マツダ MX-30 EV 新型試乗 マツダ3やCX-30よりも上質、運転感覚はガソリン車のよう…中村孝仁

  • マツダ MX-30 EV
◆ガソリン車のフィーリングに近いMX-30 EV

電気自動車はバッテリーの量を増やせば単純に航続距離を伸ばすことが出来る。ただその代償として車重が重くなる。比較的最近、とあるオンラインの勉強会で「車重が増えることでインフラ(道路)への影響が無視できないのでは?」という話や「立体駐車場などへの影響なども考慮する必要がある」という話を聞いた。

例えばメルセデスベンツ『EQC』。その車重は2500kg。そのベースとなった『GLC』は、重いディーゼルエンジン搭載の「220d」でも1970kgで、その差実に530kgだ。マツダの場合、元になった『MX-30』のマイルドハイブリッド仕様で1460kg(FWD)に対し1650kgだから、その差190kgに収まっている。マツダによればwell to wheel(ウェルトゥホイール)の観点から、CO2排出量がディーゼル車並みに抑えようとすると、バッテリー搭載量は35.5kwhが妥当な線なのだそうだ。

つまり世の中のガソリン車が電気自動車に置き換わっても、CO2排出量的には悪化しないギリギリの線とでも言おうか。サスティナビリティを考慮したら、メーカー的には至極真っ当な考え方でクルマを作っている。

そしてガソリン車から乗り換えた時の違和感をできるだけ消すために、敢えて走行中に疑似音をスピーカーから出すことで、スピード感も実感できるようにしている。

このあたりは自動車メーカーならではの考え方で、実際『MX-30 EV』に乗ってみると、音は静かだが極めてガソリン車のフィーリングに近いイメージを持った。勿論無音で走る(そんなことはないのだが)クルマになんでわざわざ疑似音出さなきゃいけないの?というツッコミもあるかもしれないが、実際に試乗してみて従来までの自動車に対する違和感がないという点で、スムーズに馴染みやすいのではないかと思うわけである。

◆航続距離の短いBEVをユーザーがどう判定するか

一方で35.5kwhのバッテリー搭載量で走れる航続距離はWLTCで256km。現実的なところではまあギリギリ200kmといったところではないかと思う。これだとちょっと遠出という時には必ずどこかで充電する必要があって、それはそれで非常に不便。一般ユーザーが考えることはサスティナビリティでもなければ、CO2排出量でも無くて、どれだけ自分にとって都合よく使えるかである。

勿論見識の高い人はその限りではないかもしれないが、とは言え決して安くない買い物をするのだから、利便性を考慮するのは当然のことで、電気自動車にはまだそのあたりのユーザーの考えとマツダのようなメーカーの考えには乖離があるような気がしてならないわけである。

これがいわゆるいきなりBEVというものに対する抵抗感だと思う。マツダは来年、このBEVにレンジエクステンダーとしてロータリーエンジンを搭載したモデルを投入することを公言している。何か、順番が逆のような気もするが果たして航続距離の短いBEVをユーザーがどう判定するか興味深い。

◆『マツダ3』や『CX-30』よりも上質な乗り心地

ただ、冒頭に述べたようにクルマとしてはすこぶる良く仕上がっている。同じスカイアクティブのスモールアーキテクチャを使うモデルとしては『マツダ3』や『CX-30』よりも俄然こちらの方が上質な乗り心地を持っている。

トランスミッションもないのにパドルシフトが付いていて、左のパドルはブレーキ回生の力加減を3段階に切り替えられ、逆に右のパドルは回生力を減じる方向で動き、最も弱い状態は完全に空走状態を作り出すようである。だから、減速したい時は左のパドルでブレーキ加減を調整し、加速時には右のパドルを使ってアクセル一定でスムーズに加速させることも可能だった。

スピーカーから出ている疑似音は、この操作には連動しておらず、どうせやるなら加減速でエンジン音よろしく疑似音も変えてくれれば良かったのに…と思ったりもした。

いずれにしてもMX-30 EVはとても良くできた電気自動車だし、CO2排出量の観点から敢えてバッテリー搭載量を絞ったメーカーの考え方にも賛同出来るところがある。

すでに多くの電気自動車が走り始めているとはいえ、その市場割合は1%にも満たないそうで、インフラや送電網の整備なども含めてまだまだ問題は山積み。カーボンニュートラルを標榜してガソリン車を売らない施策を考え始めている政府だが、その前にやることまだたくさんあるでしょ?と思わず突っ込みたくなる。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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  • エンジンルームはスカスカ。手前の位置に将来レンジエクステンダーのロータリーエンジンが載る
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