【プジョー 408 海外試乗】PHEVとICE、1000km走らせてわかった「怪物的パッケージ」…南陽一浩

  • プジョー 408 GT(海外仕様)
日本でも発売になったばかりのプジョー『408』。PHEVモデルの「408 GT HYBRID」とガソリンICEの「408 GT」に、フランス現地で総計1000kmほど試乗することができた。すでに日本での試乗記も多々、出回っているが、驚かされるのはトヨタ『クラウン』との類似性を指摘する声の多さだ。

◆SUVでもステーションワゴンでもない「空白地帯」を捉えた408
いずれも、セダンでもSUVでもない新種のクロスオーバー的ファストバックのフォルムではある。ただ、プジョーがクラウンを手本に408を思いついた訳ではないことは確かだ。

2022年のパリサロン発表時、408のプロダクト・ディレクターであるジェローム・ミシュロン氏と、スティル・プジョーのチーフデザイナーであるマチアス・オサンから直接に聞いた話だが、408のスタディが始まったのは2014年頃にさかのぼり、一朝一夕に考え出された車型ではない。単にデザインに時間をかけたのではなく、プジョーは長らくポストSUVをCセグメントとDセグメントの領域で研究しており、足かけ8年近くにわたる開発期間を経て出来上がった新しいプロダクトにして結果的に新種のシルエット、それが408なのだという。

ここで留意すべきは、プジョーは1980年代に『205』がヒットする以前は、例えば刑事コロンボの『403』のような大昔は、デザインなど二の次といった地味で堅実な実用性がウリの自動車メーカーだった事実がひとつ目。ふたつ目は、90年代から2000年代前半にかけてミニバン/モノスペースがブームでも、走りがよくてスポーティという折角獲得したイメージを大切にするあまり、初代『5008』などミニバンの投入が相対的に遅かった事実。

そして三つめは個人的に思い出したことだが、旧PSAグループのあるOBいわく、同グループはデザイン・スタディやプロトタイプによる提案は先進的だが、いざ市販車として世に出すカタチにするまでのプロセスに時間がかかり過ぎる嫌いがあって、他メーカーに真似されたとはいわないまでもエレメントだけ巧く先に出され、市場が飽和することが時にあると。具体的にはシトロエン『カクタス』(プロトタイプ時)と日産の初代『ジューク』の時だ。

というわけで時間軸的にも文脈的にも、プジョー408がクラウンを参考にしたはずはない。むしろプロダクト・ディレクターとチーフデザイナーが強調していた、408のプロダクト企画というか物理的な要件とは、成熟を迎えたEMP2プラットフォームをPHEV用に最適化・進化した同エボ3をベースに、セダンやステーションワゴン、SUVやSUVクーペといった従来的な車型の枠組みをとり払って、2020年代に相応しい統合的パッケージングを提案することだった。

元よりSUVクーペ気味の『3008』とピープルムーバーSUVとして優秀な5008がヒットしたせいもあるが、セダンが黄昏期を迎える中で、SUVでもステーションワゴンでもない新しいカタチが求められ、その空白地帯こそが研究対象だったのだ。

◆怪物的にレイアウト・パッケージに優れている
そして1000kmほどフランスで走り回って、まず結論から述べてしまおう。408はデザイン優先の変わり種グルマどころか、よく練られ、怪物的にレイアウト・パッケージに優れた一台だ。

本国発表値による5~2名乗車時のラゲッジ容量は、PHEVが471~1545リットルでガソリンICEが536~1611リットル。5名乗車時の数値はじつのところ、日本で好評のルノー『アルカナ E-TECH』とどっこいなのだが、2列目シートを畳んだ時のラゲッジ容量は300リットル近く408が上回る。アルカナは欧州Cセグメント相当で全長4570mmほど、408はDセグメントのサイズ感でひと回り大きな全長4700mmなので当たり前だが、荷物が積めるだけでなく後席シートのスペースがそもそも広くとられているのだ。

つまり荷物を積むだけなら『308SW』、ステーションワゴンの方が優れるが、408は308SWより+68mmとなる2790mmのロングホイールベースで、セダンより頭上スペースもあって快適に過ごせる後席を備える。3008辺りと比べても、ルーフ高を抑えたおかげで柔らかにロールする非SUV的で穏やかな足まわりに仕上がった。なのに508辺りとデザインを比べても、ショルダーラインもロードクリアランスも高くSUVライクなトレンド感のあるスタイリングをも手に入れ、オーバーハングやコンケーブを多用し、すっきりと削り込んだアスリートの筋肉のような佇まいすら獲得した。

余談だがルーフ後端のリアウイングは、ほとんどランボルギーニ風で、ホイールアーチ上部はコンケーブ状に削ぎ落とされてすらいる。408はかくも欲張りなのだ。ステーションワゴン、セダン、SUVやSUVクーペなど、それぞれスペシャリストとなる車はすでにあるが、そのすべてをまかなえるほど見事なオールインワン・パッケージでオールマイティな一台である点に、新しい車型そのものである408の存在意義がある訳だ。

その実用性は量で語れる種類のものではないが、いざ出発の際、3辺合計150cmという国際線で預け荷物にする大型スーツケース×2個と、機内持ち込みサイズ×2個を、縦積みで軽々と飲み込んだことに、いきなり驚かされた。デッドスペースがほとんどないラゲッジスペースで、12Vコンセントもあれば、買い物袋やトートバッグを掛けられるフックまで、荷室の左右に備える。しかもパワーゲート仕様でトランクスルーも備わり、2列目シートを倒す操作系もトランク側とシート側の2ウェイという、スキのない使い易さだ。ラゲッジを隠すトノカバーが2分割で、ハッチゲートと一緒に跳ね上がる点も面白い。なのに、リアオーバーハング周りを厚ぼったく見せないボリューム感の処理は、さすがの手際だ。

◆後席の座り心地も上々、近未来的なインターフェイスが心地いい
後席の座り心地は、足元も頭上も広いからすこぶる上々で、SUVやSUVクーペにありがちなシートバックの立ったタイプではない。前列シートやダッシュボードの仕様は、まったくもって308ハッチバックやSWに準じるが、インフォテイメントもADASも最新世代で、e-SAVE機能や充電予約などバッテリー関連の情報もタッチスクリーンとメーターパネル、双方で確認できる。

当然、後者の液晶表示は、プジョーお得意の3D i-コクピットだ。408 PHEV独特の特徴的なグラフィックとしては、真横アングルでPHEVのホイールベース間にバッテリー残量インジケーターが配されたのに加え、先代308GTを彷彿させるクープ・フランシュ、つまり斜め線が入っている。新種とはいえ、ひとつひとつのデザインモチーフをじつは長く大事に使うプジョーらしさでもある。

ちなみにEMP2プラットフォームは、ステアリングポストの位置が高低2種類あって、408は低い側を使っているため、着座位置やドライビングポジションは3008/5008より308に当然近い。508ほど囲まれるようなパーソナル感の強調はないが、手元が開放的で10インチのタッチスクリーンとi-トグルによる、近未来的なインターフェイスごと、心地いい。

◆PHEVとガソリンICE、ドライバビリティの違いは
肝心のドライバビリティについては、308ファミリーと508を経験した後では、ガソリンICEもPHEVも、意外なほどゆったりしたステアリングフィールが印象的だ。小径ステアリングながら、ロック・トゥ・ロックで今どき珍しく4回転近く回るのだ。どちらもフロントがマクファーソンストラット式、リアがトーションビーム式である点も、フランス車としてもプジョー車としても古典的。とくにICEの方は、左右の切り替えしのような局面でよく動く足ながら、ピタリと収束するフラット感の高さというか素直なスタビリティで、小径ハンドリングとはいえ、少し懐かしさすら感じさせる。

それでもペースを上げるにつれ、操舵ゲインも手応えも強まっていって、鈍重に感じさせないところは、やはりプジョーらしさ。切った分だけノーズは剛性感たっぷりにインを向く。ただPHEVパワーユニットは、1.6リットルターボ+電気モーターのおかげで低速域からスロットル・レスポンスに対するトルクの出方も申し分ないが、耐荷重大きめタイヤのせいもあってか、乗り心地としては30km/h前後でやや跳ねる。

逆に車重1430kgと、PHEVより300kg以上も軽いガソリンICEの方が、低速域ではしっとりストロークする柔らかな乗り心地だ。ただしEAT8速トランスミッションが坂道を徐行するような際に、おそらく走行距離の少なかった個体でシフトスケジュールに妙なクセがついていたのか、ぎこちない前後ショックを伝えてくることがあった。

しかし近郊や高速道路を走らせて50~130km/hへと速度域が上がるにつれ、408は伸び伸び本領を発揮し始める。プジョーではおなじみのピュアテック130こと直列3気筒1.2リットルターボは、車格に比して当初はキツそうという先入観だったが、なかなかどうして、合流や追越の加速の際にも苦し気な気配を発するでも大きなラグを感じさせるでもなく、キチンと仕事をこなす。決してパワフルではないが、必要十分以上に力強い。遮音材のおかげもあるが、車内も煩いどころか、一定の静けさを保ちさえする。無論、PHEVなら輪をかけて静かだ。

惜しむらくは、ガソリンICEの燃費だ。2名乗車で荷室もほぼフル積載だったが、市街地が3分の1、高速道路が3分の2の走らせ方で15km/リットル前後だった。巡航速度で積極的にコースティングしたり、郊外路や市街地でもキツ過ぎない回生減速Gによってワンペダル・ドライブしやすいPHEVの方が、おそらくバッテリー残量がゼロになった後も、走らせ方次第で燃費は伸びるだろう。実際、カタログ上でのWLTC-H、高速モード燃費はガソリンICEもPHEVも同じ19.1km/リットルとなっている。

◆天邪鬼な要求に、大真面目に応じた一台
走りのパンチ力という意味ではシステム総計225psのPHEVに軍配が上がるし、そもそもハンドリングの鋭さを求めるなら、308ハッチバックや3008 HYBRID 4を優先して選ぶべきだろう。ところが全体のバランスというか、街でのちょい乗りから荷物をたっぷり詰めての遠出まで、生活のあらゆるシーンをシンプルに全方位的にカバーするのは、408のガソリンICEという気がする。

ハッチバックだと物足りないがSUVやSUVクーペにも飽きた、そんなユーティリティもスタイリッシュさをも追い求める天邪鬼な要求に、大真面目に応じた一台、それが408なのだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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