【試乗記】フォルクスワーゲン・ザ・ビートル2.0 Rライン マイスター(FF/6AT)
- フォルクスワーゲン・ザ・ビートル2.0 Rライン マイスター(FF/6AT)
ロング・グッドバイ
フォルクスワーゲンのスペシャルティーモデル「ザ・ビートル」の販売終了とともに、「タイプI」に始まった80年にもおよぶ「ビートル」の歴史が幕を閉じる。最後の特別仕様車「2.0 Rライン マイスター」に乗り“20世紀のアイコン”たる存在をあらためて考えた。
乗ってみたらすごかった
- 今回試乗した特別仕様車「ザ・ビートル2.0 Rライン マイスター」の車名に用いられたマイスター(Meister)は、ドイツ語で“職人”や“名人”を意味する言葉。入念に作り込まれた完成度の高さから、その名が与えられたという。
若い頃の憧れのクルマは「ゴルフGTI」だったから、タフで信頼性が高いことは知っていても、その当時、鈍重なビートルは正直眼中になかった。80年代になってもメキシコ製の新車が雑誌の広告に載っていたが、わざわざそれを選ぶ人の気持ちは理解できなかった。ところが、ずっと後になって50~60年代のモデルに乗ってみて、ようやくオリジナルビートルの偉大さに気づくことになる。いわゆる“スプリットウィンドウ”のビートルで何度かクラシックカーラリーにも出場し、思い切り走らせて初めてオリジナルモデルのすごさを実感したのだ。
1953年モデルのエンジン排気量は1.1リッターで、最高出力は確かたったの25PSだったはずである。にもかかわらず、軽井沢周辺のきつい登りのワインディングロードでも、その辺の「ジュリエッタ」や「MGA」などにはめったなことでは後れを取らなかった。もちろん上りの山道ではちょっとしたテクニック、というほどでもないのだが、走り方に工夫する必要がある。
走行中にノンシンクロのローに入れるのは避けたいし、いったんスピードを落とすと回復するのが難しいので、可能な限り速度を落とさない。要するに2速のまま速度を保ってコーナーを走るということだ。そうすれば、はるかに強力な親戚の「356」にも食らいついていくことができた。ガンガン山道を飛ばしてもきゃしゃでやわな感触はなく、さすがは本物のミッレミリアにも出場したクルマと感心したものだ。
当時としてはずぬけて簡潔軽量、頑強高精度だったフォルクスワーゲン・タイプI、通称ビートルは、100km/hで巡航できることが設計要件のひとつだったというが、実際に高速道路でも現代のクルマに伍(ご)して走って何の問題もなかった。ただし、そのスピードになると風圧で“アポロ”(Bピラーに取り付けられた方向指示器)がスムーズに出入りしなくなるため、80~90km/hが安心して走れるスピードだ。そのぐらいなら60年以上たった今でも、どこまでも走って行けると思えるほど快適で安定している。あの頃、世界中の若者がビートルとともに旅に出たのも当然なのである。
今更繰り返すまでもないが、フォルクスワーゲンの代名詞たるビートルは本国西ドイツ(当時)のウォルフスブルク工場では1978年に生産が終了したが(後継モデルの「ゴルフ」は1974年デビュー)、その後もメキシコで2003年まで生産が継続され、累計台数はおよそ2153万台に達している(いっぽう1998年には「ニュービートル」が発売された)。
同一モデルの生産台数では「カローラ」が世界一ということになっているが(現在4750万台)、これは一応カローラシリーズに属しているものの、世界中で生産されるさまざまなバリエーションを合計した台数であり、基本的に同一構造のクルマとしてはオリジナルビートルが世界一。やはり「コカ・コーラ」やジーンズと並ぶ20世紀のアイコンであることは間違いない。
1953年モデルのエンジン排気量は1.1リッターで、最高出力は確かたったの25PSだったはずである。にもかかわらず、軽井沢周辺のきつい登りのワインディングロードでも、その辺の「ジュリエッタ」や「MGA」などにはめったなことでは後れを取らなかった。もちろん上りの山道ではちょっとしたテクニック、というほどでもないのだが、走り方に工夫する必要がある。
走行中にノンシンクロのローに入れるのは避けたいし、いったんスピードを落とすと回復するのが難しいので、可能な限り速度を落とさない。要するに2速のまま速度を保ってコーナーを走るということだ。そうすれば、はるかに強力な親戚の「356」にも食らいついていくことができた。ガンガン山道を飛ばしてもきゃしゃでやわな感触はなく、さすがは本物のミッレミリアにも出場したクルマと感心したものだ。
当時としてはずぬけて簡潔軽量、頑強高精度だったフォルクスワーゲン・タイプI、通称ビートルは、100km/hで巡航できることが設計要件のひとつだったというが、実際に高速道路でも現代のクルマに伍(ご)して走って何の問題もなかった。ただし、そのスピードになると風圧で“アポロ”(Bピラーに取り付けられた方向指示器)がスムーズに出入りしなくなるため、80~90km/hが安心して走れるスピードだ。そのぐらいなら60年以上たった今でも、どこまでも走って行けると思えるほど快適で安定している。あの頃、世界中の若者がビートルとともに旅に出たのも当然なのである。
今更繰り返すまでもないが、フォルクスワーゲンの代名詞たるビートルは本国西ドイツ(当時)のウォルフスブルク工場では1978年に生産が終了したが(後継モデルの「ゴルフ」は1974年デビュー)、その後もメキシコで2003年まで生産が継続され、累計台数はおよそ2153万台に達している(いっぽう1998年には「ニュービートル」が発売された)。
同一モデルの生産台数では「カローラ」が世界一ということになっているが(現在4750万台)、これは一応カローラシリーズに属しているものの、世界中で生産されるさまざまなバリエーションを合計した台数であり、基本的に同一構造のクルマとしてはオリジナルビートルが世界一。やはり「コカ・コーラ」やジーンズと並ぶ20世紀のアイコンであることは間違いない。
最後のザ・ビートル
去る2019年9月末、日本向けザ・ビートルの最終ロット63台(1.4リッター直4ターボのRライン マイスター)が、豊橋市の明海埠頭(ふとう)に陸揚げされた。メキシコのプエブラ工場で生産された、最後のザ・ビートルである。同車は2012年の日本導入以来、約4万5000台が販売されたという。
フォルクスワーゲン グループ ジャパンはすでに昨年、2019年でザ・ビートルの販売を終了することを発表しており、それに伴うキャンペーンとして特別仕様モデルの「マイスター」を設定していた。
第2次世界大戦直前の1938年完成のプロトタイプから数えると、これでおよそ80年の歴史に終止符を打ったとされているが、1998年登場の「ニュービートル」と、2011年からのザ・ビートルを含めて通しで計算するのはちょっと無理がある。言うまでもなく、ニュービートル以降はゴルフベースのFWD車であるからだ。
それはさておき、今回試乗したザ・ビートル2.0 Rライン マイスターは前述した最終ロットの中の1台ではないが、「ザ・ビートル2.0 Rライン」をベースに、ナビゲーションシステムやリアビューカメラ、レザーシート、電動パノラミックスライディングルーフなどを標準装備した特別仕様車。エンジンはその名の通り2リッター直4ターボを搭載する最高性能グレードである。
フォルクスワーゲン グループ ジャパンはすでに昨年、2019年でザ・ビートルの販売を終了することを発表しており、それに伴うキャンペーンとして特別仕様モデルの「マイスター」を設定していた。
第2次世界大戦直前の1938年完成のプロトタイプから数えると、これでおよそ80年の歴史に終止符を打ったとされているが、1998年登場の「ニュービートル」と、2011年からのザ・ビートルを含めて通しで計算するのはちょっと無理がある。言うまでもなく、ニュービートル以降はゴルフベースのFWD車であるからだ。
それはさておき、今回試乗したザ・ビートル2.0 Rライン マイスターは前述した最終ロットの中の1台ではないが、「ザ・ビートル2.0 Rライン」をベースに、ナビゲーションシステムやリアビューカメラ、レザーシート、電動パノラミックスライディングルーフなどを標準装備した特別仕様車。エンジンはその名の通り2リッター直4ターボを搭載する最高性能グレードである。
古臭さがそこかしこに
2.0 Rラインの2リッター直4直噴ターボは、最高出力211PS(155kW)/5300-6200rpmと最大トルク280N・m(28.6kgf・m)/1700-5200rpmを発生。車重1380kgのボディーには十分以上である。ベーシックモデルは最高出力105PSの1.2リッターターボ、「Rライン」でも最高出力150PSの1.4リッターターボなのだから、当然かなりの力強さである。
ご存じのように、ザ・ビートルはゴルフ6のコンポーネントを流用しており、エンジンもほぼ10年前の6代目のGTIと同じユニットだ。加えて、ダッシュボード中央の3連メーターや取って付けたようなリアスポイラー、19インチタイヤ(ベースグレードは16インチ)などが高性能仕様を主張するが、いささか古臭いし、どう見ても中途半端な感じである。
そもそもビートルはピースフルなクルマであり、それをあえて型破りなモッズ仕様に改造したからこそオリジナルモデルはカルチャーとして成立したのだが、メーカー自身がそれを徹底的にやるのは難しいのだろうか。
また電子プラットフォームが旧世代ゆえに、ADAS(先進運転支援システム)系はブラインドスポットアシストぐらいで、他は装備されないのがつらいところ。クルーズコントロールも備わるが追従式ではない普通のものだ。もっと趣味性の強いモデルならばまだしも、ザ・ビートルの場合はそこまでではなく、現代の実用車に機能面でも伍していかなければならないところにジレンマがある。
ご存じのように、ザ・ビートルはゴルフ6のコンポーネントを流用しており、エンジンもほぼ10年前の6代目のGTIと同じユニットだ。加えて、ダッシュボード中央の3連メーターや取って付けたようなリアスポイラー、19インチタイヤ(ベースグレードは16インチ)などが高性能仕様を主張するが、いささか古臭いし、どう見ても中途半端な感じである。
そもそもビートルはピースフルなクルマであり、それをあえて型破りなモッズ仕様に改造したからこそオリジナルモデルはカルチャーとして成立したのだが、メーカー自身がそれを徹底的にやるのは難しいのだろうか。
また電子プラットフォームが旧世代ゆえに、ADAS(先進運転支援システム)系はブラインドスポットアシストぐらいで、他は装備されないのがつらいところ。クルーズコントロールも備わるが追従式ではない普通のものだ。もっと趣味性の強いモデルならばまだしも、ザ・ビートルの場合はそこまでではなく、現代の実用車に機能面でも伍していかなければならないところにジレンマがある。
これじゃなきゃ、という方に
スポーツサスペンションに電子制御式ディファレンシャルロック(XDS)も装備する割には、2.0 Rライン マイスターの乗り心地は悪くない。骨太でフラットだが、ただし路面によってはバタつきが残り、また車内のどこからか、かすかな低級音が伝わってくることが気にかかる。
現行「MINI」や「フィアット500」にあって、ザ・ビートルにないものは、ピシリと筋が通った完成度、クオリティー感ではないかと思ってきたが、この2.0 Rライン マイスターもまた同様だ。フォルクスワーゲンといえば本来きちんとした造りで定評があるはずだが、ニュービートルよりはずいぶんと改善されたものの、それよりも世代の進んだザ・ビートルであっても、わずかながら何となくラフな感じが拭えないのである。
後席もラゲッジスペースもまずまずの広さで実用には不足ないとはいえ、そんな機能性を真面目に突き詰めれば、ゴルフではなくビートルを選ぶ必然性はない。しかもゴルフはすでに8代目が発表されているから、どうしても型落ち感が否めない。
とにかく、扱いやすさや経済性は端から気にしない、その形と名前がとにかく好きなんだ、という人はお早めに。2019年7月11日にメキシコでの生産は終了しており、これが本当に最後の“ザ・ビートル”である。
(文=高平高輝/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
現行「MINI」や「フィアット500」にあって、ザ・ビートルにないものは、ピシリと筋が通った完成度、クオリティー感ではないかと思ってきたが、この2.0 Rライン マイスターもまた同様だ。フォルクスワーゲンといえば本来きちんとした造りで定評があるはずだが、ニュービートルよりはずいぶんと改善されたものの、それよりも世代の進んだザ・ビートルであっても、わずかながら何となくラフな感じが拭えないのである。
後席もラゲッジスペースもまずまずの広さで実用には不足ないとはいえ、そんな機能性を真面目に突き詰めれば、ゴルフではなくビートルを選ぶ必然性はない。しかもゴルフはすでに8代目が発表されているから、どうしても型落ち感が否めない。
とにかく、扱いやすさや経済性は端から気にしない、その形と名前がとにかく好きなんだ、という人はお早めに。2019年7月11日にメキシコでの生産は終了しており、これが本当に最後の“ザ・ビートル”である。
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