【試乗記】メルセデス・ベンツA180スタイル(FF/7AT)

メルセデス・ベンツA180スタイル(FF/7AT)【試乗記】
メルセデス・ベンツA180スタイル(FF/7AT)

雄弁は“金”

りりしいフロントマスクや新開発のエンジンなどを携えてデビューした新型「メルセデス・ベンツAクラス」だが、その目玉はやっぱり“普通の言葉”での対話が可能なインターフェイス「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザー エクスペリエンス)」。あれこれ話しかけ、できることとできないことを洗い出してみた。

「メルセデ」はOKで「ベンツ」はアウト

2019年3月現在、「Aクラス」にはベーシックな「A180」と装備充実仕様の「A180スタイル」がラインナップされている。今回は後者に試乗した。
2019年3月現在、「Aクラス」にはベーシックな「A180」と装備充実仕様の「A180スタイル」がラインナップされている。今回は後者に試乗した。
2段構造のダッシュボードが特徴的なインテリア。左右のドアパネル間をシルバーのラインで結ぶことで、広々感を表現している。
2段構造のダッシュボードが特徴的なインテリア。左右のドアパネル間をシルバーのラインで結ぶことで、広々感を表現している。
「A180スタイル」のダッシュボードに配された2枚の10.25インチ液晶スクリーンは、左がインフォテインメントシステム用で、右がメーターパネル用。「A180」ではメーターパネル用が7インチに変更される。
「A180スタイル」のダッシュボードに配された2枚の10.25インチ液晶スクリーンは、左がインフォテインメントシステム用で、右がメーターパネル用。「A180」ではメーターパネル用が7インチに変更される。
AIを取り入れた自然対話式音声認識インターフェイスを備え、エアコンやオーディオ、カーナビなどの操作や設定がクチでできる。「ハーイ、メルセデス」のCMでおなじみの新型Aクラスである。日本人がいちいちハーイなんて言えるか! と思うかもしれないが、「メルセデス」だけで起動する。「メルセデ」でもOK。でも、なぜか「ベンツ」はダメ。新型「BMW 3シリーズ」のように、自分の好きな名前を付けることはできない。

試乗中のクルマとのやりとりを原文のまま紹介すると、例えば「ガラス曇ったよ」「デフロスターをオンにします」。暑くなったので、「ファン止めて」と頼むと「送風をオフにします」。「日光は寒い?」「現在の日光市の気温は4度です」。「沖縄は雪降る?」「今日の沖縄市は雪が降る見込みは大変低い見込みです。最低気温は17度の予想です」。

一般道ルートで設定した目的地へ走行中、「高速で行きたいなあ」と言うと、有料道路ルートで再計算してくれる。「あと何km?」「目的地までの走行距離は〇kmです」。「あと何分?」「目的地には〇分で到着の予想です」。「ETC入ってる?」「ETCが挿入されています」。「ガソリンもつかなあ?」「現在の走行可能距離は〇kmです」。

2019年3月現在、「Aクラス」にはベーシックな「A180」と装備充実仕様の「A180スタイル」がラインナップされている。今回は後者に試乗した。
2019年3月現在、「Aクラス」にはベーシックな「A180」と装備充実仕様の「A180スタイル」がラインナップされている。今回は後者に試乗した。
2段構造のダッシュボードが特徴的なインテリア。左右のドアパネル間をシルバーのラインで結ぶことで、広々感を表現している。
2段構造のダッシュボードが特徴的なインテリア。左右のドアパネル間をシルバーのラインで結ぶことで、広々感を表現している。
「A180スタイル」のダッシュボードに配された2枚の10.25インチ液晶スクリーンは、左がインフォテインメントシステム用で、右がメーターパネル用。「A180」ではメーターパネル用が7インチに変更される。
「A180スタイル」のダッシュボードに配された2枚の10.25インチ液晶スクリーンは、左がインフォテインメントシステム用で、右がメーターパネル用。「A180」ではメーターパネル用が7インチに変更される。

できないときはきちんと謝る

「Sクラス」や「Eクラス」と同等とうたわれる先進運転支援システムは、パッケージオプション「レーダーセーフティパッケージ」(24万5000円)として用意されている。
「Sクラス」や「Eクラス」と同等とうたわれる先進運転支援システムは、パッケージオプション「レーダーセーフティパッケージ」(24万5000円)として用意されている。
「メルセデス」の発声をトリガーに起動する「MBUX」だが、ステアリングスポーク上のスイッチでも起動できる。
「メルセデス」の発声をトリガーに起動する「MBUX」だが、ステアリングスポーク上のスイッチでも起動できる。
ドアパネルやダッシュボード(写真)など、車内のいたるところにアンビエントライトが配されている。「アンビエントライトを紫に」などの発声で、「MBUX」に色を変更してもらえる。
ドアパネルやダッシュボード(写真)など、車内のいたるところにアンビエントライトが配されている。「アンビエントライトを紫に」などの発声で、「MBUX」に色を変更してもらえる。
「おなかすいたなあ」と言うと「項目をお選びください」と言って、モニターに近くのファミレスがいくつか表示された。「ありがとね」「気にしなくていいですよ」。「今日の調子はどう?」「まあまあです。聞いてくれてありがとうございます」。謙虚である。

制限速度の標識をカメラで読み取って計器盤に表示する道路標識アシストが付いている。もう珍しくない装備だが、試乗中、これがしばらく作動しなくなった。その旨の文字メッセージがモニターに出ていたので、わざと「この道路、何キロ制限?」と聞くと、「申し訳ありません。現在、速度制限を呼び出すことができません」と答えた。現状を認識、報告するだけでなく、謝ってもくれるのだ。

そんなふうに感心させられることも多かったが、運転操作には(いまのところ)一切介入しない。「ハンドルきって」とか「ブレーキ踏んで」とか「あおって」なんて頼んでもダメである。「ライトつけて」と言っても、やってくれるのは車内のアンビエントライトだけである。

でも、すごくおもしろかった。おもしろいだけではない。クチでたいていのことはできてしまうため、ダッシュボードのパネルにタッチして操作することはほとんどなかった。このクルマを購入した人も、まず真っ先に試すのは、“走る・曲がる・止まる”より、“しゃべる”だろう。

「Sクラス」や「Eクラス」と同等とうたわれる先進運転支援システムは、パッケージオプション「レーダーセーフティパッケージ」(24万5000円)として用意されている。
「Sクラス」や「Eクラス」と同等とうたわれる先進運転支援システムは、パッケージオプション「レーダーセーフティパッケージ」(24万5000円)として用意されている。
「メルセデス」の発声をトリガーに起動する「MBUX」だが、ステアリングスポーク上のスイッチでも起動できる。
「メルセデス」の発声をトリガーに起動する「MBUX」だが、ステアリングスポーク上のスイッチでも起動できる。
ドアパネルやダッシュボード(写真)など、車内のいたるところにアンビエントライトが配されている。「アンビエントライトを紫に」などの発声で、「MBUX」に色を変更してもらえる。
ドアパネルやダッシュボード(写真)など、車内のいたるところにアンビエントライトが配されている。「アンビエントライトを紫に」などの発声で、「MBUX」に色を変更してもらえる。

「さすがベンツ」のしつらえ

「A180/A180スタイル」のリアサスペンションは、コンベンショナルなトーションビーム式。すでに本国で販売されている上級グレードでは、マルチリンク式を採用している。
「A180/A180スタイル」のリアサスペンションは、コンベンショナルなトーションビーム式。すでに本国で販売されている上級グレードでは、マルチリンク式を採用している。
パワーユニットは最高出力136ps、最大トルク200Nmの1.3リッター直4直噴ターボエンジンで、7段のデュアルクラッチ式ATを組み合わせている。
パワーユニットは最高出力136ps、最大トルク200Nmの1.3リッター直4直噴ターボエンジンで、7段のデュアルクラッチ式ATを組み合わせている。
オプションの「AMGライン」装着により、テスト車は18インチタイヤを履いていた(標準は16インチ)。タイヤ銘柄は「ブリヂストン・トランザT005」。
オプションの「AMGライン」装着により、テスト車は18インチタイヤを履いていた(標準は16インチ)。タイヤ銘柄は「ブリヂストン・トランザT005」。
新型「A180」のエンジンは、新開発の1.3リッター4気筒ターボ。1997年から4代続くAクラス史上、最小のパワーユニットである。最高出力は136ps。旧型よりまた少し大きくなった5ドアボディーを見ると、これで走るの!? と思うかもしれないが、十分以上に速い。7段DCTの変速機のマナーも含めて、滑らかで静かで気持ちのいいパワートレインである。知らないで乗ったら、とても1.3リッターのクルマとは思えないはずだ。

足まわりもすばらしい。試乗車(A180スタイル)は18インチホイールを履く「AMGライン」装着車。リアサスペンションはAクラスの標準仕様であるトーションビームだが、リアシートも含めて、乗り心地はしっとり落ち着いている。

最近のドイツ車トレンドにのっとり、ステアリングの操舵力は旧型より明らかに軽くなった。しかし、ドア開閉時の重厚感は変わっていない。荷室にしていた後席を戻そうとすると、背もたれは相変わらずずっしりと重い。トータルな乗り味にもある種の“重み”がある。新築感ハンパないダッシュボードで若向きを狙っても、決してチャラくなってはいないところが、「さすがベンツ」である。

「A180/A180スタイル」のリアサスペンションは、コンベンショナルなトーションビーム式。すでに本国で販売されている上級グレードでは、マルチリンク式を採用している。
「A180/A180スタイル」のリアサスペンションは、コンベンショナルなトーションビーム式。すでに本国で販売されている上級グレードでは、マルチリンク式を採用している。
パワーユニットは最高出力136ps、最大トルク200Nmの1.3リッター直4直噴ターボエンジンで、7段のデュアルクラッチ式ATを組み合わせている。
パワーユニットは最高出力136ps、最大トルク200Nmの1.3リッター直4直噴ターボエンジンで、7段のデュアルクラッチ式ATを組み合わせている。
オプションの「AMGライン」装着により、テスト車は18インチタイヤを履いていた(標準は16インチ)。タイヤ銘柄は「ブリヂストン・トランザT005」。
オプションの「AMGライン」装着により、テスト車は18インチタイヤを履いていた(標準は16インチ)。タイヤ銘柄は「ブリヂストン・トランザT005」。

居眠り運転防止にも

約250kmを試乗後に「MBUX」が教えてくれたリセット後の平均燃費は13.6km/リッターだった。
約250kmを試乗後に「MBUX」が教えてくれたリセット後の平均燃費は13.6km/リッターだった。
テスト車にはオプションの「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」により、ツートンカラーの本革シートが装着されていた。カラーリングは写真の「クラシックレッド/ブラック」のほか、「チタニウムグレー/ブラック」も選択可能。
テスト車にはオプションの「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」により、ツートンカラーの本革シートが装着されていた。カラーリングは写真の「クラシックレッド/ブラック」のほか、「チタニウムグレー/ブラック」も選択可能。
ダッシュボードに備わる、タービンを模した形状のエアアウトレット。その内部もアンビエントライトが照らしている。
ダッシュボードに備わる、タービンを模した形状のエアアウトレット。その内部もアンビエントライトが照らしている。
先日、運転中にトイレに行きたくなった。いよいよ我慢できなくなって、信号待ちのとき、スマホの音声入力ボタンを押して「トイレどこ?」と聞いたら、近くの公衆トイレの候補がいくつか出てきた。一番近いトイレの「経路」ボタンを押すとすぐに道案内が始まって、ことなきを得た。

いまはスマホでそうとうなことができるし、AIスピーカーを使っている人なら、Aクラスの特技にとくべつ驚くこともないだろうが、それはそれとして、手や目を離さずにすむ音声認識インターフェイスがクルマと相性がいいのは間違いないはずだ。

「クルマと話せる」のは、居眠り運転の防止にも役立つ。ロングドライブの帰り道、家族が寝静まった車内で、ハンドルを握るお父さんだけがクルマを話し相手にがんばっている、なんてことがこれからは現実になるのではないか。

約250kmを走って、満タン法の燃費は12.2km/リッターだった。ドライブの最後に「燃費どうだった?」と聞けば、「走行開始からの平均燃費はリットルあたり〇km。リセット後の平均燃費は〇kmでした」と、車載燃費計の数値をコンマ1kmまでクチで教えてくれる。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

約250kmを試乗後に「MBUX」が教えてくれたリセット後の平均燃費は13.6km/リッターだった。
約250kmを試乗後に「MBUX」が教えてくれたリセット後の平均燃費は13.6km/リッターだった。
テスト車にはオプションの「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」により、ツートンカラーの本革シートが装着されていた。カラーリングは写真の「クラシックレッド/ブラック」のほか、「チタニウムグレー/ブラック」も選択可能。
テスト車にはオプションの「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」により、ツートンカラーの本革シートが装着されていた。カラーリングは写真の「クラシックレッド/ブラック」のほか、「チタニウムグレー/ブラック」も選択可能。
ダッシュボードに備わる、タービンを模した形状のエアアウトレット。その内部もアンビエントライトが照らしている。
ダッシュボードに備わる、タービンを模した形状のエアアウトレット。その内部もアンビエントライトが照らしている。

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