【試乗記】トヨタ・ハリアー
- トヨタ・ハリアー ハイブリッドZ(4WD/CVT)/ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”(FF/CVT)/ハリアーG(FF/CVT)
多芸多才・容姿端麗・商売繁盛
都市型SUVのパイオニアである「トヨタ・ハリアー」がフルモデルチェンジ。4代目となる新型の走りの印象や装備の使い勝手、さらには車台を共有する「RAV4」との乗り味のちがいなどをリポートする。
よくぞここまで!
新型ハリアーは案の定、バカ売れらしい。7月16日時点で受注台数が4万5000台(月販目標は3100台)に達しており、今から商談に入っても、モデルによっては納車が年明けになるケースもあるとか。ハリアーの公式ホームページにある「工場出荷時期目処のご案内」をのぞいても、今は“詳しくは販売店にお問い合わせください”とあるだけで、具体的な時期は出てこない。例のウイルスのせいで不安感ばかりがあおられる昨今、こういう景気のいい話を聞けるだけでも、ありがたい気分になる。
それにしても、新型ハリアーの実物はなかなかスゴいカタチをしている。長めの前後オーバーハング、とんがったノーズ、強く傾斜したリアウィンドウとキックアップしたリアエンドなどが、エクステリアにおける“ハリアーらしさ”なのだろう。車体後半部はもちろん一部に樹脂部品も動員した造形ではあるが、リアドアからリアフェンダー、テールゲートの深絞りプレスラインには「この価格帯・この生産台数でよくぞここまで!」と思うほかない。
この「よくぞ!」はインテリアも同じ。一見すると、これでもか……というステッチレザーの世界だが、実際は一部にそれ風の樹脂成形部品を使ったり、体がめったに触れない樹脂シボの大半をハードプラにしたりと、コスト配分は巧妙だ。いっぽうで、縫い合わせ目にパイピングを加えた助手席前や「馬の鞍をイメージした厚革の風合い」を表現したというセンターコンソールなど、ハイライトとなる部分の仕立ては素直に見事である。
室内空間や荷室は「スタイリング優先で割り切った」というが、強くカーブして見えるルーフも、実際にはリアゲート付近までほとんど下降していない。後席はヒップポイントが低めなので、実際に座ると意外なほど広い(そのぶん、見晴らしは正直いって良くない)。荷室も日常づかいには不足感はまるでないが、内張りをギチギチにせめて容量を確保するより、曲線基調の内張りやメタル調パネルの遊び心がハリアー信者の心をくすぐるのだろう。
それにしても、新型ハリアーの実物はなかなかスゴいカタチをしている。長めの前後オーバーハング、とんがったノーズ、強く傾斜したリアウィンドウとキックアップしたリアエンドなどが、エクステリアにおける“ハリアーらしさ”なのだろう。車体後半部はもちろん一部に樹脂部品も動員した造形ではあるが、リアドアからリアフェンダー、テールゲートの深絞りプレスラインには「この価格帯・この生産台数でよくぞここまで!」と思うほかない。
この「よくぞ!」はインテリアも同じ。一見すると、これでもか……というステッチレザーの世界だが、実際は一部にそれ風の樹脂成形部品を使ったり、体がめったに触れない樹脂シボの大半をハードプラにしたりと、コスト配分は巧妙だ。いっぽうで、縫い合わせ目にパイピングを加えた助手席前や「馬の鞍をイメージした厚革の風合い」を表現したというセンターコンソールなど、ハイライトとなる部分の仕立ては素直に見事である。
室内空間や荷室は「スタイリング優先で割り切った」というが、強くカーブして見えるルーフも、実際にはリアゲート付近までほとんど下降していない。後席はヒップポイントが低めなので、実際に座ると意外なほど広い(そのぶん、見晴らしは正直いって良くない)。荷室も日常づかいには不足感はまるでないが、内張りをギチギチにせめて容量を確保するより、曲線基調の内張りやメタル調パネルの遊び心がハリアー信者の心をくすぐるのだろう。
3部作の掉尾を飾る
新型ハリアーの骨格設計がRAV4と共通の「GA-K」プラットフォームを基礎とすることは、すでに何度も報じられているとおりである。ちなみに今回のハリアーの開発を担当したチーフエンジニアも、RAV4と同じ佐伯禎一氏である。もっというと、北米からスタートして中国や豪州、欧州に導入予定という3列シートSUV「ハイランダー」もGA-K由来で、チーフエンジニアは同じく佐伯氏だ。
現行RAV4は日本でこそ2019年発売だったが、初めて世に出たのは2018年秋の北米発売だった。そしてハイランダーが翌2019年秋に北米発売されて、2020年に今回のハリアーである。こうして連続的に開発された3台のSUVを、佐伯氏は「3部作」と称する。
なかでも、RAV4とハリアーはホイールベースやシートレイアウト、パワートレインなどの共通点がとくに多い。そのうえでハリアー特有の乗り味を実現するキモとなったのは、車体その他に投入された騒音対策の数々と、新開発のショックアブソーバーという。
このショックアブソーバーについては「ピストンスピード2mm/s以下の極微低速域でもスムーズなストロークの動きを確保」という効能書きがまったく同じことから、以前の記事で「『レクサスES』で初採用された『スウィングバルブショックアブソーバー』と思われる」と書かせていただいたが、実際はちがった。ここに訂正いたします。すみません。
スウィングバルブ~がKYBの商標なのに対して、新型ハリアーの足もとを支えるそれは、日立オートモティブシステムズ製なのだそうだ。担当者によると、日立を使う理由は「調達の都合」ということで、サプライヤーはちがっても目指す性能はほぼ同じなのだろう。
現行RAV4は日本でこそ2019年発売だったが、初めて世に出たのは2018年秋の北米発売だった。そしてハイランダーが翌2019年秋に北米発売されて、2020年に今回のハリアーである。こうして連続的に開発された3台のSUVを、佐伯氏は「3部作」と称する。
なかでも、RAV4とハリアーはホイールベースやシートレイアウト、パワートレインなどの共通点がとくに多い。そのうえでハリアー特有の乗り味を実現するキモとなったのは、車体その他に投入された騒音対策の数々と、新開発のショックアブソーバーという。
このショックアブソーバーについては「ピストンスピード2mm/s以下の極微低速域でもスムーズなストロークの動きを確保」という効能書きがまったく同じことから、以前の記事で「『レクサスES』で初採用された『スウィングバルブショックアブソーバー』と思われる」と書かせていただいたが、実際はちがった。ここに訂正いたします。すみません。
スウィングバルブ~がKYBの商標なのに対して、新型ハリアーの足もとを支えるそれは、日立オートモティブシステムズ製なのだそうだ。担当者によると、日立を使う理由は「調達の都合」ということで、サプライヤーはちがっても目指す性能はほぼ同じなのだろう。
狙い目は下位グレード
今回はハリアーとしては初の公道試乗で、ハイブリッドの4WD(後輪はモーターで駆動する「E-Four」)と同じハイブリッドの2WD、そして2リッター純エンジン(の2WD)という3機種を走らせることができた。ただし、その試乗メニューが横浜みなとみらいを拠点に、1台あたり30分~1時間というルートも時間も限定的だったことをお断りしておく。
そんなチョイ乗りでも、だれにでも分かる新型ハリアーの魅力は静粛性だ。直接乗りくらべなくても、RAV4より明らかに静かである。
さらに、最上級となるハイブリッド4WDは、同じパワートレインのRAV4より約80kgも重いこともあって、明らかに重厚な身のこなしとなる。とくに今回の試乗車は大径19インチホイールを履く「Z」グレードで、しかも天井に大面積のガラスルーフを備えることもあってか、重量に対する足まわりの設定が明らかに柔らかく感じた。
その直進でのソフトタッチと、くったり速やかにロールする特性はどこか懐かしくもあり、さしずめ「クラウン ロイヤルサルーン」のSUV版といった風情だ。国内専用車だった先代とはちがい、新型ハリアーは「ヴェンザ」として北米販売もされる国際派に脱皮した。それでも、こうして良くも悪くも日本的なテイストを醸してくれるのは日本人として悪い気はしない。
ただ、上屋が安定したフラットライドと接地感の両立レベル、大きなギャップで突き上げられたときのいなし具合、フロアに伝わる振動の少なさといった現代的な意味での快適性、安定性は、今回の試乗車だと4WDより2WD、ハイブリッドよりは2リッター、そしてホイールサイズも19インチよりも18インチ(17インチには試乗できず)のほうが印象が良かった。つまり、軽くて安価な仕様内容ほど(耳に届く静粛性以外は)、走りが好印象だったのはちょっと意外。というのも、トヨタの高級車の場合は、上級グレードで、装備のトッピングが多くなるほど快適になる傾向が強いからだ。これを裏返すと、今回試乗したような2リッターの中間グレード「G」なら、この内外装の質感と乗り心地が300万円台半ばで手に入るわけで、これは素直に商品力がメチャクチャ高い。売れるわけである。
そんなチョイ乗りでも、だれにでも分かる新型ハリアーの魅力は静粛性だ。直接乗りくらべなくても、RAV4より明らかに静かである。
さらに、最上級となるハイブリッド4WDは、同じパワートレインのRAV4より約80kgも重いこともあって、明らかに重厚な身のこなしとなる。とくに今回の試乗車は大径19インチホイールを履く「Z」グレードで、しかも天井に大面積のガラスルーフを備えることもあってか、重量に対する足まわりの設定が明らかに柔らかく感じた。
その直進でのソフトタッチと、くったり速やかにロールする特性はどこか懐かしくもあり、さしずめ「クラウン ロイヤルサルーン」のSUV版といった風情だ。国内専用車だった先代とはちがい、新型ハリアーは「ヴェンザ」として北米販売もされる国際派に脱皮した。それでも、こうして良くも悪くも日本的なテイストを醸してくれるのは日本人として悪い気はしない。
ただ、上屋が安定したフラットライドと接地感の両立レベル、大きなギャップで突き上げられたときのいなし具合、フロアに伝わる振動の少なさといった現代的な意味での快適性、安定性は、今回の試乗車だと4WDより2WD、ハイブリッドよりは2リッター、そしてホイールサイズも19インチよりも18インチ(17インチには試乗できず)のほうが印象が良かった。つまり、軽くて安価な仕様内容ほど(耳に届く静粛性以外は)、走りが好印象だったのはちょっと意外。というのも、トヨタの高級車の場合は、上級グレードで、装備のトッピングが多くなるほど快適になる傾向が強いからだ。これを裏返すと、今回試乗したような2リッターの中間グレード「G」なら、この内外装の質感と乗り心地が300万円台半ばで手に入るわけで、これは素直に商品力がメチャクチャ高い。売れるわけである。
中小企業のチカラ
新型ハリアーは基本ハードウエアに新味がないぶん、内外装のデザインと質感、そして担当者の苦労がしのばれる装備が目を引く。今回のハリアーでとくに注目すべき装備は、最近話題のドラレコを早くも取り込んでしまった「前後方録画機能付きデジタルインナーミラー」と、トヨタでおなじみの開閉式ムーンルーフのかわりに新投入された「調光パノラマルーフ」だろう。
とくにドラレコ機能付きのデジタルインナーミラーは、まさに“機を見るに敏”というほかなく、ディーラーオプションとしての売り上げを当て込んでいたはずの用品部門や販社の抵抗がかなり強かったであろうことは想像にかたくない。いっぽうの液晶による調光ガラスルーフは2002年発売のマイバッハが世界初だった気がする。その後もメルセデス名義の「Sクラス」や「マイバッハSクラス」が調光ガラスルーフを採用したが、それがいよいよハリアーまで降りてきた。
新型ハリアーの調光パノラマルーフも、SクラスやマイバッハSクラスと同じく日本のAGC(旧・旭硝子)が供給する。ただし、スイッチひとつ(もしくは“空が見たい”といった音声入力)で透明と不透明が瞬時に=世界最速で切り替わる点が今回最大の特徴という。
ちなみに、その調光ガラスそのものを生産するのは前記のとおりAGCだが、調光のキモとなる(2枚のガラスにサンドイッチされた)液晶パネルは九州ナノテック光学という中小企業が開発した特殊フィルムなのだという。同社が自動車部品に参入するのはこれが初らしい。新型コロナウイルスに翻弄される今日このごろにあって、これもまた、新型ハリアーにまつわる景気のいい話である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
とくにドラレコ機能付きのデジタルインナーミラーは、まさに“機を見るに敏”というほかなく、ディーラーオプションとしての売り上げを当て込んでいたはずの用品部門や販社の抵抗がかなり強かったであろうことは想像にかたくない。いっぽうの液晶による調光ガラスルーフは2002年発売のマイバッハが世界初だった気がする。その後もメルセデス名義の「Sクラス」や「マイバッハSクラス」が調光ガラスルーフを採用したが、それがいよいよハリアーまで降りてきた。
新型ハリアーの調光パノラマルーフも、SクラスやマイバッハSクラスと同じく日本のAGC(旧・旭硝子)が供給する。ただし、スイッチひとつ(もしくは“空が見たい”といった音声入力)で透明と不透明が瞬時に=世界最速で切り替わる点が今回最大の特徴という。
ちなみに、その調光ガラスそのものを生産するのは前記のとおりAGCだが、調光のキモとなる(2枚のガラスにサンドイッチされた)液晶パネルは九州ナノテック光学という中小企業が開発した特殊フィルムなのだという。同社が自動車部品に参入するのはこれが初らしい。新型コロナウイルスに翻弄される今日このごろにあって、これもまた、新型ハリアーにまつわる景気のいい話である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
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