【試乗記】メルセデス・ベンツA200d(FF/8AT)
- メルセデス・ベンツA200d(FF/8AT)
志あってのフツー
スタイリッシュなデザインや、AI技術を使ったインフォテインメントシステムで話題の4代目「メルセデス・ベンツAクラス」。最新のディーゼルモデルを走らせてみると、既存のガソリンターボ車とは異なる“オトナ”なドライブフィールが伝わってきた。
あっと言わせた初代を思う
4代目となったメルセデス・ベンツのAクラスは「普通にいいクルマ」である。なぜシンプルに「いいクルマ」と言わないかというと、自分のような“ちょっと古い”クルマ好きは、新しいAクラスの素晴らしい完成度に感心しつつも、どこか「普通のクルマになっちまったなァ」という気分が拭えないからだ。
新型Aクラスに試乗させてもらって昔話をするのもナンだが、1997年に初代Aクラスが登場したときは、そりゃもう大騒ぎだった。あのベンツさまが、コンパクトカー市場に殴り込んでくる! それも単なるFFハッチではない。独特のフォルムに二重床という新機軸が、いかにも意味ありげ。上下フロアの間には水素(エタノール)タンクが置かれ、近い将来、燃料電池バージョンが実用化される……てなうわさがまことしやかにささやかれた。
「さすがはメルセデス!」と周囲をうならせたのが、わざわざ平たいエンジン(ユニット)を開発したこと。スペースを取らないうえ、万が一の衝突時にはサンドイッチ構造の床下に滑り落ちるので、乗員がいるキャビンに飛び込まない。いかにもプレミアムメーカーらしい手の込んだアプローチだった。
そんな安全性の高さがジマンのAクラスではあったが、スウェーデンのメディアが実施したエルクテスト(ダブルレーンチェンジ)で車両自体がひっくり返るという予想外の出来事が起き、すっかり出鼻をくじかれてしまった。心ないユーザーのひとりである自分などは、Aクラスの高いフロアに足を踏み入れるたび、「重心の高さ」という言葉が頭に浮かんだものです。
新型Aクラスに試乗させてもらって昔話をするのもナンだが、1997年に初代Aクラスが登場したときは、そりゃもう大騒ぎだった。あのベンツさまが、コンパクトカー市場に殴り込んでくる! それも単なるFFハッチではない。独特のフォルムに二重床という新機軸が、いかにも意味ありげ。上下フロアの間には水素(エタノール)タンクが置かれ、近い将来、燃料電池バージョンが実用化される……てなうわさがまことしやかにささやかれた。
「さすがはメルセデス!」と周囲をうならせたのが、わざわざ平たいエンジン(ユニット)を開発したこと。スペースを取らないうえ、万が一の衝突時にはサンドイッチ構造の床下に滑り落ちるので、乗員がいるキャビンに飛び込まない。いかにもプレミアムメーカーらしい手の込んだアプローチだった。
そんな安全性の高さがジマンのAクラスではあったが、スウェーデンのメディアが実施したエルクテスト(ダブルレーンチェンジ)で車両自体がひっくり返るという予想外の出来事が起き、すっかり出鼻をくじかれてしまった。心ないユーザーのひとりである自分などは、Aクラスの高いフロアに足を踏み入れるたび、「重心の高さ」という言葉が頭に浮かんだものです。
新型は「低さ」が印象的
そんな黒歴史を持つAクラスだが、メルセデスの開発陣は立派だった。真摯(しんし)に対策に取り組み、コンパクト・メルセデスのイメージを地道に回復させていった。ぜいたくなコンセプトのプラットフォームはさらにもう一世代、なんと16年にわたって続くことになる。3代目のAクラスが、ついに二重フロアを捨て、コンベンショナルな構造を採用することができたのは、初代と2代目のAクラスが「技術的なアドバルーン」にとどまらず、実際にスリーポインテッドスターのコンパクトカー市場を開拓したからだ。
2018年にデビューした現行モデルは、“普通になった”Aクラスとしては2代目だから、ある程度こなれて出てきたのは当然かもしれない。ボディー各面のラインの主張が強かった先代と比べると、すっきりシンプル。デザイン要素のミニマムぶりが、今っぽい。
ホイールベースは旧型から30mm延びて2729mmに(欧州参考値。以下同じ)。ライバルの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」より、なんと100mm近くも長い。かつてはゴルフよりグッと短いAクラスだったが、いまや全長でもゴルフを155mmしのぐ4419mm(オプション非装着車)。同じ土俵に上がっているわけだ。1796mmの全幅はほぼ同寸ながら、60mm低い1420mmのハイトでスポーティーさを醸し出す。
運転席に座ると、着座位置の低さが印象的。以前の二重床と比較してというより、昨今のメインストリームとなっているSUV/クロスオーバー系のモデルに乗る機会が多いため、低く感じる。純粋なハッチバックのポジションが、いまや新鮮だ。これはAクラスに限ったハナシではないのだが、視点の高いSUVに乗り慣れたユーザーがこうした低いシートに座ると、谷に落とされたような(!?)不安を感じるかもしれない。人気カテゴリーからの顧客奪還は「なかなか難しいのでは?」と、個人的には感じる。
2018年にデビューした現行モデルは、“普通になった”Aクラスとしては2代目だから、ある程度こなれて出てきたのは当然かもしれない。ボディー各面のラインの主張が強かった先代と比べると、すっきりシンプル。デザイン要素のミニマムぶりが、今っぽい。
ホイールベースは旧型から30mm延びて2729mmに(欧州参考値。以下同じ)。ライバルの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」より、なんと100mm近くも長い。かつてはゴルフよりグッと短いAクラスだったが、いまや全長でもゴルフを155mmしのぐ4419mm(オプション非装着車)。同じ土俵に上がっているわけだ。1796mmの全幅はほぼ同寸ながら、60mm低い1420mmのハイトでスポーティーさを醸し出す。
運転席に座ると、着座位置の低さが印象的。以前の二重床と比較してというより、昨今のメインストリームとなっているSUV/クロスオーバー系のモデルに乗る機会が多いため、低く感じる。純粋なハッチバックのポジションが、いまや新鮮だ。これはAクラスに限ったハナシではないのだが、視点の高いSUVに乗り慣れたユーザーがこうした低いシートに座ると、谷に落とされたような(!?)不安を感じるかもしれない。人気カテゴリーからの顧客奪還は「なかなか難しいのでは?」と、個人的には感じる。
先進過ぎる装備に焦る
スタイリッシュに簡素なエクステリアから一転、ニューAクラスのインパネ周りは少々冗舌だ。ハンドルの向こうに置かれた横長のディスプレイ、ジェットエンジンのタービンを模したエアコンの吹き出し口、そしてトンネルコンソールに置かれたタッチパッドなどが、がんばって未来感を演出している。
おもしろいのは、ステアリングホイールに設けられた親指の腹で操作するタッチスイッチ。いわば極小のタッチパッドだ。親指を左右に動かして「カチカチ」とクリック音を出しながら、コックピットディスプレイの表示内容を変えたり、メニューやアクティブディスタンスアシスト(高機能のクルーズコントロール)の設定を行える。
クルマからあふれ出る情報を交通整理するひとつの手段といえるが、できることをなんでもやろうとすると「際限がなくなるのでは?」と一抹の不安を覚える。そこまで設定を細分化して、情報を多様化する必要があるのか、と。コンピューター化が加速して複雑化するクルマの取り扱いを補完するため、「ハイ、メルセデス!」と呼びかけて対応してもらう機能を搭載するというのも、なんだか悪い冗談のようだ……などと言っていると、時代に取り残されてしまうのだろう。反省。
今回の試乗車は、「A200d」(399万円)。フロントに積んだ2リッターの直4ディーゼルターボは、アルミのクランクケースを持ち、鋳鉄ライナーに代えナノシリンダーコーティングを採用した軽量エンジン。最高出力150ps/3400-4400rpm、最大トルク320Nm/1400-3200rpmと、3リッター自然吸気エンジン並みのアウトプットを発生する。デュアルクラッチ式の8段DCTと組み合わされる。
環境対応にも熱心で、尿素を用いて化学的に排ガスをクリーン化するSCR触媒には、アンモニアが大気に放出されることを防ぐ酸化触媒が追加された。微粒子を絡め取るフィルターと併せ、厳しいユーロ6d規制に対応したクリーンディーゼルだ。
おもしろいのは、ステアリングホイールに設けられた親指の腹で操作するタッチスイッチ。いわば極小のタッチパッドだ。親指を左右に動かして「カチカチ」とクリック音を出しながら、コックピットディスプレイの表示内容を変えたり、メニューやアクティブディスタンスアシスト(高機能のクルーズコントロール)の設定を行える。
クルマからあふれ出る情報を交通整理するひとつの手段といえるが、できることをなんでもやろうとすると「際限がなくなるのでは?」と一抹の不安を覚える。そこまで設定を細分化して、情報を多様化する必要があるのか、と。コンピューター化が加速して複雑化するクルマの取り扱いを補完するため、「ハイ、メルセデス!」と呼びかけて対応してもらう機能を搭載するというのも、なんだか悪い冗談のようだ……などと言っていると、時代に取り残されてしまうのだろう。反省。
今回の試乗車は、「A200d」(399万円)。フロントに積んだ2リッターの直4ディーゼルターボは、アルミのクランクケースを持ち、鋳鉄ライナーに代えナノシリンダーコーティングを採用した軽量エンジン。最高出力150ps/3400-4400rpm、最大トルク320Nm/1400-3200rpmと、3リッター自然吸気エンジン並みのアウトプットを発生する。デュアルクラッチ式の8段DCTと組み合わされる。
環境対応にも熱心で、尿素を用いて化学的に排ガスをクリーン化するSCR触媒には、アンモニアが大気に放出されることを防ぐ酸化触媒が追加された。微粒子を絡め取るフィルターと併せ、厳しいユーロ6d規制に対応したクリーンディーゼルだ。
ガソリン車よりもオトナっぽい
アイドリング時には、車内にいても注意すればその音でディーゼルと知れるが、全体的に静かなエンジンである。わずか1400prmで最大トルクを発生することもあって、街なかでのドライブでは、2000rpmを超えることはまれ。あまり回さないので、エンジン音が高まることもない。8スピードのギアボックスもエンジン回転数を抑えるのに有効で、ほとんど気づかぬうちにドンドン上のギアにバトンタッチしていく。高速道路でも寡黙なディーゼルで、トップギアに入れての100km/h巡航時のエンジン回転は1500rpmにすぎない。
別の機会に乗った1.4リッター(正確には1.33リッター)のターボモデル「A180スタイル」の、小排気量に似合わぬ活発さにも驚かされたが、2リッターディーゼルは、低回転域での力強さが“大人な”ドライブフィールを生んでいると思った。クルマ全体にまとわりつく「若づくり」が、なんだかもったいない感じだ。
ひとつ気になったのは、足まわりが少しばかりドタついたこと。試乗車はスポーティーに装った「AMGライン」で、タイヤは通常より2インチアップの18インチを履いていた。ノーマルでは205/60R16というおとなしいものだから、そちらの方が穏やかなディーゼルAクラス(を望む人)には合っているかもしれない。
ひと昔前には、特異な構造とスタイルでフォルクスワーゲン・ゴルフと比較されることを拒んできたメルセデス・ベンツAクラスだが、今ではがっぷり四つに組んでいる。プレミアムブランドがコンパクトカーマーケットに進出する一方、フォルクスワーゲンもゴルフの高級化にこれ努め、Cセグメントの絶対的スタンダードの地位を譲らなかったのだ。
さて、普通にいいクルマであるA200dが、もうすぐ導入されるであろう「ゴルフTDI」と今後どう戦っていくのか? 興味は尽きない。ぜひとも、「ヘイ、メルセデス!」と聞いてみたいところだ。
(文=青木禎之/写真=宮門秀行/編集=関 顕也)
別の機会に乗った1.4リッター(正確には1.33リッター)のターボモデル「A180スタイル」の、小排気量に似合わぬ活発さにも驚かされたが、2リッターディーゼルは、低回転域での力強さが“大人な”ドライブフィールを生んでいると思った。クルマ全体にまとわりつく「若づくり」が、なんだかもったいない感じだ。
ひとつ気になったのは、足まわりが少しばかりドタついたこと。試乗車はスポーティーに装った「AMGライン」で、タイヤは通常より2インチアップの18インチを履いていた。ノーマルでは205/60R16というおとなしいものだから、そちらの方が穏やかなディーゼルAクラス(を望む人)には合っているかもしれない。
ひと昔前には、特異な構造とスタイルでフォルクスワーゲン・ゴルフと比較されることを拒んできたメルセデス・ベンツAクラスだが、今ではがっぷり四つに組んでいる。プレミアムブランドがコンパクトカーマーケットに進出する一方、フォルクスワーゲンもゴルフの高級化にこれ努め、Cセグメントの絶対的スタンダードの地位を譲らなかったのだ。
さて、普通にいいクルマであるA200dが、もうすぐ導入されるであろう「ゴルフTDI」と今後どう戦っていくのか? 興味は尽きない。ぜひとも、「ヘイ、メルセデス!」と聞いてみたいところだ。
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