【トヨタ プリウスPHEV プロトタイプ試乗】“虜にさせる走り”を体感、これが本命ではないか…御堀直嗣
新型『プリウス』では、プラグインハイブリッド車(PHEV)が本命ではないかと思う。
ハイブリッド車は、ガソリンエンジンの排気量を2.0リットルに拡大した車種を中核としているが、その全体的な運転感覚は、従来のプリウスと同様、プリウスはプリウスでしかないというのが率直な感想だ。もちろん、走行性能や快適性など、あらゆる面で性能は進歩している。トヨタ流にいえば、「もっといいクルマ」にはなった。だが、「先駆け」という意味を持つプリウスの車名を改めて噛みしめるような、先駆けているモノやコトを感じない。
その点、車格下の『アクア』は、2代目にして時速40km付近までのモーター走行をバイポーラ型ニッケル水素バッテリーの採用で実現し、トヨタのハイブリッドシステムであるTHSⅡが、新たな段階に入ることを実感させた。日産のe-Powerを含め、モーター駆動を主体としたハイブリッド方式は、それだけで、加速の応答性がよくなり、静粛性が高まり、乗り心地に落ち着きが出て、上級車種の趣を味わわせる。そこで日産は『ノート』と別に『アリア』という、より上級さを実感させる車種を加えている。
アクアは、まさにそうしたモーター駆動の利点を拡大した、トヨタの新しいハイブリッド車の姿を明らかにしたのである。ところが、先達であり25年の歴史を持つプリウスは、従来通りのハイブリッド感覚でしかない。『クラウン』も新しいハイブリッドシステムで、別次元のハイブリッド車の価値を提案した。なぜ、トヨタでもっとも経験と歴史を持つプリウスが、従来の延長線でしかないのだろう。
◆滑らかな加速と重厚感のある乗り味
トヨタは、3代目プリウスでPHVを売り出し、4代目でも同様だった。しかし、ことに4代目では外観の造形を大きく変えて、別の車種のような存在にしていた。改めて新型では、外観を同じにしたプリウスの選択肢の一つに位置付けている。
今回の試乗車は、プロトタイプということで諸元の詳細はまだ明らかにされていない。欧州で新型プリウスはPHEVしか販売しないとのことなので、右ハンドルのプロトタイプの試乗車はもしかすると英国仕様なのかもしれない。
印象深いのは、滑らかな加速と静粛性の高さ、そしてバッテリーをより多く車載することによる重厚感のある乗り味だ。
ハイブリッド車では、たとえ前型に比べ性能向上したとしても新鮮味の薄い感触だったが、PHEVでは虜にさせる走りという開発の狙いをより体感させた。モーター走行こそが、ハイブリッド車の新たな次元であり、それはまさしく、電気自動車(EV)がいかに優れた性能や価値をもたらすかの証なのである。
◆モーター走行をいかに仕立てるか考えた制御
ちなみに今回は、前型のPHVも比較試乗することができた。同じモーター走行でも、新型のほうがより滑らかで、雑味のない、上質な走りと乗り心地に仕上がっている。ハイブリッド車を軸に、PHEVを追加車種と考えるか、逆に、PHEVが主軸で、ハイブリッド車の選択肢もあると考えるかで、モーター制御やエンジン制御の仕方が違ってくるだろう。
一般に、モーター走行は誰にでも簡単につくれると思われがちだ。しかし、エンジンの100分の1の速さで応答するモーターは、制御の精緻さこそが決め手であり、いかなる制御をするかは人間が理想の目標を描けていなければ実現できない。そのためには、モーターを知り尽くすことが必要だ。モーターをエンジンの付属品と考えていたら、不十分である。
新型プリウスPHEVは、モーター走行をいかに仕立てるかを考えた制御になっていると感じた。そして、バッテリーの充電が切れ、ハイブリッド車としての走行に切り替わると、せっかくの上質さが薄れてしまう。この失望感は、実は前型でも同様であった。その落差が、新型では薄まっているのは事実だ。
◆課題は集合住宅の充電環境
それであればこそ、新型プリウスPHEVを購入する人は、自宅に普通充電の設備が備わることが不可欠だ。自宅で充電できなければ、単なるハイブリッド車でしかなくなる。
ところが、日本では、マンションなど集合住宅で駐車場所に200V(ボルト)のコンセントを設置しにくい状況が10年以上解決されずにきた。それによって、EVの販売比率が新車販売の1%に満たない状況が続いてきたのだ。トヨタは、それを知ってはいただろう。だが、切実には感じていなかったかもしれない。新型プリウスでPHEVを、ハイブリッド車と同様に選択肢の一つとして販売するなら、集合住宅における充電環境問題を早急に解決しなければならない。
新型プリウスを選ぶなら、PHEVというのが私のおすすめだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。
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