【トヨタ bZ4X 新型試乗】BEVでも貫いたトヨタ「新世代の80点主義」…中谷明彦
トヨタ自動車は初の完全バッテリーBEV(電気自動車)となるモデルとして『bZ4X』を登場させた。 そのプロトタイプに袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗することが出来たのでレポートする。
豊田章男社長自らがCMに登場し「トヨタは電気自動車も本気」とアピールしていたその第一弾としてこの bZ4Xは登場させられている。
プラットフォームは「E-TNGA」と呼ばれる電気自動車専用のプラットフォームをスバルと新規共同開発し、このプラットフォームは今後セダンやクロスオーバーモデルなど幅広いジャンルへと拡大展開されていくと予測されている。
『bZ4X』はFF/AWD の2タイプを用意
bZ4Xは、外見的にはレクサス『NX』に近いデザインで、クロスオーバー系のSUVとしてデザインされている。全長が4690mmでこれは同クラスのトヨタ『RAV4』と比較しても95mmほど長いサイズとなっている。全幅は1860mmで同じくRAV4より20mmほど幅広い。一方で全高は1600mmとRAV4より60mmも低くなっている。さらに特徴的なのはホイールベースでRAV4よりも160mmも長い2850mmとなっている。また前後オーバーハング、特にリアオーバーハングが縮められ、タイヤが四角にレイアウトされているボリューム感のあるダイナミックなデザインイメージである。
このbZ4Xは フロントにモーターを搭載し、前輪を駆動するFFパッケージモデルと前後にモーターを配置したAWDの2タイプのパワートレインが用意されている。フロントモーターは 150kWの出力を誇る。一方四輪駆動モデルの場合は、前後アクスルに最高出力80kWのモーターを搭載し、システム最高出力は160KWとなる。車両重量が四輪駆動モデルの方が80kgほど重くなるので動力性能的にはほぼ同等と考えていいが、実際に走らせてその辺を掴み取ってみたい。
スムーズさと力強さが身上の乗り味
まず四輪駆動モデルに試乗する。スタートストップボタンを押して起動させるとメーター上に「READY」のマークが表れ走行可能となる。シフトレバーは無くダイヤル式のドライブセレクターが備わり、ワンプッシュしたあとに右回しに回転させるとDレンジに入り走行可能となる。
インテリアのデザインは、フロントメーターはステアリングの上を通して見る遠隔視方向にレイアウトされ非常に見やすい位置にあるが、若干液晶の画面が小さくなるので文字や表示のマークなども小さく、見やすい一方で見づらいという感覚も生まれてしまっている。一方センターコンソール上のモニターは非常に大型で視認性に優れ、また装着位置もダッシュボード上面よりも低いので前方の視界を遮らない。
走り始めはもちろん非常にスムーズで静かである。コースインでスロットルを開けていくとモーターのトルクはたちどころに発揮され、鋭い加速フィールが得られる。四輪の駆動力配分状態をメーターパネル上で常に確認でき、四輪に等しく駆動力がかかっている様子なども見て取れる。一般道においてスロットルを全開にすることはほぼあり得ないが、もしスロットル全開で加速すれば、その加速Gは極めて強力で身体がのけぞるような感覚を受ける。とは言ってもテスラ『モデルS』やほかのハイパワー系のBEV車にみられるような暴力的なものではなく、あくまでスムーズさの上に力強さを加えられた様な乗り味に制御されているのが特徴だ。
cd値0.29と空力にも優れた車体デザイン
車速の乗りは極めてよく、cd値0.29といわれる空気抵抗係数に優れた車体デザインもあり、速度の乗りに優れている。時速100km/hまでの加速時間はおよそ7~8秒程度。このサイズのSUVとしては非常に優れた動力性能であると言えるだろう。さらにその先も速度の上昇傾向は力強く、メーターを読みながら時速140km/hまでストレスなく、かつ静かなまま速度を上げることができた。
一方ブレーキングに入ると制動Gの立ち上がりはあまり力強いとはいえない。加速強度に対して止まる力は決して強力とは言えず、その辺は注意が必要だ。バッテリーだけで450kgもの重さがあり、床下レイアウトで低重心化には貢献しているというものの、相対的な重量としては2トン以上と大きいので止まりにくさとしてはやむを得ないところだろう。
一方でコーナリングに関してはこの重心の低さが功を奏し、四輪の接地性はハイスペースを保ったまま旋回しても維持できている。ただロール剛性は重心の低さに頼っているところが大きく、サスペンションのセッティングとしては、ロールセンターは決して高くない印象。またタイヤのサイズ的にも重量に対してサイド剛性が弱く、旋回中の車体姿勢はドライバーとして大きなロールを感じるものだった。この辺が他社のBEV車とはかなり特性が異なっていて、本格的なSUVのBEV車として重量とハンドリング、乗り心地とのバランスをとるのに苦労した様子が伺える。
空調はゾーンニングで効率重視
乗り心地に関しては極めて優れている。静かなだけではなく足回りの動きのスムーズさ、また遮音性の高さなども高級車らしい乗り心地を演出している。フロアの剛性が高くシャシーの質感が極めて高い。レクサスの高級モデルをも上回ると言えるほどの重厚な乗り味を実現していると言っても過言ではないだろう。
BEV車として長い航続距離を確保するためにエアコンなどにも工夫を凝らし、寒い冬の環境下ではステアリングヒーターやシートヒーターなどがオートモードだと自動的に可動しドライバーのゾーンだけを温めるようなエアコン作動に制限することでバッテリーの負荷を減らすような仕組みを採用している。一方でリアシートに関してはシートヒーターの設定もなく後席乗員が寒さをしのぐためにはヒーターを稼働させるしかないので、全席快適というフレーズの割には後席に対するケアが必要充分とは言えないと感じられた。
後席は足元スペースが広くなっているものの、床下バッテリー配置のEVの例に漏れずフロア高は40mmほど高くなっているため、後席ヒップポイントとの段差が少なく、長時間の着座姿勢は腰への負担が大きいと言える。もっともホイールベースが伸ばされたことで後席乗員も前方へ足を少し伸ばすことができるため、従来車よりもその辺の負担は軽減されていると言えるだろう。
リアの荷室容量は薄型リアアクスル用モーターの配置やこのE-TNGAプラットフォームの特性からあまり低く広くすることができず、見た目的にはリアの荷室が高い。そして容量も決して大きいとは言えない。ただ2段階に4~50mmほど床を下げて拡大させることができるのでフルフラットにこだわらなければそこそこの荷室容量が確保できることになる。
ドライブモード「Xモード」を採用
四輪駆動モデルには、スバルが開発した「Xモード」と言われるドライビングモードが装備されていて、これは主に雪道やマッドのコンディションに適合させたものだ。時速40km/h以下でしか作動しないのでこうした一般道、あるいはサーキット舗装路でその機能を試すことはできない。
またbZ4Xには「回生ブースト」と呼ばれるスイッチが備わっている。これはアクセルを戻すと回生ブレーキが強目に作動して減速Gを0.15Gまで高めるものだ。日産は「ワンペダル」という言い方をしているが、この呼び名は商標権の問題がありトヨタとしては「回生ブースト」という呼び方で表現しているという。最大0.15Gで減速させ0.1Gまでそれを維持する。最終的にはクリープの所まで減速を行い、そこから先はフットブレーキで停止までを操ることになる。
FFは既存車の乗り味継承、AWDは効率も走行性能も◎
次にFFモデルに試乗する。FFモデルは、フロント150kWのモーターでバッテリー容量は同じである。また車体デザインや寸法的な変更もない。
走り出して感じるのはまずフロントが加速Gに対して荷重移動が大きい。モーターのトルクを一気にかけるとトラクションコントロールが即座に介入しインジケーターを点滅させる。やはりSUVは車高が高いのでピッチングによる荷重変化が大きく、フロントタイヤはトラクションを失いやすい。EVのトルクピックアップ性能を考えると、韓国のヒョンデが『アイオニック5』で採用しているようなRR(リアモーターリア駆動方式)の方が発進加速においては効率がいいと言えるだろう。
一方、減速回生においてはフロントモーター回生の方がより荷重がかかり効率がいいことになる。ベストの方式は四輪駆動AWDで、加速も減速も最高の状態を引き出すことであり、FFモデルにおいては減速回生は効率がいいが、加速においてはトラクションコントロールの介入が頻繁に起こる。
ステアフィールはFFの方がよりクイックで若干ステアリングのゲインが強過ぎる傾向がある。四輪駆動モデルの安定性に対して、FFはその辺が少し神経質な動きを見せていた。旋回ブレーキではダイアゴナルロールが起きて後輪内輪が浮き気味となり、ABSの介入が早い。またコーナーの立ち上がり加速においてはトラクションコントロールの介入が起こり、コーナーにおいては侵入から出口まで常に何らかの制御介入が行われることで安定性を保っているようである。
動力性能はFF/AWDでほぼ同等
ちなみに袖ヶ浦フォレストレースウェイサーキットのメインストレートで到達スピードをメーター読みで確認すると四輪駆動モデルは141km/h、 FFモデルは139km/hとなった。重量的には四輪駆動は不利であるが、パワー/トルク的には4WDが勝り、その差が若干2~3km/hの差となって表れた感じであるが、ドライバーの受ける安定性や走りの質感などは四輪駆動モデルの方が圧倒的に高かった。
FFモデルではスバルの開発したドライブモードは備わらず、回生ブーストのみとなる。またメーター表示もシンプル化され駆動配分などは表示されない。
コーナーにおいてもFFの特性はダイアゴナルロールがやや大きく、またリアの接地感が乏しいと言うこと、また走行中の遮音性に関してもFFモデルはまだ完全な状態とはいえない。この辺はプロトタイプゆえ生産モデルに関してはより改善される方向になるという説明を受けた。
ガソリン車に劣らぬ実用上の完成度
このようにトヨタ初のBEVとして登場させられたbZ4Xだが、既に非常に高い完成度を持っていて、デザイン性や使い勝手においても現状のガソリンモデルに対して何ら劣る部分はない。また電気自動車ということを外観的にアピールする部分はあまり多いとは言えず、現代の町の中の風景に非常に速やかになじめそうだ。この辺がいかにも未来車的な外観を特徴的に纏う他社の電気自動車とは一線を化していてトヨタらしい実用的ないでたちとしてまとめられたと言えるだろう。
かつて80点主義と言われたトヨタのクルマづくりが、この電気自動車においても貫かれていると言える。成熟した現代の自動車社会においては、あらゆる面で平均点以上じゃないと80点主義が貫けないことから、安全、環境、人と人との関わり方等すべてにおいて 80点であることを目指す事は非常にハードルが高いと言える。それをトヨタは初めての量産型電気自動車で成し遂げている事は素晴らしい。
なお今回bZ4Xはスバルのソルテラと共同開発されているが、『GR 86/BRZ』のようにスバル工場ではなく愛知県元町のトヨタ工場で自社生産される。
また世界的に見ても中国・欧米でも販売が開始され、中国は中国内で生産されデリバリーされるが、欧米においては日本からの輸出がメインとなり、またヨーロッパのような遠隔地には重たいバッテリーを現地で供給するような算段を立てているようである。
今後のトヨタのBEV戦略、その先陣としてbZ4Xの完成度の高さをまずは大いに歓迎したいところだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。
豊田章男社長自らがCMに登場し「トヨタは電気自動車も本気」とアピールしていたその第一弾としてこの bZ4Xは登場させられている。
プラットフォームは「E-TNGA」と呼ばれる電気自動車専用のプラットフォームをスバルと新規共同開発し、このプラットフォームは今後セダンやクロスオーバーモデルなど幅広いジャンルへと拡大展開されていくと予測されている。
『bZ4X』はFF/AWD の2タイプを用意
bZ4Xは、外見的にはレクサス『NX』に近いデザインで、クロスオーバー系のSUVとしてデザインされている。全長が4690mmでこれは同クラスのトヨタ『RAV4』と比較しても95mmほど長いサイズとなっている。全幅は1860mmで同じくRAV4より20mmほど幅広い。一方で全高は1600mmとRAV4より60mmも低くなっている。さらに特徴的なのはホイールベースでRAV4よりも160mmも長い2850mmとなっている。また前後オーバーハング、特にリアオーバーハングが縮められ、タイヤが四角にレイアウトされているボリューム感のあるダイナミックなデザインイメージである。
このbZ4Xは フロントにモーターを搭載し、前輪を駆動するFFパッケージモデルと前後にモーターを配置したAWDの2タイプのパワートレインが用意されている。フロントモーターは 150kWの出力を誇る。一方四輪駆動モデルの場合は、前後アクスルに最高出力80kWのモーターを搭載し、システム最高出力は160KWとなる。車両重量が四輪駆動モデルの方が80kgほど重くなるので動力性能的にはほぼ同等と考えていいが、実際に走らせてその辺を掴み取ってみたい。
スムーズさと力強さが身上の乗り味
まず四輪駆動モデルに試乗する。スタートストップボタンを押して起動させるとメーター上に「READY」のマークが表れ走行可能となる。シフトレバーは無くダイヤル式のドライブセレクターが備わり、ワンプッシュしたあとに右回しに回転させるとDレンジに入り走行可能となる。
インテリアのデザインは、フロントメーターはステアリングの上を通して見る遠隔視方向にレイアウトされ非常に見やすい位置にあるが、若干液晶の画面が小さくなるので文字や表示のマークなども小さく、見やすい一方で見づらいという感覚も生まれてしまっている。一方センターコンソール上のモニターは非常に大型で視認性に優れ、また装着位置もダッシュボード上面よりも低いので前方の視界を遮らない。
走り始めはもちろん非常にスムーズで静かである。コースインでスロットルを開けていくとモーターのトルクはたちどころに発揮され、鋭い加速フィールが得られる。四輪の駆動力配分状態をメーターパネル上で常に確認でき、四輪に等しく駆動力がかかっている様子なども見て取れる。一般道においてスロットルを全開にすることはほぼあり得ないが、もしスロットル全開で加速すれば、その加速Gは極めて強力で身体がのけぞるような感覚を受ける。とは言ってもテスラ『モデルS』やほかのハイパワー系のBEV車にみられるような暴力的なものではなく、あくまでスムーズさの上に力強さを加えられた様な乗り味に制御されているのが特徴だ。
cd値0.29と空力にも優れた車体デザイン
車速の乗りは極めてよく、cd値0.29といわれる空気抵抗係数に優れた車体デザインもあり、速度の乗りに優れている。時速100km/hまでの加速時間はおよそ7~8秒程度。このサイズのSUVとしては非常に優れた動力性能であると言えるだろう。さらにその先も速度の上昇傾向は力強く、メーターを読みながら時速140km/hまでストレスなく、かつ静かなまま速度を上げることができた。
一方ブレーキングに入ると制動Gの立ち上がりはあまり力強いとはいえない。加速強度に対して止まる力は決して強力とは言えず、その辺は注意が必要だ。バッテリーだけで450kgもの重さがあり、床下レイアウトで低重心化には貢献しているというものの、相対的な重量としては2トン以上と大きいので止まりにくさとしてはやむを得ないところだろう。
一方でコーナリングに関してはこの重心の低さが功を奏し、四輪の接地性はハイスペースを保ったまま旋回しても維持できている。ただロール剛性は重心の低さに頼っているところが大きく、サスペンションのセッティングとしては、ロールセンターは決して高くない印象。またタイヤのサイズ的にも重量に対してサイド剛性が弱く、旋回中の車体姿勢はドライバーとして大きなロールを感じるものだった。この辺が他社のBEV車とはかなり特性が異なっていて、本格的なSUVのBEV車として重量とハンドリング、乗り心地とのバランスをとるのに苦労した様子が伺える。
空調はゾーンニングで効率重視
乗り心地に関しては極めて優れている。静かなだけではなく足回りの動きのスムーズさ、また遮音性の高さなども高級車らしい乗り心地を演出している。フロアの剛性が高くシャシーの質感が極めて高い。レクサスの高級モデルをも上回ると言えるほどの重厚な乗り味を実現していると言っても過言ではないだろう。
BEV車として長い航続距離を確保するためにエアコンなどにも工夫を凝らし、寒い冬の環境下ではステアリングヒーターやシートヒーターなどがオートモードだと自動的に可動しドライバーのゾーンだけを温めるようなエアコン作動に制限することでバッテリーの負荷を減らすような仕組みを採用している。一方でリアシートに関してはシートヒーターの設定もなく後席乗員が寒さをしのぐためにはヒーターを稼働させるしかないので、全席快適というフレーズの割には後席に対するケアが必要充分とは言えないと感じられた。
後席は足元スペースが広くなっているものの、床下バッテリー配置のEVの例に漏れずフロア高は40mmほど高くなっているため、後席ヒップポイントとの段差が少なく、長時間の着座姿勢は腰への負担が大きいと言える。もっともホイールベースが伸ばされたことで後席乗員も前方へ足を少し伸ばすことができるため、従来車よりもその辺の負担は軽減されていると言えるだろう。
リアの荷室容量は薄型リアアクスル用モーターの配置やこのE-TNGAプラットフォームの特性からあまり低く広くすることができず、見た目的にはリアの荷室が高い。そして容量も決して大きいとは言えない。ただ2段階に4~50mmほど床を下げて拡大させることができるのでフルフラットにこだわらなければそこそこの荷室容量が確保できることになる。
ドライブモード「Xモード」を採用
四輪駆動モデルには、スバルが開発した「Xモード」と言われるドライビングモードが装備されていて、これは主に雪道やマッドのコンディションに適合させたものだ。時速40km/h以下でしか作動しないのでこうした一般道、あるいはサーキット舗装路でその機能を試すことはできない。
またbZ4Xには「回生ブースト」と呼ばれるスイッチが備わっている。これはアクセルを戻すと回生ブレーキが強目に作動して減速Gを0.15Gまで高めるものだ。日産は「ワンペダル」という言い方をしているが、この呼び名は商標権の問題がありトヨタとしては「回生ブースト」という呼び方で表現しているという。最大0.15Gで減速させ0.1Gまでそれを維持する。最終的にはクリープの所まで減速を行い、そこから先はフットブレーキで停止までを操ることになる。
FFは既存車の乗り味継承、AWDは効率も走行性能も◎
次にFFモデルに試乗する。FFモデルは、フロント150kWのモーターでバッテリー容量は同じである。また車体デザインや寸法的な変更もない。
走り出して感じるのはまずフロントが加速Gに対して荷重移動が大きい。モーターのトルクを一気にかけるとトラクションコントロールが即座に介入しインジケーターを点滅させる。やはりSUVは車高が高いのでピッチングによる荷重変化が大きく、フロントタイヤはトラクションを失いやすい。EVのトルクピックアップ性能を考えると、韓国のヒョンデが『アイオニック5』で採用しているようなRR(リアモーターリア駆動方式)の方が発進加速においては効率がいいと言えるだろう。
一方、減速回生においてはフロントモーター回生の方がより荷重がかかり効率がいいことになる。ベストの方式は四輪駆動AWDで、加速も減速も最高の状態を引き出すことであり、FFモデルにおいては減速回生は効率がいいが、加速においてはトラクションコントロールの介入が頻繁に起こる。
ステアフィールはFFの方がよりクイックで若干ステアリングのゲインが強過ぎる傾向がある。四輪駆動モデルの安定性に対して、FFはその辺が少し神経質な動きを見せていた。旋回ブレーキではダイアゴナルロールが起きて後輪内輪が浮き気味となり、ABSの介入が早い。またコーナーの立ち上がり加速においてはトラクションコントロールの介入が起こり、コーナーにおいては侵入から出口まで常に何らかの制御介入が行われることで安定性を保っているようである。
動力性能はFF/AWDでほぼ同等
ちなみに袖ヶ浦フォレストレースウェイサーキットのメインストレートで到達スピードをメーター読みで確認すると四輪駆動モデルは141km/h、 FFモデルは139km/hとなった。重量的には四輪駆動は不利であるが、パワー/トルク的には4WDが勝り、その差が若干2~3km/hの差となって表れた感じであるが、ドライバーの受ける安定性や走りの質感などは四輪駆動モデルの方が圧倒的に高かった。
FFモデルではスバルの開発したドライブモードは備わらず、回生ブーストのみとなる。またメーター表示もシンプル化され駆動配分などは表示されない。
コーナーにおいてもFFの特性はダイアゴナルロールがやや大きく、またリアの接地感が乏しいと言うこと、また走行中の遮音性に関してもFFモデルはまだ完全な状態とはいえない。この辺はプロトタイプゆえ生産モデルに関してはより改善される方向になるという説明を受けた。
ガソリン車に劣らぬ実用上の完成度
このようにトヨタ初のBEVとして登場させられたbZ4Xだが、既に非常に高い完成度を持っていて、デザイン性や使い勝手においても現状のガソリンモデルに対して何ら劣る部分はない。また電気自動車ということを外観的にアピールする部分はあまり多いとは言えず、現代の町の中の風景に非常に速やかになじめそうだ。この辺がいかにも未来車的な外観を特徴的に纏う他社の電気自動車とは一線を化していてトヨタらしい実用的ないでたちとしてまとめられたと言えるだろう。
かつて80点主義と言われたトヨタのクルマづくりが、この電気自動車においても貫かれていると言える。成熟した現代の自動車社会においては、あらゆる面で平均点以上じゃないと80点主義が貫けないことから、安全、環境、人と人との関わり方等すべてにおいて 80点であることを目指す事は非常にハードルが高いと言える。それをトヨタは初めての量産型電気自動車で成し遂げている事は素晴らしい。
なお今回bZ4Xはスバルのソルテラと共同開発されているが、『GR 86/BRZ』のようにスバル工場ではなく愛知県元町のトヨタ工場で自社生産される。
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今後のトヨタのBEV戦略、その先陣としてbZ4Xの完成度の高さをまずは大いに歓迎したいところだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
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