【試乗記】ホンダ・ジェイド ハイブリッドRS Honda SENSING(FF/7AT)
- ホンダ・ジェイド ハイブリッドRS Honda SENSING(FF/7AT)
ありそうで なかった
マイナーチェンジを機に、ホンダの6シーター「ジェイド」のラインナップに2列シートの5人乗り仕様が登場。そのスポーティーグレードからは、最近のワゴン車には感じられない懐かしい個性が伝わってきた。
ホンダならではの技あり商品
ホンダのミニバンの歴史は1990年代に大ヒットした「オデッセイ」に始まる。当時のミニバンは後輪駆動のワンボックスがベースで、エンジンが1列目の座席の下にあるのがフツウだった。けれど、ホンダの工場は背の高いワンボックスの生産を想定していなかった。それゆえ、天井が低かった。だから、FFの乗用車ベースで多人数乗れるミニバンを構想するしかなかった。それが結果的に、乗用車に近いドライビングポジションで乗れるミニバンの誕生につながり、大ヒット作になった。必要は大ヒットの母だった。
2000年には「ストリーム」という5ナンバー3列シート7人乗りの小型ミニバンを世に問うた。全幅1.7m以下で、全長は4mの半ば。こんなに小さな7人乗りはだれも考えなかった。常識はずれの快作に、三河の大手メーカーがほとんどそっくりのクルマをつくった。結局、日本国民は同じようなカタチのクルマがふたつのメーカーから出てきたことですっかり飽きてしまった。計画の外の陳腐化といってよかった。ストリームはその後、2006年に全面改良を受けて第2世代へと変わるけれど、第1世代のようなヒットは望むべくもなかった。
そこでホンダはもう再度ヒットを飛ばそうと、国内では2015年2月に、3列シート6人乗りの、ストリームの後継というべきジェイドを登場させた。「セダンでもミニバンでもない、新しい乗用車」として開発した。ということが当時のプレスインフォメーションには書かれている。そのことにあらためて注目したい
日本語で「翡翠(ひすい)」という意味のジェイドのサイズは、全長4650×全幅1775×全高1530mmと、もはや5ナンバー枠ではなかったけれど、その代わりタワー式駐車場に一応入庫可能な高さの、使い勝手のよいコンパクトミニバンとして構想された。いや、そもそもは日本向けというより、いまや世界最大の自動車市場となった中国向けだった。その証拠に、ジェイドは2012年の北京モーターショーで発表され、その翌年から東風本田汽車によって生産が始まった。中国向けは最初から2列5人乗り(ワゴン)と3列6人乗り(ミニバン)の2本立てだった。
2000年には「ストリーム」という5ナンバー3列シート7人乗りの小型ミニバンを世に問うた。全幅1.7m以下で、全長は4mの半ば。こんなに小さな7人乗りはだれも考えなかった。常識はずれの快作に、三河の大手メーカーがほとんどそっくりのクルマをつくった。結局、日本国民は同じようなカタチのクルマがふたつのメーカーから出てきたことですっかり飽きてしまった。計画の外の陳腐化といってよかった。ストリームはその後、2006年に全面改良を受けて第2世代へと変わるけれど、第1世代のようなヒットは望むべくもなかった。
そこでホンダはもう再度ヒットを飛ばそうと、国内では2015年2月に、3列シート6人乗りの、ストリームの後継というべきジェイドを登場させた。「セダンでもミニバンでもない、新しい乗用車」として開発した。ということが当時のプレスインフォメーションには書かれている。そのことにあらためて注目したい
日本語で「翡翠(ひすい)」という意味のジェイドのサイズは、全長4650×全幅1775×全高1530mmと、もはや5ナンバー枠ではなかったけれど、その代わりタワー式駐車場に一応入庫可能な高さの、使い勝手のよいコンパクトミニバンとして構想された。いや、そもそもは日本向けというより、いまや世界最大の自動車市場となった中国向けだった。その証拠に、ジェイドは2012年の北京モーターショーで発表され、その翌年から東風本田汽車によって生産が始まった。中国向けは最初から2列5人乗り(ワゴン)と3列6人乗り(ミニバン)の2本立てだった。
軸足はミニバンからワゴンへ
一方、日本仕様においてはミニバンのみとされた。発表時のパワートレインは1.5リッター直4+電気モーター内蔵型7段DCTのハイブリッドのみで、中国版もそうだけれど、2列目にキャプテンシートを採用。しかもこの2列目は、リアのホイールハウスを避けるよう前後V字型にスライドすることで、より広いレッグルームを確保していた。もっとも、後方に引いた際には両者の間は当然狭まるから、足元をうんと広くして隣の人との距離をくっつけるとなると、できることは限られてくる、という気はする。
それはともかく、ホイールベース2760mmの小型車で、3列目シートの住人のレッグルームを稼ぐべく、ホンダお得意のセンタータンク方式ながら、従来にない超薄型を開発して、2列目シートのちょうどフロア下に出っ張ることなくおさめた。これにより2列目シートの座面のクッションの厚さも確保できた、というのがホンダの主張だ。
このジェイドに2018年5月、マイナーチェンジが施され、車種構成が変更になった。2015年5月(ということはデビューの3カ月後)に1.5リッターVTECターボエンジンを搭載するスポーティー仕様「RS」が追加されていたわけだけれど、このRSが、3列シート6人乗りから、2列シート5人乗りに改められた。と同時に1.5リッター+モーターのハイブリッドでも新たに選択できるようになった。つまり、RSは5人乗りで、パワートレインは2種類選べるようになった。これによりジェイドは、6人乗りミニバン市場に片足を残しつつ、5人乗りワゴン市場へも進出したことになる。
というわけで、最新型ジェイドの月間の目標販売台数は500台。フェイスリフトを受けた5月に通称名別の登録台数の統計で50位に顔を出した。前置きが長くなった。インプレッションにとりかかろう。
それはともかく、ホイールベース2760mmの小型車で、3列目シートの住人のレッグルームを稼ぐべく、ホンダお得意のセンタータンク方式ながら、従来にない超薄型を開発して、2列目シートのちょうどフロア下に出っ張ることなくおさめた。これにより2列目シートの座面のクッションの厚さも確保できた、というのがホンダの主張だ。
このジェイドに2018年5月、マイナーチェンジが施され、車種構成が変更になった。2015年5月(ということはデビューの3カ月後)に1.5リッターVTECターボエンジンを搭載するスポーティー仕様「RS」が追加されていたわけだけれど、このRSが、3列シート6人乗りから、2列シート5人乗りに改められた。と同時に1.5リッター+モーターのハイブリッドでも新たに選択できるようになった。つまり、RSは5人乗りで、パワートレインは2種類選べるようになった。これによりジェイドは、6人乗りミニバン市場に片足を残しつつ、5人乗りワゴン市場へも進出したことになる。
というわけで、最新型ジェイドの月間の目標販売台数は500台。フェイスリフトを受けた5月に通称名別の登録台数の統計で50位に顔を出した。前置きが長くなった。インプレッションにとりかかろう。
インテリアのムードは上々
試乗車は「ジェイド ハイブリッドRS Honda SENSING」である。ジェイドはこれを機に、全モデル、ホンダの安全運転支援システム「ホンダセンシング」が標準装備化された。
車両価格は、ハイブリッドゆえにジェイドの中で最も高価で289万8720円。RS専用のボディーカラーである「プレミアムクリスタルオレンジ・メタリック&ブラックルーフ」は11万8800円高だから、300万円を超える。そのかいあって、新型ジェイドのイメージカラーをまとったこれはまぶしいぐらい鮮烈で、イカしている。
運転席に乗り込むと本革巻きのステアリングホイールにはボディー色と同じオレンジのステッチが入っている。RS専用コンビシートは、ラックススエードと合成皮革の組み合わせで、これまたオレンジのステッチが入っている。ただ、RSのボディー色はオレンジに限定されているものではなくて、ホワイトやらレッドやらブルーやらを選んでも、内装はブラック×オレンジのステッチの組み合わせしかない。なぜなの? という疑問はボディー色に合わせてステッチをいちいち変えるほどの予算がなかった、と推測することで片付けるとして、少なくともオレンジ色のボディー色のジェイドRSのインテリアはスポーティーかつおしゃれなムードが漂っている。インストゥルメントパネルとドアの内側の一部にカーボン調のパネルが用いられていたりもして。
スカットルが低くて、1980~90年代のホンダ車の特徴である、グラスエリアの広い良好な視界が広がっていて、筆者はけっこういいな、と思った。着座姿勢は、出自がミニバンであることを考えるとますます低い。「セダンでもミニバンでもない新しい乗り物」をつくろうとした開発者の意図がよくわかるような気もする。
車両価格は、ハイブリッドゆえにジェイドの中で最も高価で289万8720円。RS専用のボディーカラーである「プレミアムクリスタルオレンジ・メタリック&ブラックルーフ」は11万8800円高だから、300万円を超える。そのかいあって、新型ジェイドのイメージカラーをまとったこれはまぶしいぐらい鮮烈で、イカしている。
運転席に乗り込むと本革巻きのステアリングホイールにはボディー色と同じオレンジのステッチが入っている。RS専用コンビシートは、ラックススエードと合成皮革の組み合わせで、これまたオレンジのステッチが入っている。ただ、RSのボディー色はオレンジに限定されているものではなくて、ホワイトやらレッドやらブルーやらを選んでも、内装はブラック×オレンジのステッチの組み合わせしかない。なぜなの? という疑問はボディー色に合わせてステッチをいちいち変えるほどの予算がなかった、と推測することで片付けるとして、少なくともオレンジ色のボディー色のジェイドRSのインテリアはスポーティーかつおしゃれなムードが漂っている。インストゥルメントパネルとドアの内側の一部にカーボン調のパネルが用いられていたりもして。
スカットルが低くて、1980~90年代のホンダ車の特徴である、グラスエリアの広い良好な視界が広がっていて、筆者はけっこういいな、と思った。着座姿勢は、出自がミニバンであることを考えるとますます低い。「セダンでもミニバンでもない新しい乗り物」をつくろうとした開発者の意図がよくわかるような気もする。
60年代のスターのような
エンジンは、ま、ハイブリッドなのだから当然だけれど、スターターを押してもメチャクチャ静かである。バッテリーがビンビンである限り、モーターが主導権を握っていて、しばらく内燃機関は眠っている。
高速道路にあがってフル加速を試みると、1496ccの直噴エンジンたるこれは、環境問題によって手も足も縛られている割には、快音を発する。最高出力131psを6600rpmで、最大トルク155Nmを4600rpmで発生し、電気モーターとの連携によって、とりわけ初期加速にハイブリッド特有のなめらかな加速を披露する。電気モーターの最高出力は29.5ps/1313-2000rpm、最大トルクは160Nm/0-1313rpmで、とりわけトルクの支援は心強い。さりとて、モーレツに速いかといえば、それを期待されるかたもいらっしゃらないとは思うけれど、あくまで実用車の範囲である。乗り心地は基本的にフラットで、良路では特に文句がない。225/45R18サイズの「ダンロップSP SPORT MAXX 050」をちゃんと履きこなしている。
してみると、ジェイド ハイブリッドRSの魅力は、雰囲気が適度にスポーティーなワゴンという、いまどきありそうで、実はなかなか得難いキャラクターにありそうだ。3列目のシートを取っ払ったことによって、2列目のシートの居住空間が大幅に広がった、ということはない。キャプテンシートの代わりに普通のベンチシートになったのだから、むしろ華やかさは減じたというべきだろう。たぶん。たぶん、というのは直接比較していないためである。荷室も、驚くほど広くはない。カタログを見ると、27インチの自転車が前輪を外すと縦に入るようではある。それだけ入れば、ま、十分ではあるだろう。
基本的に同じ1.5リッター+モーターのハイブリッドを搭載する「ホンダ・シャトル」とどう違う? シャトルは「フィット」のワゴンで、ホイールベースがフィットと同じ2530mmしかない。ジェイドもフィットベースかもしれないけれど、もうちょっとでかい。シャトルに比べると、1クラス上で、100万円近く高いわけである。ジェイドRS は、シャトルのカッコつけたおにいさんなのだ。
カッコつけたおにいさん、というと筆者は石原裕次郎とか小林 旭とか、あるいは若大将の加山雄三とかの60年代の銀幕のスターを思い浮かべる。さすがに古すぎる? ですよねぇ……。申し上げたかったのは、近頃このクラスでカッコつけたおにいさんのためのクルマが日本車であっただろうか? ということである。すぐに浮かぶ答えは「スバル・レヴォーグ1.6GT EyeSight」だけれど、つまりジェイドRSはいまや日本ではごく限られていそうなマーケットをターゲットにしているように筆者には思われる。
単に筆者のカン違いかもしれないけれど、ジェイドをごくたまに見かけたりすると、どこか懐かしい風が吹いてくるような気がする。う~む、気のせいかしら。あ。いまのいま、高度経済成長の真っただ中にある中国市場向けに開発されたモデルだから……なのかもしれない。
(文=今尾直樹/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
高速道路にあがってフル加速を試みると、1496ccの直噴エンジンたるこれは、環境問題によって手も足も縛られている割には、快音を発する。最高出力131psを6600rpmで、最大トルク155Nmを4600rpmで発生し、電気モーターとの連携によって、とりわけ初期加速にハイブリッド特有のなめらかな加速を披露する。電気モーターの最高出力は29.5ps/1313-2000rpm、最大トルクは160Nm/0-1313rpmで、とりわけトルクの支援は心強い。さりとて、モーレツに速いかといえば、それを期待されるかたもいらっしゃらないとは思うけれど、あくまで実用車の範囲である。乗り心地は基本的にフラットで、良路では特に文句がない。225/45R18サイズの「ダンロップSP SPORT MAXX 050」をちゃんと履きこなしている。
してみると、ジェイド ハイブリッドRSの魅力は、雰囲気が適度にスポーティーなワゴンという、いまどきありそうで、実はなかなか得難いキャラクターにありそうだ。3列目のシートを取っ払ったことによって、2列目のシートの居住空間が大幅に広がった、ということはない。キャプテンシートの代わりに普通のベンチシートになったのだから、むしろ華やかさは減じたというべきだろう。たぶん。たぶん、というのは直接比較していないためである。荷室も、驚くほど広くはない。カタログを見ると、27インチの自転車が前輪を外すと縦に入るようではある。それだけ入れば、ま、十分ではあるだろう。
基本的に同じ1.5リッター+モーターのハイブリッドを搭載する「ホンダ・シャトル」とどう違う? シャトルは「フィット」のワゴンで、ホイールベースがフィットと同じ2530mmしかない。ジェイドもフィットベースかもしれないけれど、もうちょっとでかい。シャトルに比べると、1クラス上で、100万円近く高いわけである。ジェイドRS は、シャトルのカッコつけたおにいさんなのだ。
カッコつけたおにいさん、というと筆者は石原裕次郎とか小林 旭とか、あるいは若大将の加山雄三とかの60年代の銀幕のスターを思い浮かべる。さすがに古すぎる? ですよねぇ……。申し上げたかったのは、近頃このクラスでカッコつけたおにいさんのためのクルマが日本車であっただろうか? ということである。すぐに浮かぶ答えは「スバル・レヴォーグ1.6GT EyeSight」だけれど、つまりジェイドRSはいまや日本ではごく限られていそうなマーケットをターゲットにしているように筆者には思われる。
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