【試乗記】トヨタ・センチュリー(FR/CVT)
- トヨタ・センチュリー(FR/CVT)
よんどころなし
要人御用達の国産ショーファードリブンカー「トヨタ・センチュリー」が、20年ぶりにフルモデルチェンジ。「継承と進化」をテーマに開発された新型は、ほかのサルーンでは味わえない独自の高級車像を築き上げていた。
もはやライバル不在
黒いセンチュリーはカメラマン泣かせだ。7層の塗装に、漆塗りの技法でもある“水研ぎ”を3度施して鏡面仕上げとしたボディーに、あらゆるものが映り込んでしまうからだ。
期間限定で用意された試乗車には、「洗車に関するお願い」という刷り物が載っていて、付属の本皮セーム、毛ばたき、吸水クロスの使い方が説明してある。もちろん機械洗車はダメ。手洗いの際も、腕時計やアクセサリーは外すようにと書いてある。
たしかにその大型4ドアボディーは、シモジモのクルマとは別格の、やんごとない存在感を放つ。バンパーの出っ張りをなくしたフロントマスクには違和感を覚えるが、走り去る後ろ姿はきれいだ。“和”の匂いもする。ボディーサイドの高い位置に入る複雑なプレスラインは、平安時代にあった「几帳面(きちょうめん)」という技法を採用しているという。
1997年に先代センチュリーが登場したとき、日産には「プレジデント」がいた。2000年には三菱が「ディグニティ」を出した。あっという間に消えてしまったが、つい先日、皇室のだれかが乗っているのをニュースで見た。しかし、21年ぶりにフルチェンジした今度のセンチュリーに、国産のライバルはいない。センチュリー一強である。
プラットフォーム(車台)やパワートレイン、エアサスペンションは旧型「レクサスLS」用がベースで、センチュリー専用だったV型12気筒5リッターエンジンは、直噴5リッターV8ハイブリッドに変わった。価格は、国内生産の日本車では最高額の1960万円。本革シートなどのオプションを備えた試乗車は2000万円を超えていた。
期間限定で用意された試乗車には、「洗車に関するお願い」という刷り物が載っていて、付属の本皮セーム、毛ばたき、吸水クロスの使い方が説明してある。もちろん機械洗車はダメ。手洗いの際も、腕時計やアクセサリーは外すようにと書いてある。
たしかにその大型4ドアボディーは、シモジモのクルマとは別格の、やんごとない存在感を放つ。バンパーの出っ張りをなくしたフロントマスクには違和感を覚えるが、走り去る後ろ姿はきれいだ。“和”の匂いもする。ボディーサイドの高い位置に入る複雑なプレスラインは、平安時代にあった「几帳面(きちょうめん)」という技法を採用しているという。
1997年に先代センチュリーが登場したとき、日産には「プレジデント」がいた。2000年には三菱が「ディグニティ」を出した。あっという間に消えてしまったが、つい先日、皇室のだれかが乗っているのをニュースで見た。しかし、21年ぶりにフルチェンジした今度のセンチュリーに、国産のライバルはいない。センチュリー一強である。
プラットフォーム(車台)やパワートレイン、エアサスペンションは旧型「レクサスLS」用がベースで、センチュリー専用だったV型12気筒5リッターエンジンは、直噴5リッターV8ハイブリッドに変わった。価格は、国内生産の日本車では最高額の1960万円。本革シートなどのオプションを備えた試乗車は2000万円を超えていた。
レクサスとは流儀が違う
「後席が上座」と謳うのは先代以来である。まずは助手席後ろのVIP席を味わう。
最近乗った「レクサスLS500“エグゼクティブ”」と比べると、全長が10cm長いこともあり、さらに広い。本革シートの当たりがソフトで、よりフカっとしている。なにより違うのは、明るさだ。側面窓は二重ガラスだが、後席ウィンドウにもティンテッド加工は入っていない。白いカーテンがメーカーオプションにあるが、試乗車には付いていなかった。電動サンシェードを閉めると、部屋を昼なお暗くできたLS500に比べると、より外向的だ。考えてみるとセンチュリーは、後席で手を振ったりする人も乗るクルマなのである。
天井は高い帯のような織物でくるまれている。木目の浮いた本杢(ほんもく)のウッドパネルがイイカンジだ。アナログ時計の白い盤面は、和紙に見える。リアシートは前後スライドもリクラインも思いのままである。自分でやらなくても、運転席には後席シート調整用のボタンが5つ並んでいる。
新型LS500初出の“リフレッシュシート”が付いている。しかしリアシート左席のみ。しかもなぜか背もたれ部分だけで、座面には入っていない。アメリカで“shiatsu”シートとしてアピールしているこの装備は、LS500の最大の魅力のひとつだと思う。小さな空気袋の圧力で指圧師の親指のような効果を出している。背もたれを強く寝かせて体重を乗せると、クーッと声が出るくらい効く。センチュリーの主賓にもあの気持ちよさをフルスペックで味わってもらいたかった。
最近乗った「レクサスLS500“エグゼクティブ”」と比べると、全長が10cm長いこともあり、さらに広い。本革シートの当たりがソフトで、よりフカっとしている。なにより違うのは、明るさだ。側面窓は二重ガラスだが、後席ウィンドウにもティンテッド加工は入っていない。白いカーテンがメーカーオプションにあるが、試乗車には付いていなかった。電動サンシェードを閉めると、部屋を昼なお暗くできたLS500に比べると、より外向的だ。考えてみるとセンチュリーは、後席で手を振ったりする人も乗るクルマなのである。
天井は高い帯のような織物でくるまれている。木目の浮いた本杢(ほんもく)のウッドパネルがイイカンジだ。アナログ時計の白い盤面は、和紙に見える。リアシートは前後スライドもリクラインも思いのままである。自分でやらなくても、運転席には後席シート調整用のボタンが5つ並んでいる。
新型LS500初出の“リフレッシュシート”が付いている。しかしリアシート左席のみ。しかもなぜか背もたれ部分だけで、座面には入っていない。アメリカで“shiatsu”シートとしてアピールしているこの装備は、LS500の最大の魅力のひとつだと思う。小さな空気袋の圧力で指圧師の親指のような効果を出している。背もたれを強く寝かせて体重を乗せると、クーッと声が出るくらい効く。センチュリーの主賓にもあの気持ちよさをフルスペックで味わってもらいたかった。
“悪い道”は苦手
編集部Sさんをショーファーにして、後席インプレッションに出る。ハイブリッドだから、しずしずと走っている限り、エンジンはかからない。あたりまえだが、静かだ。
乗り心地のよしあしがはっきりわかるいつものコースを走ってもらう。それまではいかにもエアサスらしい粛々と滑るような走りだったが、路面の荒れたところではフロアがワナワナ震えて、だれも乗っていない助手席の背もたれが揺れた。平滑な路面では問題ないし、高速道路の小さな継ぎ目の乗り越しなどはエレガントなのだが、入力が大きくなると、途端に乗り心地が落ちる。こういうところは、欧州のVIPサルーンとは差がある。センチュリーのショーファーに求められるのは、“悪い道”へ行かないことである。
一方、ドライバーズカーとしてのセンチュリーにはウナらされる。意外に小径なハンドルの操舵感をはじめ、すべての操作がやわらかい。アグレッシブに運転しようなんて気を起こさせない。
そこを鞭打って、会長を迎えに山の中のゴルフ場へ急行するショーファーのつもりで走ってみても、センチュリーは大人(たいじん)の風格をみせる。しなやかな身のこなしは、2370kgの車重を感じさせない。パワーはいつでもどこでも余裕しゃくしゃくだ。急加速すると、大きなはずみ車が回るような回転フィールは、先代LSの「600h」そのものである。
乗り心地のよしあしがはっきりわかるいつものコースを走ってもらう。それまではいかにもエアサスらしい粛々と滑るような走りだったが、路面の荒れたところではフロアがワナワナ震えて、だれも乗っていない助手席の背もたれが揺れた。平滑な路面では問題ないし、高速道路の小さな継ぎ目の乗り越しなどはエレガントなのだが、入力が大きくなると、途端に乗り心地が落ちる。こういうところは、欧州のVIPサルーンとは差がある。センチュリーのショーファーに求められるのは、“悪い道”へ行かないことである。
一方、ドライバーズカーとしてのセンチュリーにはウナらされる。意外に小径なハンドルの操舵感をはじめ、すべての操作がやわらかい。アグレッシブに運転しようなんて気を起こさせない。
そこを鞭打って、会長を迎えに山の中のゴルフ場へ急行するショーファーのつもりで走ってみても、センチュリーは大人(たいじん)の風格をみせる。しなやかな身のこなしは、2370kgの車重を感じさせない。パワーはいつでもどこでも余裕しゃくしゃくだ。急加速すると、大きなはずみ車が回るような回転フィールは、先代LSの「600h」そのものである。
何でも最新とは限らない
1997年に出た先代センチュリーは925万円だった。この21年間で価格は倍以上になった。大卒の初任給はほとんど変わっていないと思うが、これもセンチュリー一強なのだから仕方ないか。
先代モデルでは、登場直後に試乗車を借りて秋田県まで遠出した。往復1200kmを走って、燃費は6km/リッター台だったが、今回は約260kmで10.1km/リッターを記録した。ハイブリッド化で燃費性能は大きく向上している。
高速道路でレーンキープアシストを試していて気がついた。このシステムは、新型LS500や「アルファード」系に搭載される、車線のど真ん中をキープする最新型ではない。「トヨタの最高級車」ではあるけれど、トヨタの最新技術が漏れなく詰まっている、というわけではない。
でも、すぐれたショーファーは、果たして前車追従型クルーズコントロールやレーンキープ機能のような運転支援装置を使うのだろうか。そもそも、国でいちばんエライ人を乗せるナショナルフラッグシップカーは、完全自動運転になるのだろうか。センチュリーの次のフルチェンジでは答えが出ているかもしれない。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也/取材協力=河口湖ステラシアター)
先代モデルでは、登場直後に試乗車を借りて秋田県まで遠出した。往復1200kmを走って、燃費は6km/リッター台だったが、今回は約260kmで10.1km/リッターを記録した。ハイブリッド化で燃費性能は大きく向上している。
高速道路でレーンキープアシストを試していて気がついた。このシステムは、新型LS500や「アルファード」系に搭載される、車線のど真ん中をキープする最新型ではない。「トヨタの最高級車」ではあるけれど、トヨタの最新技術が漏れなく詰まっている、というわけではない。
でも、すぐれたショーファーは、果たして前車追従型クルーズコントロールやレーンキープ機能のような運転支援装置を使うのだろうか。そもそも、国でいちばんエライ人を乗せるナショナルフラッグシップカーは、完全自動運転になるのだろうか。センチュリーの次のフルチェンジでは答えが出ているかもしれない。
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