【試乗記】トヨタ・コペンGRスポーツ(FF/CVT)/ダイハツ・コペンGRスポーツ(FF/5MT)
- トヨタ・コペンGRスポーツ(FF/CVT)/ダイハツ・コペンGRスポーツ(FF/5MT)
スキのない遊びグルマ
「コペンGRスポーツ」は、トヨタのGAZOO Racingカンパニーとダイハツがタッグを組んで仕立てたスポーツカーだ。その出来栄えを試すべく、特設コースに乗り込んでステアリングを一発切ったリポーターは、思わず笑みをこぼしたのだった。
「コペン」のベース市場を拡大したい
最初はまったくピンとこなかったが、トヨタらしい強引な力業で、いつしか直系スポーツブランドとして世界的に認知させることに成功したGRである。GRはWRCやWEC、ダカールラリーなどのモータースポーツ頂点カテゴリーでも使われるが、われわれに身近なのは「アクア」や「ヴィッツ」から「ヴォクシー/ノア」にまで設定されるスポーツモデル「GRスポーツ」だろう。GRスポーツはいくつかのレベルがあるGR銘柄の市販車でも、価格がもっとも手頃で、非限定商品であることが特徴だ。
そんなトヨタ謹製ブランドを、初めて他社製品(ダイハツは完全子会社だけど)に冠したのがコペンGRスポーツだ。ダイハツとトヨタのダブルネーム商品となるが、開発の実作業はあくまでダイハツの手によるもので、トヨタ側のGRカンパニーは企画段階から味つけにいたるまで意見を出して、一部に独自の知見を提供する役割を果たしたという。
今回の試乗会に出席したダイハツ技術開発部門トップの南出洋志さんは「『コペン』のベース市場を拡大したい」と語った。コペンには有名ブランドパーツで要所を固めた「S」がすでにあるので、それ以上……となると、たとえばNISMOやSTIといったモータースポーツ的な世界観を与えるのがテッパンである。
ただ、公式なモータースポーツ活動をおこなっていない今のダイハツには、それに好適なブランドがない。いっぽうのトヨタ=GRの商品群でいうと「スープラ」や「86」よりもハードルの低い小型スポーツカーはあるに越したことはない。軽自動車のGRなんて今の時代いかにも売れそうだし、それをダイハツがつくってくれたら都合がいい……というわけで、コペンGRスポーツである。
ただ、コペンはダイハツの精神的フラッグシップであり、マニア間には「スポーツカーは自前でやるべし」なる原理主義的な声が根強いのも事実。しかし、こういう思いつき企画を“善は急げ”とスパッと実現してしまうノリの良さは、素直に最近のトヨタの美点と思う。
そんなトヨタ謹製ブランドを、初めて他社製品(ダイハツは完全子会社だけど)に冠したのがコペンGRスポーツだ。ダイハツとトヨタのダブルネーム商品となるが、開発の実作業はあくまでダイハツの手によるもので、トヨタ側のGRカンパニーは企画段階から味つけにいたるまで意見を出して、一部に独自の知見を提供する役割を果たしたという。
今回の試乗会に出席したダイハツ技術開発部門トップの南出洋志さんは「『コペン』のベース市場を拡大したい」と語った。コペンには有名ブランドパーツで要所を固めた「S」がすでにあるので、それ以上……となると、たとえばNISMOやSTIといったモータースポーツ的な世界観を与えるのがテッパンである。
ただ、公式なモータースポーツ活動をおこなっていない今のダイハツには、それに好適なブランドがない。いっぽうのトヨタ=GRの商品群でいうと「スープラ」や「86」よりもハードルの低い小型スポーツカーはあるに越したことはない。軽自動車のGRなんて今の時代いかにも売れそうだし、それをダイハツがつくってくれたら都合がいい……というわけで、コペンGRスポーツである。
ただ、コペンはダイハツの精神的フラッグシップであり、マニア間には「スポーツカーは自前でやるべし」なる原理主義的な声が根強いのも事実。しかし、こういう思いつき企画を“善は急げ”とスパッと実現してしまうノリの良さは、素直に最近のトヨタの美点と思う。
シャシーまわりが主体のチューニング
GRスポーツには中身にまつわる約束が一応あって、それは、パワートレインは標準のまま手をつけず、車体やシャシーの補強、そして内外装のモディファイにとどめる……というものである。で、今回のコペンGRスポーツも基本的にはその約束にのっとっている。
コペンGRスポーツのエクステリアは既存の「ローブ」をベースに前後バンパーを専用化したほか、リアタイヤ前方の床下に専用空力部品のスパッツがつく。車体強化はいかにもGRスポーツらしく、床下を中心に“ブレース(=補強部材)”を追加する手法である。今回は、フロントサブフレームと車体中央部メインフレームとを結合するブレースと、既存のリアブレースを同じく中央メインフレームと結合させるブレースが主な新規部品となる。
この種のチューニングモデルのシャシー開発では、まず高性能タイヤを専用に履かせるのが常套手段だ。GRサイドの担当者である南 輝之さん(トヨタマンなのに、初代コペンを新車当時からずっと乗り続けているとか!)も「当初はもちろんタイヤ幅を広げることを検討したのですが、そもそもコペンに装着可能なサイズは実質的にこれしかありませんでした。とくにリアはこのサイズが限界。ただ、もともとの『ポテンザRE050A』はとてもいいタイヤなので、これをさらに使いこなすことにしました」と語った。
というわけで、GRスポーツでもタイヤは銘柄もサイズも標準と変わらず、BBSのアルミホイールはSと共通としたうえで、スプリングやダンパーを専用化している。ちなみに、GRスポーツのダンパーはKYB製だが、標準コペンのそれはショーワ製、Sは知っている人も多いようにビルシュタイン製である。
コペンGRスポーツのエクステリアは既存の「ローブ」をベースに前後バンパーを専用化したほか、リアタイヤ前方の床下に専用空力部品のスパッツがつく。車体強化はいかにもGRスポーツらしく、床下を中心に“ブレース(=補強部材)”を追加する手法である。今回は、フロントサブフレームと車体中央部メインフレームとを結合するブレースと、既存のリアブレースを同じく中央メインフレームと結合させるブレースが主な新規部品となる。
この種のチューニングモデルのシャシー開発では、まず高性能タイヤを専用に履かせるのが常套手段だ。GRサイドの担当者である南 輝之さん(トヨタマンなのに、初代コペンを新車当時からずっと乗り続けているとか!)も「当初はもちろんタイヤ幅を広げることを検討したのですが、そもそもコペンに装着可能なサイズは実質的にこれしかありませんでした。とくにリアはこのサイズが限界。ただ、もともとの『ポテンザRE050A』はとてもいいタイヤなので、これをさらに使いこなすことにしました」と語った。
というわけで、GRスポーツでもタイヤは銘柄もサイズも標準と変わらず、BBSのアルミホイールはSと共通としたうえで、スプリングやダンパーを専用化している。ちなみに、GRスポーツのダンパーはKYB製だが、標準コペンのそれはショーワ製、Sは知っている人も多いようにビルシュタイン製である。
GRスポーツのスイートスポット
今回は拠点となった大磯プリンスホテル駐車場に特設されたパイロンコースと、短時間の公道試乗にかぎられた、しかし、まずは標準、そしてSという2台の既存コペンに続いてGRスポーツに乗ってステアリングを一発切ったら、その瞬間に思わず笑みがこぼれた。素直に素晴らしく気持ちよく、いきなりピタリとコントロールできる。
いかにも引き締まったSの身のこなしと比較すると、GRスポーツは明らかにロールが大きい。減速や操舵ですみやかに荷重移動して、挙動変化も小さくないのだが、かわりにタイヤのグリップ感・接地感は鮮明かつ濃厚である。フロントからきれいにゆったりロールしてくれるので、うまくキッカケを与えると、リアを滑らせるようなコントロールもたやすくかつ正確にできる。
この点について、ダイハツサイドで操安開発チームリーダーをつとめた西田 駿さんは「バネレートも減衰力も、GRスポーツはSより低い設定です。安定感のあるフラットな乗り心地、しなやかな追従性と接地感、クルマとの一体感の向上を目指しました」と説明する。
もちろん、ビルシュタインを使うSのフットワークも今さらながら悪くはない。スラロームとレーンチェンジが用意された特設パイロンコースでは、あえてGRスポーツのスイートスポットが味わえる推奨速度が設定されていた。その推奨速度を守るかぎりは、なるほどタイヤがグリップしている様子が手に取るように感じ取れて、リアが粘りすぎないGRスポーツのほうが気持ちいい。
ただし、そこからさらに速度を上げて、ステアリング操作もより速めると、よりハードな仕立てのSのほうが姿勢もフラットに安定して速い。場合によってはGRスポーツと乗り比べたうえで、純粋にSが好ましい……というエンスーもいるだろう。「好みが分かれることは想定済み。すべてのコペンの味つけがGRになるわけではなく、今後も併売していきます(ダイハツ南出さん)」とのことである。
いかにも引き締まったSの身のこなしと比較すると、GRスポーツは明らかにロールが大きい。減速や操舵ですみやかに荷重移動して、挙動変化も小さくないのだが、かわりにタイヤのグリップ感・接地感は鮮明かつ濃厚である。フロントからきれいにゆったりロールしてくれるので、うまくキッカケを与えると、リアを滑らせるようなコントロールもたやすくかつ正確にできる。
この点について、ダイハツサイドで操安開発チームリーダーをつとめた西田 駿さんは「バネレートも減衰力も、GRスポーツはSより低い設定です。安定感のあるフラットな乗り心地、しなやかな追従性と接地感、クルマとの一体感の向上を目指しました」と説明する。
もちろん、ビルシュタインを使うSのフットワークも今さらながら悪くはない。スラロームとレーンチェンジが用意された特設パイロンコースでは、あえてGRスポーツのスイートスポットが味わえる推奨速度が設定されていた。その推奨速度を守るかぎりは、なるほどタイヤがグリップしている様子が手に取るように感じ取れて、リアが粘りすぎないGRスポーツのほうが気持ちいい。
ただし、そこからさらに速度を上げて、ステアリング操作もより速めると、よりハードな仕立てのSのほうが姿勢もフラットに安定して速い。場合によってはGRスポーツと乗り比べたうえで、純粋にSが好ましい……というエンスーもいるだろう。「好みが分かれることは想定済み。すべてのコペンの味つけがGRになるわけではなく、今後も併売していきます(ダイハツ南出さん)」とのことである。
最大級の賛辞を贈りたい
市街地や高速道路でも、GRスポーツは明らかに乗り心地よく、印象的なほどヒタリとまっすぐ走る。操安リーダーの西田さんが試乗前に「ルーフを閉めて乗ってみて」とおっしゃっていたので試したら、なるほど土台がしっかりしたことでアシはより滑らかにストロークして、乗り心地はさらに快適、接地感はより濃厚、ライン取りの正確性もグッと高まった。
こうした傾向は、大なり小なり、すべてのオープンカーがもっている。しかし、ルーフの有無によるちがいが、これまで乗ったどのコペンより明確に感じ取れたのは、それだけGRスポーツのアシがよく動いて、車体が硬質で、より繊細に調律されているからと思われる。
GRスポーツでは変速機もほかのコペン同様に、5段MTとCVTから選択可能。そして5段MTにのみトルク感応型の「スーパーLSD」が標準装備(他のコペン5段MT車ではオプションあつかい)となる。
コペンでのスーパーLSD効果は強力無比で、アクセルを踏み込むと路面にかみついたようにクルマが前に出る。前輪がよりしなやかに接地するGRスポーツでは、その独特のグリップ感が手のひらにもっとリアルに伝わってくるのが快感だ。この強力なトラクションを利して、タックイン気味に曲がるときのコントロール性も、これまでより一枚上手である。
こうした滑らかな荷重移動をともなうコントロール性と濃厚きわまりない接地感、ビシッと芯のとおった直進性に、私なりに最大級の賛辞を贈るとすれば、それはまるでフランスか欧州フォードのホットハッチのようである。しかも、私の大好きなルノーでいえば「シャシースポール」のように、適度に荒れた低グリップ路面でほど輝くタイプだ。少なくとも今回の短時間試乗では、遊びグルマとしての弱点はほとんど見つけられなかった。
こうした傾向は、大なり小なり、すべてのオープンカーがもっている。しかし、ルーフの有無によるちがいが、これまで乗ったどのコペンより明確に感じ取れたのは、それだけGRスポーツのアシがよく動いて、車体が硬質で、より繊細に調律されているからと思われる。
GRスポーツでは変速機もほかのコペン同様に、5段MTとCVTから選択可能。そして5段MTにのみトルク感応型の「スーパーLSD」が標準装備(他のコペン5段MT車ではオプションあつかい)となる。
コペンでのスーパーLSD効果は強力無比で、アクセルを踏み込むと路面にかみついたようにクルマが前に出る。前輪がよりしなやかに接地するGRスポーツでは、その独特のグリップ感が手のひらにもっとリアルに伝わってくるのが快感だ。この強力なトラクションを利して、タックイン気味に曲がるときのコントロール性も、これまでより一枚上手である。
こうした滑らかな荷重移動をともなうコントロール性と濃厚きわまりない接地感、ビシッと芯のとおった直進性に、私なりに最大級の賛辞を贈るとすれば、それはまるでフランスか欧州フォードのホットハッチのようである。しかも、私の大好きなルノーでいえば「シャシースポール」のように、適度に荒れた低グリップ路面でほど輝くタイプだ。少なくとも今回の短時間試乗では、遊びグルマとしての弱点はほとんど見つけられなかった。
「自分で乗るならこうしたい」を形に
「GRスポーツのキモである接地感や直進性は、サスペンションだけでなく、フロント揚力を抑制するフロントバンパーのエアアウトレット、リアの揚力を抑えるフロア下面スパッツの効果もかなり大きい」とはGRの南さん。
ダイハツの南出さんは「GRの南さんをはじめ、われらダイハツ側の担当者も、今回はコペン乗りが多かったんです。そんな彼らが『自分で乗るならこうしたい』と素直に考えて仕上げたのがGRスポーツです」と胸を張る。
冒頭のように開発の実作業はダイハツによるが、GR=トヨタの知見もそこかしこにいかされている。たとえば、前記のバンパーやスパッツなどは、いかにも“空力による操安向上”を率先して研究してきたGRの得意分野だし、「車体剛性の評価にも今回はGRの手法を取り入れました」とダイハツの西田さんは明かす。
「今回の開発では車体の剛性バランスの評価にも、GRの意見を取り入れて、あえてダンパー減衰力を大幅に低めた“抜きアブ”で走り、ブレースの形状や位置などを細かく評価しました。純粋な剛性やバランスはそのほうが正確に評価できるんです。ダイハツでもブレースのないクルマでは抜きアブで評価することはありますが、今回のように一度完成した車体にブレースを追加するときには、あえて減衰がある状態で評価するだけだったので、この点は勉強になりました」
というわけで、トヨタGRとダイハツの共同開発による軽自動車スポーツカーは、トヨタとダイハツの両販売店で買うことができる(トヨタで買えるコペンはGRスポーツのみ)。ただ、これまでのダイハツOEMのトヨタ車とは異なり、細部のデザインからバッジまで、トヨタ版とダイハツ版のコペンGRスポーツには寸分のちがいもない。普通のコペンではダイハツの“D”エンブレムとなるリアリッドバッジもGRスポーツだけは“C”を模したコペンマークになる。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
ダイハツの南出さんは「GRの南さんをはじめ、われらダイハツ側の担当者も、今回はコペン乗りが多かったんです。そんな彼らが『自分で乗るならこうしたい』と素直に考えて仕上げたのがGRスポーツです」と胸を張る。
冒頭のように開発の実作業はダイハツによるが、GR=トヨタの知見もそこかしこにいかされている。たとえば、前記のバンパーやスパッツなどは、いかにも“空力による操安向上”を率先して研究してきたGRの得意分野だし、「車体剛性の評価にも今回はGRの手法を取り入れました」とダイハツの西田さんは明かす。
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