【トヨタ クラウン RS 新型試乗】その走りだけは“守旧派”も認めざるをえない…中村孝仁
「これが新しいクラウンかよ?」という言わば守旧派と、「これいいじゃない!」という革新派の2極に意見が大きく分かれるであろう新しいトヨタ『クラウン』。その最大の理由はスタイルにある。
曰く、クラウンはこれまでセダンの王道を歩んできたクルマ。それだけに乗る層も人生をそれなりに究めて、同時にそれなりの目標を達成した人のクルマという印象が強かった。そんなわけだから購買層の平均年齢は60歳を超え、高齢化とともに市場が先細りする可能性を秘めていた。だから、大胆にスタイリングを変え、購買層の若返りを模索したのが今度のクラウンである。
守旧派は言うまでもなく従来の購買層だ。落ち着いたセダンが欲しいと思っている層である。一方の革新派は、もしかするとこのクルマにクラウンという名前がついていなくても良かったかもしれない。しかし、若返って実に軽快な走りを披露する高性能ハイブリッドに魅力を感じた層が、クラウンの新しい購買層を確立する可能性を秘めている。
THSとは違う、2.4リットル直4ターボハイブリッド
高性能ハイブリッドと書いたが、現在クラウンには2種のハイブリッドが用意され、今回試乗したのはトヨタが初めて投入した高性能ハイブリッドである。従来トヨタが用いてきたハイブリッドシステムは、THSと呼ばれる動力分割機構により発電用のモーターと動力用の二つのモーターを用いたものだった。だからシリーズでもパラレルでも走れるシステムである。
一方、今回試乗した「RS」と呼ばれるグレードにはモーターは一つしかない。そして内燃機のエンジンとモーター、それに6速ATが直線状に並ぶ配列とし、エンジンとモーター、モーターとトランスミッションの間にそれぞれクラッチを持つ、「デュアルブースト」と名付けられたシステムなのである。そして同じE-Fourと名付けられた電動四駆システムを持つが、デュアルブーストの方は、これもトヨタが初めて採用するいわゆるe-Axleを採用した点も従来型とは異なっている。
良くも悪くも成熟した従来のハイブリッドシステムに組み合わされていたのは2.5リットル直4エンジン。一方のRSは2.4リットルの直4ターボである。この新しいシステムのモデルは従来のものから乗り換えると、ものの5~10km/hも出ればその違いがすぐに分かるほど明確に性格が異なっていた。
アクセルのレスポンスに雲泥の差
どう違うかというと、アクセルのレスポンスに雲泥の差があるのだ。トランスミッションの手前に湿式多版クラッチを介したモーターがあって、発進はどちらもモーターが司るのだが、そのモーターが持つトルクが違う。出力自体は2.5リットルに組み合わされる方がパワフルなのだが、トルクに関しては2.5リットルの方が202Nmであるのに対し、2.4リットルターボに組み合わされるのは292Nmのトルクを発揮する。これが走り始めてすぐに気が付く蹴りだしの良さである。
それだけではなく、前述したようにエンジン、モーター、トランスミッションが直線配置され、それぞれ二つのクラッチで係合、開放が行われるが、動力分割機構に比べるとはるかにダイレクト感が強く、同時にレスポンスが良いためドライバーの意思に呼応する俊敏さを持ち合わせている。この辺りは従来のTHSシステムでは味わえなかったダイレクト感である。
そのスポーティーな走りを堪能するためか、やはり走行モードを切り替えることができる。今回はエコ、ノーマル、コンフォート、スポーツS、スポーツ+、それにカスタムと実に6つものモードが存在するが、実際試してみて明確に違いを感じられるのはコンフォートとスポーツ+だけ。まあ、エコはきっと燃費を良くしてくれるかもしれないから不必要な燃料消費を抑える意味で必要かもしれないが、ノーマルだのスポーツSだのは要らないと感じたし、自分で好みのセッティングが作れるカスタムがあると、結局それしか使わなくなるような気もして、正直無用の長物になりそうな気がする。
640万円の価格も納得
ハンドリングは非常にナチュラルで軽快だ。そこそこ狭い道も走ってみたが、4930×1840mmという全長×全幅のサイズ感を感じさせず、かなり自信をもって狭い道路を走らせることができる。視界はすこぶる良い。
ハンドリングを良いと感じさせるもう一つの要素は四輪操舵を装備していることだ。トヨタのそれはDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)と呼ぶ。果たして何度切れるのか定かではないが、ハンドルを左右に大きく切って走行する様を外から見ていると明らかに切れているのは分かる。しかし、車を止めて左右にハンドルを切ってみてもその差はほとんどわからないほどだから、精々1度か2度ほどだろうか。それでもこれが顕著に作用していることだけは間違いなさそうだ。
それにしてもこれほどまでに軽快に走るクラウンに乗ったのは初めてである。その走りだけは守旧派もきっと認めるだろう。個人的にはこのクルマが好きである。そして車両本体価格640万円は納得の価格と言えよう。オプションは82万5550円載って、試乗車の価格は722万5550円である。それにしてもオプションのフロアマットの値段が6万7100円とは恐れ入った。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
曰く、クラウンはこれまでセダンの王道を歩んできたクルマ。それだけに乗る層も人生をそれなりに究めて、同時にそれなりの目標を達成した人のクルマという印象が強かった。そんなわけだから購買層の平均年齢は60歳を超え、高齢化とともに市場が先細りする可能性を秘めていた。だから、大胆にスタイリングを変え、購買層の若返りを模索したのが今度のクラウンである。
守旧派は言うまでもなく従来の購買層だ。落ち着いたセダンが欲しいと思っている層である。一方の革新派は、もしかするとこのクルマにクラウンという名前がついていなくても良かったかもしれない。しかし、若返って実に軽快な走りを披露する高性能ハイブリッドに魅力を感じた層が、クラウンの新しい購買層を確立する可能性を秘めている。
THSとは違う、2.4リットル直4ターボハイブリッド
高性能ハイブリッドと書いたが、現在クラウンには2種のハイブリッドが用意され、今回試乗したのはトヨタが初めて投入した高性能ハイブリッドである。従来トヨタが用いてきたハイブリッドシステムは、THSと呼ばれる動力分割機構により発電用のモーターと動力用の二つのモーターを用いたものだった。だからシリーズでもパラレルでも走れるシステムである。
一方、今回試乗した「RS」と呼ばれるグレードにはモーターは一つしかない。そして内燃機のエンジンとモーター、それに6速ATが直線状に並ぶ配列とし、エンジンとモーター、モーターとトランスミッションの間にそれぞれクラッチを持つ、「デュアルブースト」と名付けられたシステムなのである。そして同じE-Fourと名付けられた電動四駆システムを持つが、デュアルブーストの方は、これもトヨタが初めて採用するいわゆるe-Axleを採用した点も従来型とは異なっている。
良くも悪くも成熟した従来のハイブリッドシステムに組み合わされていたのは2.5リットル直4エンジン。一方のRSは2.4リットルの直4ターボである。この新しいシステムのモデルは従来のものから乗り換えると、ものの5~10km/hも出ればその違いがすぐに分かるほど明確に性格が異なっていた。
アクセルのレスポンスに雲泥の差
どう違うかというと、アクセルのレスポンスに雲泥の差があるのだ。トランスミッションの手前に湿式多版クラッチを介したモーターがあって、発進はどちらもモーターが司るのだが、そのモーターが持つトルクが違う。出力自体は2.5リットルに組み合わされる方がパワフルなのだが、トルクに関しては2.5リットルの方が202Nmであるのに対し、2.4リットルターボに組み合わされるのは292Nmのトルクを発揮する。これが走り始めてすぐに気が付く蹴りだしの良さである。
それだけではなく、前述したようにエンジン、モーター、トランスミッションが直線配置され、それぞれ二つのクラッチで係合、開放が行われるが、動力分割機構に比べるとはるかにダイレクト感が強く、同時にレスポンスが良いためドライバーの意思に呼応する俊敏さを持ち合わせている。この辺りは従来のTHSシステムでは味わえなかったダイレクト感である。
そのスポーティーな走りを堪能するためか、やはり走行モードを切り替えることができる。今回はエコ、ノーマル、コンフォート、スポーツS、スポーツ+、それにカスタムと実に6つものモードが存在するが、実際試してみて明確に違いを感じられるのはコンフォートとスポーツ+だけ。まあ、エコはきっと燃費を良くしてくれるかもしれないから不必要な燃料消費を抑える意味で必要かもしれないが、ノーマルだのスポーツSだのは要らないと感じたし、自分で好みのセッティングが作れるカスタムがあると、結局それしか使わなくなるような気もして、正直無用の長物になりそうな気がする。
640万円の価格も納得
ハンドリングは非常にナチュラルで軽快だ。そこそこ狭い道も走ってみたが、4930×1840mmという全長×全幅のサイズ感を感じさせず、かなり自信をもって狭い道路を走らせることができる。視界はすこぶる良い。
ハンドリングを良いと感じさせるもう一つの要素は四輪操舵を装備していることだ。トヨタのそれはDRS(ダイナミック・リア・ステアリング)と呼ぶ。果たして何度切れるのか定かではないが、ハンドルを左右に大きく切って走行する様を外から見ていると明らかに切れているのは分かる。しかし、車を止めて左右にハンドルを切ってみてもその差はほとんどわからないほどだから、精々1度か2度ほどだろうか。それでもこれが顕著に作用していることだけは間違いなさそうだ。
それにしてもこれほどまでに軽快に走るクラウンに乗ったのは初めてである。その走りだけは守旧派もきっと認めるだろう。個人的にはこのクルマが好きである。そして車両本体価格640万円は納得の価格と言えよう。オプションは82万5550円載って、試乗車の価格は722万5550円である。それにしてもオプションのフロアマットの値段が6万7100円とは恐れ入った。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
最新ニュース
-
-
ヤマハの新しい乗り物「グリーンスローモビリティ」生花店とコラボ展示へ…横浜「Local Green Festival」
2024.11.12
-
-
-
マツダのロータリーエンジン開発を指揮、故・山本健一氏…「FIVA」自動車殿堂入り
2024.11.12
-
-
-
カストロール、ラリージャパン2024に往年の『WRCカローラ』を展示
2024.11.12
-
-
-
アウディ『A3』のSUV「オールストリート」にPHEV設定、EV航続は最大140km
2024.11.12
-
-
-
時代は4点から6点へ! 進化するサーキット用シートベルトと安全デバイス~カスタムHOW TO~
2024.11.12
-
-
-
ヒョンデ『アイオニック5』、日本にない米国専用オフロード仕様「XRT」は5万6875ドルから
2024.11.12
-
-
-
軽自動車サイズの布製タイヤチェーン「モビルシュシュ」、ソフト99がMakuakeで先行販売
2024.11.12
-
最新ニュース
-
-
マツダのロータリーエンジン開発を指揮、故・山本健一氏…「FIVA」自動車殿堂入り
2024.11.12
-
-
-
ヤマハの新しい乗り物「グリーンスローモビリティ」生花店とコラボ展示へ…横浜「Local Green Festival」
2024.11.12
-
-
-
カストロール、ラリージャパン2024に往年の『WRCカローラ』を展示
2024.11.12
-
-
-
アウディ『A3』のSUV「オールストリート」にPHEV設定、EV航続は最大140km
2024.11.12
-
-
-
時代は4点から6点へ! 進化するサーキット用シートベルトと安全デバイス~カスタムHOW TO~
2024.11.12
-
-
-
ヒョンデ『アイオニック5』、日本にない米国専用オフロード仕様「XRT」は5万6875ドルから
2024.11.12
-
MORIZO on the Road