頂きたいと思った。それにまあ当たり前だがミラー自体が鏡面仕上げとなっていて、カメラ画像には他の余計なものが映り込んでしまい、見づらいことこの上ない。

というわけで試乗時間の大半は通常のミラーで過ごす羽目となった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来40年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

(レスポンス 中村 孝仁)

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