【日産 フェアレディZ 新型試乗】語りかけてくるスポーツカーに久しぶりに出会った…片岡英明
『フェアレディZ』は、日産を代表するというより日本が世界に誇るスポーツカーだ。1969年秋、初代のS30型フェアレディZは鮮烈なデビューを飾っている。その後もモデルチェンジのたびに伝説を築き、記録を塗り替えてきた。最大のマーケットである北米では「Zカー」の名で親しまれ、何代も乗り継ぐ熱狂的なZマニアも少なくない。その第7世代は6月下旬に正式デビューを飾っている。最初の限定車「プロトスペック」は応募者殺到で抽選販売になったし、これに続くカタログモデルも早々に予約を一旦打ち切った。
走りにいざなうインテリア
試乗の機会を得たのは、北海道にある日産の陸別試験場の高速周回路とヨーロッパのワインディング路を模したカントリーロードだ。初めての試乗は、あいにく雨が降りしきる過酷なコンディションのなかでステアリングを握ることになった。
だが、スリッピーな路面だったから分かったことも多い。エクステリアは、雨滴までもが似合うセクシーなルックスだ。早くから公表していたが、誰が見てもフェアレディZと分かる明快なデザインで、まとまりのよさを感じる。歴代のフェアレディZをリスペクトしながら現代のスポーツカーに求められる機能美を上手に注ぎ込んだ。
最初にコクピットに収まったのは、華やかなイカズチイエローのボディカラーをまとった9速ATの「バージョンST」である。インテリアには歴代のフェアレディZへのオマージュがいたるところに見られた。ダッシュボードを大きなセンターコンソールと一体にデザインし、ドライバーオリエンテッドとしている。3つのグラフィックから選べる液晶メーターはドライバーの見やすい位置にセットされ、センタークラスターの上段にはZの伝統となっている3連メーターをドライバーに向けて並べた。走りにいざなう演出は上手だ。
シートはホールド性に優れ、フィット感も素晴らしい。本革巻きステアリングも手に馴染むグリップ感だ。シフトレバーもいい位置に置かれている。アクセルペダルはスロットル操作しやすいオルガン式だ。バージョンSTはパワーシートを装備しているから最適なドライビングポジションを取りやすい。
9速ATは予想を大きく上回る出来栄えと洗練度
パワーユニットは、『スカイライン400R』から譲り受けた2997ccのVR30DDTT型V型6気筒DOHCツインターボだ。最高出力298kW(405ps)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kg-m)/1600~5600rpmと数値は変わっていない。だが、リサーキュレーションバルブを追加してターボの過給レスポンスを高めるなど、技術も積極的に投入した。
応答レスポンスは鋭く、パワーもトルクも低回転から弾け出る。直線路でアクセルを全開にしてみた。パドルを使ってマニュアルモードで変速したが、1速だけでなく2速ギアにシフトしてもホイールスピンを誘い、暴れ出そうとする。低回転からトルクがモリモリと湧き上がるが、高回転のパンチと伸び感はスカイライン400Rほど力強いと感じられなかった。実用域のトルクが豊かだから、上は痩せているように感じられるのかもしれない。
スポーツモードでは「アクティブサウンドコントロール」が効果を発揮した。加速するとウォーンと雄叫びをあげ、気分を高揚させてくれる。さじ加減は絶妙で、人工的だと感じさせないのがいい。9速ATはつながりが滑らかで、テンポよいステップ感で素早い変速を見せた。トルクの谷を感じさせず、気持ちよくスピードを乗せていく。シフトダウンも心地よい。こちらもリズミカルにギアダウンし、速やかに美味しい回転ゾーンへと導いてくれる。ウエット路での加速の力強さは6速MTを凌ぐほど力強い。持てるパワーとトルクを余すところなく引き出すことができ、滑らかに変速する。予想を大きく上回る出来栄えと洗練度だった。
期待の高かった6速MTも小気味よく変速でき、クラッチの踏力も重からず軽からずのいい落としどころだ。ハイパワーエンジン搭載車とは思えないほど扱いやすく調教されている。もちろん、その気になれば7000回転まで引っ張ることができ、剛性感もストローク感もMTマニア好みに仕立てられていた。数少ない気になった点は、クラッチのつながりと切れのバランスが今一歩と感じられ、一体感が薄かったことである。また、変速時にパワーユニットの揺れを感じさせたのも惜しい。
リア駆動の面白さと醍醐味がギッシリ詰まっている
サスペンションはダブルウイッシュボーンとマルチリンクの組み合わせだ。ボディもシャシーも、そしてサスペンションも剛性感たっぷりだった。速い走りでも絶大な安心感と信頼感がある。ウエット路面でもビシッと直進性を保ち、舵も落ち着いている。高速スタビリティの高さは先代のZの一歩も二歩も上を行く。精緻なパワーステアリングはちょっと重めかな、と感じる場面もあるが、舵の利きはよく、狙ったラインに乗せやすい。
カントリーロードでは冴えたフットワークを見せつけた。モノチューブダンパーは微低速域から十分な減衰を発揮し、荒れた路面やS字コーナーの切り返しでも優れた接地フィールが感じとれる。路面からのインフォメーションは的確だ。しかも軽やかに向きを変えるから操る楽しさは格別である。が、19インチのファットなタイヤはウエット路面で少しピーキーな面も顔を出した。
秘めたポテンシャルの80%くらいに抑えて走ると、18インチタイヤの方がリア駆動らしいコントロールする楽しさが分かりやすい。絶対的な速さは19インチタイヤを履く「バージョンS」とバージョンSTだが、ベースモデルでも満足感はすこぶる高い。欲を言えば、出力を300ps程度まで抑えたエントリーモデルがあればさらに魅力を増すだろう。
7代目のフェアレディZは、リア駆動の面白さと醍醐味がギッシリ詰まった秀作だ。運転していると開発陣が語りかけてくるスポーツカーに久しぶりに出会った気がする。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
片岡英明│モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
走りにいざなうインテリア
試乗の機会を得たのは、北海道にある日産の陸別試験場の高速周回路とヨーロッパのワインディング路を模したカントリーロードだ。初めての試乗は、あいにく雨が降りしきる過酷なコンディションのなかでステアリングを握ることになった。
だが、スリッピーな路面だったから分かったことも多い。エクステリアは、雨滴までもが似合うセクシーなルックスだ。早くから公表していたが、誰が見てもフェアレディZと分かる明快なデザインで、まとまりのよさを感じる。歴代のフェアレディZをリスペクトしながら現代のスポーツカーに求められる機能美を上手に注ぎ込んだ。
最初にコクピットに収まったのは、華やかなイカズチイエローのボディカラーをまとった9速ATの「バージョンST」である。インテリアには歴代のフェアレディZへのオマージュがいたるところに見られた。ダッシュボードを大きなセンターコンソールと一体にデザインし、ドライバーオリエンテッドとしている。3つのグラフィックから選べる液晶メーターはドライバーの見やすい位置にセットされ、センタークラスターの上段にはZの伝統となっている3連メーターをドライバーに向けて並べた。走りにいざなう演出は上手だ。
シートはホールド性に優れ、フィット感も素晴らしい。本革巻きステアリングも手に馴染むグリップ感だ。シフトレバーもいい位置に置かれている。アクセルペダルはスロットル操作しやすいオルガン式だ。バージョンSTはパワーシートを装備しているから最適なドライビングポジションを取りやすい。
9速ATは予想を大きく上回る出来栄えと洗練度
パワーユニットは、『スカイライン400R』から譲り受けた2997ccのVR30DDTT型V型6気筒DOHCツインターボだ。最高出力298kW(405ps)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kg-m)/1600~5600rpmと数値は変わっていない。だが、リサーキュレーションバルブを追加してターボの過給レスポンスを高めるなど、技術も積極的に投入した。
応答レスポンスは鋭く、パワーもトルクも低回転から弾け出る。直線路でアクセルを全開にしてみた。パドルを使ってマニュアルモードで変速したが、1速だけでなく2速ギアにシフトしてもホイールスピンを誘い、暴れ出そうとする。低回転からトルクがモリモリと湧き上がるが、高回転のパンチと伸び感はスカイライン400Rほど力強いと感じられなかった。実用域のトルクが豊かだから、上は痩せているように感じられるのかもしれない。
スポーツモードでは「アクティブサウンドコントロール」が効果を発揮した。加速するとウォーンと雄叫びをあげ、気分を高揚させてくれる。さじ加減は絶妙で、人工的だと感じさせないのがいい。9速ATはつながりが滑らかで、テンポよいステップ感で素早い変速を見せた。トルクの谷を感じさせず、気持ちよくスピードを乗せていく。シフトダウンも心地よい。こちらもリズミカルにギアダウンし、速やかに美味しい回転ゾーンへと導いてくれる。ウエット路での加速の力強さは6速MTを凌ぐほど力強い。持てるパワーとトルクを余すところなく引き出すことができ、滑らかに変速する。予想を大きく上回る出来栄えと洗練度だった。
期待の高かった6速MTも小気味よく変速でき、クラッチの踏力も重からず軽からずのいい落としどころだ。ハイパワーエンジン搭載車とは思えないほど扱いやすく調教されている。もちろん、その気になれば7000回転まで引っ張ることができ、剛性感もストローク感もMTマニア好みに仕立てられていた。数少ない気になった点は、クラッチのつながりと切れのバランスが今一歩と感じられ、一体感が薄かったことである。また、変速時にパワーユニットの揺れを感じさせたのも惜しい。
リア駆動の面白さと醍醐味がギッシリ詰まっている
サスペンションはダブルウイッシュボーンとマルチリンクの組み合わせだ。ボディもシャシーも、そしてサスペンションも剛性感たっぷりだった。速い走りでも絶大な安心感と信頼感がある。ウエット路面でもビシッと直進性を保ち、舵も落ち着いている。高速スタビリティの高さは先代のZの一歩も二歩も上を行く。精緻なパワーステアリングはちょっと重めかな、と感じる場面もあるが、舵の利きはよく、狙ったラインに乗せやすい。
カントリーロードでは冴えたフットワークを見せつけた。モノチューブダンパーは微低速域から十分な減衰を発揮し、荒れた路面やS字コーナーの切り返しでも優れた接地フィールが感じとれる。路面からのインフォメーションは的確だ。しかも軽やかに向きを変えるから操る楽しさは格別である。が、19インチのファットなタイヤはウエット路面で少しピーキーな面も顔を出した。
秘めたポテンシャルの80%くらいに抑えて走ると、18インチタイヤの方がリア駆動らしいコントロールする楽しさが分かりやすい。絶対的な速さは19インチタイヤを履く「バージョンS」とバージョンSTだが、ベースモデルでも満足感はすこぶる高い。欲を言えば、出力を300ps程度まで抑えたエントリーモデルがあればさらに魅力を増すだろう。
7代目のフェアレディZは、リア駆動の面白さと醍醐味がギッシリ詰まった秀作だ。運転していると開発陣が語りかけてくるスポーツカーに久しぶりに出会った気がする。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
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片岡英明│モータージャーナリスト
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