【三菱 eKクロスEV 冬季1200km試乗】10年に一度の寒波の中、軽EVでビバークしてみたら[後編]
三菱自動車の軽規格バッテリー式電気自動車(以下BEV)『eKクロスEV』での雪の東北旅。前編『充電回数は30回!軽BEVにはあまりに厚かった「圧雪路の壁」』では雪国での走り、そして厳寒の中での充電の様子をレポートした。後編では、雪が降りしきる中でのeKクロスEVによるビバークテストから紹介する。
近年、大雪のたびにBEVは長時間の立ち往生になるとバッテリーの電力が持たないという話が飛び出す。暖房をつけっぱなしにしていれば、いつか電池切れになるのは当たり前だ。重要なのは1時間あたりどのくらいの電力を消費するかである。
昨年筆者が冬季ドライブを行ったバッテリー搭載量62kWhの日産自動車『リーフe+』(2022年の改良モデルは60kWh)は、秋田の大館で最低気温マイナス12.3度の中を暖房とシートヒーターをつけて6時間過ごすというビバークテストをやってみたが、そのさいの推定消費電力量は4.4kWh。24時間換算だと17.6kWh。かりに立ち往生に囲まれて前にも後ろにも進めないという状況に陥ってもかなり頑張れそうなスコアだった。eKクロスEVはどうか。
◆小容量バッテリーでどこまでビバークを頑張れるか
バッテリー総容量はリーフe+の3分の1、寒冷地における100→0%の実際の蓄電量は4分の1強しかない。元の電力が乏しいのだからリーフe+のような長時間ビバークが無理なのはやる前から分かり切っているのだが、それを前提にどのくらい使えるのかは筆者にとっても大いに興味のわくところだった。
ビバークテストは3回。最初は前編で辿り着くところまで述べた山形の道の駅あさひまち・りんごの森での6時間。数km離れた気象庁のアメダス観測ポイント、左沢(あてらざわ)のデータによれば、気温は開始時マイナス8.9度、日の出後も気温があまり上がらず、フィニッシュもマイナス7.1度。
充電率を70%に回復させ、空調を室温20度、内気循環に設定し、シートヒーターONで室内をフルフラットに。これで快適性はリーフe+と同等、いや、フルフラットになるぶんリーフを上回れるはず…という算段だったのだが、難点が2つ。ひとつはシートヒーターが座面にしかなく、シートバックが温かくならない。運転中は大して意識していなかったが、寝てみて気づいた。もうひとつはキャビンが適温になってもエアコンの送風が一向に弱まる気配がないこと。ブロワーがこんなに強く稼働したらそれだけで余分に電気を食いそうだと思ったが、風量AUTOに沿うことにし、就寝。
朝、アラームで叩き起こされる。シートバックが温まらないのは小さな不満だったが、キャビンが温かいだけでも寒冷地では至極有り難く、ぐっすり寝入っていた。そろそろ6時間だな…と、インパネ内のバッテリー充電率に目をやると、まさかの12%。実に58%ぶんの低下である。山形の低温環境ではバッテリーの100→0%電力量は14kWh前後に落ちていたが、それをベースに計算してもリーフe+の2倍近い8.2kWhを消費したことになる。
バッテリー残電力量10kWh、次の充電スポットまで雪道20km(消費電力4kWh)という条件で立ち往生したとすると、ぬくぬくのまま頑張れるのはせいぜい4時間ほどということになる。それ以上頑張りたければ室温を18度に設定し、エアコンのブロワーを最低か下から2番目まで手動で下げるなどの措置が必要だろう。
そういう努力をしてみたらどうかということで、2回目の米沢ではブロワーの強さを下から2番目に設定して6時間寝てみた。アメダスによれば気温は開始時マイナス3.2度、最低気温マイナス5.4度、フィニッシュ時マイナス2.0度。果たして充電率の変化は53→11%、低下幅42%、推定消費電力量5.9kWhと、ちょっとマシになった。ただし前回の朝日町に比べて気温がずっと高かったという差異があるため、エネルギー節約のワザが効いたのか気温の影響が大きいのかはわからなかった。
3度目は実は帰着後、筆者が入居するビルの駐車場で行った。東京都心は最低気温1.5度と氷点下にならなかったため参考程度だが、充電率は6時間で59→36%と23%ぶんしか落ちなかった。気温が上がり15kWhラインを回復した100→0%蓄電量をベースに計算したが、消費電力は3.5kWh程度とかなり少なくなった。
この3度のビバークのデータから、寒冷地においてあまりに雪の降りがすごくて除雪が追い付かないなどの理由で立ち往生に遭ったさいにリーフe+のように長時間頑張れるわけではないのは明らかである一方、あらかじめ充電率を上げておいて車中泊を行い、起きてからまた充電するというパターンであれば、静かで快適な就寝が約束される。そういう旅用途にはぴったりだろう。
◆月山道路経由で日本海へ
山形内陸部の道の駅あさひまち・りんごの森でのビバークテストで下がった充電率を回復させるべく、テスト前に引き続いて同じ場所で二度目の充電。前夜は充電率19%スタートで70%まで回復したのに対し、朝は9%(12%でビバークを終了した後もしばらく停車して電力を消費していた)から55%までしか回復しなかった。気温はほぼ同じ、スタート時の充電率が低いという点は二度目のほうが有利なくらいであったにもかかわらずこのような結果になった原因は不明だが、要因として考えられるのはバッテリーの温度が下がりすぎたことだろう。
この道の駅はりんごの森というサブネームがついていることからもわかるように、朝日町のりんごが一番の売りだ。が、1月はすでにりんごの最盛期を過ぎており、品ぞろえも豊富ではなかった。そんな果物売り場で目に留まったのはラ・フランス。棚に並んでいる袋を見てみると「今日が食べ頃」「26日が食べ頃」「27日が食べ頃」等々のシールが貼られている。そんなに微妙なものなのかとたまげて道の駅の店員さんに質問すると、その説明の懇切丁寧なこと。収穫後まず低温貯蔵で果実の呼吸を減らす、その後常温に戻して追熟させる、食べ頃を見計らって出荷するの3ステップというのがあらまし。そして、1月はちょうど旬なのだという。
「時期を外したラ・フランスなんて、ジャガイモか大根を食ったほうがずっとマシってもんですからね」という決定的な言葉が出たため、試しに買って食べてみた。とろりとした食感、たっぷりとした果汁、上品かつ豊潤な甘味に「これがラ・フランスのポテンシャルだったのか」と感動。山形は空港を2つ擁しており、ニックネームはそれぞれおいしい山形空港、おいしい庄内空港。「おいおいどっちもおいしいって芸がなさすぎなんじゃないか」などと思っていたが、郷土料理に限らず普通に食べるものが何でも感動的に美味しい。おいしいは山形人の誇りなのだなと感じ入った次第だった。
朝っぱらから美味しさを堪能しているうちに、前夜は吹雪で通行止めになっていた国道112号線、通称月山道路が開通したとの情報が入った。これで出羽山地を越えて再び日本海に出られる。月山界隈は日本有数の豪雪エリアとして知られている。以前ここを走った時はベシャベシャのシャーベット路で、雪国ビギナーの南国人である筆者はスタッドレスタイヤがこんなにも無力なシーンがあるのかとたまげたものだった。この日は山間部で気温がマイナス10度を下回るという低温で路面は圧雪コンディションだったが、かわりに前回はなかった猛烈な地吹雪に見舞われた。
「ちょっと待って、目の前のこれは吹雪のうちに入らないというの?」とたまげながら視界が悪い中を走っていると、先行車がハザードランプを付けてながら走っているのが見えた。安全のため車間は十分に取っているし、相手も抜かれるような速度ではない。意図を図りかねているうちに谷風に吹き寄せられた粉雪で周囲が真っ白になった。こういうときにみだりにブレーキを踏んではいけないと習っていたので耐えたが、数秒視程ゼロになるのは恐怖でしかない。そのホワイトアウトが薄れた時、真っ先に見えたのはハザードランプのイエローの光だった。なるほどこうしてリスクを低減しているというわけか。後で充電のために立ち寄った三菱ディーラーでその意図を尋ねてみたところ、まさしくそうする習慣なのだという。雪国初心者の南国人である筆者にとって、雪国ドライブはやるたびに新しく知ることだらけだ。
◆FWDでも目を見張る雪上走破性に「さすが三菱」
そんなエクストリームコンディションの中であらためて威力に目を見張ったのは電動パワートレイン。前編でも触れたが、eKクロスEVには片側の駆動輪が空転した時に反対側の駆動輪に力が伝わるよう制御するグリップコントロールなる機能が実装されているが、その制御の上手さは目を見張るほどで、FWD(前輪駆動)にしてはという枕詞が不要なくらいに高い雪上走破性を示した。
今回のドライブでは幹線からちょっと外れて雪が積もった脇道を走ったりもしてみたが、そういうモロに豪雪地帯という状況でなくとも真夜中に山間部の道の駅にちょっと立ち寄りといったケースでもこの走破性は本当に心強かった。
辺境の道の駅は夜中になると除雪は後回しになる。入り口が登り坂で、しかも新雪に深々と覆われていているのを目にして一瞬怯んだが、「登り勾配なのだからダメなら後退すればいい。ままよ」と前進してみると底面に付着した氷と雪面の干渉をモノともせず登る登る。別の平坦な場所ではさすがに行けないかという状況に陥った。通常は車輪が空転するとアウトなので少々焦ったが、ステアリングを左右に振って前輪にちょっと抵抗がかかるような状況を作り出してやれば自力で後退することができた。
左右輪の駆動力制御は欧州のFWDクロスオーバーSUVによくみられる装備だが、電気モーター駆動だとさすがに制御の精度が桁違いだ。また、オフローダーを長年作り続けてきた三菱のノウハウがコンピュータのマッピングに生かされているということもあるかもしれない。日産『サクラ』とサスペンションセッティングは同じ、最低地上高が高いわけでもないeKクロスEVだが、この部分は三菱版オリジナルなのだという。
エンジン版のeKクロスもだが、クロスを名乗るからにはクロスならではの性能、機能を入れ込まなければ気がすまないという三菱の矜持のなせるワザか。少なくとも今回の1200kmツーリングでAWD(4輪駆動)だったらよかったのにと思ったことは一度もなく、前輪駆動のハンディが出るとすれば、朝に雪に深々と埋まった状態から脱出するといった時くらいではないかと思われた。
■圧雪、深雪、氷結、シャーベット…雪国の厳しさ
お昼であるにもかかわらず気温が前夜の国道113号線と同じマイナス12度という酷寒と地吹雪の月山道路を抜けて古都鶴岡に着いた。えらく文化的な香りのする街で、江戸時代の藩校はあるわ見事な建築デザインのホールはあるわ。逗留してくまなく回りたい衝動に駆られたが、今回は何としてでも厳寒期の日本海を見たいというのが目標。充電のため三菱ディーラーに向かった。
BEVの充電速度は車両側の充電受け入れ性と充電器の電流の両輪で決定される。三菱ディーラーの急速充電器は最大電流72アンペア、公称30kW機が主流だが、山形の三菱ディーラーに置かれているのは40アンペアの低出力機が中心である。公称出力は20kWだが、それは充電電圧500ボルトの時の話。充電電圧がせいぜい400ボルトの一般的なBEVの場合は受電電力はもっと低くなる。それでeKクロスEVを充電してみたところ、初速の電流値があまりに低いため電流が絞られることなく30分充電を完走できるものの、受電電力の最大値は15kWに達せず、投入電力量は7kWh強。実際にバッテリーに蓄えられる電力量は下手をすると7kWhを切る。
そういうところではeKクロスEVをフルスピードで充電できる72アンペア機のある場所まで届くぶん、必要最小限で充電を切り上げようというのが当初の構想だった。が、そうは問屋が卸さなかった。
足止め要因になったのは北国の三菱ディーラーの異様に温かい歓待ぶりである。充電のためにディーラーの敷地に入ると店員さんが笑顔で飛び出してくる。充電を開始すると「どうぞ中へ。温かい飲み物でもいかがですか」。平日で来店客が少なかったこともあったろうが、その後もずっと笑顔で歓談だ。これでは立ち去れない。ちなみにお隣の酒田、福島の会津若松など、他の三菱ディーラーも同様だった。ディーラーマンの一人に聞いてみると、意識しているわけではないが雪の季節になるとそういうスイッチが入る気もするとの弁。寒気が厳しく状況もスリリングな山間部を抜けてきた南国人にとっては身に沁みる温かさ。ちょっと感動である。
充電ついでに鶴岡の店員さんに「冬の日本海を見たいのですが、地元感覚ではどこを走るのがおススメですか!?」と質問してみた。「海を見るなら国道112号線で海に出て、湯野浜温泉かあつみ温泉に向かう道が断然いいです。バッチリ見えると思いますよ」との答え。酒田へ北上する計画だった筆者はおいしい庄内空港に向かって走り、海に出ようと思っていたのだが、北のほうは防風林や防風柵が海岸線を固めていて、酒田を過ぎて秋田との県境近くにならないと海の風景が開けない、と。
その店員さんの言葉に従って海に出てみると、いきなり日本海の風景が目に飛び込んできた。吹きつける烈風、凄まじいうねり、波に呑まれる灯台、周りを飛び交う波の花。この場所を逃していたら日没を迎えてしまい、真っ暗な夜の海を見るしかなかっただろう。穴場は地元の人に聞くのが一番だが、その辺を歩いている人に聞くのはいくら何でもハードルが高い。充電のタイムロスと引き換えにこういうコミュニケーションを取る機会が頻々と生まれるというのは面白い。何でも予定通り、思い通りに行って当たり前という空気が支配する現代において、ノスタルジックな旅情に浸ることができる。
◆10年に1度の寒波を駆け抜ける
海を見てから酒田に達する。酒田は過去に最大瞬間風速49m/sを記録した、本土では最高に風が強いエリアで、この日の最大瞬間風速は25m/s台だった。酒田人いわく「山形は内陸では豪雪になるのに対して酒田は雪が降っても風が雪を吹き飛ばすため積雪深は浅く、道路は圧雪ではなくアイスバーンになる」。その言葉通り、路面は灰色の氷に覆われている。
そこから暴風の中を内陸の新庄まで走り、そこからはしばし東北中央道のクルーズ。ここでは除雪車の直前に本線車道に合流したため、路面に降り積もった新雪を吹き飛ばしながらの高速巡航となった。アイスバーン、新雪とも安定性をまったく失わないeKクロスEVの走りにほとほと感心しつつ、寒波もピークは過ぎたなと何となく思っていた。
が、豪雪体験はピークを過ぎたと思った山形と米沢の間が最もすごかった。気温が低いのでぼたん雪ではないのだろうが、ぼたん雪のごとく巨大な粒の雪が視界を遮るほどに降りそそぎ、路面は大型車によって雪の轍が深々と掘られていた。その轍の幅と軽自動車のトレッドがまったく合わないため、片輪を轍に落としながらの走行だ。
スタック車に何度も行く手を阻まれながら南陽市に入ると、今度は大雪に道路の消雪装置の水が浸透してできたベシャベシャのシャーベット路になった。山形から米沢までの道のりは50km程度で、山形県庁出発時の充電率73%でさすがに十分届くと思っていたのだが、走行抵抗の増大で電費が低落したため念のため直前の南陽市のコンビニで充電することにした。
充電器はファミリーマートの駐車場の隅にあったが、駐車場は消雪のための水で道路以上にぐしゃぐしゃのシャーベットコンディションで、どうしても充電プラグが届くところまで前進できない。そこまですべての路面を乗り越えてきたeKクロスEVだったが、ここが唯一の敗北であった。クルマのパワーで乗り越えられないとなると、いよいよ除雪しかない。
ここで有り難かったのはファミリーマートの除雪器具を借りられたことである。タイヤのない一輪車みたいな道具で雪をせっせとかき分け、たまった水は水路を作って道路に逃がす。作業すること約15分、ようやく充電器までアプローチが可能な状態になった。筆者は除雪の可能性を考えてシャベルをクルマに搭載していたが、もしそれで同じことをやろうとしたら何倍もの時間と体力を消費したことだろう。夜間、人がいる場所に充電器があるのは有り難いことだと身に染みて感じた。
泊地に考えていた道の駅米沢に着いてみると、驚いたことに道の駅の敷地内は深々とした雪に覆われ、脱出できなくなったクルマが取り残されていた。交差点には走れなくなった大型車が立ち往生し、ハザードを点滅させている。短時間にどんだけ雪が降ったんだよと呆気に取られる光景である。アメダスにはそのような降雪は記録されておらず、気象というものは定点データではわからないものだ。
そこで活躍していたのは前編でも取り上げた国交省のラッセル車。駆け付けるや否や、ひとかき何トンという駐車場の雪を凄まじいパワーで片づけていく。雪国では日常光景なのだろうが、見慣れない身にとってはこれもわりと感動的なシーンであった。
その後は大峠を越えて福島に入り、道の駅喜多の郷というところで思いもかけず極上の雪見露天風呂にめぐり合いつつ会津若松、そこからは往路に通った会津高原~竜王峡ルートで関東平野へと下った。10年に1度の寒波の影響で平野部近くまで延々圧雪だったが、それまでの雪国の道路の厳しさからすれば、至って平和そのものだった。
◆雪国でのパフォーマンスを振り返る
さて、雪国1200km行におけるeKクロスEVのパフォーマンスを整理してみよう。走りについては正直、何の不満もなかった。おそらくAWDができることの9割以上はこのクルマもできる。そのくらい電動パワートレインのトラクションコントロールとグリップコントロールはすごい。乗り心地と静粛性の高さも申し分なく、車体やサスペンションは前述の南陽や米沢のボコボコのシャーベット路を走ってもまったく音を上げない。軽自動車規格でよくこんなクルマを作れたなという印象だった。
一方、寒冷地における航続性能は改善の余地を少なからず残した格好だった。eKクロスEV、サクラのバッテリー総容量20kWh、寒冷地における実使用範囲14~16kWhというスペックのクルマも現在のバッテリーコストを考えれば存在価値は大いにあると思うが、今後の課題としてさらに上を目指してほしいところである。
使用範囲15kWhとして、遠出の時に80→20%の範囲で運用する(実際、低速充電器でない場合の30分の充電回復幅はおおむね60%強だった)と仮定すると、使えるのは9kWh。12月初旬のドライブ経験から温暖期は10km/kWh以上も十分期待できるので、それで90kmは走れる計算になるが、寒冷環境で7km/kWhどまりだと63km。5km/kWhを切るシャーベット路だと40km少々にまで落ちる。雪国で急速充電1回80kmくらいの距離を安定的に出せるようになると、完全にはほど遠いもののまた違う乗り物という印象が生じるだろう。
充電については充電電流60アンペア、公称出力25kW機以上の性能であれば、バッテリー側の受け入れ性能の9割くらいを満たすことができる。72アンペア、公称30kW機であればそれ以上速い充電器と受電電力量は差がなくなる。反対に50アンペア、公称20kW機になると充電率の回復は際立って遅くなり、40アンペアだと30分で充電率の回復は40%前後となる。寒冷時に電流が絞られたり、連続充電で速度が低下したりといったことはなく、想定外に入らなかったという事態が起こらなかったのは美点だ。
ビバーク性能については暖房システムの性能差によるものか、日産『リーフe+』に比べると1時間あたりの消費電力が明らかに多く、それほど優秀とは感じられなかった。立ち往生車両に挟まれるなど長時間の停車を快適に乗り切るのはバッテリー容量の制約から難しいだろうが、数時間なら乗り切れる。また充電率を十分に回復させたうえでなら、車内で仮眠を取ったりするのにはうってつけであるように思われた。
BEV、とりわけeKクロスEVのような小容量バッテリーモデルは現状、寒冷地でパーソナルモビリティとして一般化しても大丈夫なレベルにはまだまだほど遠い。ただ、クルマの特性に自分のライフスタイルを合わせる気があり、足りない部分を自分の知恵で補うつもりがあるならば、寒冷地においても美点のほうを享受できる水準には来ている。
今後、BEVがどう受け入れられていくのか、またどういう技術進化を果たしていくのか、大変興味深いところである。
近年、大雪のたびにBEVは長時間の立ち往生になるとバッテリーの電力が持たないという話が飛び出す。暖房をつけっぱなしにしていれば、いつか電池切れになるのは当たり前だ。重要なのは1時間あたりどのくらいの電力を消費するかである。
昨年筆者が冬季ドライブを行ったバッテリー搭載量62kWhの日産自動車『リーフe+』(2022年の改良モデルは60kWh)は、秋田の大館で最低気温マイナス12.3度の中を暖房とシートヒーターをつけて6時間過ごすというビバークテストをやってみたが、そのさいの推定消費電力量は4.4kWh。24時間換算だと17.6kWh。かりに立ち往生に囲まれて前にも後ろにも進めないという状況に陥ってもかなり頑張れそうなスコアだった。eKクロスEVはどうか。
◆小容量バッテリーでどこまでビバークを頑張れるか
バッテリー総容量はリーフe+の3分の1、寒冷地における100→0%の実際の蓄電量は4分の1強しかない。元の電力が乏しいのだからリーフe+のような長時間ビバークが無理なのはやる前から分かり切っているのだが、それを前提にどのくらい使えるのかは筆者にとっても大いに興味のわくところだった。
ビバークテストは3回。最初は前編で辿り着くところまで述べた山形の道の駅あさひまち・りんごの森での6時間。数km離れた気象庁のアメダス観測ポイント、左沢(あてらざわ)のデータによれば、気温は開始時マイナス8.9度、日の出後も気温があまり上がらず、フィニッシュもマイナス7.1度。
充電率を70%に回復させ、空調を室温20度、内気循環に設定し、シートヒーターONで室内をフルフラットに。これで快適性はリーフe+と同等、いや、フルフラットになるぶんリーフを上回れるはず…という算段だったのだが、難点が2つ。ひとつはシートヒーターが座面にしかなく、シートバックが温かくならない。運転中は大して意識していなかったが、寝てみて気づいた。もうひとつはキャビンが適温になってもエアコンの送風が一向に弱まる気配がないこと。ブロワーがこんなに強く稼働したらそれだけで余分に電気を食いそうだと思ったが、風量AUTOに沿うことにし、就寝。
朝、アラームで叩き起こされる。シートバックが温まらないのは小さな不満だったが、キャビンが温かいだけでも寒冷地では至極有り難く、ぐっすり寝入っていた。そろそろ6時間だな…と、インパネ内のバッテリー充電率に目をやると、まさかの12%。実に58%ぶんの低下である。山形の低温環境ではバッテリーの100→0%電力量は14kWh前後に落ちていたが、それをベースに計算してもリーフe+の2倍近い8.2kWhを消費したことになる。
バッテリー残電力量10kWh、次の充電スポットまで雪道20km(消費電力4kWh)という条件で立ち往生したとすると、ぬくぬくのまま頑張れるのはせいぜい4時間ほどということになる。それ以上頑張りたければ室温を18度に設定し、エアコンのブロワーを最低か下から2番目まで手動で下げるなどの措置が必要だろう。
そういう努力をしてみたらどうかということで、2回目の米沢ではブロワーの強さを下から2番目に設定して6時間寝てみた。アメダスによれば気温は開始時マイナス3.2度、最低気温マイナス5.4度、フィニッシュ時マイナス2.0度。果たして充電率の変化は53→11%、低下幅42%、推定消費電力量5.9kWhと、ちょっとマシになった。ただし前回の朝日町に比べて気温がずっと高かったという差異があるため、エネルギー節約のワザが効いたのか気温の影響が大きいのかはわからなかった。
3度目は実は帰着後、筆者が入居するビルの駐車場で行った。東京都心は最低気温1.5度と氷点下にならなかったため参考程度だが、充電率は6時間で59→36%と23%ぶんしか落ちなかった。気温が上がり15kWhラインを回復した100→0%蓄電量をベースに計算したが、消費電力は3.5kWh程度とかなり少なくなった。
この3度のビバークのデータから、寒冷地においてあまりに雪の降りがすごくて除雪が追い付かないなどの理由で立ち往生に遭ったさいにリーフe+のように長時間頑張れるわけではないのは明らかである一方、あらかじめ充電率を上げておいて車中泊を行い、起きてからまた充電するというパターンであれば、静かで快適な就寝が約束される。そういう旅用途にはぴったりだろう。
◆月山道路経由で日本海へ
山形内陸部の道の駅あさひまち・りんごの森でのビバークテストで下がった充電率を回復させるべく、テスト前に引き続いて同じ場所で二度目の充電。前夜は充電率19%スタートで70%まで回復したのに対し、朝は9%(12%でビバークを終了した後もしばらく停車して電力を消費していた)から55%までしか回復しなかった。気温はほぼ同じ、スタート時の充電率が低いという点は二度目のほうが有利なくらいであったにもかかわらずこのような結果になった原因は不明だが、要因として考えられるのはバッテリーの温度が下がりすぎたことだろう。
この道の駅はりんごの森というサブネームがついていることからもわかるように、朝日町のりんごが一番の売りだ。が、1月はすでにりんごの最盛期を過ぎており、品ぞろえも豊富ではなかった。そんな果物売り場で目に留まったのはラ・フランス。棚に並んでいる袋を見てみると「今日が食べ頃」「26日が食べ頃」「27日が食べ頃」等々のシールが貼られている。そんなに微妙なものなのかとたまげて道の駅の店員さんに質問すると、その説明の懇切丁寧なこと。収穫後まず低温貯蔵で果実の呼吸を減らす、その後常温に戻して追熟させる、食べ頃を見計らって出荷するの3ステップというのがあらまし。そして、1月はちょうど旬なのだという。
「時期を外したラ・フランスなんて、ジャガイモか大根を食ったほうがずっとマシってもんですからね」という決定的な言葉が出たため、試しに買って食べてみた。とろりとした食感、たっぷりとした果汁、上品かつ豊潤な甘味に「これがラ・フランスのポテンシャルだったのか」と感動。山形は空港を2つ擁しており、ニックネームはそれぞれおいしい山形空港、おいしい庄内空港。「おいおいどっちもおいしいって芸がなさすぎなんじゃないか」などと思っていたが、郷土料理に限らず普通に食べるものが何でも感動的に美味しい。おいしいは山形人の誇りなのだなと感じ入った次第だった。
朝っぱらから美味しさを堪能しているうちに、前夜は吹雪で通行止めになっていた国道112号線、通称月山道路が開通したとの情報が入った。これで出羽山地を越えて再び日本海に出られる。月山界隈は日本有数の豪雪エリアとして知られている。以前ここを走った時はベシャベシャのシャーベット路で、雪国ビギナーの南国人である筆者はスタッドレスタイヤがこんなにも無力なシーンがあるのかとたまげたものだった。この日は山間部で気温がマイナス10度を下回るという低温で路面は圧雪コンディションだったが、かわりに前回はなかった猛烈な地吹雪に見舞われた。
「ちょっと待って、目の前のこれは吹雪のうちに入らないというの?」とたまげながら視界が悪い中を走っていると、先行車がハザードランプを付けてながら走っているのが見えた。安全のため車間は十分に取っているし、相手も抜かれるような速度ではない。意図を図りかねているうちに谷風に吹き寄せられた粉雪で周囲が真っ白になった。こういうときにみだりにブレーキを踏んではいけないと習っていたので耐えたが、数秒視程ゼロになるのは恐怖でしかない。そのホワイトアウトが薄れた時、真っ先に見えたのはハザードランプのイエローの光だった。なるほどこうしてリスクを低減しているというわけか。後で充電のために立ち寄った三菱ディーラーでその意図を尋ねてみたところ、まさしくそうする習慣なのだという。雪国初心者の南国人である筆者にとって、雪国ドライブはやるたびに新しく知ることだらけだ。
◆FWDでも目を見張る雪上走破性に「さすが三菱」
そんなエクストリームコンディションの中であらためて威力に目を見張ったのは電動パワートレイン。前編でも触れたが、eKクロスEVには片側の駆動輪が空転した時に反対側の駆動輪に力が伝わるよう制御するグリップコントロールなる機能が実装されているが、その制御の上手さは目を見張るほどで、FWD(前輪駆動)にしてはという枕詞が不要なくらいに高い雪上走破性を示した。
今回のドライブでは幹線からちょっと外れて雪が積もった脇道を走ったりもしてみたが、そういうモロに豪雪地帯という状況でなくとも真夜中に山間部の道の駅にちょっと立ち寄りといったケースでもこの走破性は本当に心強かった。
辺境の道の駅は夜中になると除雪は後回しになる。入り口が登り坂で、しかも新雪に深々と覆われていているのを目にして一瞬怯んだが、「登り勾配なのだからダメなら後退すればいい。ままよ」と前進してみると底面に付着した氷と雪面の干渉をモノともせず登る登る。別の平坦な場所ではさすがに行けないかという状況に陥った。通常は車輪が空転するとアウトなので少々焦ったが、ステアリングを左右に振って前輪にちょっと抵抗がかかるような状況を作り出してやれば自力で後退することができた。
左右輪の駆動力制御は欧州のFWDクロスオーバーSUVによくみられる装備だが、電気モーター駆動だとさすがに制御の精度が桁違いだ。また、オフローダーを長年作り続けてきた三菱のノウハウがコンピュータのマッピングに生かされているということもあるかもしれない。日産『サクラ』とサスペンションセッティングは同じ、最低地上高が高いわけでもないeKクロスEVだが、この部分は三菱版オリジナルなのだという。
エンジン版のeKクロスもだが、クロスを名乗るからにはクロスならではの性能、機能を入れ込まなければ気がすまないという三菱の矜持のなせるワザか。少なくとも今回の1200kmツーリングでAWD(4輪駆動)だったらよかったのにと思ったことは一度もなく、前輪駆動のハンディが出るとすれば、朝に雪に深々と埋まった状態から脱出するといった時くらいではないかと思われた。
■圧雪、深雪、氷結、シャーベット…雪国の厳しさ
お昼であるにもかかわらず気温が前夜の国道113号線と同じマイナス12度という酷寒と地吹雪の月山道路を抜けて古都鶴岡に着いた。えらく文化的な香りのする街で、江戸時代の藩校はあるわ見事な建築デザインのホールはあるわ。逗留してくまなく回りたい衝動に駆られたが、今回は何としてでも厳寒期の日本海を見たいというのが目標。充電のため三菱ディーラーに向かった。
BEVの充電速度は車両側の充電受け入れ性と充電器の電流の両輪で決定される。三菱ディーラーの急速充電器は最大電流72アンペア、公称30kW機が主流だが、山形の三菱ディーラーに置かれているのは40アンペアの低出力機が中心である。公称出力は20kWだが、それは充電電圧500ボルトの時の話。充電電圧がせいぜい400ボルトの一般的なBEVの場合は受電電力はもっと低くなる。それでeKクロスEVを充電してみたところ、初速の電流値があまりに低いため電流が絞られることなく30分充電を完走できるものの、受電電力の最大値は15kWに達せず、投入電力量は7kWh強。実際にバッテリーに蓄えられる電力量は下手をすると7kWhを切る。
そういうところではeKクロスEVをフルスピードで充電できる72アンペア機のある場所まで届くぶん、必要最小限で充電を切り上げようというのが当初の構想だった。が、そうは問屋が卸さなかった。
足止め要因になったのは北国の三菱ディーラーの異様に温かい歓待ぶりである。充電のためにディーラーの敷地に入ると店員さんが笑顔で飛び出してくる。充電を開始すると「どうぞ中へ。温かい飲み物でもいかがですか」。平日で来店客が少なかったこともあったろうが、その後もずっと笑顔で歓談だ。これでは立ち去れない。ちなみにお隣の酒田、福島の会津若松など、他の三菱ディーラーも同様だった。ディーラーマンの一人に聞いてみると、意識しているわけではないが雪の季節になるとそういうスイッチが入る気もするとの弁。寒気が厳しく状況もスリリングな山間部を抜けてきた南国人にとっては身に沁みる温かさ。ちょっと感動である。
充電ついでに鶴岡の店員さんに「冬の日本海を見たいのですが、地元感覚ではどこを走るのがおススメですか!?」と質問してみた。「海を見るなら国道112号線で海に出て、湯野浜温泉かあつみ温泉に向かう道が断然いいです。バッチリ見えると思いますよ」との答え。酒田へ北上する計画だった筆者はおいしい庄内空港に向かって走り、海に出ようと思っていたのだが、北のほうは防風林や防風柵が海岸線を固めていて、酒田を過ぎて秋田との県境近くにならないと海の風景が開けない、と。
その店員さんの言葉に従って海に出てみると、いきなり日本海の風景が目に飛び込んできた。吹きつける烈風、凄まじいうねり、波に呑まれる灯台、周りを飛び交う波の花。この場所を逃していたら日没を迎えてしまい、真っ暗な夜の海を見るしかなかっただろう。穴場は地元の人に聞くのが一番だが、その辺を歩いている人に聞くのはいくら何でもハードルが高い。充電のタイムロスと引き換えにこういうコミュニケーションを取る機会が頻々と生まれるというのは面白い。何でも予定通り、思い通りに行って当たり前という空気が支配する現代において、ノスタルジックな旅情に浸ることができる。
◆10年に1度の寒波を駆け抜ける
海を見てから酒田に達する。酒田は過去に最大瞬間風速49m/sを記録した、本土では最高に風が強いエリアで、この日の最大瞬間風速は25m/s台だった。酒田人いわく「山形は内陸では豪雪になるのに対して酒田は雪が降っても風が雪を吹き飛ばすため積雪深は浅く、道路は圧雪ではなくアイスバーンになる」。その言葉通り、路面は灰色の氷に覆われている。
そこから暴風の中を内陸の新庄まで走り、そこからはしばし東北中央道のクルーズ。ここでは除雪車の直前に本線車道に合流したため、路面に降り積もった新雪を吹き飛ばしながらの高速巡航となった。アイスバーン、新雪とも安定性をまったく失わないeKクロスEVの走りにほとほと感心しつつ、寒波もピークは過ぎたなと何となく思っていた。
が、豪雪体験はピークを過ぎたと思った山形と米沢の間が最もすごかった。気温が低いのでぼたん雪ではないのだろうが、ぼたん雪のごとく巨大な粒の雪が視界を遮るほどに降りそそぎ、路面は大型車によって雪の轍が深々と掘られていた。その轍の幅と軽自動車のトレッドがまったく合わないため、片輪を轍に落としながらの走行だ。
スタック車に何度も行く手を阻まれながら南陽市に入ると、今度は大雪に道路の消雪装置の水が浸透してできたベシャベシャのシャーベット路になった。山形から米沢までの道のりは50km程度で、山形県庁出発時の充電率73%でさすがに十分届くと思っていたのだが、走行抵抗の増大で電費が低落したため念のため直前の南陽市のコンビニで充電することにした。
充電器はファミリーマートの駐車場の隅にあったが、駐車場は消雪のための水で道路以上にぐしゃぐしゃのシャーベットコンディションで、どうしても充電プラグが届くところまで前進できない。そこまですべての路面を乗り越えてきたeKクロスEVだったが、ここが唯一の敗北であった。クルマのパワーで乗り越えられないとなると、いよいよ除雪しかない。
ここで有り難かったのはファミリーマートの除雪器具を借りられたことである。タイヤのない一輪車みたいな道具で雪をせっせとかき分け、たまった水は水路を作って道路に逃がす。作業すること約15分、ようやく充電器までアプローチが可能な状態になった。筆者は除雪の可能性を考えてシャベルをクルマに搭載していたが、もしそれで同じことをやろうとしたら何倍もの時間と体力を消費したことだろう。夜間、人がいる場所に充電器があるのは有り難いことだと身に染みて感じた。
泊地に考えていた道の駅米沢に着いてみると、驚いたことに道の駅の敷地内は深々とした雪に覆われ、脱出できなくなったクルマが取り残されていた。交差点には走れなくなった大型車が立ち往生し、ハザードを点滅させている。短時間にどんだけ雪が降ったんだよと呆気に取られる光景である。アメダスにはそのような降雪は記録されておらず、気象というものは定点データではわからないものだ。
そこで活躍していたのは前編でも取り上げた国交省のラッセル車。駆け付けるや否や、ひとかき何トンという駐車場の雪を凄まじいパワーで片づけていく。雪国では日常光景なのだろうが、見慣れない身にとってはこれもわりと感動的なシーンであった。
その後は大峠を越えて福島に入り、道の駅喜多の郷というところで思いもかけず極上の雪見露天風呂にめぐり合いつつ会津若松、そこからは往路に通った会津高原~竜王峡ルートで関東平野へと下った。10年に1度の寒波の影響で平野部近くまで延々圧雪だったが、それまでの雪国の道路の厳しさからすれば、至って平和そのものだった。
◆雪国でのパフォーマンスを振り返る
さて、雪国1200km行におけるeKクロスEVのパフォーマンスを整理してみよう。走りについては正直、何の不満もなかった。おそらくAWDができることの9割以上はこのクルマもできる。そのくらい電動パワートレインのトラクションコントロールとグリップコントロールはすごい。乗り心地と静粛性の高さも申し分なく、車体やサスペンションは前述の南陽や米沢のボコボコのシャーベット路を走ってもまったく音を上げない。軽自動車規格でよくこんなクルマを作れたなという印象だった。
一方、寒冷地における航続性能は改善の余地を少なからず残した格好だった。eKクロスEV、サクラのバッテリー総容量20kWh、寒冷地における実使用範囲14~16kWhというスペックのクルマも現在のバッテリーコストを考えれば存在価値は大いにあると思うが、今後の課題としてさらに上を目指してほしいところである。
使用範囲15kWhとして、遠出の時に80→20%の範囲で運用する(実際、低速充電器でない場合の30分の充電回復幅はおおむね60%強だった)と仮定すると、使えるのは9kWh。12月初旬のドライブ経験から温暖期は10km/kWh以上も十分期待できるので、それで90kmは走れる計算になるが、寒冷環境で7km/kWhどまりだと63km。5km/kWhを切るシャーベット路だと40km少々にまで落ちる。雪国で急速充電1回80kmくらいの距離を安定的に出せるようになると、完全にはほど遠いもののまた違う乗り物という印象が生じるだろう。
充電については充電電流60アンペア、公称出力25kW機以上の性能であれば、バッテリー側の受け入れ性能の9割くらいを満たすことができる。72アンペア、公称30kW機であればそれ以上速い充電器と受電電力量は差がなくなる。反対に50アンペア、公称20kW機になると充電率の回復は際立って遅くなり、40アンペアだと30分で充電率の回復は40%前後となる。寒冷時に電流が絞られたり、連続充電で速度が低下したりといったことはなく、想定外に入らなかったという事態が起こらなかったのは美点だ。
ビバーク性能については暖房システムの性能差によるものか、日産『リーフe+』に比べると1時間あたりの消費電力が明らかに多く、それほど優秀とは感じられなかった。立ち往生車両に挟まれるなど長時間の停車を快適に乗り切るのはバッテリー容量の制約から難しいだろうが、数時間なら乗り切れる。また充電率を十分に回復させたうえでなら、車内で仮眠を取ったりするのにはうってつけであるように思われた。
BEV、とりわけeKクロスEVのような小容量バッテリーモデルは現状、寒冷地でパーソナルモビリティとして一般化しても大丈夫なレベルにはまだまだほど遠い。ただ、クルマの特性に自分のライフスタイルを合わせる気があり、足りない部分を自分の知恵で補うつもりがあるならば、寒冷地においても美点のほうを享受できる水準には来ている。
今後、BEVがどう受け入れられていくのか、またどういう技術進化を果たしていくのか、大変興味深いところである。
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