【試乗記】トヨタ・カローラS(FF/CVT)
- トヨタ・カローラS(FF/CVT)
大看板ゆえの苦悩
自慢のTNGAプラットフォームに日本専用ボディーをかぶせた新型「カローラ」は、なるほどトヨタの意欲作かもしれない。しかし、日本市場を席巻していたかつての姿を知る者にとっては、新型のキラリと光るポイントを理解しつつも、要所要所で感じる雑味が気になってしまうのだった。
ベストセラー、再び!?
2019年9月に通算12代目にモデルチェンジしたトヨタ・カローラ、発売翌月の10月にはおよそ1万1200台を売ってモデル別月間販売台数ランキングでめでたくトップに立ったという。およそ11年ぶりのことらしい。
しかしながら、である。ランキングトップとはいえその台数は1万台ちょっと。国内市場の縮小を考慮しても、圧倒的なベストセラーだった時代を知る私のようなオヤジには、物足りないというか、やはりそんなものかという印象が強い。若い方にはピンと来なくて当然ではあるが、カローラは2002年に「ホンダ・フィット」に年間販売台数トップの座を譲るまで、何と33年間にわたって首位の座を守り続けて来た絶対王者だったのである。ちなみにその年のフィットのセールスはざっと25万台、2位に甘んじたカローラでも23万台だった。翻って昨2018年のカローラの国内登録台数は約9万台。それに対して同じく2018年のグローバル生産台数はおよそ150万台だ。念のために記しておくと、これは市場別に異なるサイズや仕様をすべて合算したシリーズ全体での数字である。
いずれにせよカローラが現在もトヨタの大看板であることは明白だが、母国日本でのセールスの割合はたったの6%ということになる。これでは日本市場を重視せよと言われても、なかなかそうはいかないことも理解できるだろう。それゆえに、新世代のTNGAプラットフォームを採用しながら、セダンとワゴンの幅も長さも切り詰めて日本国内専用ボディーをわざわざ用意したことは英断であり、最大の特徴であることは間違いない。
しかしながら、である。ランキングトップとはいえその台数は1万台ちょっと。国内市場の縮小を考慮しても、圧倒的なベストセラーだった時代を知る私のようなオヤジには、物足りないというか、やはりそんなものかという印象が強い。若い方にはピンと来なくて当然ではあるが、カローラは2002年に「ホンダ・フィット」に年間販売台数トップの座を譲るまで、何と33年間にわたって首位の座を守り続けて来た絶対王者だったのである。ちなみにその年のフィットのセールスはざっと25万台、2位に甘んじたカローラでも23万台だった。翻って昨2018年のカローラの国内登録台数は約9万台。それに対して同じく2018年のグローバル生産台数はおよそ150万台だ。念のために記しておくと、これは市場別に異なるサイズや仕様をすべて合算したシリーズ全体での数字である。
いずれにせよカローラが現在もトヨタの大看板であることは明白だが、母国日本でのセールスの割合はたったの6%ということになる。これでは日本市場を重視せよと言われても、なかなかそうはいかないことも理解できるだろう。それゆえに、新世代のTNGAプラットフォームを採用しながら、セダンとワゴンの幅も長さも切り詰めて日本国内専用ボディーをわざわざ用意したことは英断であり、最大の特徴であることは間違いない。
国内専用でも3ナンバー
とはいえ、それはつくり手側から見た場合の話だ。身内のライバルである「プリウス」や「アクア」を送り出したのはトヨタ自身だし、海外の商売上の都合でこれまで代を重ねるごとに大型化してきたのもそちら側なのに、突然日本市場のために専用バージョンをつくりました、と言われても何だか釈然としないと感じる人もいるはずだ。
セダンがシンプルに“カローラ”と呼ばれることになった新型は、海外向けのセダンと比べて全長で135mm、全幅では35mm、ホイールベースは60mm短いものの、従来型の「アクシオ」との比較ではそれぞれ95mm、50mm、40mm拡大されている。いっぽうで全高だけは25mm低められて1435mmとなっている。言うまでもなくカローラは世界150以上の国と地域で販売されているボリュームモデルであり、新型は国内専用プラットフォームを用意するのではなく、プリウスや「C-HR」と同じく「GA-C」プラットフォームに統一された。もちろん、日本の3ナンバー枠のほうが“ガラパゴス的”ともいえるが、現実にそれでは困るというユーザーがいることも事実。それを考えて従来型のアクシオと「フィールダー」も当面併売されるという。規模が大きくなればなるほど、クルマづくりは一筋縄ではいかないのである。
セダンがシンプルに“カローラ”と呼ばれることになった新型は、海外向けのセダンと比べて全長で135mm、全幅では35mm、ホイールベースは60mm短いものの、従来型の「アクシオ」との比較ではそれぞれ95mm、50mm、40mm拡大されている。いっぽうで全高だけは25mm低められて1435mmとなっている。言うまでもなくカローラは世界150以上の国と地域で販売されているボリュームモデルであり、新型は国内専用プラットフォームを用意するのではなく、プリウスや「C-HR」と同じく「GA-C」プラットフォームに統一された。もちろん、日本の3ナンバー枠のほうが“ガラパゴス的”ともいえるが、現実にそれでは困るというユーザーがいることも事実。それを考えて従来型のアクシオと「フィールダー」も当面併売されるという。規模が大きくなればなるほど、クルマづくりは一筋縄ではいかないのである。
“きちんと感”はあるけれど
上質とまでは言えないが、きちんと整然と仕上げられたインテリアの中でとりわけ目立つのはダッシュ中央にデンと据え付けられた大型スクリーンである。すっきりとした水平基調のインストゥルメントパネルの上にそびえるモニターは実家のテレビのように巨大に見える。しかもトヨタとしては初めてのディスプレイオーディオである点が新しい。これはスマートフォンとの接続を前提としたインフォテインメントシステムで、さまざまなアプリケーションを利用できる。もちろん従来通りの車載ナビゲーションシステムも選択可能であり、試乗車にはオプション(11万円)の「T-Connectナビキット」が装備されていた。
ただし、本来は7インチが標準装備のところ、オプションの9インチディスプレイを装備していたせいなのか、便利とか操作性云々(うんぬん)以前に画面が粗く、鮮明ではないことにちょっとがっかりした。大きなディスプレイはおそらく車内で動画を見たいという需要に応えたものだろうが、この12月からスマホを操作するなどの“ながら運転”の罰則が厳しくなったことを忘れてはいけない。
GA-Cプラットフォームを採用したことで低くスリークになった新型のプロポーションはなかなかにカッコいいと感じるが、その分AピラーとCピラーは大きく寝かされており、コーナー部分に細いサブピラーを何本も建ててサイドウィンドウとの兼ね合いを処理していることが分かる。運転席まわりの視界に特に問題はないが、低く構えたことで乗り降りにも影響が出るのは現行プリウスと同じ、この種のセダンに低くスリークであることが必要なのか、という点ではやや疑問が残る。トヨタが引きつけたい若者の多くも、今や低いことを単純にカッコいいとは感じていないのではないだろうか。
ただし、本来は7インチが標準装備のところ、オプションの9インチディスプレイを装備していたせいなのか、便利とか操作性云々(うんぬん)以前に画面が粗く、鮮明ではないことにちょっとがっかりした。大きなディスプレイはおそらく車内で動画を見たいという需要に応えたものだろうが、この12月からスマホを操作するなどの“ながら運転”の罰則が厳しくなったことを忘れてはいけない。
GA-Cプラットフォームを採用したことで低くスリークになった新型のプロポーションはなかなかにカッコいいと感じるが、その分AピラーとCピラーは大きく寝かされており、コーナー部分に細いサブピラーを何本も建ててサイドウィンドウとの兼ね合いを処理していることが分かる。運転席まわりの視界に特に問題はないが、低く構えたことで乗り降りにも影響が出るのは現行プリウスと同じ、この種のセダンに低くスリークであることが必要なのか、という点ではやや疑問が残る。トヨタが引きつけたい若者の多くも、今や低いことを単純にカッコいいとは感じていないのではないだろうか。
底上げされたことは間違いない
いっぽうダイナミックな性能という観点では、新世代プラットフォームを得て低くなったことは大いに効果がある。全体的なスタビリティーや安心できるステアリングフィール、しっかりとした乗り心地など、基本性能は見違えるほど向上している。
とはいえ、従来型と比較するのは新旧の開発陣にとっても本意ではないだろう。従来型は、まあ極端な言い方をすれば安手だった。「ヴィッツ」と同じコンパクトクラスのプラットフォームを使わざるを得ず、あらゆる面で満足できるレベルには達していなかったのである。それゆえ新型になって海外向けと同じレベルに地力が底上げされたことは大歓迎である。もっとも、2ZR-FAE型1.8リッター4気筒エンジン(140PS/6200rpm、170N・m/3900rpm)は既存のものを踏襲、トランスミッションも7段スポーツシーケンシャルシフトマチック付きとはいえCVTだから、それほど活気にあふれているわけではない。ごくおとなしく、普通に走る限りは滑らかで実用には十分といえるが、走って楽しいかと聞かれたら答えに詰まるのが正直な気持ちだ。
これから先、カローラをどのように扱うかはトヨタの大きな課題だろう。少なくとも新世代プラットフォームにふさわしい新世代パワートレインが求められているのは間違いない。
(文=高平高輝/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
とはいえ、従来型と比較するのは新旧の開発陣にとっても本意ではないだろう。従来型は、まあ極端な言い方をすれば安手だった。「ヴィッツ」と同じコンパクトクラスのプラットフォームを使わざるを得ず、あらゆる面で満足できるレベルには達していなかったのである。それゆえ新型になって海外向けと同じレベルに地力が底上げされたことは大歓迎である。もっとも、2ZR-FAE型1.8リッター4気筒エンジン(140PS/6200rpm、170N・m/3900rpm)は既存のものを踏襲、トランスミッションも7段スポーツシーケンシャルシフトマチック付きとはいえCVTだから、それほど活気にあふれているわけではない。ごくおとなしく、普通に走る限りは滑らかで実用には十分といえるが、走って楽しいかと聞かれたら答えに詰まるのが正直な気持ちだ。
これから先、カローラをどのように扱うかはトヨタの大きな課題だろう。少なくとも新世代プラットフォームにふさわしい新世代パワートレインが求められているのは間違いない。
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