【試乗記】レクサスLSプロトタイプ

  • レクサスLS500“エグゼクティブ”プロトタイプ(FR/10AT)/LS500h“エグゼクティブ”プロトタイプ(FR/CVT)

    レクサスLS500“エグゼクティブ”プロトタイプ(FR/10AT)/LS500h“エグゼクティブ”プロトタイプ(FR/CVT)

フラッグシップサルーンのあるべき姿

レクサスの最上級セダン「LS」が、現行モデルの登場から3年を迎えて大幅な改良を受けた。運転支援システムやドライブフィールにみる進化のポイントを解説するとともに、クローズドコースで確かめたその出来栄えを報告する。

レクサスもついに“ハンズオフ”を導入

5代目、すなわち50系レクサスLSが国内販売を開始したのは2017年の秋のこと。それからほぼ3年を経てビッグマイナーチェンジを受ける。

発売は2020年初冬、すなわち12月が予定されるそれは、「UX」以降のレクサスのデザインフォーマットにのっとったフェイスリフトが施され、ハイビームの遮光範囲を緻密に制御するブレードスキャンAHS内蔵ヘッドライトユニットの採用と、それに合わせたバンパー部の変更、そしてグリルやリアコンビランプの光沢加飾を変更するなどし、一見するに現行型よりも落ち着いたアピアランスを得たようにみえる。

とはいえ新しいLSにとって、このデザイン変更は特筆すべきトピックではないのかもしれない。ほかにも事細かく手が加えられたそのポイントは後述するとして、個人的には今回のマイナーチェンジには、2つの大きなテーマがみてとれた。

ひとつは大幅に進化したADAS「Lexus Teammate(レクサスチームメイト)」が採用されたこと。その機能は大きく分けて「アドバンスドドライブ」と「アドバンスドパーク」があり、前者は高速を含む自動車専用道路でのハンズオフドライブを実現するものだ。周辺状況の認識はカメラやミリ波レーダーに加えてLiDARも配され、情報量が大幅に拡大。ダイナミックマップとの連動で、車線および分岐進路変更、追い越しなども高精度で実行する。さらにAIのディープラーニングを活用し、運転中に遭遇するさまざまな状況を予測・対応するという。この走行制御にはテストドライバーの操作アルゴリズムも活用されており、安全確実のみならず上質さについても気遣われている。

ベテランドライバーより車庫入れがうまい

アドバンスドパークは「ヤリス」での採用以降、トヨタの新型車に徐々に広まりつつある画像認識とソナーを用いた駐車支援システムだ。新しいLSはシフト・バイ・ワイヤに対応した制御となっており、前進、後退、そして停止までの一連の動作からなる縦列・並列駐車を、文字通りボタンひとつで完遂する。縦列駐車のデモでは、熟練ドライバーでも躊躇(ちゅうちょ)するだろうスペースに幾度かの切り返しを重ねてピタリと巨体を収めたのに驚かされた。

この2つの機能はいわゆる自動運転ではなく、ドライバーの監視と緊急時介入が前提となっている。今後のソフトウエアバージョンアップによる機能追加も想定されているが、現状は高度なレベル2相当、つまり万一の際の最終責任はドライバーにあることを認識しておく必要があるだろう。ちなみにアドバンスドドライブについては熟成の最中にあり、新型の発売にやや遅れて導入されるもようだ。

こうしたADASの進化と並ぶ、もうひとつのテーマは静粛性や乗り心地の改善だ。50系LSはブランドイメージの活性化やユーザー層の若返りを狙って、スポーティーなオーナードリブンのサルーンへと、立ち位置の大胆な転換を図った。登場当初は「BMW 7シリーズ」や「アウディA8」もかくやのハンドリングにびっくりしたものだ。

一方で、そのダイナミクスに合わせてつくり込んだシャシーは、フィードバックの趣を先代とは大きく違えることとなった。ショーファードリブンとしてのLSに慣れ親しんだユーザーの評価が芳しいものではなかったことは想像に難くない。コーポレートでみればトヨタブランドの「センチュリー」や「アルファード」という選択肢もある現況で、開発陣はLSのビジョンをスポーティーさに求めたわけだが、レクサスのサルーンの頂点として期待される役割は、平時の快適性がマストだったということだろう。

細やかな改良で乗り心地を改善

50系LSが乗り心地の改善を図る上で厄介な存在となっているのが、ランフラットタイヤだ。普通のラジアルタイヤより格段に高いケース剛性がタイヤの縦バネ特性に悪影響を及ぼす。それを利とできるのは接地変化抑制のために開き直った「日産GT-R」のようなスポーツモデルだが、LSの強力なコーナリングパフォーマンスもランフラットの特性に多少なりとも支えられていたことは想像できる。

当初設定されたLSのランフラットタイヤは、パンク時の走行距離を他銘柄平均値の2倍、100マイルを担保するなどマージン過多に設(しつら)えられたが、2019年の年次改良車ではこれを50マイルに落としたうえ、縦バネ特性をチューニングして柔軟性を高めている。新型ではさらに柔軟性を高めながら軽量化も実施しており、サスロワアームのアルミ化も合わせてバネ下部の全体重量を3.5kg減量した。加えて、スタビライザーもロール抑制を緩和する方向にチューニングを変えている。

このバネ下構成に合わせて、電子制御可変ダンパーには新たなソレノイドバルブを導入して微入力域からの減衰の立ち上がりスピードを向上させたほか、減衰力全体を穏やかに上屋を動かす方向へと変更した。このほかにも、バンプストッパーの硬度を落とし、4WDモデルでは前輪を駆動する際の微震を抑えるべくエンジンマウントの液封特性を変更するなど、相当細かなところまで刷新を受けている。

「和のプレミアム」を表現する新しい意匠

室内の意匠は基本的に現行型を引き継ぐが、インフォテインメントシステムはリモートタッチに加えてタッチパネルコントロールも併用。12.3インチモニターがインストゥルメントパネルからドライバーに近接するかたちで配置された。加えてApple CarPlayとAndroid Autoの採用でスマートフォンとの連携強化が図られるなど、ユーザビリティーが高められている。またアクティブノイズコントロールの設定も変更され、静粛性が一層高められている。シートは座面のクッションを低反発材に変更したほか、表皮の縫い合わせ部を深くしてストロークを増加、アタリの柔らかさとホールド性とを両立している。これもまた、乗り心地向上策の一環ということだろう。

日本の出自を感じさせるプレミアムの表現として、現行LSの内装には切り子調カットガラスオーナメントとハンドプリーツをあしらったドアトリムの設えが用意されているが、新型ではプラチナ箔(はく)を巧みに貼り合わせたオーナメントに銀糸を多用した西陣織のドアトリムという組み合わせが新たに加えられた。これは「月の道」と呼ばれる、満月に照らされた水面のゆらめきの情景をイメージしたもの。ちなみに銀つながりでいえば、ボディーカラーにはアルミを高密度で蒸着して敷き詰め、粒子を感じさせないほどきめ細かな塗装面を実現するソニック工法でつくられたシルバー「銀影ラスター」を新たに設定している。

確実に感じられる改良の成果

今回はクローズドの限られた環境の中、主に乗り心地面を確認する試乗となったわけだが、新型LSの進化は一目瞭然だった。試乗は3.5リッターV6+ハイブリッドと3.5リッターV6ターボ、共に“Fスポーツ”ではない標準モデルで行われたが、路面のサーフェスによるロードノイズや微震は明らかに抑えられ、目地段差やジョイント通過時の突き上げも丸く穏やかに収まるようになっている。確かに入力の減衰感は弱められ、上屋の動きはこころもち大きくなったようにうかがえるが、それはいい意味でのサルーンらしいゆったり感やおおらかさとも受け取れるはずだ。かたわらによりスポーティーな足まわり設定の“Fスポーツ”があることを鑑みれば、このコントラストはユーザーにとっても好ましいものとなるだろう。

パワートレインは、ハイブリッドがモーターの稼働領域を高めて加速時のエンジンのうなりを抑える新しいバッテリーマネジメントに変更され、ターボは低回転域のトルクの立ち上がりが強化され、そのぶん変速頻度を抑えたシフトスケジュールに変更されている。そもそも初出にしてバランスのよかったターボは扱いやすさを増しただけでなく、エンジンのサウンドも滑らかで軽やかなものになった印象だ。一方でハイブリッドは街なか領域からアクセルの踏量に対するエンジンの始動や回転上昇の頻度が減っていることがはっきりと伝わってくる。リファインの目的は、速い遅いのベクトルではなく、ささいな不快感や低級感を徹底して取り除くためというわけだ。

かように新型LSの快適性にまつわる進化は目を見張るものではあるが、完璧ではない。静粛性は間違いなくドイツ勢のライバルを凌駕(りょうが)するが、乗り心地面では細かい凹凸の連続など、特定の入力パターンで時折消しきれないバネ下のクセが音や振動として表れる。よくぞここまで改善したなぁという感慨もある一方で、さらなる進化も望みたくなるのは、日本のフラッグシップであるがゆえの期待の裏返しだろう。

(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車/編集=堀田剛資)

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