【マツダ ロードスターRS 新型試乗】新旧比較で実感した「アシンメトリックLSD」の真価…諸星陽一

  • マツダ ロードスターRS
来年2025年にはデビュー10周年を迎える現行のND型マツダロードスター』が大幅改良を受けた。最大のトピックは1.5リットルエンジンを積むソフトトップ仕様のロードスターRSにアシンメトリックLSDを装備したことである。

◆「アシンメトリックLSD」とは
クルマはコーナーを曲がる際に左右のタイヤが異なる軌跡を描く。内側と外側では回転半径が異なり、それをスムーズにするためにデファレンシャル機構(オープンデフと呼ばれる)という装置が装備される。スムーズに走るだけでならデファレンシャル機構は非常に優れているが、クルマをスポーティに走らせようとすると、やっかいな問題も起きる。

オープンデフではタイヤの接地が悪い(極端な場合はタイヤが浮いている状態)ほうにより多くの駆動力を伝えるという特性を持つ。つまり、オープンデフはコーナリング中に駆動力をかけづらい機構である。これを回避するために開発されたのがリミテッド・スリップ・デフ(LSD)で、デフの効果を抑制して接地しているタイヤに積極的に駆動力を伝える。

LSDにはいくつかタイプがある。初期のLSDはクラッチタイプ(機械式と呼ばれることもある)であったがメンテナンスが面倒なこともあり、競技用などを除いてあまり使われなくなってきた。NDロードスターはスーパーLSDと呼ばれるLSDを採用してきたが、今回の改良ではこれを新たにアシンメトリックLSDに変更した。詳しい機構説明は避けるが、アシンメトリックLSDは従来のスーパーLSDよりもアクセルオフ時のLSD効果を高めている。こうすることで、コーナー入り口での回頭性を向上するのが目的だ。

今回、スーパーLSDが装着された従来モデルとアシンメトリックLSDが装着された最新モデルとを比較試乗した。マツダはこうした機構を採用した際に、新旧比較での試乗体験を用意することが多い。評価する側としては非常にうれしいことで感謝である。

◆LSD、パワステ、エンジンフィールに変化
試乗コースを走りながら、アシンメトリックLSDの効果を試すためにコーナー進入時のアクセルオフを素早く行う。ステアリングを切り込んでいったときのノーズの入り方がアシンメトリックLSD付きモデルのほうがよく、そのあとのリヤのスタビリティも高い。アシンメトリックLSDでは減速時によりLSD効果を高く発揮できるように設定しているというのがこの理由だ。

今回の改良ではパワーステアリングも変更された。形式は従来同様の2ピニオンタイプだが、アシスト側ピニオンを従来より外側にすることによって、ステアリングまわりの剛性を高めつつブッシュを変更しフリクションを低減している。この効果はしっかりと感じられる。コーナリングなど舵角が大きい状況よりも、直進時の修正舵や車線変更などの小舵角時によりスッキリ感を感じられる。

エンジンも改良を受けていて、最高出力で3kWの出力向上となっている。この出力アップはもちろん歓迎なのだが、それよりもいいフィールを生み出しているのがアクセルペダルを戻したときの減速の速さだ。従来よりも0.2秒速く減速が開始されるセッティングとしている。これによりアシンメトリックLSDの効果をより積極的に引き出せるというわけだ。

◆マツダらしい進化と選択肢
現代のクルマは車外騒音規制が厳しく、エンジンサウンドを楽しめるようにするのが難しい。そこでエンジンのサウンドを直接車内に取り込むという試みが行われる。ロードスターには「インダクション・サウンド・エンハンサー」という装置が組み込まれていて、これによってエンジンサウンドを積極的に室内に取り込んでいる。今回はこの「インダクション・サウンド・エンハンサー」が改良され、より効果が高められている…のだが、それはほとんど分からなかった。なぜなら、せっかくのロードスター試乗だったので、ソフトトップは開けた状態で試乗してしまったからだ。

今回のロードスターの進化はじつに素晴らしい。いかにもマツダらしく、少しでもいいものを世の中に出していこうという気持がものすごく伝わって来る。LSDの交換などができないパーティレースでは、より走りが楽しいものとなるのは必至だ。

そしてもっともリーズナブルなモデルである「S」グレードにはこのアシンメトリックLSDが付かない。つまり、最初からクラッチ式LSD装着を考えているなら、Sグレードを選べばいいということになる。この選択肢を残してくれているところもなかなかニクい設定である。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

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