【試乗記】ホンダCR-V EX・マスターピース(FF/CVT)

ホンダCR-V EX・マスターピース(FF/CVT)【試乗記】
ホンダCR-V EX・マスターピース(FF/CVT)

さよならアメリカさよならニッポン

日本市場を去ってから2年あまり。いよいよ「ホンダCR-V」が帰ってきた。とはいえ、見た目にも中身にもメインマーケットであるアメリカの空気が漂っているのは否めないところ。日本の道路における使い勝手はどうなのか!?

2年ぶりに帰ってきたSUV

今回は1.5リッターガソリンターボモデルの上級グレード「EX・マスターピース」をテスト。さらにその中でもFF、7人乗り仕様をチョイスした。
今回は1.5リッターガソリンターボモデルの上級グレード「EX・マスターピース」をテスト。さらにその中でもFF、7人乗り仕様をチョイスした。
近年のホンダ車ではおなじみとなっている、グリルとヘッドランプに連続性を持たせた意匠の「ソリッドウイングフェイス」。ヘッドランプの端が切れ上がっているため、他のホンダ車よりも眼光が鋭く見える。
近年のホンダ車ではおなじみとなっている、グリルとヘッドランプに連続性を持たせた意匠の「ソリッドウイングフェイス」。ヘッドランプの端が切れ上がっているため、他のホンダ車よりも眼光が鋭く見える。
月販目標1200台に対し、発売から1カ月の時点で5000台以上を受注したという新型「CR-V」。ちなみにアメリカ市場では、2017年に37万台以上が販売されたベストセラーSUVである。
月販目標1200台に対し、発売から1カ月の時点で5000台以上を受注したという新型「CR-V」。ちなみにアメリカ市場では、2017年に37万台以上が販売されたベストセラーSUVである。
思ったよりデカくないな、というのがCR-Vの第一印象。「ヴェゼル」の上位モデルというアタマがあったものだから、もう少し大きくて立派なSUVなのだろうと思いこんでいた。ディメンションを比べてみると確かにひと回り大きいのだが、いかついフォルムではないので圧迫感が薄かったのかもしれない。大きいはずだと信じて疑わなかったのにはもう一つ理由がある。要するに北米向けのモデルでしょ、という先入観だ。

CR-Vは2016年に5代目となっていたのに、日本ではこれまで販売されなかった。ヴェゼルが好調だったこともあり、コンパクトカー全盛の国では存在意義が薄くなったという判断だと考えられる。開発のどの段階で日本での販売を断念したのかはわからないが、北米をメインターゲットとしていたことは確かだろう。サイズのみならず、走りの味付けやデザインについても国外の事情が優先されたに違いない。

経緯はともあれ、約2年ぶりに戻ってきてくれたことは歓迎すべきだ。CR-Vが休んでいる間に日本のSUVのマーケットが急拡大したのは追い風になる。ただし、強力なライバルが多数出現しているのだから油断はできない。2016年8月にNMB48を卒業した渡辺美優紀が2018年9月に復帰したが、あまり話題になっていないように思う。大人気だったあのミルキーですら、2年間のブランクは想像以上に大きかった。クルマはどうだろうか。

今回は1.5リッターガソリンターボモデルの上級グレード「EX・マスターピース」をテスト。さらにその中でもFF、7人乗り仕様をチョイスした。
今回は1.5リッターガソリンターボモデルの上級グレード「EX・マスターピース」をテスト。さらにその中でもFF、7人乗り仕様をチョイスした。
近年のホンダ車ではおなじみとなっている、グリルとヘッドランプに連続性を持たせた意匠の「ソリッドウイングフェイス」。ヘッドランプの端が切れ上がっているため、他のホンダ車よりも眼光が鋭く見える。
近年のホンダ車ではおなじみとなっている、グリルとヘッドランプに連続性を持たせた意匠の「ソリッドウイングフェイス」。ヘッドランプの端が切れ上がっているため、他のホンダ車よりも眼光が鋭く見える。
月販目標1200台に対し、発売から1カ月の時点で5000台以上を受注したという新型「CR-V」。ちなみにアメリカ市場では、2017年に37万台以上が販売されたベストセラーSUVである。
月販目標1200台に対し、発売から1カ月の時点で5000台以上を受注したという新型「CR-V」。ちなみにアメリカ市場では、2017年に37万台以上が販売されたベストセラーSUVである。

7人乗り仕様はターボモデルのみ

ボディーサイズは全長×全幅×全高=4605×1855×1680mm(4WD車の全高は1690mm)。“弟分”である「ヴェゼル」の標準的な仕様と比較すると、275mm長く、85mm広く、75mm高い。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4605×1855×1680mm(4WD車の全高は1690mm)。“弟分”である「ヴェゼル」の標準的な仕様と比較すると、275mm長く、85mm広く、75mm高い。
搭載される1.5リッター直4ターボエンジンは、専用開発のターボチャージャーを採用するなどして、最高出力190ps、最大トルク240Nmのハイチューンとなっている。
搭載される1.5リッター直4ターボエンジンは、専用開発のターボチャージャーを採用するなどして、最高出力190ps、最大トルク240Nmのハイチューンとなっている。
タイヤサイズは235/60R18。テスト車にはブリヂストンのSUV向けコンフォートタイヤ「デューラーH/L33」が装着されていた。
タイヤサイズは235/60R18。テスト車にはブリヂストンのSUV向けコンフォートタイヤ「デューラーH/L33」が装着されていた。
シャシーには、現行型「シビック」から採り入れた新世代プラットフォームを採用している。
シャシーには、現行型「シビック」から採り入れた新世代プラットフォームを採用している。
新型CR-Vのパワーユニットは2種類ある。楽しみなのは2リッター直4エンジンに2つのモーターを組み合わせた「i-MMD」の4WDだが、このハイブリッドモデルの導入は11月を待たなければならない。試乗したのは、1.5リッター直4直噴ターボ+CVTというパワートレインを搭載したFFモデル。5人乗りも用意されるが、今回は3列シートの7人乗りだった。ハイブリッドモデルは5人乗り仕様のみの設定である。

東京~軽井沢往復という長距離の試乗コースが与えられた。「2.4リッター自然吸気エンジンに相当するトルク」という説明があるが、1.6tを超える車重だから驚くほど速いということはない。高速道路の巡航は得意なようで騒音は気にならず、乗り心地も悪くなかった。追い越し時にアクセルを踏み込むと、エンジン回転の上昇に合わせてストレスなくスピードが上がっていくのも好印象だ。ただし、エンジン音は気分が高揚するというような種類のものではない。

安全運転支援システムのホンダセンシングが装備されているので、アダプティブクルーズコントロール(ACC)と車線維持支援システム(LKAS)を使って巡航する。雨が降っている中でも確実に機能するから安心して運転の一部を委ねられる。「N-VAN」でも十分な実用性を発揮していたホンダセンシングは、同種のシステムの中でかなり出来がいい部類だと思う。

関越道から分岐して上信越道に入ると、路面状況が悪化する。補修が追いついていないのか、アンジュレーションと凹凸に悩まされるのだ。新世代プラットフォームを採用したことが功を奏したのか、少しぐらいの入力はいなして滑らかな走りを満喫できる――と言いたいところだが、正直なところそれなりに衝撃は伝わってくる。背の高いSUVでスポーティーさと乗り心地の妥協点を探った結果がこの設定なのだろう。

ボディーサイズは全長×全幅×全高=4605×1855×1680mm(4WD車の全高は1690mm)。“弟分”である「ヴェゼル」の標準的な仕様と比較すると、275mm長く、85mm広く、75mm高い。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4605×1855×1680mm(4WD車の全高は1690mm)。“弟分”である「ヴェゼル」の標準的な仕様と比較すると、275mm長く、85mm広く、75mm高い。
搭載される1.5リッター直4ターボエンジンは、専用開発のターボチャージャーを採用するなどして、最高出力190ps、最大トルク240Nmのハイチューンとなっている。
搭載される1.5リッター直4ターボエンジンは、専用開発のターボチャージャーを採用するなどして、最高出力190ps、最大トルク240Nmのハイチューンとなっている。
タイヤサイズは235/60R18。テスト車にはブリヂストンのSUV向けコンフォートタイヤ「デューラーH/L33」が装着されていた。
タイヤサイズは235/60R18。テスト車にはブリヂストンのSUV向けコンフォートタイヤ「デューラーH/L33」が装着されていた。
シャシーには、現行型「シビック」から採り入れた新世代プラットフォームを採用している。
シャシーには、現行型「シビック」から採り入れた新世代プラットフォームを採用している。

体育座りを強いられる3列目

ワインディングロードでは、アクセルペダルの踏み込みに対してエンジン回転数だけが先行し、加速が遅れてもどかしい思いをするシーンもあった。
ワインディングロードでは、アクセルペダルの踏み込みに対してエンジン回転数だけが先行し、加速が遅れてもどかしい思いをするシーンもあった。
「EX・マスターピース」は“全部入り”に近い豪華仕様のためレザーシートが標準。テスト車に装着されていたブラック以外にブラウンも設定される。
「EX・マスターピース」は“全部入り”に近い豪華仕様のためレザーシートが標準。テスト車に装着されていたブラック以外にブラウンも設定される。
2列目シートは前後スライドに加えて、40:60分割でのダイブダウン機構も備えている。
2列目シートは前後スライドに加えて、40:60分割でのダイブダウン機構も備えている。
3列目シートははっきりと狭い。座面の高さは25cmほど。
3列目シートははっきりと狭い。座面の高さは25cmほど。
2列目と3列目のシートバックをすべて倒したところ。ミニバンに見られるような“カラクリ”こそないが、広大なカーゴスペースとして使える。
2列目と3列目のシートバックをすべて倒したところ。ミニバンに見られるような“カラクリ”こそないが、広大なカーゴスペースとして使える。
高速道路を降りてワインディングロードに入ると、これまで好印象だったCVTに試練が訪れる。発進時や低速からの加速ではエンジン回転数の上昇がかなり先行する印象で、もどかしい思いをすることがあった。積極的にスポーツ走行したいならパドル操作が必須になる。むしろ、セカセカせずにゆったりとした気持ちで緩やかなアクセル操作を心がけるほうがいいのかもしれない。試乗したモデルは7人乗りなのだから、ファミリー向けの仕様なのだ。

SUVで3列シートというのは昨今のトレンドで、ミニバンの代替需要が期待されている。スタイリッシュなフォルムをもちながら大人数で乗れるというイイトコどりを目指しているわけだが、少々欲張りな企てである。2列目はいいとして、3列目は相当に我慢を強いられる場所だった。「レクサスRX450hL」に乗った時にガッカリしたことを思い出す。ガタイの大きさと空間の狭さのギャップに驚いたわけだが、CR-Vのシートにはそれを超える落胆を感じてしまった。

背もたれの出来や横の広さはまずまずだが、座面があまりにも低すぎる。膝が浮いてしまって体育座りのような姿勢を強いられてしまうのだ。以前「トヨタ・シエンタ」と「ホンダ・フリード」を乗り比べた時に、明確な設計思想の違いを感じたことがある。シエンタが横幅が狭い代わりに良好な姿勢をとることができたのに対し、フリードは横幅に余裕があって座面が低かった。ホンダの考える優先順位の中で、座面高はあまり上位に位置づけられていないのかもしれない。

2列目には縦のスライド機構があり、足元に余裕をもたせることができる。困ったことにこのレールが3列目に座る人にとってはじゃまで、足の置き場に困るのだ。通常は3列目をたたんで荷室を拡大する使い方をすればいい。2列目は倒すだけでなくタンブルしてスペースを稼ぐ使い方も可能だ。しかし、シートアレンジとしては標準的な機能で、日本のミニバンがマジックのような仕掛けを取り入れていることを考えれば驚きはない。各メーカーがシートの機構をめぐって技を競い合う日本が特殊なのであって、アメリカではこれで十分なのだろう。

ワインディングロードでは、アクセルペダルの踏み込みに対してエンジン回転数だけが先行し、加速が遅れてもどかしい思いをするシーンもあった。
ワインディングロードでは、アクセルペダルの踏み込みに対してエンジン回転数だけが先行し、加速が遅れてもどかしい思いをするシーンもあった。
「EX・マスターピース」は“全部入り”に近い豪華仕様のためレザーシートが標準。テスト車に装着されていたブラック以外にブラウンも設定される。
「EX・マスターピース」は“全部入り”に近い豪華仕様のためレザーシートが標準。テスト車に装着されていたブラック以外にブラウンも設定される。
2列目シートは前後スライドに加えて、40:60分割でのダイブダウン機構も備えている。
2列目シートは前後スライドに加えて、40:60分割でのダイブダウン機構も備えている。
3列目シートははっきりと狭い。座面の高さは25cmほど。
3列目シートははっきりと狭い。座面の高さは25cmほど。
2列目と3列目のシートバックをすべて倒したところ。ミニバンに見られるような“カラクリ”こそないが、広大なカーゴスペースとして使える。
2列目と3列目のシートバックをすべて倒したところ。ミニバンに見られるような“カラクリ”こそないが、広大なカーゴスペースとして使える。

アメリカンな巨大コンソールボックス

他の最新のホンダ車と同様、新型「CR-V」には安全運転支援システム「ホンダセンシング」が全車に標準装備となる。ACCは135km/hまで設定可能。
他の最新のホンダ車と同様、新型「CR-V」には安全運転支援システム「ホンダセンシング」が全車に標準装備となる。ACCは135km/hまで設定可能。
キャビンは左右、そして天地方向ともに広々としたもの。随所にウッド模様がプリントされたトリムが配されている。
キャビンは左右、そして天地方向ともに広々としたもの。随所にウッド模様がプリントされたトリムが配されている。
ガソリンモデルではトランスミッションに7スピードモード付きのCVTを採用。ステアリングホイールにはシフトパドルが備わる。
ガソリンモデルではトランスミッションに7スピードモード付きのCVTを採用。ステアリングホイールにはシフトパドルが備わる。
“アメリカ感”を強く漂わせる巨大なセンターコンソールボックス。トレーには大きめのスマートフォンでも余裕で入るだろう。
“アメリカ感”を強く漂わせる巨大なセンターコンソールボックス。トレーには大きめのスマートフォンでも余裕で入るだろう。
アメリカ感が最も強烈だったのは、センターコンソールボックスである。日本車のスタンダードからすると、かなり大ぶりな作りなのだ。巨大なトレーには「iPhone Xs Max」のような大きめスマホでも余裕で置ける。大きいことは使い勝手のよさにつながるともいえるが、日本ローカルのモデルならもう少し別な配慮をしたような気がする。

アメリカンな感覚を、「大ざっぱ」ととるか「おおらか」ととるかで評価は変わってくる。CR-Vに限らず、北米市場を重視している日本車は多い。日本の自動車メーカーにとって、日本よりアメリカのほうがたくさんクルマが売れるマーケットなのだ。トヨタですら「カローラ」の日本独自仕様を廃して完全グローバル化を決断している。CR-Vがバタくさい流儀を身につけたことは、それ自体としてはプラスでもマイナスでもない。日本が誇るハイブリッド技術を搭載したモデルが発売されるのを待てば、もう少し日本らしさが感じられるかもしれない。

アメリカから大きな影響を受けながら日本語のロックを確立しようと苦闘したはっぴいえんどは、『さよならアメリカさよならニッポン』という曲をリリースした直後に解散を決めた。簡潔な歌詞にどんな思いを込めたのかを知ることはできないけれど、アメリカにも日本にも別れを告げて孤高の道を歩むことが大切なのではないか――ときれいにまとめようと思ったのだが、これでは何も言っていないに等しい。アメリカと日本のはざまで自動車メーカーも苦労しているんだろうな、とあらためて思った次第だ。

(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

他の最新のホンダ車と同様、新型「CR-V」には安全運転支援システム「ホンダセンシング」が全車に標準装備となる。ACCは135km/hまで設定可能。
他の最新のホンダ車と同様、新型「CR-V」には安全運転支援システム「ホンダセンシング」が全車に標準装備となる。ACCは135km/hまで設定可能。
キャビンは左右、そして天地方向ともに広々としたもの。随所にウッド模様がプリントされたトリムが配されている。
キャビンは左右、そして天地方向ともに広々としたもの。随所にウッド模様がプリントされたトリムが配されている。
ガソリンモデルではトランスミッションに7スピードモード付きのCVTを採用。ステアリングホイールにはシフトパドルが備わる。
ガソリンモデルではトランスミッションに7スピードモード付きのCVTを採用。ステアリングホイールにはシフトパドルが備わる。
“アメリカ感”を強く漂わせる巨大なセンターコンソールボックス。トレーには大きめのスマートフォンでも余裕で入るだろう。
“アメリカ感”を強く漂わせる巨大なセンターコンソールボックス。トレーには大きめのスマートフォンでも余裕で入るだろう。

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