【ホンダ フィットクロスター 3400km試乗】ハードの完成度は抜群!だが「乗ればわかる」は「乗らなければわからない」と同じだ[前編]

  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のフロントビュー。9月のマイナーチェンジモデルにはシルバーのアンダープロテクター風装飾が追加されている。
ホンダのBセグメントサブコンパクト『フィット』のライトSUVモデル『フィットクロスター』を3400kmあまり走らせた。フィットは今年10月に改良を受け、スポーティグレード「RS」の新設、デザイン修正、非ハイブリッドモデルのエンジンを1.3リットルから1.5リットルに換装、シリーズハイブリッド「e:HEV」のパワーアップなどのモディファイを受けた。筆者がテストドライブを行ったのは改良前モデルだが、いろいろと興味深い部分が見受けられたのでインプレッションをお届けする。

◆フィット族の異端児?「クロスター」
現在売られているフィットは2020年デビューの第4世代。フィットといえば2001年に初登場した第1世代がサブコンパクトの常識を覆すユーティリティの高さや小粋なデザインが大人気を博し、33年連続国内販売首位モデルだったトヨタ『カローラ』をその座から引きずり下したというエポックメーカーだった。

そのフィットに異変が起こったのは第3世代。エッジの効いたデザインとスポーティ性を前面に押し出したものの、モデルライフ半ばから販売が大失速。そこで第4世代は第2世代までのゆるキャラ路線に回帰、さらに2モーターストロングハイブリッドの採用、視界の改善、快適性の向上など、これでもかというくらいに商品性向上を図ってきた。まさに乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負という感があったが、フタを開けてみると販売台数減のトレンドを止めることはできなかった。これにはホンダとしてもショックを受けざるを得ないところで、発売後3年を待たずして大規模なテコ入れが図られたのはそのこともあってのことであろう。

テストドライブを行ったクロスターは、そんなフィット族の中で少し特殊なポジションのモデルだ。最低地上高はFWD(前輪駆動)が標準車型比+25mmの160mm、AWD(4輪駆動)が同+5mmの155mmと、グラウンドクリアランスに余裕が持たされている。全高は駆動方式による違いはなく共に1570mm。標準型はAWDのほうがFWDより25mmルーフが高いことから、FWDがタイヤの大径化とサスペンションのスペーサーでリフトアップが図られているのに対し、AWDの車高アップはタイヤの大径化ぶんのみと考えられる。

ロードテスト車はe:HEVのAWD。オプションとしてカーナビ、ドライブレコーダーが装備されていた。ドライブルートは東京~鹿児島周遊で、道路種別は市街地2、山岳路を含む制限速度70km/h未満の郊外路6、高速道路および最高速度80km/h以上の新直轄道路2。1~4名乗車、エアコンAUTO。

まずフィットクロスターAWDの長所と短所を5つずつ挙げてみよう。

■長所
1.Bセグメント屈指の滑走感の高さ
2.AWDは悪天候下や山岳路などで高いパフォーマンスを発揮
3.ドア長が十分で開口部上端が高く、後席の乗降性はクラス随一
4.居住性は良好で、かつ採光性の良さから開放感も高い
5.シートの剛性が高く、疲れにくい

■短所
1.シリーズハイブリッドモデルで質量がほぼ同じ『インサイト』に負ける燃費
2.前期型は第3世代の1.5リットル+1モーターDCTに加速力で大敗
3.室内の質感の出し方がかなり下手
4.e:HEV+AWDの組み合わせだと美点である荷室の広さがかなりスポイルされる
5.クロスオーバーSUVとしてのキャラクター作りが中途半端
◆ハードウェアの完成度は抜群、だけど遊び心は
では、本論に入っていこう。フィットe:HEVクロスター4WD(以下、クロスター)、ロングツーリングを行ってみるとプラス面、マイナス面の双方で大変興味深いクルマだった。

筆者はトヨタ『アクア』を除き、国産Bセグメントのすべての現行モデルでロングドライブを試している。その経験にかんがみて、クロスターの遠乗りへの適性は先般本サイトで3600km試乗記をお届けした日産『ノート4WD』と双璧の高さだった。安定性が高く快適で、疲労は小さく、ADAS(運転支援システム)も良好に機能する。ノートが電動AWDの威力と卓越したシート設計でそれを実現したのに対し、クロスターのほうはボディの強靭性、丁寧なサスペンションチューニング、ノーマル系に比べてエア量が豊富なタイヤなどによって成し遂げているという感があった。

特筆すべき美点は平滑感抜群の乗り心地、見事な振動抑制、素晴らしい直進性、悪天候下での車両安定性の高さで、とくにハーシュネスカット、微振動の抑制についてはノーマル系、さらには上位モデルのSUV『ヴェゼル』をも明確に凌駕していた。乗降性、車内の居住感、採光性や視界の良さ、静粛性の高さなどはノーマルフィットe:HEVと共通の長所である。燃費は車重がほぼ同じ『インサイト』ほど良くはないが、騒ぐほど悪いわけでもない。ハードウェアで目立った短所はハイブリッドとAWD両方のシステムを全長4m級のボディに詰め込んだため、FWDに比べて荷室が大幅に削られたことくらいだった。

このようにハードウェアの完成度はまことに高く、感心するほかなかったのだが、クロスオーバーモデルとしての雰囲気づくりという点では一転、遊びゴコロに乏しく、まことに弱いという感を禁じ得なかった。ビジュアル面は一応フェンダーアーチモールなどでSUV風に仕立てられているが、ノーマル系モデルとの差別化を感じさせるというレベルにはほど遠かった。内装は機能面ではシート生地に撥水素材を用い、ハンドルも革巻きではなく樹脂製であるなどアウトドアユースへの配慮が行き届いた仕様になっているが、手触りや視覚的な質感、色使いといった官能品質面の作り込みは甘かった。

フィットは5つもグレードがあるのだから、クロスオーバーという特異なポジショニングのクロスターはもっと明瞭なアイデンティティを持つ仕様にしてもよかったのではと思う。先のマイナーチェンジでフロント、サイド、リアにアンダーガード風の加飾を設けたりしているが、その程度のみみっちい装飾ではなく、見た人を一目で引き付けるようなクロスオーバーに仕立てるくらいの意気込みがほしいところだ。

ホンダは2021年の東京オートサロン向けにこのクロスターをデコレーションしたモデルをワンオフで製作している。ホンダの公式ホームページによれば、デザインしたのは入社4年目の若手デザイナーとのことだが、丸型ロードランプを内装したバンパー、少し大きめのサイズのオーバーフェンダーをはじめ大改修を要しない装飾でフィットの卵型フォルムのポテンシャルを引き出した、見事なカスタマイズだった。これはあくまでショーモデルだが、このくらい思い切ってやったほうがユーザーに商品提供の意図がより強く伝わることだろう。

クルマの出来そのものはシティカーとしてもツーリングカーとしてもフィットシリーズの中では出色というクロスター。乗る人が乗ればそのことは十分に感じ取れることだろう。が、「乗ればわかる」は「乗らなければわからない」と同義。さればこそ、見ただけで乗ってみたいと思わせるような何かを持たせるべきなのだ。

◆用途、道を選ばない走り、乗り心地のバランス
クロスターの動的な性能は走行安定性、運動性能、乗り心地が絶妙にバランスされた、街乗り、遠乗りといった用途を問わない素晴らしいものだった。筆者は過去、現行フィットの1.3ガソリンFWDを800kmほど、e:HEVのFWDを短距離走らせたことがある。両者はサスペンションチューニングが異なっており、より良かったのはe:HEVのほうだったが、今回乗ったクロスターは乗り味で明らかにe:HEVの上を行っていた。また、上位機種のヴェゼルe:HEVのFWDモデルと比較してもクロスターのほうが優れていた。

クロスターが良かったのは複合的要因によるものだろうが、ファクター別にみると第一の違いはタイヤ。前記のノーマル車高フィット2車がいずれも185/55R16サイズのヨコハマ「BluEarth-A」を履いていたのに対し、クロスターは185/60R16サイズのダンロップ「ENASAVE EC300+」。FWDに185/60R15タイヤを履かせた仕様に乗る機会が今までなかったのは残念だが、柔らかさ、エアの量、ホイールを含めた重量等々の特性がフィットのサスペンションに一番マッチしているような印象があり、乗り心地、ハンドリングのしっとり感とも大変良好だった。

車体側ではFWDとAWDのサスペンションチューニングの違いが乗り心地の差を作った有力要因。ホンダは伝統的に小型車のAWD車のリアサスにド・ディオン式という型式を使っており、クロスターもそれを継承している。ド・ディオン式とはリジッドアクスルの一種だが、後輪用のデファレンシャルギアケースを車軸と別体としてバネ下重量を減らしたもの。特性的にはリジッドアクスルとトーションビームの中間と考えていい。

ホンダの小型AWDに乗る機会はこれまでほとんどなかったので今までも実は良かったのか現行フィットで良くなったのかは定かではないが、それに合わせたサスペンションチューニングは成熟を感じさせられるもの。直進感は優秀そのものだったし、コーナリング中にロールが深まってもよれるような動きを見せることがない。リジッドではあるが、半独立式であるFWDのトーションビームよりも好ましく思えた。とくにFWDのガソリンモデルに対してはアドバンテージが大きく、ガソリン車が低中速で不整路面を走ると若干強めのハーシュネスを意識させられたのに対し、クロスターは全車速域で抜群の滑走感を示した。ノーマル車高のAWDの乗り味がどういうものなのか興味がわくところだ。

◆枯れたシステムでも最新ノートAWDにひけを取らない
国産Bセグメントで格好の比較対象になると思われたのはたまたま近いタイミングで長距離試乗を行った日産ノート4WD。ノート4WDはフル電動AWDのアクティブ制御によって路面状況や天候を選ばない素晴らしい安定性や揺れの少なさを実現させていたが、クロスターは枯れたシステムを使いながらそれに伍する特性を出していた。タイヤに過剰に依存することなく性能を出しているという点も同様。この2車はこと日本の速度レンジにおいてはプレミアムBセグメントの輸入車を含んでも押しも押されもしない東西両横綱との感があった。

項目別にみると両者互角だったのは悪天候下での安定性の高さ。どちらのドライブもヘビーウェットに見舞われたため、たまたま検証することができた。とくにフィットでははかなりの強風下でドライブするシーンがあったのだが、深い水たまりを踏もうが横風を食らおうが、ステアリング修正をほとんど必要としなかった。

筆者はフィットのようにビスカスカップリングを用いたセミフルタイムAWDはセンターデフ式の本物のフルタイムAWD、増してや電動AWDには性能的に及ばないと思っていたので、この安定性は意外だった。事後にホンダのエンジニアに話を聞いてみたところ、フィットe:HEVのAWDは型式的には旧来と同じビスカスカップリングだが、電気モーターの応答性の高さを生かし、後輪が駆動力を必要としたさいに前輪のトルクを絞ることで4輪のトラクションを適正にコントロールする制御を入れているとのことだった。クルーズ時はフルパワーを使うわけではないのでこれで十分に高性能を出せるという算段で、コロンブスの卵的な発想の勝利と言えよう。

それにもパッシブ方式の限界はある。ワインディングでの敏捷性ではノート4WDの圧勝。過去のレビューでお伝えしたことだが、ノート4WDのワインディングにおけるトラクションのアクティブコントロールのハイレベルぶりはすさまじく、絶対性能は低いが制御そのものはテスラ車の電動AWDと変わらないという印象だった。コーナリング通過時や片輪が深いアンジュレーション(路面のうねり)を踏んだときのローリング(横揺れ)を防止する能力ももちろんノートが勝っていた。クロスターが低性能というよりは、ノートの電動AWDが反則的に高性能と表現したほうが適切かもしれない。

クロスターが勝っているのは伝統的な指標であるハーシュネス(ザラザラ、ガタガタ感)カット、ボディが大きく揺すられたときの収まりの良さなど。とくに素晴らしかったのは舗装面の劣化が進んだ箇所や路盤の継ぎ目が連続する箇所などを通過する時の振動抑制。ボディシェルがよほど強固なのか、サスペンションのアッパーマウントラバーのチューニングが絶妙なのか、ステアリングコラムの剛性が高いのか、理由はいろいろ想像できるが、カドの立った入力が連続してもステアリングのブルブルという振動は非常に小さく、ガタつきの少なさもBセグメント離れした少なさだった。

クロスターのキャラクターで興味深いのは、クルマの側が「ほら、こんなに素晴らしいんですよ」と自己主張をしてこないところだった。旅をスタートさせてからしばらくはありきたりのサブコンパクトカーという感じであったのに、距離が500km、600kmと延びるにつれ、直進性良好で疲れない、山岳路を軽やかに駆ける、いつもは気になる老朽化路線で全然ドタバタしない等々といった秀逸性に気がついていく。それらはショートトリップでも無意識のうちに乗る人に恩恵をもたらすファクターだ。

現行フィットの開発陣は普段使いの心地良さを磨いたと強調していたが、シリーズの中で乗り心地が良かったクロスターはそれが一番色濃く出ているグレードと言えるだろう。が、これほどまでに乗り味が無色透明系の良さだとテストドライブなどでそれを実感しにくい。何かひと味つければ分かりやすさが出てくるかもしれないなどと思ったりした次第だった。

◆単眼カメラのみのシンプルな「ホンダセンシング」
クロスターに標準装備されるステアリング介入ありのADAS「ホンダセンシング」は他のグレードと同じもの。ホンダはミリ波レーダーセンサーと単眼カメラの併用型を広く採用しているが、フィットシリーズは単眼カメラのみというシンプルな構成である。

その動作だが、この3400kmドライブの間はミリ波レーダーを欠いていることがハンディとなるようなシーンはなく、車線認識、前車追従クルーズコントロール、各種アラート等々、盛り込まれている機能は的確に作動していた。車線の失探などは頻々と起こるが、現在のADASのグローバルアベレージくらいは十分に達成できていた。クルーズコントロールは電子パーキングブレーキを使った渋滞時を含めた全車速追従タイプで、渋滞時には重宝した。歩行者と衝突しそうになったシーンはなかったが、対歩行者ブレーキは夜間対応ということで安心感はあった。

安全性で気になった点はADASではなくLED前照灯。旧型の第3世代フィットよりは良かったが、ガソリン版と同様に照度が高いとは言い難く、配光ムラもアベレージ以下。左旋回方向への照射範囲も十分ではなかった。同じホンダ車でも軽自動車の『N-WGN』は旧型『N-ONE』のディスチャージ型には負けるものの、もっと良い前照灯がついていた。今日では夜の地方道では鹿が増えすぎてコーナー奥がしっかり照らされないとそれだけでドライビングに恐怖がつきまとう。コーナリングランプが付けば夜間のドライブは格段に安心なものになるので、ぜひ装備していただきたいと思った。

後編では動力性能、燃費、パッケージング、ユーティリティなどについて述べる。

  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のフロントビュー。9月のマイナーチェンジモデルにはシルバーのアンダープロテクター風装飾が追加されている。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のリアビュー。ボディシェルはノーマル車高のフィットとまったく同じ。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のサイドビュー。プラットフォームは旧型の第3世代を改良したもので、ピラーをドアミラー付近に移すことで死角を減らした。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のフェイス。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)のテール。
  • 斜め上から俯瞰してみた。ルーフ2トーン塗装だと車体の厚みがやや強調される。
  • ロードテスト車にはルーフレールが装着されていた。9月のマイナーチェンジで標準装備化。
  • 前後ともドア長が非常に長いのがフィットボディの特徴。とくにリアドアの長さはBセグメント車随一。
  • リアドア開放の図。ドア開口部上端がギリギリまで水平を保っており、乗降性は非常に良い。こういったところに凝るのはホンダ技術陣の特徴。
  • 前席。撥水シート地が奢られるなどレジャーユースへの配慮は大変行き届いている半面、質感の演出はハッキリ言ってヘタクソ。
  • 助手席側からダッシュボードまわりりを俯瞰。助手席側ダッシュボードのパッド部分はフタつきの収納ボックス。
  • 運転席から左前方を眺める。衝突時の衝撃の受け止めをドアまわりのピラーに担わせ、フロントウインドウの支柱を細くすることで斜め前方の死角を大幅に減らしたのが特徴。
  • 後席。ヒップポイントの高さ、着座姿勢の自然さとも良好で、長距離ユースにも十分耐えそうだった。
  • 下まわり。デフケース、プロペラシャフトをまたいでリジッドアクスルが左右輪を締結するド・ディオンアクスル構造であることが見て取れる。
  • タイヤはノーマル車高フィットより直径が大きい185/60R16サイズのダンロップ「エナセーブEC300+」。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)。鈴鹿山脈の山中にて。
  • 山口・岩国の内陸部にて。クロスターのAWDは簡便なビスカスカップリング式だが、このようなガレ場もわりと余裕で走ることができた。結構高性能である。
  • 詩人・中原中也の故郷、山口の湯田温泉にて。
  • フィットe:HEVクロスター4WD(前期型)。桜島をバックに記念撮影。
  • おっとりとした、それでいて的確にグリップするシャシーチューニング。本当にロングラン向きだった。
  • 東京オートサロン出品のために作られたワンオフのカスタマイズモデル。正直、吸引力は市販クロスターの比ではないように感じた。
  • 薄暮の中でヘッドランプ点灯。デザイン性は良いが、照射性能はあまり良いとは言えなかった。

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