【海外試乗記】日産GT-R NISMO(4WD/6AT)
- 日産GT-R NISMO(4WD/6AT)
日本車の金字塔
日本を代表するハイパフォーマンスカー「日産GT-R」の中でも、さらに走りを先鋭化させたモデルが「GT-R NISMO」だ。その2020年型にドイツ・ラウジッツで試乗。劇的な進化を遂げたという最新モデルの出来栄えを、ストリートとトラックの双方で確かめた。
標準車の進化を支えるNISMOの知見
今年、2019年はC10系「スカイライン」時代から数えての、GT-R誕生50周年になる。加えてR35系GT-Rは登場から12年の時を迎えるという。途中幾度かのブランクはあったにせよ、世代を超えて同じ名前、同じ価値を共有できるクルマはそうそうあるものではない。ちなみに、日産では「フェアレディZ」も同様のアニバーサリーを迎えている。経営に関するこんがらがった向かい風はしばらくやみそうにないが、いちクルマ好きとして、このWバースデーは素直に喜びたい。
と、その最中にあって、GT-Rがマイナーチェンジを受けて2020年型へと進化した。まず標準仕様の変更点を挙げると、エンジンにはφ56mm、12翼のIHI製タービンにアブレイダブルシールを採用。これは吸気側のハウジング内に樹脂シール加工を施し、翼部との隙間を詰めることで効率を高め、レスポンス向上を果たす技術だ。これにエンジン制御を合わせ込み、全域で約5%の応答性改善がみられたという。併せてトランスミッションはRモードの制御を見直し、コーナー進入から脱出に至るシフトスケジュールで、より低いギアを積極的に選ぶよう改良されている。
シャシーまわりではビルシュタイン製ダンプトロニックの設定を変更。特にコンフォート側の減衰特性がよりスムーズな摺動(しゅうどう)が得られるようリファインされた。ブレーキもブースターの特性を変更し、より小さな踏力や短い踏量でもしっかり制動を立ち上げてリニアなコントロールにつなげる仕立てとなっている。20スポークのホイールはイメージチェンジと並行して2017年型からの高剛性化と、1台あたり140gの減量も達成。が、何よりルックスにおいて2020年型を印象づけることになるのは、第2世代のR34型GT-Rにおけるコミュニケーション色「ベイサイドブルー」をモチーフとして新たに開発された「ワンガンブルー」なるボディーカラーだろう。
と、これらの変更点に少なからぬ影響を与えているのがGT-R NISMOの存在だ。くだんのアブレイダブルシールしかり、トランスミッション制御もしかり、これまでNISMOの開発で得られた知見は、標準仕様にもしっかりフィードバックされている。
と、その最中にあって、GT-Rがマイナーチェンジを受けて2020年型へと進化した。まず標準仕様の変更点を挙げると、エンジンにはφ56mm、12翼のIHI製タービンにアブレイダブルシールを採用。これは吸気側のハウジング内に樹脂シール加工を施し、翼部との隙間を詰めることで効率を高め、レスポンス向上を果たす技術だ。これにエンジン制御を合わせ込み、全域で約5%の応答性改善がみられたという。併せてトランスミッションはRモードの制御を見直し、コーナー進入から脱出に至るシフトスケジュールで、より低いギアを積極的に選ぶよう改良されている。
シャシーまわりではビルシュタイン製ダンプトロニックの設定を変更。特にコンフォート側の減衰特性がよりスムーズな摺動(しゅうどう)が得られるようリファインされた。ブレーキもブースターの特性を変更し、より小さな踏力や短い踏量でもしっかり制動を立ち上げてリニアなコントロールにつなげる仕立てとなっている。20スポークのホイールはイメージチェンジと並行して2017年型からの高剛性化と、1台あたり140gの減量も達成。が、何よりルックスにおいて2020年型を印象づけることになるのは、第2世代のR34型GT-Rにおけるコミュニケーション色「ベイサイドブルー」をモチーフとして新たに開発された「ワンガンブルー」なるボディーカラーだろう。
と、これらの変更点に少なからぬ影響を与えているのがGT-R NISMOの存在だ。くだんのアブレイダブルシールしかり、トランスミッション制御もしかり、これまでNISMOの開発で得られた知見は、標準仕様にもしっかりフィードバックされている。
NISMOとしてはこれまでで最大の進化
そのGT-R NISMOは2020年型において、これまでで最も大きな進化を遂げた。といっても、表面的な数値は大きくは変わっていない。600psのエンジンもそのままである。が、内側に目をやれば、その走りが激変していることが予想される。
まずエンジンまわりでは、ターボチャージャーの排気側翼形状を最新の解析により高効率化。従来と同等の過給能力を保持しながら、翼の薄肉化と枚数減を可能とした。これにより慣性質量を14.5%軽減している。過給レスポンスの向上を具体的に示す数字として日産が用意した資料の中には、筑波サーキットの第2ヘアピン立ち上がりからバックストレートでの応答性を数値化したものもあった。それによると、2017年型に対して2020年型は、アペックスから5秒後に2.5mの差をつけられるとのこと。つまり最終コーナーではインにノーズを差し込める程度の違いが出るということだ。ちなみに2020年型GT-R NISMOは標準仕様と同様、Rモードでの変速マネジメントも大幅にスポーティー側に振られている。
ボディー側で際立つ変化は、フロントフェンダーのアウトレットやルーフパネルだろう。カーボン製となるフロントフェンダー上べりに沿うアウトレットは、レース車両ではおなじみのディテールだが、GT-R NISMOでは開口面積やルーバーの突出量を市販車規定とすり合わせ、排出風がボディー側面のドラッグに影響を与えないように配慮。フロントのダウンフォース増加に加えて、エンジンルームの熱抜きにも大きな効果を発揮する。同じくカーボン製となるルーフパネルは高圧縮のプリプレグ工法で軽量化と品質感を両立させており、4kgの軽量化を果たした。
まずエンジンまわりでは、ターボチャージャーの排気側翼形状を最新の解析により高効率化。従来と同等の過給能力を保持しながら、翼の薄肉化と枚数減を可能とした。これにより慣性質量を14.5%軽減している。過給レスポンスの向上を具体的に示す数字として日産が用意した資料の中には、筑波サーキットの第2ヘアピン立ち上がりからバックストレートでの応答性を数値化したものもあった。それによると、2017年型に対して2020年型は、アペックスから5秒後に2.5mの差をつけられるとのこと。つまり最終コーナーではインにノーズを差し込める程度の違いが出るということだ。ちなみに2020年型GT-R NISMOは標準仕様と同様、Rモードでの変速マネジメントも大幅にスポーティー側に振られている。
ボディー側で際立つ変化は、フロントフェンダーのアウトレットやルーフパネルだろう。カーボン製となるフロントフェンダー上べりに沿うアウトレットは、レース車両ではおなじみのディテールだが、GT-R NISMOでは開口面積やルーバーの突出量を市販車規定とすり合わせ、排出風がボディー側面のドラッグに影響を与えないように配慮。フロントのダウンフォース増加に加えて、エンジンルームの熱抜きにも大きな効果を発揮する。同じくカーボン製となるルーフパネルは高圧縮のプリプレグ工法で軽量化と品質感を両立させており、4kgの軽量化を果たした。
運動性能をさらに高めるシャシーの改良
シャシーまわりでの最も大きな変化は、カーボンセラミックブレーキの採用だろう。前:φ410mm、後ろ:φ390mmの大径ディスクを持つブレンボのシステムは、パッドの鉄成分を最適化した新しい摩材を使用することで、公道などでの冷間時のタッチや制動力を、スチールと変わらないところまで引き上げている。
カーボンセラミックは、バネ下重量の軽減や熱間時制動力の向上などに効果的な反面、ディスクの“持ち”が懸念されるが、GT-R NISMOの場合、連日数十周のサーキット走行を約1週間にわたって行った今回の試乗会でも、交換を要することはまったくなかったという。それにはブレーキへの導風のために微細ながらも形状変更したというフェンダープロテクターもプラスに働いているのだろう。またマルチスポーク化したNISMO専用のレイズ製鍛造ホイールも、4本で100gとわずかながらも軽量化を果たしている。
タイヤは、プロファイルを丸めて高負荷時の接地面変化を最小限にとどめるなど、形状の工夫によって2017年型比で11%接地面積が向上したという。また、7%グリップ力が高まったという超ハイグリップ型コンパウンドの採用や、トレッドパターンの最適化などにより、コーナリングフォースも5%向上している。
バネ下で16kg以上、上屋で13kg以上、合わせて約30kgの軽量化を果たした車体に合わせてサスセットも大きく変更。具体的にはダンパーレートは伸び側を20%、縮み側を5%それぞれソフトにして、バネレートはリア側を若干固めたことで、速度域を問わず路面追従性を大きく改善。軽量化による前後のピッチング特性の変化をうまく吸収し、これまでタイヤが跳ねていたような凹凸でもピタリと接地するしなやかさを手に入れたという。より高まった旋回Gに対応すべく標準装備のレカロシートも骨格から見直され、シートバック全体のねじり剛性は20%向上。同時に2脚で2.8kgの軽量化も果たした。
カーボンセラミックは、バネ下重量の軽減や熱間時制動力の向上などに効果的な反面、ディスクの“持ち”が懸念されるが、GT-R NISMOの場合、連日数十周のサーキット走行を約1週間にわたって行った今回の試乗会でも、交換を要することはまったくなかったという。それにはブレーキへの導風のために微細ながらも形状変更したというフェンダープロテクターもプラスに働いているのだろう。またマルチスポーク化したNISMO専用のレイズ製鍛造ホイールも、4本で100gとわずかながらも軽量化を果たしている。
タイヤは、プロファイルを丸めて高負荷時の接地面変化を最小限にとどめるなど、形状の工夫によって2017年型比で11%接地面積が向上したという。また、7%グリップ力が高まったという超ハイグリップ型コンパウンドの採用や、トレッドパターンの最適化などにより、コーナリングフォースも5%向上している。
バネ下で16kg以上、上屋で13kg以上、合わせて約30kgの軽量化を果たした車体に合わせてサスセットも大きく変更。具体的にはダンパーレートは伸び側を20%、縮み側を5%それぞれソフトにして、バネレートはリア側を若干固めたことで、速度域を問わず路面追従性を大きく改善。軽量化による前後のピッチング特性の変化をうまく吸収し、これまでタイヤが跳ねていたような凹凸でもピタリと接地するしなやかさを手に入れたという。より高まった旋回Gに対応すべく標準装備のレカロシートも骨格から見直され、シートバック全体のねじり剛性は20%向上。同時に2脚で2.8kgの軽量化も果たした。
2017年モデルとの違いは明確
と、これらの変更点はすべからくレーシングスピードのためにある……わけではない。2020年型GT-R NISMOの進化はむしろ、タウンスピードにおいて明確だ。
ごく低速域からしっかりと動くサスペンションは、ゴツ・ビリ・ザラに代表される雑多なノイズをきれいに取り除き、路面の情報を濃密に伝えながらフラットな転がりをみせてくれる。さすがに明確な凹凸では強烈なレートのバネやスタビライザーの反力が車体を揺するが、挙げるべき不快な場面といえばそのくらいだろうか。GT-Rを知る者ならおなじみだろう常速域でのワンダリングなどは見事に霧散し、随所で改修工事が行われるアウトバーンでさえ舵の保持は片手を添えるくらいで真っすぐに突き進んでくれる。このマナーを知れば、タイヤの真円度だけでなく、接地面変化の抑え込みによって結果的にトレッド面もバイクのタイヤのように丸くなった――という開発陣の言葉も、あながち大げさではなく思えるだろう。総じて乗り心地の印象で言えば、直近の「ポルシェ911 GT3」あたりに比肩するか、場合によっては上回るところにきた感さえある。
このNISMOの試乗の前週、日本で2020年型の標準仕様にも乗る機会があり、その変化に驚かされていた。バネ下の無駄な動きを抑えたしっとりとしたライドフィールは2017年型からはっきりと熟成されており、なりふり構わず路面をかっさばくように突き進んでいた登場当初から比べれば、夢のようにGTとしての適性が改められていた。
そして2020年型のNISMOは、驚くことに、この標準仕様と乗り心地がほど近い。どころか、入力の質によってはNISMOの方がより上質に衝撃を吸収する感すらある。今までは指向を完全に違えていた標準仕様とNISMOのセットアップが、ここにきて同質化している理由には、目に見えぬ組み付け精度の向上、それに伴う車体剛性の変化なども挙げられるはずだ。
果たして、ここまで一般道での適性が向上したことで、サーキットでの振る舞いに陰りは出ないのだろうか。
こちらの心配をよそに、GT-R NISMOはクローズドコースでも素晴らしい振る舞いを見せてくれた。一般道では足裏の力加減でリニアに減速感をコントロールできたブレーキは、250km/h付近からのフルブレーキングを繰り返してもペダルストロークを変えることはほとんどなく、でも踏量に応じて素早く正確に減速を完遂する。操舵応答性は極めてニュートラルで、同時に試乗した2017年型NISMOと比べれば、確実に回頭性は向上し、上屋の無駄な動きも抑えられていた。ざっくりと言えば雑味がしっかり取り除かれて、解像度の高い走りになったというところだろうか。言い換えれば、2017年型の走りには、より低い領域でクルマと対峙(たいじ)する楽しさがあると言えなくもない。でも、楽で正確で速いのは確実に2020年型だ。
ごく低速域からしっかりと動くサスペンションは、ゴツ・ビリ・ザラに代表される雑多なノイズをきれいに取り除き、路面の情報を濃
このNISMOの試乗の前週、日本で2020年型の標準仕様にも乗る機会があり、その変化に驚かされていた。バネ下の無駄な動きを抑えたしっとりとしたライドフィールは2017年型からはっきりと熟成されており、なりふり構わず路面をかっさばくように突き進んでいた登場当初から比べれば、夢のようにGTとしての適性が改められていた。
そして2020年型のNISMOは、驚くことに、この標準仕様と乗り心地がほど近い。どころか、入力の質によってはNISMOの方がより上質に衝撃を吸収する感すらある。今までは指向を完全に違えていた標準仕様とNISMOのセットアップが、ここにきて同質化している理由には、目に見えぬ組み付け精度の向上、それに伴う車体剛性の変化なども挙げられるはずだ。
果たして、ここまで一般道での適性が向上したことで、サーキットでの振る舞いに陰りは出ないのだろうか。
こちらの心配をよそに、GT-R NISMOはクローズドコースでも素晴らしい振る舞いを見せてくれた。一般道では足裏の力加減でリニアに減速感をコントロールできたブレーキは、250km/h付近からのフルブレーキングを繰り返してもペダルストロークを変えることはほとんどなく、でも踏量に応じて素早く正確に減速を完遂する。操舵応答性は極めてニュートラルで、同時に試乗した2017年型NISMOと比べれば、確実に回頭性は向上し、上屋の無駄な動きも抑えられていた。ざっくりと言えば雑味がしっかり取り除かれて、解像度の高い走りになったというところだろうか。言い換えれば、2017年型の走りには、より低い領域でクルマと対峙(たいじ)する楽しさがあると言えなくもない。でも、楽で正確で速いのは確実に2020年型だ。
できることはすべてやった
試乗の仕上げには、開発当初からGT-Rに携わり続ける開発ドライバーの松本孝夫さんの隣に座り、20年型NISMOでのホットラップを体感した。そこで驚かされたのは、氏の正確な入力を忠実に旋回へと変えていく、その再現性の高さだ。特にアクセルコントロールで車体の向きを変えていく際の操作と挙動の同調ぶりには、ちょっとあぜんとさせられる。GT-Rってここまでリアがきっちきちに粘り抜くクルマだったか。それを思えば、今回のサスセットの意味もみえてこようというものだ。
GT-Rは2014年型において、標準仕様をGTの側に、そしてNISMOをRの側に……と2つのキャラクターを並立する方向性を打ち出した。それは細かなリファインを積み重ねた2017年型できれいな対を成したように思う。
さらなる進化と洗練を求めた2020年型では、結果的にその対がひとつの丸に収束されつつあるというのが乗ってみての印象だった。とりもなおさずNISMOの低中速域での振る舞いが激変した点は大きいが、一方で標準仕様の側もさらに精緻さが高まっている。がむしゃらに速いだけだったGT-Rがここまで上質なフィードバックを供する機械になろうとは、登場当初はゆめゆめ想像できなかった。
これをもって大団円とするのは気が早いかもしれないが、2020年型GT-Rはひとつのアーキテクチャーをして徹底的にやり尽くした、そういう完遂感にあふれている。結果、もうこれ以上の進化は望むこともないだろうと感慨にふけさせる円熟味も宿っている。単に合理的な速さを求める向きにも、自分の自動車史にそのクルマの名を刻んでおきたい向きにも、なんとあらばスピードには用がないというクルマ好きにさえおすすめしたくなる。これは日本車の金字塔だと思う。
(文=渡辺敏史/写真=日産自動車/編集=堀田剛資)
GT-Rは2014年型において、標準仕様をGTの側に、そしてNISMOをRの側に……と2つのキャラクターを並立する方向性を打ち出した。それは細かなリファインを積み重ねた2017年型できれいな対を成したように思う。
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これをもって大団円とするのは気が早いかもしれないが、2020年型GT-Rはひとつのアーキテクチャーをして徹底的にやり尽くした、そういう完遂感にあふれている。結果、もうこれ以上の進化は望むこともないだろうと感慨にふけさせる円熟味も宿っている。単に合理的な速さを求める向きにも、自分の自動車史にそのクルマの名を刻んでおきたい向きにも、なんとあらばスピードには用がな
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