【スバル インプレッサ e-BOXER 300km試乗】そんじょそこらのMHEVとは違う、はずなのに…井元康一郎
11月、スバルは主力モデルのCセグメントコンパクトクラスの乗用車『インプレッサ』の第6世代モデルを公開した。2023年春にまず北米市場に投入し、順次世界展開を図っていくという。
筆者は2016年、現行第5世代『インプレッサスポーツ(以下インプレッサ)』がデビューした直後に800km試乗を行い、本サイトでレビューをお届けした。ライドフィールは思わず「日本車のフルモデルチェンジ」と評したほどに良好で、格好のハイウェイクルーザーという商品性だった。
が、インプレッサの特徴であったショックアブゾーバーの減衰力をきっちり出すことによる抜群の滑走感という部分については他の国産メーカーが激しく追撃してくる一方、インプレッサのほうはメーカー間の低燃費競争が予想を超えるスピードで進む中、高効率なパワートレインを持たないという弱点が浮き彫りになっていった。
そのモデルライフ途中で追加投入されたのが、2リットル水平対向4気筒+1モーターのパラレルハイブリッド「e-BOXER」。現行ではAWD(4輪駆動)に採用されているが、1.6リットルモデルが廃止されるとアナウンスされている第6世代では何らかの改良が加えられたうえで標準ユニットになるものとみられる。
現行のe-BOXERのパフォーマンスについては2018年末に最低地上高200mmのリフトアップモデル『XV』を1000kmほどテストドライブしている。その時の印象はエンジン回転数を低く抑制したりスロットルペダルを踏んだ瞬間のレスポンスを向上させたりといった効果が確認できた半面、燃費についてはハイブリッドカーに期待する数値に遠く及ばないというものだった。果たしてその後、パフォーマンスは改善されたのか。次期型への期待を込めつつインプレッサのe-BOXERモデルを短距離テストドライブしてみた。
ロードテスト車両は装備充実グレードの「アドバンス」。ドライブエリアは関東一円で総走行距離は328.5km。走った道路のおおまかな距離は市街地約100km、郊外路約170km、高速道路約40km、山岳路約20km。全区間ドライ路面、1~2名乗車、エアコンAUTO。
◆そんじょそこらのMHEVとは違う「e-BOXER」だが
では、インプレッションに入っていこう。まずはe-BOXERの今の状況だが、パフォーマンスはXVをテストドライブした時とほぼ変わっておらず、大排気量自然吸気エンジンのようなゆったりとしたフィールと意外に伸びない燃費がワンセットになっているというのが率直な印象だった。
動的な質感は非ハイブリッドの自然吸気と較べて明らかに高い。動力性能自体は別に優れているわけではない(GPSロガーによる0-100km/h加速タイムは10秒3)のだが、巡航中に緩加速しようとスロットルペダルの踏み込み量を増やすとエンジン回転数がほとんど上がらないまますーっとスピードが乗っていく。CVTの変速比の振れが少ないので、スロットルペダルを戻したときの微妙な前後方向の振られも抑制されている。エンジンと電気モーターの統合制御はバッチリだ。
これで燃費がせめてリッター18kmくらい行けばトップランナーとは言わずともCセグメントのマイルドハイブリッドモデルとしてはなかなかのものと言えるところなのだが、そこは依然として残念な結果に終わった。満タンto満タンの燃費計測区間は285.7kmで、給油量はレギュラーガソリン18.83リットル、平均燃費は15.2km/リットル。
この数値は奇しくもWLTCモード燃費の総合値と同じ数値だったが、市街地が少なく郊外路が多い(総走行に対して市街地のみ40kmほど少なかった)というルート構成を考慮すると実質的にはモード燃費に対して劣位。過去のスバル車のドライブ経験にかんがみて、非ハイブリッドのグレードに対してもほとんどアドバンテージを確保できておらず、郊外・高速オンリーだと2.5リットルエンジンを積んだ旧型『レガシィ』にも負けそうな勢いである。
この燃費の伸びの悪さはいまだに謎である。ハイブリッド化による車重の純増分は110kgあり、それが足を引っ張る要素になるのはたしかだが、エンジン停止や減速エネルギー回生の制御そのものはなかなか優秀。その程度の重量差は軽く跳ね返してくれて当然という期待を持たせられるような動きなのだ。
◆燃費が伸びない要因は「相性」か
e-BOXERはエンジンと変速機の間に置かれた電気モーターのインプット、アウトプット両側にクラッチを持つ1モーター2クラッチ構成で、エンジンを完全に停止させたまま電気モーターのみで走行したり、エンジンの引きずり抵抗ゼロで減速エネルギー回生を行うことができる。そんじょそこらのベルト駆動マイルドハイブリッドなどとはレベルが違う。
実際にドライブしていても、エンジン停止時間は結構長い。電気モーターの能力は10kW(13.6ps)/65Nm(6.6kgm)にすぎないが、その電気モーターが駆動、回生を懸命に頑張る。郊外路程度の速度域だと巡航時は半分くらいエンジンが止まっているような印象で、実に静かかつスムーズである。こんなにシステムが頑張ってるのに結果として燃費が伸びないのは狐につままれたような気分(狐につままれたことがあるわけではないが)だ。
燃費が伸びない要因として考えられるのは、エンジンとハイブリッドシステムの相性くらいしかない。スバルも懸命にエンジンの高効率化に取り組んでおり、現行の2リットル水平対向直噴4気筒「FB20」は圧縮比1:12.5という高圧縮エンジン。さらにハイブリッド用は最高出力が6%、最大トルクが4%、同じ発生回転数で下げられており、わずかながら高膨張比運転を行っているものと推察される。
が、エンジンの使用範囲が広いパラレルハイブリッドの場合、全域で高効率化しなければ燃費向上を果たすことはできない。e-BOXERは恐らくハイブリッド化でエンジンが元来苦手とする低回転・軽負荷域を多用するようになったことがエネルギー回生やエンジン停止によるプラス効果を打ち消してしまう格好になっている。
この点がどの程度改善されるかは第6世代の焦点のひとつとなるだろう。e-BOXERシステムそのもののポテンシャルは非常に高いものがあるので、エンジンそのものを新造せずとも、可変バルブタイミングの作動域を広げて本格的な高膨張比運転を可能とするか、いっそエンジンスペックを思いっきり下げて本格的なエコエンジンにすれば、現行比でそれなりに改善を見込める。ボーダーラインはFWD(前輪駆動)でWLTC総合値18km/リットルあたりか。日本でも燃費はどうでもいいというユーザーは加速度的に減っているので、そのくらいは狙わないと日本のセールスは厳しいものになるだろう。
◆走るほどに良くなる乗り心地
パワートレイン以外の部分についてはモデル末期においても良さを失なっていなかった。デビュー当初、乗り味の中で最も特筆すべきものに感じられた乗り心地の良さは、6年が経った今も色褪せていない。アタリがつくまでに少し時間がかかるというデビュー当初の特性も変わっておらず、積算走行1300km台でスタートした時点では少し固さがあった乗り心地は300kmあまり走る間にどんどん角が取れてきた。2016年のテストドライブ時のインプレッションを振り返るに、まだまだ良くなる。3000kmを超えれば今もって一流の乗り心地になることだろう。第6世代ではこのスバル・グローバル・プラットフォームに改良が加えられ、線形溶接や構造接着剤の使用領域が拡大されるという。どのくらいのレベルになるか楽しみなところである。
安全装備「アイサイト」は自動運転技術の激しい開発競争の中にあって2008年に第5世代『レガシィ』に搭載された当時のような独走状態は失われているが、プリクラッシュセーフティの機能は十分に果たしている。また車間維持、車線維持などクルマのコントロールに関するチューニングが非常に上手いという点は今も出色と言えるレベルだった。第6世代に全車標準装備となる次期型アイサイトが現行『レヴォーグ』に搭載されているレベル2自動運転「アイサイトX」とどう違うものになるのか興味がわくところである。
第5世代インプレッサの安全性で感心させられたのは前車や対向車などを避けて照射するアクティブハイビームの性能。ヘッドランプユニットの照射能力が非常に高く、夜間でも視界で不安を抱くシーンが大変少ないこと自体素晴らしいのだが、そればかりでなく対向車線の路肩を走る自転車の前照灯も遠方の街灯などと違うと識別してちゃんとその部分のLEDランプを消す。その的確さには感心しきりだった。
◆刺激性を取り戻すのか、白物的なクルマでい続けるのか
このように、中長距離を走るギアとしては秀逸きわまりない出来であった第5世代だが、一方でスバルが身上としてきた刺激性、スポーツ性は従来型から大幅に後退し、ブランドの独自性をアピールするという観点ではいささか力不足だったとも正直思う。また、スバルが苦手としてきたデザイン性についても積極的に褒められる要素は見当たらない。
来年2023年に登場する第6世代は前情報に触れるかぎりキープコンセプト。第5世代に足りなかったものをきっちり盛ってくるのか、それとも白物的なクルマでい続けるのか、興味が尽きない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
筆者は2016年、現行第5世代『インプレッサスポーツ(以下インプレッサ)』がデビューした直後に800km試乗を行い、本サイトでレビューをお届けした。ライドフィールは思わず「日本車のフルモデルチェンジ」と評したほどに良好で、格好のハイウェイクルーザーという商品性だった。
が、インプレッサの特徴であったショックアブゾーバーの減衰力をきっちり出すことによる抜群の滑走感という部分については他の国産メーカーが激しく追撃してくる一方、インプレッサのほうはメーカー間の低燃費競争が予想を超えるスピードで進む中、高効率なパワートレインを持たないという弱点が浮き彫りになっていった。
そのモデルライフ途中で追加投入されたのが、2リットル水平対向4気筒+1モーターのパラレルハイブリッド「e-BOXER」。現行ではAWD(4輪駆動)に採用されているが、1.6リットルモデルが廃止されるとアナウンスされている第6世代では何らかの改良が加えられたうえで標準ユニットになるものとみられる。
現行のe-BOXERのパフォーマンスについては2018年末に最低地上高200mmのリフトアップモデル『XV』を1000kmほどテストドライブしている。その時の印象はエンジン回転数を低く抑制したりスロットルペダルを踏んだ瞬間のレスポンスを向上させたりといった効果が確認できた半面、燃費についてはハイブリッドカーに期待する数値に遠く及ばないというものだった。果たしてその後、パフォーマンスは改善されたのか。次期型への期待を込めつつインプレッサのe-BOXERモデルを短距離テストドライブしてみた。
ロードテスト車両は装備充実グレードの「アドバンス」。ドライブエリアは関東一円で総走行距離は328.5km。走った道路のおおまかな距離は市街地約100km、郊外路約170km、高速道路約40km、山岳路約20km。全区間ドライ路面、1~2名乗車、エアコンAUTO。
◆そんじょそこらのMHEVとは違う「e-BOXER」だが
では、インプレッションに入っていこう。まずはe-BOXERの今の状況だが、パフォーマンスはXVをテストドライブした時とほぼ変わっておらず、大排気量自然吸気エンジンのようなゆったりとしたフィールと意外に伸びない燃費がワンセットになっているというのが率直な印象だった。
動的な質感は非ハイブリッドの自然吸気と較べて明らかに高い。動力性能自体は別に優れているわけではない(GPSロガーによる0-100km/h加速タイムは10秒3)のだが、巡航中に緩加速しようとスロットルペダルの踏み込み量を増やすとエンジン回転数がほとんど上がらないまますーっとスピードが乗っていく。CVTの変速比の振れが少ないので、スロットルペダルを戻したときの微妙な前後方向の振られも抑制されている。エンジンと電気モーターの統合制御はバッチリだ。
これで燃費がせめてリッター18kmくらい行けばトップランナーとは言わずともCセグメントのマイルドハイブリッドモデルとしてはなかなかのものと言えるところなのだが、そこは依然として残念な結果に終わった。満タンto満タンの燃費計測区間は285.7kmで、給油量はレギュラーガソリン18.83リットル、平均燃費は15.2km/リットル。
この数値は奇しくもWLTCモード燃費の総合値と同じ数値だったが、市街地が少なく郊外路が多い(総走行に対して市街地のみ40kmほど少なかった)というルート構成を考慮すると実質的にはモード燃費に対して劣位。過去のスバル車のドライブ経験にかんがみて、非ハイブリッドのグレードに対してもほとんどアドバンテージを確保できておらず、郊外・高速オンリーだと2.5リットルエンジンを積んだ旧型『レガシィ』にも負けそうな勢いである。
この燃費の伸びの悪さはいまだに謎である。ハイブリッド化による車重の純増分は110kgあり、それが足を引っ張る要素になるのはたしかだが、エンジン停止や減速エネルギー回生の制御そのものはなかなか優秀。その程度の重量差は軽く跳ね返してくれて当然という期待を持たせられるような動きなのだ。
◆燃費が伸びない要因は「相性」か
e-BOXERはエンジンと変速機の間に置かれた電気モーターのインプット、アウトプット両側にクラッチを持つ1モーター2クラッチ構成で、エンジンを完全に停止させたまま電気モーターのみで走行したり、エンジンの引きずり抵抗ゼロで減速エネルギー回生を行うことができる。そんじょそこらのベルト駆動マイルドハイブリッドなどとはレベルが違う。
実際にドライブしていても、エンジン停止時間は結構長い。電気モーターの能力は10kW(13.6ps)/65Nm(6.6kgm)にすぎないが、その電気モーターが駆動、回生を懸命に頑張る。郊外路程度の速度域だと巡航時は半分くらいエンジンが止まっているような印象で、実に静かかつスムーズである。こんなにシステムが頑張ってるのに結果として燃費が伸びないのは狐につままれたような気分(狐につままれたことがあるわけではないが)だ。
燃費が伸びない要因として考えられるのは、エンジンとハイブリッドシステムの相性くらいしかない。スバルも懸命にエンジンの高効率化に取り組んでおり、現行の2リットル水平対向直噴4気筒「FB20」は圧縮比1:12.5という高圧縮エンジン。さらにハイブリッド用は最高出力が6%、最大トルクが4%、同じ発生回転数で下げられており、わずかながら高膨張比運転を行っているものと推察される。
が、エンジンの使用範囲が広いパラレルハイブリッドの場合、全域で高効率化しなければ燃費向上を果たすことはできない。e-BOXERは恐らくハイブリッド化でエンジンが元来苦手とする低回転・軽負荷域を多用するようになったことがエネルギー回生やエンジン停止によるプラス効果を打ち消してしまう格好になっている。
この点がどの程度改善されるかは第6世代の焦点のひとつとなるだろう。e-BOXERシステムそのもののポテンシャルは非常に高いものがあるので、エンジンそのものを新造せずとも、可変バルブタイミングの作動域を広げて本格的な高膨張比運転を可能とするか、いっそエンジンスペックを思いっきり下げて本格的なエコエンジンにすれば、現行比でそれなりに改善を見込める。ボーダーラインはFWD(前輪駆動)でWLTC総合値18km/リットルあたりか。日本でも燃費はどうでもいいというユーザーは加速度的に減っているので、そのくらいは狙わないと日本のセールスは厳しいものになるだろう。
◆走るほどに良くなる乗り心地
パワートレイン以外の部分についてはモデル末期においても良さを失なっていなかった。デビュー当初、乗り味の中で最も特筆すべきものに感じられた乗り心地の良さは、6年が経った今も色褪せていない。アタリがつくまでに少し時間がかかるというデビュー当初の特性も変わっておらず、積算走行1300km台でスタートした時点では少し固さがあった乗り心地は300kmあまり走る間にどんどん角が取れてきた。2016年のテストドライブ時のインプレッションを振り返るに、まだまだ良くなる。3000kmを超えれば今もって一流の乗り心地になることだろう。第6世代ではこのスバル・グローバル・プラットフォームに改良が加えられ、線形溶接や構造接着剤の使用領域が拡大されるという。どのくらいのレベルになるか楽しみなところである。
安全装備「アイサイト」は自動運転技術の激しい開発競争の中にあって2008年に第5世代『レガシィ』に搭載された当時のような独走状態は失われているが、プリクラッシュセーフティの機能は十分に果たしている。また車間維持、車線維持などクルマのコントロールに関するチューニングが非常に上手いという点は今も出色と言えるレベルだった。第6世代に全車標準装備となる次期型アイサイトが現行『レヴォーグ』に搭載されているレベル2自動運転「アイサイトX」とどう違うものになるのか興味がわくところである。
第5世代インプレッサの安全性で感心させられたのは前車や対向車などを避けて照射するアクティブハイビームの性能。ヘッドランプユニットの照射能力が非常に高く、夜間でも視界で不安を抱くシーンが大変少ないこと自体素晴らしいのだが、そればかりでなく対向車線の路肩を走る自転車の前照灯も遠方の街灯などと違うと識別してちゃんとその部分のLEDランプを消す。その的確さには感心しきりだった。
◆刺激性を取り戻すのか、白物的なクルマでい続けるのか
このように、中長距離を走るギアとしては秀逸きわまりない出来であった第5世代だが、一方でスバルが身上としてきた刺激性、スポーツ性は従来型から大幅に後退し、ブランドの独自性をアピールするという観点ではいささか力不足だったとも正直思う。また、スバルが苦手としてきたデザイン性についても積極的に褒められる要素は見当たらない。
来年2023年に登場する第6世代は前情報に触れるかぎりキープコンセプト。第5世代に足りなかったものをきっちり盛ってくるのか、それとも白物的なクルマでい続けるのか、興味が尽きない。
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パワーソース:★★
フットワーク:★★★★
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