【VW ゴルフR 新型試乗】20年積み重ねた“旨味”が凝縮されている…中村孝仁
◆320psを日本の道路で使いきるのは不可能
VW『ゴルフR』は昨年、誕生20周年のアニバーサリーイヤーを迎え、本国ではそのアニバーサリーモデルが発売された。そんなタイミングで日本市場にもゴルフ8のRモデルが投入されたというわけである。
メーカーが開催してくれる試乗会という奴はとても有り難い。何しろ新型モデルをいち早く乗れるし、かいつまんで手っ取り早く情報が入手できる。とはいえ、正直に告白すれば、ほぼ1時間、長くても2時間程度の試乗ではそのクルマの何たるかを断定的に語ることはほぼ不可能だし、近年はクルマ自体が複雑化していて、色々な持ち合わせている要素をあれこれと試してみることもあくまでほんのさわり程度にしかできず、これをもってインプレッションとしてまとめ上げるのはまず無理。あくまでも味見である。
320psにまでその出力を高めたゴルフRの場合、まあ言ってみれば麵汁の味の濃さをお玉ですくって試している程度。うん、ちょっと薄目かな?とか少し濃いかな?といったレベルの話であって実際その中に入る蕎麦かあるいはうどんかわからないが、そのトータルの味を試してはいない。だから、これをもってすべて…という話ではないことを初めに断っておく。
余談だが冒頭話したアニバーサリーモデルはさらにパワーアップされた333psのユニットを搭載しているというが、正直なところ残りの13psがどのような効果をもたらしているのかまるで分らないし、日本の限定された道路の条件下では320psでもそれを余すところなく使うなどおおよそ不可能である。
◆20年積み重ねた旨味が凝縮されたクルマ
このゴルフRに試乗したのは昨年の年も押し迫った頃。恒例のVW車一気乗り的な試乗会の目玉車種であった。私の場合は同じゴルフの「TDIヴァリアント」とEVモデルの『ID.4』を同じ日に試乗した。ゴルフRの動的なクォリティーはそのどれよりも優れたもの(当たり前だが)であり、20年積み重ねたハイパフォーマンスハッチバックの旨味が凝縮されたようなクルマだった。
具体的にどこがどう旨味が凝縮されていたかというと、「動と静」の使い分けの見事さだ。ゴルフ7にRが追加された2014年にもこの動と静、即ち最高のパフォーマンスを引き出すアクティブな走りと街中だろうが観光地のワインディングだろうが、とにかくゆったり走った時の快適さが見事に共存することに触れた。当時はそれを「ジキルとハイド」と評したのだが、今から思うとまああまり当て嵌まっていない。
ジキル博士の静についてはまあ、それで良しとするとして、ハイドの方は当たっていない。何故ならゴルフRはハイドのようなワルではないからだ。むしろジキル博士の性格そのもので、実にスマートでしかしながらいわゆる天才肌のアスリートのような存在に変わる。これがゴルフRである。
その天才肌アスリートに性格を一瞬で変えるボタンがステアリングに付くRのスイッチ。こいつを押すと突如エクゾーストサウンドが変わりクルマ全体が身構えた状況に一変する。ただ、この状況下でも決してガチガチの戦闘マシン的な乗り味ではない。これで日常を過ごせと言われても何ら痛痒を感じさせない懐の深さを持つ。
DCCと呼ばれるステアリングや、ダンパーを可変させる機能は今回4WDの4モーションや電子制御デフロックXDSなどと連携して統合制御されている。恐らくこれがさらなる懐の深さを生み出しているだと思うが、こいつを体感するのはやはり限界まで攻められるクローズドコースに持ち込む以外は手がない。
◆「能ある鷹が爪を隠す」という風情を好むなら
それにしても、結構頑張って走っているつもりになっても、クルマの方はどこ吹く風?と言った風情で、その余裕の大きさにたまげる。気になるのはRボタンを押すと前述したようにエンジン音からステアリングの重さやダンピングの具合まで皆変わるのだが、それを司っているのは本来DCCのはずだが、肝心のこいつがオプション設定されていることである。つまりはもしオプションをチョイスしない場合、このボタンは一体???となるわけだが、そのあたりも短い試乗時間では解明には至っていない。
因みにこのDCCはパッケージオプションで22万円である。車両本体が639万8000円からとなっているので、最低でもこれに22万円が乗る計算だから、相当にお高いクルマであることは間違いない。もしあなたが「能ある鷹が爪を隠す」という風情を好む人なら、最高のチョイスでもある。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
VW『ゴルフR』は昨年、誕生20周年のアニバーサリーイヤーを迎え、本国ではそのアニバーサリーモデルが発売された。そんなタイミングで日本市場にもゴルフ8のRモデルが投入されたというわけである。
メーカーが開催してくれる試乗会という奴はとても有り難い。何しろ新型モデルをいち早く乗れるし、かいつまんで手っ取り早く情報が入手できる。とはいえ、正直に告白すれば、ほぼ1時間、長くても2時間程度の試乗ではそのクルマの何たるかを断定的に語ることはほぼ不可能だし、近年はクルマ自体が複雑化していて、色々な持ち合わせている要素をあれこれと試してみることもあくまでほんのさわり程度にしかできず、これをもってインプレッションとしてまとめ上げるのはまず無理。あくまでも味見である。
320psにまでその出力を高めたゴルフRの場合、まあ言ってみれば麵汁の味の濃さをお玉ですくって試している程度。うん、ちょっと薄目かな?とか少し濃いかな?といったレベルの話であって実際その中に入る蕎麦かあるいはうどんかわからないが、そのトータルの味を試してはいない。だから、これをもってすべて…という話ではないことを初めに断っておく。
余談だが冒頭話したアニバーサリーモデルはさらにパワーアップされた333psのユニットを搭載しているというが、正直なところ残りの13psがどのような効果をもたらしているのかまるで分らないし、日本の限定された道路の条件下では320psでもそれを余すところなく使うなどおおよそ不可能である。
◆20年積み重ねた旨味が凝縮されたクルマ
このゴルフRに試乗したのは昨年の年も押し迫った頃。恒例のVW車一気乗り的な試乗会の目玉車種であった。私の場合は同じゴルフの「TDIヴァリアント」とEVモデルの『ID.4』を同じ日に試乗した。ゴルフRの動的なクォリティーはそのどれよりも優れたもの(当たり前だが)であり、20年積み重ねたハイパフォーマンスハッチバックの旨味が凝縮されたようなクルマだった。
具体的にどこがどう旨味が凝縮されていたかというと、「動と静」の使い分けの見事さだ。ゴルフ7にRが追加された2014年にもこの動と静、即ち最高のパフォーマンスを引き出すアクティブな走りと街中だろうが観光地のワインディングだろうが、とにかくゆったり走った時の快適さが見事に共存することに触れた。当時はそれを「ジキルとハイド」と評したのだが、今から思うとまああまり当て嵌まっていない。
ジキル博士の静についてはまあ、それで良しとするとして、ハイドの方は当たっていない。何故ならゴルフRはハイドのようなワルではないからだ。むしろジキル博士の性格そのもので、実にスマートでしかしながらいわゆる天才肌のアスリートのような存在に変わる。これがゴルフRである。
その天才肌アスリートに性格を一瞬で変えるボタンがステアリングに付くRのスイッチ。こいつを押すと突如エクゾーストサウンドが変わりクルマ全体が身構えた状況に一変する。ただ、この状況下でも決してガチガチの戦闘マシン的な乗り味ではない。これで日常を過ごせと言われても何ら痛痒を感じさせない懐の深さを持つ。
DCCと呼ばれるステアリングや、ダンパーを可変させる機能は今回4WDの4モーションや電子制御デフロックXDSなどと連携して統合制御されている。恐らくこれがさらなる懐の深さを生み出しているだと思うが、こいつを体感するのはやはり限界まで攻められるクローズドコースに持ち込む以外は手がない。
◆「能ある鷹が爪を隠す」という風情を好むなら
それにしても、結構頑張って走っているつもりになっても、クルマの方はどこ吹く風?と言った風情で、その余裕の大きさにたまげる。気になるのはRボタンを押すと前述したようにエンジン音からステアリングの重さやダンピングの具合まで皆変わるのだが、それを司っているのは本来DCCのはずだが、肝心のこいつがオプション設定されていることである。つまりはもしオプションをチョイスしない場合、このボタンは一体???となるわけだが、そのあたりも短い試乗時間では解明には至っていない。
因みにこのDCCはパッケージオプションで22万円である。車両本体が639万8000円からとなっているので、最低でもこれに22万円が乗る計算だから、相当にお高いクルマであることは間違いない。もしあなたが「能ある鷹が爪を隠す」という風情を好む人なら、最高のチョイスでもある。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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